特別養子縁組で2児と家族になった俳優・瀬奈じゅんさん。「息子を迎えたときは『えらいね』、娘を迎えたときは『おめでとう』」感じた社会の変化。血のつながりがなくても、日々の積み重ねが親子を作る

宝塚歌劇団の元トップスターで、現在は女優として活躍する瀬奈じゅんさん。39歳から2年半にわたる不妊治療を経て、特別養子縁組により息子さんと娘さんを迎え入れ、二児の母となりました。「子どものための制度」と「家族を築きたい思い」の両立、真実告知、そして日々の子育て。血の繋がりを超えた深い絆で結ばれた瀬奈さん家族のエピソードを伺いました。

不妊治療から特別養子縁組へ。「冷静な判断」のために1年間心身をリセット

——不妊治療から特別養子縁組を行うまでの経緯をお聞かせください。

瀬奈さん:私が結婚したのは38歳と年齢を重ねたタイミング。さらに、仕事が2年先3年先まで決まっている職種なので、なかなか先が読めない状況でした。そこで、まず仕事にひと区切りつけてから、39歳から妊活をはじめたのです。

でも、その時点ですでに高齢出産の年齢ですよね。それまでの私は頑張ってなりたいものになってきたから、頑張れば叶うという思い込みがありました。それに、もともと結婚願望も子どもがほしいという気持ちもなかったので、妊娠についてちゃんと勉強していなかったんです。

宝塚退団後に卵巣嚢腫で左の卵巣を手術していたこともあり、婦人科に行ったところ、自然妊娠の可能性は0%に近いと言われました。年齢のこともあるし、いろいろ調べた結果、全部すっ飛ばして体外受精をしましょうということになったんです。

——体外受精を2回終えたときに、ご主人の千田真司さんから特別養子縁組の話があったそうですね。

瀬奈さん:2回目もダメだったときに、主人が「特別養子縁組という制度があるよ」と教えてくれました。でもそのときは「私はあなたと自分の子を授かるために頑張っているのに、何言ってるの」という思いがあって、すぐには受け入れられなかったんです。

でも、体外受精をはじめて1年半ぐらい経ったときに、「そういえば主人が特別養子縁組って言ってたな」と不意に思い出して、自分でも調べはじめました。そうしたら、想像していたよりもすごい数の子どもたち——当時で約4万人という数の子どもたちが養護施設に入っていることを知って、びっくりしたんです。

この4万人の中のうちのたった1人、微々たる数字かもしれないけど、少しでも何かできることはないかなと思いました。そこから調べて、説明会に行き、実際に特別養子縁組で親子になった方たちの生の声を聞いたんです。

——そのとき、特別養子縁組を決断されたのでしょうか?

瀬奈さん:いえ、まだでした。でも、この段階で特別養子縁組という制度を知っていたから、不妊治療を終わらせることができたんです。不妊治療ってゴールが難しいんです。でもこの制度の存在があったから、「もう1回体外受精をして、ダメだったらやめよう」と思えました。

7回目がダメだったとき、主人と2人で台所で号泣しました。でも悔いはなかったですね。そこから1年間、薬の影響を体から抜いて、ジムに通って健康的に過ごして、心も体も健康な状態にしてから、改めてちゃんと冷静に特別養子縁組を考えようと決めたんです。

——焦らず、丁寧に考えられたのですね。

瀬奈さん:不妊治療に関する薬の影響を受けている間は、冷静な判断が絶対にできないってわかっていたんです。1年間、心も体も整えて、仕事もはじめて、それでも特別養子縁組に進みたいと思えるかどうかを確かめました。

「おめでとう」の言葉に変化。5年で進んだ社会の認知

——2017年に生後5日目の男の子、2022年に生後5日目の女の子と、2人のお子さんを特別養子縁組でお迎えされていますね。息子さんを迎えたときと、娘さんを迎えたときで、周囲の反応に違いはありましたか?

