子どもを不登校から回復させる親のかかわり方とは。親は自分ファーストでいい【30年以上不登校の子どもに関わってきた心療内科医の教え】

医療や相談の現場で30年以上、不登校の子どもたちに関わってきた心療内科医、明橋大二さん。最新刊の『不登校からの回復の地図』では、長年の経験から見つけた「不登校の子と向き合うとき、いちばん大事なこと」を紹介されています。
「不登校でも心配ない」という明橋さんに、不登校からの回復のために親ができること、そして回復に欠かせないプロセスについて、教えていただきました。

※この記事は『不登校からの回復の地図 子どもの気持ちがわからず、道に迷ったら(明橋大二 著・青春出版社)』の一部より抜粋・再構成しています。

不登校児の親に共通する問題点などありません

かつて、不登校は、子どもの耐性欠如とか、親の育て方に原因があると言われていました。しかしこれについては文部科学省が、2003(平成15)年の通知で「不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって、起こることではなく、どの子どもにも起こりうることとしてとらえることが必要」と明記し、どんな子にも起こりうるという立場を明確にしました。

私たち不登校に関わる専門家の考えも同じで、子どもに何か問題があるとか家庭環境に共通の問題があるとか、そういうことは言えない、ということは共通認識となっています。

もちろん親も人間ですから、感情的になったり、構いすぎたり、子どもの気持ちを測りかねたりすることはあります。しかし、それはどの親御さんにもあることであって、特別に不登校の親御さんに共通する問題点などはないのです。

子どもの回復を遅らせる親の言動とは? そして親ができることとは?

子どもが不登校になったとき、もとの学校に戻ることにはこだわらないとしても、ずっと家にいると、「なまけ癖」がつくのではないかと考えて、転校を勧めたり、フリースクールに行かせようとしたり、教室に入れないなら、タブレットで勉強したら、と勧めることがあります。

それを子ども自身が望んでいるならいいのですが、多くの場合、子どもは不登校になった時点で、疲れ切っています

そういうときに必要なのは、心身の休養であり、安心・安全な環境の提供、すなわち家でゆっくり休む、ということです。あまり次の段階を焦って無理強いすると、結局十分な休養が取れず、それだけ回復にも時間がかかる、ということになりかねません。

「なまけ癖がつく」「楽を覚えてしまう」という考え方自体が、不登校の子どもの不安や恐怖を少しも理解していないことの証拠です。不登校の子がまず必要としているのは、安心できる環境でゆっくり休むことだとぜひ知ってもらいたいと思います。

子どもをゆっくり休ませるために親がやるべきこと

ゆっくり休ませるために、親がやるべきことはたった3つです。

すなわち、

  • ①疲れている子どもを、これ以上疲れさせない
  • ②傷ついている子どもを、これ以上傷つけない
  • ③不安な子どもを、これ以上不安にさせない

ということです。

これは考えてみれば当然のことです。けがをしている子どもを病院に連れていったら、余計に傷つけられた。そんなことはありえませんし、あってはなりません。

しかし不登校の支援においては、この当然のことが守られていないことがあります。逆に、疲れている子どもを余計に疲れさせたり、傷ついている子どもをさらに傷つけたり、不安な子どもを、余計に不安にさせるような対応が後を絶ちません。

そうではなく、疲れているなら、しっかり休ませる、傷ついているなら、その心の傷を癒す、不安になっているなら、「大丈夫だよ、必ず元気になれるよ。将来とか心配しなくても大丈夫だよ」と安心させることが何より大事だということです。

そうは言っても、「いつまで休ませればいいのか」「本当に回復するのか」、出口の見えないトンネルに入ったようで、不安を感じている親子も少なくないと思います。

その不安を少しでも解消するためには、不登校の子どもがどういうプロセスをたどって回復していくのか、その「回復の地図」を持つことが大切だと思っています。

そうすれば、「確かに今、このような状態だ」「ここまで回復しているのか」「今後起こるのはこういうことか」と現在地の確認ができますし、親子共に今後の見通しを持つこともできます。いたずらに焦ったり不安になったりすることも少なくなり、「今のやり方で大丈夫」と安心することもできます。

回復に欠かせない、4つのプロセス

不登校の回復とは、このように親子のコミュニケーションが回復し、自己肯定感が回復してくるプロセスです。逆に言うと、こういうプロセスを通らずに、単に、学校に行かなくなった子がまた行くようになった、というだけでは、子どもの心の回復、成長は本当にはなされていないこともあるのです。

親子のコミュニケーションから見た回復のプロセスは4段階あります。

①行動化・身体化

まず子どもからのサインは、多くの場合、言葉ではなく、行動や身体の症状として表れてきます。これを行動化、身体化と言います。

  • この時期に見られる子どもの様子
  • ・腹痛、頭痛などを訴える
  • ・朝起きることができない
  • ・「学校に行きたくない」と言い出す
  • 親ができること
  • ・子どもの言うことを信じ、受け止める(「仮病だ」などと子どもの症状を否定しない)
  • ・どうすればいいか、子どもと一緒に考える
  • ・必要があれば、病院を受診し、身体の異常がないか確認

