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11年連続増加の不登校児童。誰がなってもおかしくありません

令和5年度の小・中学校の不登校の児童生徒の数は、34万6482人となりました。これは在籍児童生徒の3.7%を占め、11年連続の増加となります。
また、この数にはカウントされていませんが、年間欠席数が30日未満の不登校傾向の子ども(別室登校や午後から登校するなどの部分登校)は、10.2%であったことが報告されています。
少なくとも日本の子どもたちの1割以上が不登校あるいは不登校傾向にあると考えることができます。
不登校というのは、決して一部の子どもだけのことではなく、今やどんな子どもにも、どんな家庭にも起こりうること、と言うことができるでしょう。
不登校とは「学校と子どもが合わないという状態」

まず私は、不登校とは一言で言うと、「本人にとって、学校が『合わない』状態」だと考えています。どうして「合わない」状態になるのか、そのいきさつとしてよく語られることが、私の経験では2つあります。
ひとつは、学校の環境に関すること。
たとえば、いじめなど、友達関係で傷ついたとか、先生が怒ってばかりで、自分が怒られているわけではないのに、教室が怖くなってきたとか。あるいは、学級崩壊気味のクラスで、授業中も騒がしくて、ちっとも勉強に集中できない、先生もただ怒るだけで、教室が殺伐とした雰囲気になっていて苦しくなったとか、そういう場合もあります。
また教室の雰囲気だけでなく、勉強の内容がまったく分からない、それで教室にいることが苦痛になった、ということもあります。まったく授業が分からないのに、朝から夕方までじっと座っていることほど、つらいことはありません。
学校生活がつらくなる割合が多いHSCの子

もうひとつは、子ども本人の状態に関することです。
たとえば、子どもが月曜日から日曜日まで、授業が終わった後も、塾や習い事に追われ、家に帰るのが毎日夜10時というように、まるで都会のサラリーマンなみに疲労が蓄積して学校に行けなくなる、ということがあります。
また、本人の状態としてもうひとつよくあるのは、HSCの場合です。HSCは、「Highly Sensitive Child」の略で、「ひといちばい敏感な子」と訳します。
5人に1人の割合で存在すると言われ、障害や病気ではなく、特性。持って生まれた性質です。一言で言うと、感覚的にも人の気持ちにも敏感な子どもを言います。感覚的に敏感というのは、ちょっとした物音を聞きつける、においに敏感、肌触りにも敏感で、チクチクした肌着が苦手、などです。
発達障害とは異なるHSC
そういう特徴を聞くと、発達障害ではないかと思われる人も多いのですが、HSCと発達障害は違います。どこが違うのかというと、自閉スペクトラム症などの発達障害の人は、人の気持ちに関しては汲み取りにくい、空気を読むのが苦手、ということがあります。それに対して、HSCはむしろ人の気持ちが分かりすぎるくらい分かります。そういう点が、発達障害とは真逆なのです。
もちろん、HSCの子がすべて不登校になるわけではありません。しかし特に、大きなきっかけなく不登校になる子を見てみると、HSCであることが多いです。それはやはり、学校生活の中にはHSCがつらくなる場面が多々あるからだと思います。
たとえばHSCが学校に行きづらくなるきっかけとしてよくあるのは、「先生の叱り声が怖い」というものですが、別に自分が叱られているわけではなく、他の子が叱られているのに、共感力の高いHSCは、それを自分のことのように受け取って、そこから教室が怖い、学校が怖い、となってしまうのです。
ただここではっきり知っていただきたいのは、「だからHSCは弱い」とか、「HSCは環境に適応できない」と、HSCにネガティブなレッテルを貼ってはならない、ということです。
実は、1つの種に、敏感な個体とそうではない個体と2種類あるということは、すでに人間だけでなく、100種以上の種において確認されています。敏感タイプと大胆タイプ、この2つのタイプがあるということが、生き物の生存戦略として有利に働くからです。
人間にも、敏感タイプと大胆タイプの両方が必要です。
もし学校が、大胆タイプだけが過ごしやすく、敏感タイプが過ごしにくい環境にあるとするならば、双方が過ごしやすくなるように、環境を変えてゆかねばならない、ということです。
以上のようなことが、不登校になったいきさつとしてよく語られることですが、この2つが重なっていることもあります。また、1000人いれば1000通りのいきさつがあるので、これ以外の理由もあると思います。
大切なことは、子どもが不登校になるのは、必ずそれだけの、よくよくの事情があったんだ、ということを理解することだと思います。
「不登校でも心配ない」と言い切れる、ある調査結果