瀬奈さん:全然違いました! 息子を迎えたことを公表したときは、「すごいね」「えらいね」という反応が中心でした。どこか他人事のような、身近ではない、何か特別な人がすることというイメージだったんだと思います。海外セレブやお金持ちがするボランティアのような。

なにより、私の周りで特別養子縁組という制度を知っている人は、ほぼいませんでした。普通養子縁組と特別養子縁組の違いもわからない人がほとんどでした。

※特別養子縁組と普通養子縁組の違い:特別養子縁組は実親との法的な親子関係が終了し、養親と実子同様の関係になる制度。普通養子縁組は実親との関係を保ったまま養親とも親子関係を結ぶ制度です。

お迎えしたばかりの娘さん。(瀬奈さんご提供)

——制度の違いについて、まだ誤解も多いですか?

瀬奈さん:そうですね、普通養子縁組と特別養子縁組の違いも、まだそこまで広く知られていません。また、養子縁組とはまた異なる、里親制度というものもあります。昔『思い出のマーニー』というジブリ映画で、養女である主人公が、育ての母親が国からお金をもらって生活しているんだと知ったときのショックを描いた場面がありましたよね。そのイメージが多分、みなさん強いのではないでしょうか。

里親の場合には国から補助金が出ますが、特別養子縁組は子どもを産んだ人と同じ状態になるため、特別な補助金は出ません。その代わり、実子と同じように、子ども手当等はいただけます。

——子どもを育てると言っても、大きく異なる制度なのですね。

瀬奈さん:そうなのです。だから、「なぜ普通養子縁組や里親じゃなくて特別養子縁組を選んだの?」って聞かれても、全然違う制度の話になるので……。そういった点はもっと知られてほしい情報ですね。

でも、そういった状況がありながらも5年後に娘を迎えたときは、「おめでとう」という言葉が中心になっていました。世間の認知度が変わってきたんだと思います。私もえらいことだとは思っていないし、「えらいね」「すごいね」と言われるとちょっと違うんだよって思っていました。

——認知が変わったのは、瀬奈さんの発表も一役買っているのだと思います。

瀬奈さん:私が公表しているのは、特別養子縁組が「特別」じゃない、普通のことになる世の中にするためです。5年前と比べて、2回目に公表したときはみなさんの反応に大きな変化を感じました。それは、私にとって何よりもうれしい驚きだったんです。日本の人々の理解や、時代が進むスピードに、改めて大きな期待を抱きました。社会全体が着実に学び、進化しているという手応えを感じています。

お迎えした娘さんを見つめる息子さん。(瀬奈さんご提供)

——特別養子縁組について、まだ残っている課題はどんなところにあると思われますか?

瀬奈さん:まず、特別養子縁組は「子どものための制度」です。政府も団体も、それをすごく打ち出していますよね。もちろんそうなんです。でも私は「子どもを育てて、幸せな家庭を築きたいんです」って大きな声で言えない雰囲気があるのは、ちょっと違うなと感じています。

子どものためという前提のうえで、養親側も「1人でも多くの子が施設ではなく、温かい家庭で育つように」という気持ちがなければ成立しない制度なんです。どっちの気持ちも大切で、平等でないといけないと思います。

——団体側の審査については、どう感じられましたか?

瀬奈さん:特別養子縁組に取り組む団体側からしてみたら、生活面でも人間性でもちゃんとした人に託したいと思うのは当然です。それゆえ、品定めされてるような気分に、こっちはなってしまうんですよね。そこにすごく大きなハードルがあるんじゃないかなと感じています。

でも、私は思うんです。普通に当たり前の生活をしていて、常識を持っていたら、そんなにハードルが高いものでは決してない。普通に子どもを妊娠して育てる感覚と、多分変わらないんです。本当に子どもたちのためを思って行動できる人ならば、決して越えられない壁ではないと、私は思います。

※特別養子縁組の窓口:特別養子縁組を希望する場合、「児童相談所(公的機関)」または「民間の養子縁組あっせん事業者」が窓口となります。どちらも養親希望者への研修や審査を行い、最終的には家庭裁判所の審判によって養子縁組が成立します。

