「家族の突然の死」どう受け止める? ダメな兄の訃報から始まる家族のひと騒動に泣き笑い。映画『兄を持ち運べるサイズに』

突然、警察から兄の訃報を聞いた妹と、周りの家族のてんやわんやを通して、浮かびあがる「家族とは何か?」という問い。柴咲コウ、オダギリジョーら演じた、一筋縄ではいかない家族の物語『兄を持ち運べるサイズに』は、現実と背中合わせのリアルな物語で、まさにHugKumの親世代の方々に観ていただきたいおすすめの1本です。

柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかりらのアンサンブルに泣き笑い

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

日本アカデミー賞・報知映画賞など多くの映画賞を席捲した宮沢りえ主演映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)や、二宮和也主演『浅田家!』(20)など、一貫して“家族”の悲喜こもごもを描いてきた中野量太監督。11月28日(金)より公開された最新作『兄を持ち運べるサイズに』では、突然、警察から兄の訃報を聞き、その後処理に翻弄される妹と周りの家族を、時にユーモラスに、時にシビアに、時に優しく描いていきます。

原作は、作家・村井理子が実際に体験した数日間をまとめたノンフィクションエッセイ「兄の終い」。なるほど、実話ベースなので、細部も実にリアルです。疎遠になっていた兄の急死によって、バラバラになっていた家族が集結! 兄の人生の後片付けをしていく上で、様々な問題と直面する数日間の実話を、中野監督自らの脚本で映画化。『兄を持ち運べるサイズに』というタイトルにも、非常にセンスを感じます!

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

マイペースで自分勝手な兄に、幼いころから振り回され続けてきた主人公の理子役に柴咲コウ、とことんダメすぎる兄役にオダギリジョー、兄の離婚した元妻、加奈子役に満島ひかり。人気と実力を兼ね備える3人を中心に、絶妙なアンサンブルドラマが繰り広げられます。

家族を振り回すダメな兄なのに、なぜか愛おしい

作家の理子は、ある日突然、警察から、兄の急死を知らされます。理子は、兄が住んでいた東北へと向かいながら、兄との苦い思い出を振り返っていました。警察署では7年ぶりに兄の元妻・加奈子やその娘の満里奈、一時的に児童相談所に保護されている兄の息子・良一と再会し、兄を荼毘に付すことに。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

兄たち親子が住んでいたゴミ屋敷のようなアパートを片付けていた3人が目にしたのは、壁に貼られた家族写真の数々。そこには子ども時代の兄と理子が写ったものや、兄、加奈子、満里奈、良一ら家族のものもあります。

その後、理子たちは、兄の知らなかったいくつかの事実に触れていくことに。時には怒り、時には笑い、時には溢れる想いが込み上げてくることもあるようで。そんな心穏やかではない4日間が描かれていきます。

とにかくこの兄といったら、やることなすことめちゃくちゃで、他人事として見る分にはとても面白いです。もちろん、自分の家族だったら、きっと誰もが「アウト!」だとは思いますが(苦笑)。理子は何かにつけて兄から金をせびられてきたし、加奈子にもお金の問題で離婚を切り出されたわけですし。ただ、これまでいろいろなダメンズを演じてきたオダギリさんが、そこを絶妙な愛嬌とペーソスを持って演じているので、実にチャーミングです。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

社会人としては、どこまでもダメ男の兄ですが、やはりいろいろな人に愛されてきたようです。いわば人たらし的な要素があったようで、理子の母親も、常に兄のほうを可愛がっており、そこに理子がずっとコンプレックスを感じてきた点も、実に切ない。

理子は兄のことを「憎い」と口に出しつつも、心底憎めないようですし、別れを自分から切り出したという加奈子ですら、今でも夫のことを嫌いになれないでいる。見ていて少しもどかしさを感じつつも、切っても切れない家族という関係性を改めて考えさせられました。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

また、とても困った兄ですが、実は知られざる家族思いの点も、少しずつ垣間見られていくことに。観ている方は、この兄に対して「マイナス」からスタートしているわけなので、小さな「プラス」ポイントでさえ、ぐっと胸に来てしまうのが、まさに中野脚本のマジックかと。決してお涙ちょうだい的なあざといトラップではないのに、気づけば涙腺が緩んでしまいそうです。

身内の突然の死を、どう受け止めたらいいのか?

一口に「家族」と言ってもいろいろな形があります。また、どんなに平和でハッピーな家族においても、多かれ少なかれ、プチ仲違いや、不平不満を感じることもきっとあるのではないかと。でもある意味、家族だからこそ、そんなふうにいろんな感情をかき乱されるし、とても愛おしいと感じられるのかもしれません。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

また、本作は、家族の突然の死に対する向き合い方が、とても丁寧に描かれている作品でもあります。特に、兄、夫を亡くした理子、加奈子だけではなく、兄の子どもたちの心情もきちんと入っている点が、本作の懐の深さかと。そういう意味では、幅広い世代の方に、いろんな気づきを与えてくれそうです。

中野監督は、5年ぶりの最新作について「『面白い映画を作ったので観て!』と、自信を持って言いたくて、脚本から仕上げまで、真摯にこだわり抜いて作り上げました」と自信を持って本作をアピールしていました。また、東京国際映画祭の舞台あいさつでは、オダギリさんも「脚本がとても面白くて素晴らしかった」とべた褒めしていたことも記憶に新しいところです。

確かにそのクオリティーはお墨付きで、映画を観れば大いに納得させられるはず。家族間の会話のキャッチボールも最高です。本作を観たら、遠く離れた家族に会いたくなるかもしれないです。そんな本作を多くの方に観ていただきたいです。

『兄を持ち運べるサイズに』は11月28日(金)より公開中
脚本・監督:中野量太 原作:村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大…ほか
公式HP:culture-pub.jp/ani-movie/

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文/山崎伸子

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