目次
幼少期の原体験を基に「ラッパーから経営者へ」
——モバイルバッテリーの会社が、なぜアートコンテストを? 意外に感じたのですが、その理由を教えてください。
秋山広宣さん(以下・同):実は昔、「ラッパー」だった時期があるんです(笑)
私は香港出身の父と日本人の母を持ち、10歳まで福島県いわき市で育ちました。幼少期は元気が良く、目立ちたがりな性格だったと思います。
音楽との出合いは、日本で生活していた10代の頃。夏休みに帰省した香港で、インターナショナルスクールに通う友人たちが教えてくれる最先端の情報に触れるのが楽しみでした。その中で出合ったのがヒップホップです。
ヒップホップには、自分の生まれ育った環境や、日々感じていることを素直に表現できる自由さがありました。香港と日本という2つの文化の間で育った自分にとって、この「境界を超えて表現できる」という点が、とても魅力的だったんです。

——表現活動を通じて、どんなことを学びましたか。
ラッパーとして活動していた時代に学んだ最も大きなことは、「自分の言葉で表現する」ということです。ヒップホップは、自分が感じたこと、考えたことを、誰かの言葉ではなく自分自身の言葉で伝える文化なので。
当時は日本と香港を行き来しながら、英語、広東語、日本語の3ヶ国語で歌詞を書いていました。言語が違っても、伝えたい想いやメッセージの本質は同じ。むしろ、言葉が違うからこそ、表面的な言葉だけでなく、その奥にある「意味」や「ニュアンス」を大切にするようになりました。
ラッパー時代の経験も今に活きている
——大人になっても、その経験は活かされていますか?
CHARGESPOTを8地域でグローバル展開する中で、各国の文化や価値観を理解し、現地の人々とコミュニケーションを取る際に「言葉の奥にあるものを読み取る力」が非常に重要になっています。
また、ラップで最も重要なのは「リアルであること」。嘘や飾りは通用せず、自分が本当に経験したこと、感じたことを、どれだけ誠実に言葉にできるかが問われます。
この「リアルさ」への追求は、ビジネスにおいても同じです。CHARGESPOTは、「日常生活に溶け込み、皆さんが必要とする場所にある」というリアルな価値を提供することを大切にしています。

ラッパー時代は苦しい時期もありましたが、その経験があったからこそ、「困難にぶつかったときの突破の仕方」や「結果が出るまで諦めない」という姿勢も学べました。
——アートコンテストには、他にも込められた意図があったのでしょうか。
「アートを日常に」という想いがあります。一般の人々が「偶然」アートと出合う機会を創出し、誰もが自然にアートに触れられる新しい体験を提供したいという想いから、本コンテストを立ち上げました。
「CREATIVE CHARGE CLUB CHALLENGE」では、日常的に利用されるモバイルバッテリーにアートを取り入れることで、若手クリエイターの発表機会を広げ、創造することの価値を社会に広め、クリエイティブな機会を増やすことを目指しています。
——応募作品を見て、率直にどんな印象を受けましたか。
「自由」と「遊び心」を感じました。そこに皆さんの好きなものを混ぜてもらうことによって、より楽しくなっていくなと。あと、シンプルに「かわいいな」と思いました。
たくさんの作品を応募いただきましたが、今までのCREATIVE CHARGE CLUBに参加いただいたものとは全くテイストが違っていたし、ポップなものが多かったですね。
子どもの好きなことを、親は「そのまま受け入れる」
——子どもが何かに夢中になっているとき、親はどう関わるといいのでしょう?
専門家ではないのでえらそうなことは言えませんが(笑)、「そのまま受け入れる」ことでしょうね。子どもが何かに興味を持ったとき、どんなにとっぴなものであっても、まずは否定せずに受け入れてみるとか。
子どもの興味は移り変わるものですが「今、これに夢中になっている」という事実そのものに価値があります。その瞬間の情熱を大切にしてあげることが、将来的に何かを本気で追求する力につながるかもしれません。
「上手い・下手」ではなく、やってて楽しいかどうか
——将来につながるほど「上手いのか下手なのか」の判断が難しいです。
「上手い・下手」という基準で見るのではなく、「その子が楽しんでいるか」「夢中になっているか」を見てみるのはいかがでしょうか。
アートや音楽の世界では、技術的な上手さよりも、「その人にしか出せない個性」や「オリジナリティ」「人と異なること」が評価されます。子どもの頃から「上手じゃないとダメ」という価値観を植え付けてしまうと、自由な発想や表現が制限されてしまいます。
むしろ、「この子はこういう色使いが好きなんだな」「こういうリズム感を持っているんだな」と、その子独自の感性を発見し、尊重することが大切です。

