不登校になった子どもが、再び社会とつながれるように支援するプログラムも! 埼玉の「放課後等デイサービスFlos」の取り組みに学ぶ

2022年に開設した、埼玉県さいたま市にある多機能型事業所「放課後等デイサービスFlos」。2~18歳までの発達特性をもつ子どもたちを対象に個別支援、グループ支援、不登校支援、保育所等訪問支援などを行っています。とくに不登校支援は、2022年度から2025年度6月までの統計で、約90%の利用者が何らかのかたちで社会とつながることができています。

公認心理師・臨床心理士で「放課後等デイサービスFlos」代表を務める喜多見学先生に、プログラムの特徴や、不登校支援についてうかがいました。

様々な困難を抱える子どもたち80名以上が在籍

――多機能型事業所「放課後等デイサービスFlos」の利用者について教えてください。

喜多見先生 「放課後等デイサービスFlos」は、2025年10月現在、80名以上の利用者が在籍しています。近隣に住む子どもたちはもちろん、川越市などの遠方から通う子どももいます。

「放課後等デイサービスFlos」は、2~18歳までの発達特性がある子どもたちが対象です。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動性症(ADHD)、学習障害(LD)、グレーゾーン、知的発達症、ダウン症など様々な困難を抱える子どもたちを支援しています。

ニーズに合わせて、資格を持つ支援員が対応

――支援プログラムについて教えてください。

喜多見先生 「放課後等デイサービスFlos」には、個別支援とグループ支援があります。

個別支援では、例えば集中しづらい子どもには、教材を使って聞くトレーニングを約5分行ったあと、学習に取り組む時間を約10分設けていますが、その間に10分程度お楽しみタイムがあり、トランプなどで遊びます。お楽しみタイムの終わりが近くなると、タイマーで知らせて時間を意識するようにする練習もします。

一方グループ支援は、小1~小4が対象です。友だちや支援員とコミュニケーションを取りながらゲームをしたり、運動遊びを楽しんだりすることで、社会生活で必要なルールの理解、話を聞く姿勢、感情のコントロール、他者との協力などのソーシャルスキルを身につけていきます。

「放課後等デイサービスFlos」の教室(一例)

喜多見先生 また「放課後等デイサービスFlos」は、意欲的に学ぶ子どもたちを育てる、花まる学習会が設立した療育支援組織なので、教材は花まる学習会グループと提携した豊富な教材を使用しているのも特徴です。公認心理師、臨床心理士、保育士、幼稚園教諭、看護師、養護教諭、小・中・高等学校教員免許などの資格を持つ支援員が、子どもの特性に合わせた支援を行っています。

発達特性がある子どもは不登校になりやすい傾向が

――不登校支援にも力を入れているそうですが。

喜多見先生 「放課後等デイサービスFlos」の運営を行う、NPO法人子育て応援隊むぎぐみは、さいたま市のひきこもり対策連絡協議会の児童部会に所属していて、以前から発達特性が影響して不登校やひきこもりとなった子どもたちへの支援を積極的に行っていました。

そのため、これまで地域で培ってきた不登校児への支援スキルを「放課後等デイサービスFlos」でも取り入れています。

発達特性がある子どもたちは不登校になりやすい傾向があります。でも不登校になった子どもたちに、学校に行かない理由を聞いても説明するのは難しいようなんです。私の経験では、理由やそのときの気持ちを話せるようになるのは高校生になってからです。20歳を過ぎてから話せるようになる人もいます。

不登校の子どもを支援する、様々な取り組み【小学生Aちゃんのプログラム】

――不登校支援の内容について教えてください。

喜多見先生 子どもの発達特性によって支援の方法は異なりますが、一例を紹介します。

利用者の机の様子(一例)

<小学生Aちゃんのプログラム>

AM10:15 朝の会。あいさつの後、支援員と相談して1日の過ごし方を決める。

AM10:15~10:45 学習の時間。学習プログラムを行ったり、学校のオンライン授業に参加したりする。調子が悪いときは無理をせず、早めに切り上げることも。

AM10:45~12:00 ゲームや工作、運動遊びなど、自分でしたい活動を決めて、友だちや支援員と交流する。

PM12:00~12:15 支援員と一緒に教室を片付けて、活動を振り返り、記録する。

PM12:15 次回来る予定を自分で決めて、お別れのあいさつをして終了。

喜多見先生 支援のプログラムはお子さんの特性に合わせて変えています。

Flosの不登校支援で大切にしていることは、「自分らしくいられること」「自分の特性を理解して、自分はこうすれば遊びも勉強も楽しめるんだと気づくこと」です。

Flosでは学校復帰のための登校刺激をすることはありませんが、子どもたちは人と関わることや学ぶことの楽しさを見付けると、学校や地域社会に活動の場を広げ、やがて社会復帰していきます。

