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励ますつもりの一言が子どもの「負け癖」を助長することも!?
――受験やスポーツの大会などの際に、よかれと思っての言動が子どもにとってプレッシャーとなるなど悪影響を及ぼしていることってありますよね。
飯山さん ありますね。典型的なパターンのひとつが、「もっとよくなってほしい」「もっとできるはず」という期待感から、子どもの足りない点、至らない点にばかりフォーカスしてしまう発言です。
例えば、子どもがテストで90点をとってきたとします。その際、「すごい、頑張ったね! もう少し頑張れば100点だね」という声かけは実はNGなんです。
――どこがNGなのでしょうか?
飯山さん この声かけで問題なのは「もう少し頑張れば」という部分。これは正解した90点ではなく、足りない10点に意識を向けているという点で、子どもにとってはダメ出しも同然なのです。
子どもとしては、学校や塾でめちゃくちゃ頑張っているのに、結果が伴わなければ親からガッカリされる。よい成績をとったらとったで「もっと頑張れ」とさらにハードルを上げられる。先の見えない戦いを強いられた子どもは疲弊し、勉強でも運動でも自分がやっていることに喜びや達成感が見出せなくなります。
親がもっともっとと欲張るほどに、子どもの自己肯定感が下がり、潜在意識に「できない」「無理」「どうせ」という負け癖を植え付けることにもなりかねません。
声かけの基本は“現状肯定+子どもの気持ちにフォーカス”
――このケースではどのような声かけがベターなのでしょうか?
飯山さん 基本路線は“子どもの現状をありのままに肯定する”ということと、“子どもの気持ちにフォーカスする”ということの二点です。
このケースでは、まず「そっか、90点だったんだね」と受け止め、その上で子ども自身が90点という点数に対してどう思っているか、聞いてみればいいと思います。

――親が一方的に良い悪いをジャッジするのではなく、子どもがどう感じているかにまずは目を向けるということなんですね。
飯山さん そうです。子どもが「90点もとれてうれしい」という反応なら、「そうだね、頑張ったね、すごいね!」と手放しで褒めればいいし、逆に「あともうちょっとで100点だったのに」であれば「そうだね、悔しいね」と気持ちに寄り添った上で「どうすればあと10点とれるかな?」と子どもと一緒に考えてみるのもいいでしょう。
実録!「500点満点中80点」の息子を逆転合格に導いた親の言葉がけとは?
――赤点だった場合はどうでしょうか? つい子どもを問い詰めたくなりそうです。
飯山さん そうですよね。子どもの赤点を目の当たりにして、泰然と構えるのは相当な胆力が必要だと思います。ただ、心がざわついても、なるべくそれを声や表情には出さずに、まずは現状を肯定することを心がけてみてください。
ここで、私のクライアントの実体験談をひとつ。その方の息子さんが高校受験を控えた中学3年生の1学期に5教科のテストで総合得点が80点ということがありました。1教科ではありませんよ。500点満点中の80点です。
これにはさすがに「えっ、マジかよ、3年生のこの時期にこんな点数でどうすんだよ!?」と動揺したそうですが…。私のコーチングを思い出しながらぐっとこらえてお子さんと次のようなやりとりを交わしたといいます。
「へえー80点か。あなたはどう思うの?」
「うん、全然勉強しなかったからまあこんなもんだね」
「えっ、全然勉強しないで80点とれたの? そりゃすごいね!」
「うん、とりあえず好きな授業は聞いているからね。嫌いな授業は寝てるけど」
「へえー、そうなんだ。好きな教科ならばちゃんと授業を受けているんだね」
もしこのとき「こんな点数で!?」という心の声を口にしていたら、おそらく反感を買い、親子のコミュニケーションは断絶していたことでしょう。
相当まずい状況であることは本人がいちばん痛感しているはず。そこへ親が「こんな点数」と追撃したら、子どもは奮起するどころかますます気力をそがれ“こんな点数しか取れないダメな自分”という負の自己イメージを強化することにもなりかねません。