子どもが不登校になったときに、親が一番知りたいことは、「今後、この子がどうなるのか」ということだと思います。子どもにとっても、自分はこれからどうなってしまうのか、何より不安になることでしょう。
周囲には「学校も行けないようじゃ、社会で生きていけないよ」など何の根拠もなく言う人がいたり、子ども自身も不登校になった時点で「自分の人生は終わった」と思ったりする子も少なくありません。
しかし結論から言うと、不登校になっても、心配する必要はありません。
これについては、まず有名な不登校の予後調査の結果をお示ししたいと思います。これは、文部科学省の委託によって、森田洋司という社会学者が、中学3年生の不登校の子どもが5年後、どうしているかを調べた調査で、1993年度と2006年度の2回行われています。
すると、5年後に学校か仕事に行っている子どもの割合は、1993年は77%、2006年は82%、という結果でした。つまり不登校になっても、ほぼ8割の子どもは、元気に回復しているという結果です。
もちろん8割なので、残り2割はどうなのか、と気になる人もあるでしょう。
しかし少なくとも、ふつうに子どもを理解し支えてゆけば、ほとんどの子どもは元気になる。不登校になったからといって、それで人生が終わるわけでは決してない、ということです。
もう振り回されない! 不登校に関する「7つの誤解」

一方で、世の中には、不登校に対する誤解がまだまだあります。どれも私からすれば、不登校の実態を知らない、あるいは不登校について息の長い支援をした経験のない人たちの先入観に基づく勘違いです。
親もついついそういう意見に影響されてしまいがちです。ここでその勘違いの代表的なものを挙げ、実際はどうか見ていきましょう。
- 誤解1 不登校はわがまま
- 不登校になる子の多くは、むしろわがままにできない、人に気を遣って、無理をして、それで疲れてしまって不登校になる場合が多い。
- 誤解2 不登校はなまけ
- 不登校になるまでは決してなまけ者ではなかった、むしろ頑張り屋さんだったということも少なくない。多くの子どもは学校に行けないことで苦しみ、自分を責めている。
- 誤解3 不登校は甘え
- 不登校になった後に、甘えが強く出る子もいるが、不登校になる前は、むしろ甘えずに頑張っていた子どもが多い。
- 誤解4 不登校は逃げ
- いじめなどは下手をすると命に関わること。そういうことから逃げるのは、決して悪いことではなく、むしろ命を守る行動である。
- 誤解5 不登校は心が弱いから
- 戦いでも、前進するだけでなく、退却することが本当の強さだ、ということがいくらでもある。状況が悪化しているのに無謀にも戦い続けるよりは、いったん退却して、態勢を立て直してからまた立ち向かうことでクリアできるということもあるはず。
- 誤解6 勉強についていけなくなる
- 心が疲れた状態では、勉強しようとしても頭に入らない。しっかり休養して、元気を回復すれば、多くの子どもは集中して勉強するようになる。勉強の遅れを取り戻すことも難しくはない。
- 誤解7 不登校だと、ひきこもりになる
- 前述の調査結果から、中学3年生で不登校であっても5年後にはほとんどが学校や仕事に行っている。不登校の子どもが皆、引きこもりになるわけでは決してない。
これらは不登校の実情を知らずに一面的な知識や思いつきで言われる根拠のない誤解です。
不登校の回復は必ずしも学校復帰に限らない
私たちが、子どもが不登校になったとき、まず願うのは、再び元気に学校へ行ってほしい、ふつうに学校に通えるようになってほしい、ということでしょう。
しかし不登校の回復とは、必ずしも学校復帰に限りません。
親であれば、学校復帰してほしいという思いは当然だと思いますし、それを願うことは決して間違ってはいないと思います。
ただ、そのために通らなければならないプロセスというものがあり、それを抜きにして、学校復帰を焦ってしまうと、逆に子どもを追い詰め、事態を余計に悪化させてしまう、ということがあるのです。
文部科学省も、教育機会確保法に基づいて出された2019(令和元)年10月25日の「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知において、「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。」と明記しました。
文部科学省自体が、学校復帰がすべてではないことを認めたという意味で、私はこの通知は画期的な意味があると思っています。
実際、不登校の回復の道筋はさまざまで、学校に戻る子ももちろんあります。しかし、結局学校には戻らず、高卒認定試験を受けて、専門学校や大学に進学する子、学校には行かずにアルバイトを始めて、そのまま就職する子もいます。
不登校は人生にとってマイナスではない