子どもが通っている園・学校に支援員が訪問して連携

――学校や園との連携はどのようにしていますか。

喜多見先生 「放課後等デイサービスFlos」では、保育所等訪問支援を行っています。これは0~18歳の子どもが普段通っている園、小・中・高校、学童保育などに支援員が訪問して、担任の先生などと話し合い、子どもが安心して園や学校生活が送れるようにするための支援です。不登校の場合は、支援員を介して家庭・園・学校間での情報共有もします。

また所属校から許可が得られると、「放課後等デイサービスFlos」に来ることで出席になります。また、先生方と連携して学校の教材を使って学習をしたり、学校のオンライン授業に参加できたりもします。学校のテストをFlosで受けることも可能です。

小3不登校に。親が登校するように諭すと反発【Bくんのケース】

――不登校支援を受けた子どもたちの、その後について教えてください。

喜多見先生 小学校で不登校になった男の子と、幼稚園に登園しなくなった女の子の事例を紹介します。

<ケース1:小3で不登校になったBくんの場合>

Bくんは、小3で不登校になりました。集団行動が苦手で、何かあるとよく学校でかんしゃくを起こしていました。お父さんは「どうにか登校してほしい」という思いが強かったのですが、家族で話し合うたびにBくんはすごく反発し、お母さんもどうしたらよいか分からず悩んでいました。

「放課後等デイサービスFlos」を利用するようになったのは、その頃です。

※写真はイメージです

まずは遊びを通して、Bくんと信頼関係を構築

喜多見先生 「放課後等デイサービスFlos」では、まずはBくんが興味を示すパズルなどの遊びを通して、信頼関係を築くようにしました。

発達検査をしたところ知的な遅れはないのですが、自閉スペクトラム症(ASD)のほかに、成績に凹凸があり学習障害(LD)があることが分かりました。

フリースクールに通い、中3になって高等専門学校をめざすように

喜多見先生 お母さんと支援員が話し合ったところ、フリースクールに登校しながら、「放課後等デイサービスFlos」にも通うことになりました。

Bくんは、フリースクールに通いながら、Flosで自分の特性との付き合い方や、学校の友だちとの関わり方の支援を受けていきました。時間をかけて、自分はどういう特性があるのかを理解していく中で、全部が嫌いだった勉強の中では、数を扱うこと、つまり算数は結構楽しく、また情報処理・PCに関する学習は楽しめることに気が付きました。

小6になるとそれが自信につながったようです。

中3になり進路を決める時期になると、Bくん自ら「高校では、情報処理を学びたい」と言い、5年間一貫教育の高等専門学校を志望しました。

Bくんのご両親は「また不登校になったらどうしよう…」という不安があり、Bくんの選択を支えることができませんでした。それでも、BくんはFlosのスタッフに進学したいことを語っていました。

そこで、両親とBくんとFlosのスタッフとで話し合い、「説明会や体験授業に全部参加してみよう」と提案しました。Bくんはご両親の提案を受け入れて、志望校の説明会や体験授業に全て参加するうちに、担当の教師たちと仲良くなりました。

両親もそんなBくんを見て気持ちを変え、応援することにしました。Bくんは「この学校を受験する」という強い意志を持ち、見事に合格しました。

高等専門学校で5年生のとき成績はトップクラス。現在は技術職に

喜多見先生 高等専門学校に入学した当初は授業についていくのが大変だった時期もあり、定期テストでは下から5番目という成績でした。

Bくんいわく、自分より成績が下の子は不登校なので、学年で自分が最下位と笑っていました。しかし、高専の5年生になる頃には成績はトップクラスになり、その後、大学、大学院と進学。現在は大手企業で働き、技術職に就いています。

幼稚園での集団活動が苦手。母親の姿が見えなくなると泣き続けた【Cちゃんのケース】

<ケース2:年中から登園しなくなったCちゃんの場合>

喜多見先生 Cちゃんは年少から幼稚園に入園しましたが、集団活動が苦手でいつもみんなの輪に入りません。朝、登園してお母さんの姿が見えなくなると、いつまでも泣き続けました。

Cちゃんは、自閉スペクトラム症(ASD)で多動傾向もあり、補佐の先生がついていました。Cちゃんは、だんだん登園を嫌がるようになり、年中になって「放課後等デイサービスFlos」を利用するようになりました。

※写真はイメージです

自由保育の園に転園して、Cちゃんに変化が

喜多見先生 支援員がお母さんから話を聞くと、Cちゃんが通っていた園は1日の流れがきっちり決まっていて、集団活動に力を入れていました。そのため「放課後等デイサービスFlos」では、個別支援で運動遊びやCちゃんが興味を示すゲームなどをしました。まずは一対一で個の関わりを通じて、お子さんらしい自己表現を促し、安心して過ごせる場所を地域に増やすことを大切にしたのです。

また、ご両親は、Flosのスタッフと相談して、お子さんに合わせた環境の大切さについて話し合い、思い切って、Cちゃんを子どもたちの自発性を大切にする自由保育の園に転園させました。転園後、Cちゃんは元気に登園するようになったそうです。お母さんに園での写真を見せてもらったら、虫をとったり、水遊びをしたりして、とても楽しそうでした。自由な園の雰囲気がCちゃんに合っていたのでしょう。