「もう1人のママがいるよ」真実告知は赤ちゃんの頃から。統計に基づく選択

——真実告知について、お子さんたちが赤ちゃんの頃から伝えているそうですね。

瀬奈さん:息子を迎えたとき、公表したのは息子を守るためでした。私たち夫婦は人の前に出る仕事です。だからこそ、根も葉もない噂がデジタルタトゥーになるのは絶対に避けたいと考えました。息子が自分で調べられる年齢になってそれを目にしたとき、嘘が本当のように文字になっているのは絶対に避けたかったのです。

また、特別養子縁組では真実告知が重要視されています。生みのお母さんの存在については、まだ言葉が通じない3ヶ月頃から言っています。

お迎えしたばかりの頃の息子さんと、瀬奈さん・千田さんご夫妻。(瀬奈さんご提供)

——なぜ早くから伝えることが推奨されているのですか?

瀬奈さん:真実告知についてのセミナーで、統計学的に、中学生とか心が大人になってから本当のことを話すよりも、小さいときから話していた方がショックが少ないというデータがあるんです。それに基づいて推奨されているんですよ。

——息子さんと娘さんは、現在どう理解されていますか?

瀬奈さん:本当の意味での「2人のママがいる」の意味は、まだちゃんとわかっていないと思います。ただ、自分は私から産まれたのではなくて、もう1人のママがいるということはわかっています。

書籍『ちいさな大きなたからもの』。制度を治療前に知ってもらうために

——書籍『ちいさな大きなたからもの』を出版されたきっかけについても教えてください。

瀬奈さん:出版社さんからお声がけいただいたことが、きっかけです。私も常々思っていたのですが、不妊治療をはじめる最初の段階で、「タイミング法がありますよ」「体外受精もあります」と説明されます。そのときに、特別養子縁組という選択肢があるという情報提供がなされることも大事だと思うんです。

私は妊活の途中で知ったけれど、この制度を最初から知っていたら選択肢が広がっただろうなと。だから、婦人科にこういう特別養子縁組の本が置いてあって、不妊治療をはじめる前に読んでもらえたらなという思いがありました。

『ちいさな大きなたからものー特別養子縁組からはじまる家族のカタチ』方丈社

——読者からの反響はありましたか?

瀬奈さん:団体のセミナーで体験談をお話しすることがあるのですが、「これを読んで決断しました」「こういう幸せな家族の形もあるんだなって思って、勇気を振り絞ってセミナーに参加してみました」という方がいらっしゃいました。ありがたいですね。

子育ては乳児期から。息子と娘、真逆の個性!

——息子さんと娘さんを乳児期から育てて、違いは感じましたか?

瀬奈さん:全然違います! 息子はまったく寝なかったんですよ。仕事から帰ってきて、車に乗せて2時間ドライブすることも多くて。運転しながら、ふとミラーを見ると息子が目を開けてるんです(笑)。本当に大変でした。とにかく寝ないで遊びたくて、力があり余ってるし、筋肉質で。一方で、娘は楽でした。ミルクあげて、抱っこしてたらもう寝てる。本当に楽だったんです。

ところが、今は逆なんです。息子は小学校に入って昼寝がなくなり、いろんなことが詰め込まれるから、帰ってくると疲れちゃって20時か21時には寝ます。逆に娘は昼寝もしてるし、夜になると元気で、なかなか寝ないんです。

でも息子ほどじゃないですね。ドライブに行ったりはしていません。2人目だから「ここまではちょっと手を抜いても大丈夫」といったこともわかってるからかもしれないですね。

——ゲームや習い事などはいかがでしょうか。

瀬奈さん:ゲームは1日1時間半、宿題してからという約束です。ゲームを禁止しないのは、それがお友達との会話にもなっているから。うちの子は自らどんどん行くタイプではないので、共通の話題があったらお友達と会話に入っていけるかな? と思って、やらせています。

習い事は、一時期アート系をやっていたんですけど、今は動画編集やプログラミングをやっています。好きみたいで、習得が速いんです。マインクラフトも好きみたいで、今時の子だなあと思います。

——得意なことや好きなことがあるのは素敵ですね。将来の夢についても話していますか?