この時期は、親は子どもの気持ちが分かりませんし、子どもも自分の状態をうまく説明することができません。親子のコミュニケーションがまったく途絶した状態になっています。

②甘えと怒り

そのようにしていると、子どもから、少しずつ気持ちの表現が出てきます。たいてい出てくるものは「甘え」と「怒り」です。

  • この時期に見られる子どもの様子
  • ・赤ちゃんのように親から離れない
  • ・「お母さんのせいだ」と暴れる
  • ・すぐにキレたり、物にあたったりする
  • 親ができること
  • ・怒りや甘えに付き合う
  • ・突き放したりせず、受け止める
  • ・身の危険を感じること(親に対する暴力など)からは逃げる

親としては、甘えについては基本的には受け入れる、怒りに関しては、「親に当たらずにおれないくらい、今まで苦しかったんだな」と思って気持ちを聞く、ということです。

この時期が、子どもの感情に振り回されて一番大変な時期です。しかしわれわれ支援者からすると、ようやく子どもの気持ちが表に出てきたので、回復してきた証拠、と捉えることができます。

③言語化

そして次第に甘えたり怒ったりの感情の起伏は激しくなくなり、そのかわりに、子どもはなんでも話すようになってきます。これを「言語化」と言います。

自分のつらさを、ようやく言葉で吐き出すようになるのです。逆に言うと、この段階に来るまでは、子どもはなかなか自分の気持ちを言葉にできない、ということでもあります。

  • この時期に見られる子どもの様子
  • ・感情の起伏は落ち着いてくる
  • ・なんでも話すようになる
  • ・昔の話など、過去を振り返って親を責める
  • ・外に出られるようになる
  • ・身体の症状はなくなっている
  • 親ができること
  • ・子どもの話に耳を傾け、しっかり聞く
  • ・外出や登校については子どもの気持ちを尊重する

外出できるようになったら、大切なのは、親以外の友達です。

ある不登校の子どもは「自分を元気にしてくれたのは、医者でもなければ、カウンセラーでもなかった。友達だった」と言いました。親とのコミュニケーションの回復を果たした子どもは、次に、友達とのコミュニケーションの世界に入っていくのです。

④信頼

第4段階は、親は子どもを安心して見られるようになります。子どもも心配な症状は出さなくなってきます。お互いに信頼関係でつながれているのです

そして親と子はお互いにあまり話をしなくなります。「話をしない」ということで言うと、第1段階と似ているように思いますが、第1段階はコミュニケーションの途絶です。しかし第4段階は、話をしようと思えばできます。そこが違います。

  • この時期に見られる子どもの様子
  • ・親との会話が少なくなるが、必要な話はできる
  • ・情緒的に安定してくる
  • ・友達との関わりが増えてくる
  • 親ができること
  • ・アドバイスや意見を求められたら答える
  • ・子どもを信じて、見守る

不登校にもいろんなケースがあり、いったん、回復したとしてもまた不登校になる子もいるかもしれません。しかし、この第4段階までしっかり回復してきた子であれば、たとえまた不登校になったとしても、最初のように慌てることはないですし、一度たどったプロセスをもう一度繰り返すだけですから、前ほど悩むことはありません。回復も速くなっています。

心配なのは、甘えと怒りや言語化のプロセスを経ずにいきなり再登校した場合で、それは子どもが再度、無理をしだした、ということかもしれません。だとすれば、それは本当の回復とは言えないのではないかと思っています。

まず、親が自分を大切にするということを大切に

不登校の支援において、私が絶対に欠かしてはならないと思っていることがあります。それが親へのサポートです

子どもが不登校になると、多くの親は子どもを責めてしまいます。それは不登校に対して、あるいはその親に対して、「親が過保護に育てたから」とか「甘やかしすぎ」とか「愛情不足だから」などといった周囲の否定的な眼差しがあるからです。

先に述べましたが、不登校を生む親の特徴などはないし、親のせいではありません

私は20年近く、不登校の親の会で月1回アドバイザーを務めてきましたが、特に初めて来られた親御さんなどは、子どものことを話すうちに、言葉に詰まり、涙を流されます。それを聞きながら、他の親御さんも涙ぐまれます。みんな同じところを通ってきたからです。みんな子どものことを思うからこそ、苦しむのです。そしてその場は、何とも言えない温かい共感に包まれます。

私はそういう場面を、何度となく目にしてきました。これが子どもに対する愛情でなくてなんでしょう。だからそういう親御さんに「愛情不足」などということは決してありえないし、決して言ってはならないことだと思うのです。