――500満点中80点という明らかにヤバい状態でも、親は放置するしかないのでしょうか?
飯山さん 放置というのは微妙に違うかもしれません。このケースではクライアントに「ところであなたはどこの高校に行きたいの?」「その高校に行くには500点満点中、何点必要なの?」などと、ひたすら息子さんのやりたいことにフォーカスするようにアドバイスしました。そうした質問に対し、わが子が「さあ」とか「よく分かんない」など生返事をしてもあえて追及はしない。その場合、「そっか、じゃあ分かったら教えてね」でいいと思います。
すると、それからしばらくして息子さんは「担任の先生に聞いてみたら500点満点中350点必要なんだって。俺、全然足りなくてヤバい」などと言い始めたのだそう。
そこから火がついたのか、彼は自分に合った学習方法などを模索しながら勉強に励み、80点からまずは100点、次は150点…というふうにラインを徐々に上げて、最終的には第一志望の高校に滑り込み合格を果たしました。
――すごい!
飯山さん もちろん、試験の合否には様々な要素が絡むので、「こうすれば絶対にうまくいく!」ということはありませんが、少なくとも親が「なんでこんな点数?」と問い詰めていたら、お子さんが真摯に勉強に向き合わなかったのは確かだと思います。
子どもに限らず大人だってそうではないでしょうか。人から責められたり強制されたりしたら、ますますそこから逃げ出したくなりますよね。
だから、子どもの現状が親目線でどんなにふがいないものであっても、親としては子どもを信じて見守ること。
100点満点中の90点であれ500点満点中の80点であれ、テストの点数に一喜一憂するのではなく、「そっか、今回は○点だったんだね」とフラットに事実を受け止め、「あなたはどう思うの?」「あなたはどうしたいの?」と子どもを主体として会話を進めるのがよいかと思います。
おさらいになりますが、声かけの基本路線は“子どもの現状をありのままに肯定する”のと“子どもの気持ちにフォーカスする”の二点です。
本番に強い子と弱い子の違いとは?
――模擬試験などの判定は悪くても、本番では謎の勝負強さを発揮して逆転合格を果たす子もいますよね。そういう勝ち癖をつけるには、子どもをどんどん褒めればいいのでしょうか?
飯山さん 実は“本番に強い・弱い”って、単なる本人の思い込みなんです。例えば、本番になるとなぜかおなかが痛くなったり緊張したりで実力を発揮できないというパターンは、本人が「自分が本番に弱い」と思い込んでいるのが大きいといえます。

――思い込みですか。
飯山さん 人間誰しも失敗はしますが、本番に弱い子というのは、過去に経験したミスを繰り返し頭の中で再生し、どんどん自分を追い詰めて、結局同じミスをやらかすことが少なくありません。ある意味、記憶力のいい子ほど本番に弱くなってしまうんですね。逆に、本番に強いタイプは根拠のない自信の持ち主です。
負け癖の潜在意識を上書きするためには、本人が「自分はできる!」を口癖にしたり、親など身近な人間が「あなたならできるよ!」と繰り返し伝えたりするのが有効でしょう。
というのも、脳は思っていることよりも口にしている言葉を強く信用する性質があるとされ、さらに、心理学のピグマリオン効果で、人間は期待された通りの成果を出す傾向にあるといわれます。
だから、自己暗示と他者暗示の両面から、子どもに根拠のない自信を持たせること。例えば、500点満点中80点が100点になったら「イェーイ!」とハイタッチするくらいの勢いで子どもを肯定してあげればいいんです。
子どもに「勝ち癖」をつけるために親がまずやるべきシンプルな習慣とは?
――ハイタッチまでしたほうがいいんですか(笑)。
飯山さん はい(笑)。脳は入力の際、言語などの聴覚情報よりも目で見る視覚情報のほうが記憶に残りやすいといわれています。だから笑顔だったりガッツポーズだったり、子どもの勝ち癖をつけるためには、なるべく親御さんが率先してポジティブな表情や動作を心がけてみてください。
それも、子どもに対してだけではなく、家事や仕事にもできるだけご機嫌でワクワクした気持ちで取り組むことをおすすめします。例えば、「掃除するのしんどいな…」と思うことがあっても、あえて口角を上げて「掃除やっちゃおう!」と口にするのも効果的です。

――家の中の空気を明るくするということですよね。
飯山さん それがいちばんです。子どもというのは、親の表情をよく見てそれを記憶しています。親の表情が潜在意識に焼きついて、入試や大会などのパフォーマンスが左右されてしまうこともありうるのです。
もし親がいつも不機嫌で眉間にしわを寄せた状態でいたら、どうなるか? 試験で難問が出たり試合で劣勢に立たされたりしたときに、ふと親のこわばった表情がフラッシュバックして「間違えたくない」「失敗したくない」というプレッシャーを与えてしまうことにもなります。
逆に、親の笑顔が潜在意識に焼きついている子どもは、いざというときに「失敗しても大丈夫だ」という安心感があり自信をもって本番に臨めます。そして、厳しい局面に陥っても、「もっと喜んでほしい」という思いが湧いてきて実力以上の成果を発揮できるのです。
よく偉業を成し遂げたアスリートのインタビューで「~~の応援があったから頑張れた」というフレーズを聞きますが、あれはきれいごとではなく真理の一面をついています。
子どもにとっていちばん身近な存在である親がまず笑顔でいること。これこそが子どもの勝ち癖を強化するファーストステップかもしれません。
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お話を聞いたのは
銀座コーチングスクール認定プロフェッショナルコーチ。JADA(日本能力開発分析)協会認定SBTマスターコーチ。経済産業省登録 中小企業診断士。石川県金沢市・東京代官山にオフィスを構え、全国で活動。ビジネスマンやアスリートのメンタルサポートにも注力し、オリンピック金メダリストの髙木菜那選手らを育成。甲子園出場や全国制覇に導いたチーム指導の実績も豊富。『こどものやり抜く力と自己肯定感を一気に高める 超メンタルコーチングBOOK』(KADOKAWA)、『勝者のゴールデンメンタル』(大和書房)など著書多数。
取材・文/中田綾美