瀬奈さん:息子の夢はYouTuberです(笑)。ゲーム実況をしたいって言っていて、すでにうまいんですよ、もう。私たちのときってゲームは黙々とやるものでしたけど、息子はずっと喋っている。YouTubeでゲーム実況を見てるから、その影響なんですね。先日習い事の課題で、パパに手伝ってもらいながら1本作っていました。すごく短い動画ですけど。

娘は塗り絵とかDIYが好きですね。あとはおしゃれとか、かわいいものに関心を示しはじめています。私のメイクにもすぐ気づいて「これかわいい」って。バレエとかダンスにも興味を持っていて、主人のダンススタジオについて行ったり。

息子も娘も、興味を持ったことをやらせてあげたいなとは思いますね。

——ご主人と子育ての方針で違いが出たときはどのように対処されていますか?

瀬奈さん:すぐ話し合うようにしています。例えば私が大阪に1ヶ月出張していた間に、新しい決まり事やルールができていることがあって。「ご飯を食べ終わったらYouTubeは見ない」とか、娘が「トイレができるようになってきたから、寝る前に必ずトイレに行かせる」とか、「ご飯も自分で食べられるようになってきたから1人で食べさせよう」とか。

私が帰ってきたあとに、子どもたちに「ちょっとだけいいよ」って言ってしまうとよくないので、ルールのすり合わせはちゃんとするようにしています。

「特別養子縁組が『特別』じゃない世の中に」

——今後も、特別養子縁組について発信を続けていかれるのでしょうか?

瀬奈さん:子どもたちが大人になったときに「やめて」となったら、すぐやめます。「僕の話をしないで」「私の話をしないで」と言われたら、もう取材も受けません。でも今のところ、息子は『ちいさな大きなたからもの』を「僕の本」って言ってくれているし、続けたいなと思います。

取材を受けたり、参加したりするのは、すべて息子と娘が大人になったときのためなのです。

——瀬奈さんが願う、未来の社会とは?

瀬奈さん:息子と娘が大人になったときに、特別養子縁組が特別じゃない世の中になっていてほしい。それだけです。血のつながりがあっても、なくても、一緒に生活して笑顔を交わして、ご飯を食べて、過ごしているうちに似てくるんです。親子って、そういうものだと思うんです。

私がこうやって公表しているのは、「特別養子縁組」が「特別」にされない世の中になるため。5年前と今では、確実に認知は広がっています。これからも、等身大の家族の姿を伝えていきたいと思います。

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お話しを伺ったのは

瀬奈じゅん 俳優

1992年、宝塚歌劇団に入団。2005年、月組男役トップスターに就任。09年の退団後は、舞台やテレビ番組などで幅広く活躍。私生活では、俳優・ダンサーの千田真司さんと結婚。17年に特別養子縁組で子どもを家族に迎える。翌年にその事実を公表するとともに、特別養子縁組の周知活動を開始。

◆ミュージカル『サムシング・ロッテン!』出演 2025年12月19日~2026年1月2日 東京国際フォーラム、2026年1月8日~12日 オリックス劇場(大阪)

◆ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』出演 2026年3月9日~4月2日 シアタークリエ(東京)、2026年4月10日~12日 サンケイホールブリーゼ(大阪)

レースコート¥93,500(ykF/エフ)、ネックレス¥638,000(LIZI PRESS<ALESSANDRA DONÁ >)、ゴールド×サファイアピアス¥605,000・リング(右手薬指)¥495,000(LIZI PRESS <QAYTEN>)、ほかすべて私物

【問い合わせ先】
ykF(エフ) 03-3403-6758
LIZI PRESS 03-6427-4471

取材・文/ミノシマタカコ 撮影/田中麻以 ヘア&メイク/松元未絵 スタイリスト/下平純子

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