私は、不登校の回復で何より大切なことは、心の回復、心の成長だと思っています。
不登校になったとき、多くの子どもは、不登校をネガティブなことと捉え、学校に行けない自分をダメ人間だと思っています。親も、どうして自分の子どもだけ学校に行けないのか、自分の育て方が悪かったのではないか、と自分を責めています。いわば子も親も、自己肯定感が下がった状態です。
しかし、しっかり休んで元気が回復すると共に、不登校だからといってすべてがダメなわけではない、すべてをネガティブに捉える必要はない、ということが分かってきます。さらに元気になると、不登校の意味が少しずつ分かってきます。過去の捉え直しが始まるのです。
今まで人に気をつかって、頑張りすぎていた。不登校はそんな自分のSOSだったんだとか、不登校にならずにあのまま頑張り続けていたほうが心配だった。この時期にSOSを出せてよかったとか。そういうことが分かってくると、SOSを出せた自分、SOSを出した子どもを少しずつ肯定できるようになってきます。
その結果として、自己肯定感が回復し、再び学校に行き出したとしても、別の道を選んだとしても、新たな、自分らしい生き方を見つけていく、私は不登校の回復とは、そうあるべきだと思っています。
そのように考えると、不登校はつらい時期もあるけれど、決して人生にとってマイナスではない、むしろ豊かな恵みをもたらしてくれるものだとさえ思えます。実際、そのように語る親子に、私はたくさん出会ってきました。
ある意味、「しっかり不登校したほうが、しっかり回復する」と言うこともできます。逆に、子ども自身が、自分の気持ちを訴えることをあきらめて、「結局、周りに合わせて、自分を無にして生きていくしかないんだ」と思って学校に通い出したとしたら、そちらのほうが心配ではないでしょうか。
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監修
NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長も務める。一般社団法人HAT共同代表。児童相談所嘱託医。昭和34年大阪府生まれ。京都大学医学部卒業後、国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院を経て、真生会富山病院心療内科部長。心療内科医としての勤務やぱれっとが運営する子どもの居場所&保護者のカウンセリングスペース「ほっとスマイル」などでの活動を通して、30年以上不登校の子どもたちを支援している。シリーズ累計500万部を突破した『子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)など著書多数。
構成/国松薫
子どもたちの1割以上が不登校あるいは不登校傾向にある日本。30年以上不登校の子どもたちに関わり、その家族を支えてきた心療内科医が、「これだけは伝えたい」と思ったことを一冊にまとめた本。子どもたちに寄り添う中で見つけた「不登校の子と向き合うとき、いちばん大事なこと」をわかりやすく紹介する。