親が倒れてしまっては子どものケアはできません

飛行機の機内で酸素不足になったとき、上から酸素マスクがおりてきます。そのとき、隣に小さな子どもが一緒に乗っていたら、あなたは子どものマスクか自分のマスクかどちらを先につけるでしょうか。正解は「大人が先にマスクをつける」です。

なぜなら、本当に機体に穴が開いたなど最悪の場合、1分間もしないうちに、大人が気を失ってしまうくらい、機内の酸素濃度が低下してしまいます。子どもを優先した場合、子どものマスクをつけている間に、大人が酸素不足で気を失ってしまうので、子どものケアをすることもできません。まず大人がマスクをして酸素を確保して、その上で、子どものマスクをつけるのが正しい順番なのです。

しかしこれは、飛行機の酸素マスクだけのことではありません。子育てすべてに言えることだと思います。大人が倒れてしまっては、子どものケアをする人はいなくなります

親もときには人の助けを借りる、子どもの世話を、いっとき人に任せて、自分の時間を持つ、そしてお茶を飲んだり、美容院に行ったりする時間を持つ、自分の趣味の時間を持つことが、親自身のためであると同時に、子どものためにもなることなのです。

親が自分を大切にすることが、子どもを大切にするということになるのです

不登校施策を180度変えた「教育機会確保法」とは

教育機会確保法は、文部科学省や議員だけでなく、多くの不登校に関わる市民団体やフリースクールが関わってできた法律です。そこには、日本のそれまでの不登校施策を180度変えると言ってもいい、画期的な内容が多く含まれています

おおまかな内容を箇条書きにします。

  • 1)2016年12月に成立し、2017年2月に施行されました。
  • 2)今までの文部科学省の不登校施策を180度転換する内容と言えます。
  • 3)具体的には、
  • ⅰ)子どもの権利条約に則って教育が行われるべきことを明記しました(第一条)。
  • ⅱ)学校(一条校)以外の学びを認めました(多様な学びの在り方を認める)。
  • ⅲ)不登校の対応は、必ずしも学校復帰を前提としないことを明記しました。
  • ⅳ)どんな子どもにも起こりうること、問題行動ではないと明確にされました。
  • ⅴ)休養の必要性も明記されています。
  • ⅵ)民間団体と教育委員会の連携を進めるべきと書かれています。

もちろんこれで完璧というわけではありませんし、課題もたくさんあります。特に大きな課題は、この法律の精神が、全国の教育委員会や現場の教員に周知されていないことです。

それでも、法律はこれだけ変わったのです。あとは、市民が、保護者が、子どもを守るために、この法律をどんどん使っていけばいい、ということだと思います。

この教育機会確保法をとても分かりやすいリーフレットにしたものが、「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」によって作成され、自由にダウンロード(https://futoko-net.org/docu)できるようになっています。

「不登校は学校の在り方が問われている問題」であることを共通認識に

さらに、2023年の3月には、文科省はCOCOLOプランというものを発表しました。「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」というものですが、心地よい、一人一人に合わせた、一番よい感じになるような、学びの場所、という意味です。COCOLOとは、

  • Comfortable(心地よい)
  • Customized and(一人一人に合わせた)
  • Optimized(一番よい感じになるような)
  • Locations of learning(学びの場所)

の頭文字を取ったものです。

当時の文科大臣が冒頭に「不登校の根底には、子どもたち一人一人の人格の完成や社会的自立を目指すための、学校や学びの在り方が問われている」と言葉を寄せています。

今までは、不登校と言えば、子どもの問題、あるいは親の育て方の問題、と言われてきました。しかしそうではない。学校って、このままでいいの? 教育ってこれでいいの? と、学校の在り方が問われている問題なんだ、と文部科学大臣が明記しているのです。

これは本当に大きな変化であり前進です。ぜひ世の中の人たちすべてがそのような認識に立ってもらいたいと願っています。

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監修

明橋大二先生 心療内科医。子育てカウンセラー

NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長も務める。一般社団法人HAT共同代表。児童相談所嘱託医。昭和34年大阪府生まれ。京都大学医学部卒業後、国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院を経て、真生会富山病院心療内科部長。心療内科医としての勤務やぱれっとが運営する子どもの居場所&保護者のカウンセリングスペース「ほっとスマイル」などでの活動を通して、30年以上不登校の子どもたちを支援している。シリーズ累計500万部を突破した『子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)など著書多数。

構成/国松薫

明橋大二 青春出版社

子どもたちの1割以上が不登校あるいは不登校傾向にある日本。30年以上不登校の子どもたちに関わり、その家族を支えてきた心療内科医が、「これだけは伝えたい」と思ったことを一冊にまとめた本。子どもたちに寄り添う中で見つけた「不登校の子と向き合うとき、いちばん大事なこと」をわかりやすく紹介する。

構成/国松薫

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