——耳が痛い(笑)。他にも親が気をつけたいことはありますか?
「こうあるべき」という型にはめようとしないことですね。才能を伸ばすには、失敗する経験も必要です。親が先回りして「これは無理だから」と道を狭めてしまうのではなく、子ども自身が挑戦し、時には失敗し、そこから学ぶプロセスを見守ることが重要なんです。
ただし、見守るというのは放置することではありません。子どもが本当に困ったときには手を差し伸べられるように、常に関心を持ち続けることも大切です。
——手を差し伸べるだけでなく、つい口うるさく言ってしまいそうです。
「そんなことして何になるの?」「もっと普通のことをしなさい」こういった言葉は、大人の経験から出る「現実的な忠告」のつもりかもしれませんが、子どもの可能性を閉じてしまいかねません。
アートや表現の世界では、「普通じゃないこと」にこそ価値があることが多いです。私もヒップホップという当時はまだ日本で主流ではなかった文化に飛び込んだからこそ、独自の道を切り開けました。
親として伝えるべきは、「みんなと同じことをしよう」ではなく、「自分が楽しいと思えることを本気でやるなら、どう実現するか一緒に考えよう」というメッセージではないでしょうか。
好きなことを仕事にするには「どう社会に届けるか」
——好きなことを仕事にするには、どんな視点が必要だと思いますか?
私もラッパーとして活動していたとき、「音楽が好き」だけでは続けられないことを痛感しました。好きなことを仕事にするには、それを「どう社会に届けるか」「どう価値に変えるか」を考える必要があります。
——さらに詳しく伺いたいです。
まず、結果が出るまで苦労する覚悟を持つこと。好きなことだからこそ、すぐに結果が出なくても諦めない。私も音楽活動を29歳で辞め、コンサルティング事業を始めるまで、決して順風満帆ではありませんでした。
次に、既存の枠にとらわれないこと。困難にぶつかったときの突破の仕方って、意外と似ているんです。自分次第でどうオプティマイズするか。音楽で日本と香港をつないだ経験が、今はCHARGESPOTでグローバル展開する力になっています。
最後に、今あるものを組み合わせて新しいものを作ること。ラッパー時代の経験、コンサルティングで学んだビジネススキル、香港と日本という2つの文化背景—これらすべてが今の事業に活きています。

——プロにならなくても、アートや表現が仕事につながることはありますか。
ビジネスにおいて「クリエイティビティ」は大事ですよね。既存のやり方にとらわれず、新しい発想で課題を解決する。これはまさにアーティストが作品を作るときの思考プロセスと同じです。
あと、商品の「利便性」だけでなく、「付加価値」や「トレンド」を生み出す力。そこには、エンタメや文化、アートが深く関わっていると思います。
また、「CREATIVE CHARGE CLUB」では、アーティストのデザインをバッテリースタンドやモバイルバッテリーに採用し、日常生活の中でアートに触れる機会を作っています。アートは美術館やギャラリーだけのものではなく、街中や駅、カフェなど、人々が普段使う場所に存在すべきだと考えているからです。

知識がなくても、まずは楽しむだけで大丈夫
——「アートってわからないな」と苦手意識がある親へ、なんと声をかけますか。
実際、私もわからないです(笑)。ただ、「わからないけど面白そう」「子どもが夢中になっているなら見てみよう」という好奇心を持ってみると良いかもしれません。
私自身、最初はヒップホップについて何も知りませんでした。でも、友だちから教えてもらい、自分で調べ、実際にやってみることでその魅力に気づきました。
アートは、「知識がないと理解できない」というよりは、感じたままに受け取ればいい。お子さんが描いた絵を見て、「これ、なんか好きだな」と思える感覚があれば、それで十分です。
——知識がなくても、言語化できなくても、それでいいのですね。
お子さんがアートや音楽に興味を持ったら、一緒に美術館に行ったり、ライブを見たり、展示を訪れることがあるでしょう。そこで無理に何かを教えたり、言葉にできなかったりしてもいい。親子で「わからないけど面白いね」と語り合える時間こそが、お子さんの感性を育む最高の時間になると思います。
私たちCHARGESPOTも、日常の中でアートに触れる機会を増やす取り組みを続けています。バッテリーを借りるという日常的な行動の中で、「このデザインかわいいな」と思える瞬間があれば、それが小さなアート体験になり、時間と共に積み重なっていきます。
アートは特別なものではなく、日常に溶け込んでいるもの。その視点を持つことで、お子さんの表現活動も、より自然に応援できるのではないでしょうか。
こちらの記事もおすすめ
この記事を書いたのは
三菱UFJ銀行の法人営業、ユーザベースのセールス&マーケティングを経て独立。ビジネスやマネーの取材記事から、恋愛小説まで幅広く執筆。2025年よりフランスに拠点を移し、フランス企業の日本進出支援(ローカライズ)やフィクションの翻訳にも携わる。3児の母。
X:@yel_ranunclus
Instagram:@ayabemato
取材・文/綾部まと