Flosでの個別支援や、園での自由な環境の中で、Cちゃんの新たな一面も見えてきました。

以前は、集団活動が苦手で、みんなと一緒に歌うことができませんでした。「みんなの声が大きいから」と話していたのですが、それは言い訳だと思われ、誰も信じてくれなかったのです。

ところが、自分に合った環境に移り、Flosで発達の特性について相談を重ねるうちに、Cちゃんはとても歌がうまく、ひとりで歌うことが大好きだということが分かってきました。

ご両親は、集団では苦手でも、ひとりでなら人前であっても大きなステージでも歌えるという特性を理解し、お子さんに合った支援を続けることにしました。その後、Cちゃんは歌のコンクールに出て、銀賞に輝いたそうです。

不登校支援を受けた約90%の利用者は、何らかのかたちで社会とつながるように

――「放課後等デイサービスFlos」の不登校支援では、これまで何人ぐらいの子どもが登園・登校ができるようになっているのでしょうか。

喜多見先生 2022年度から2025年度6月までの「放課後等デイサービスFlos」の利用者で、登校渋り・不登校・ひきこもりの問題を抱えていたのは38名です。

内訳は、登校渋りが10名、不登校(年間30日以上の欠席)が22名、ひきこもりが6名です。子どもの年齢は、幼稚園児から中学生までです。

「放課後等デイサービスFlos」で不登校支援を受けた子どもが登校・社会復帰(フリースクール、適応指導教室に週5通うを含む)できたのは26名(約68.4%)、学校復帰途中(週数日の学校復帰)が8名(21.1%)、「放課後等デイサービスFlos」の定期利用(ひきこもり状態からの回復段階)が4名(10.5%)。約90%の利用者は、何らかのかたちで社会とつながり復帰しています。

社会とつながる選択肢は豊富。子どもに合う道を選んで

――不登校になった子どもが社会と再びつながるために、大切なことは何だと思われますか。

喜多見先生 事例で紹介した子どもたちにも当てはまりますが、まずはその子に合う居場所を見付けることです。Bくんはフリースクールに変えたことで、自分が得意な分野を見付け、それが自信となり将来につながりました。またCちゃんは、自由保育の園に転園したことで、元気に園に通えるようになりました。

不登校になった子どもたちの居場所は、通っていた園や学校だけではないはずです。選択肢は豊富なので、子どもに合う選択をしてあげてほしいなと思います。

親子で相談に行き、支援とつながる大切さを子どものうちから教えよう

――子どもが登校渋りや不登校になって悩んだとき、親はどうしたらよいのでしょうか。

喜多見先生 不登校という状態には、本当に様々な原因があり、その子その子の多様な解決法があるのです。ほとんどのお子さんは自分の原因を言葉にできないので、両親が頑張って話を聞いても分からないことがほとんどです。

どんなに愛情深いご両親であっても、皆で協力してお子さんを支えようと関わっても、どうしてもうまくいかないことはあるものなのです。

なので、お子さんが不登校になってしまったことで、あまり落ち込まないでください。そして、もしうまくいかないと思ったら、悩みをひとりで抱え込まないことが大切です。

地域には、スクールカウンセラー、担任の先生、園長先生・校長先生、教育相談機関、フリースクールなど、選択肢はたくさんあります。相談することには勇気がいりますが、一度相談をして、頭を整理するだけでも様々な可能性が見えてくると思います。

子どもに合う環境を見付けよう

喜多見先生 また相談やカウンセリングには、お母さん・お父さんだけで行く家庭もありますが、親子で相談に行くのもおすすめです。

とくに、発達の特性がある子どもたちは、不登校以外にも、社会でいろいろな苦労を経験することになります。将来、彼らがひとりで問題を抱え込まないように、ご両親が「相談することは恥ずかしいことではない」と示すことは大切です。

子どもたちが将来悩んだときに、頼れる人や適切な支援とつながることの大切さを、子どものうちから教えるよい機会と捉えましょう。

さらに、相談にはどうしても相性の問題があります。アドバイスに違和感を覚えたり、相談したのに逆に不安が高まったりしたときは、相談先を変えてみるのもひとつの手です。

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お話をうかがったのは…

喜多見 学 「放課後等デイサービスFlos」代表

公認心理師、臨床心理士。NPO法人子育て応援隊むぎぐみ代表。多機能型事業所「放課後等デイサービスFlos」代表。東京都教育相談センター、立正大学心理臨床センター助教を経て現職。2008年よりNPO法人子育て応援隊むぎぐみの設立メンバーとして活動し、心理相談部門や発達・療育支援部門を運営。2022年より、花まる学習会執行役員に就任。さいたま市だけでなく、全国の子どもたちと保護者の支援活動を行う。専門は、家族支援、発達障害支援、ひきこもり支援、教育相談。

取材・文/麻生珠恵

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