「お水取り」ってどこで何をするの? 行事の内容や見どころ・注意点を紹介【教養としての季節行事】

お水取り(おみずとり)は、奈良の東大寺・二月堂で行われる仏教行事です。2024年で1,273回目を迎える行事で、毎年開催され続けています。「春を告げる行事」として知られる、お水取りの内容や見どころ・注意点を紹介します。<上画像:東大寺二月堂のお松明>

「お水取り」はどんな行事?

春の気配が漂う3月になると、奈良・東大寺では「お水取り」が行われます。どのような行事なのか、詳しく見ていきましょう。

奈良・東大寺の修二会で行われる仏教行事

お水取りは、東大寺の二月堂で行われる「修二会(しゅにえ)」という仏教行事です。開催日は3月1日から14日までと決まっており、752(天平勝宝4)年の初回から一度も途絶えたことがありません。

2024年も例年どおり、3月1日(金)から14日(木)まで行われる予定です。「お水取り=修二会」という認識が広く浸透していますが、お水取りの儀式そのものが行われるのは12日のみです。

12日の深夜になると、「練行衆(れんぎょうしゅう)」と呼ばれる修二会のために選ばれた僧侶が二月堂に足を運び、清水をくんで観音様に捧げます。この儀式にちなみ、東大寺の修二会そのものが「お水取り」と呼ばれるようになりました。

東大寺・二月堂

国家泰平や五穀豊穣などを祈る

修二会の正式名称は、「十一面悔過法要(じゅういちめんけかほうよう)」です。儀式では身を清めた練行衆が二月堂の本尊である「十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)」の前で罪を告白し、国家泰平(こっかたいへい)や五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈ります。

修二会が行われるようになった時代には、天災や疫病・飢饉(ききん)・戦争といった災いは、全て「国の病気」と考えられていました。東大寺の僧侶たちは人々の代わりに全ての罪を懺悔(ざんげ)して、国の病気が取り除かれるよう祈ったのです。

出典:修二会 – 東大寺

お水取り(修二会)の内容

修二会は旧暦の2月1~14日に行われてきた仏教行事で、「2月に修する法会(ほうえ)」という意味があります。現代の修二会でも、僧侶は毎日修行に励み仏に祈りを捧げるのが習わしです。修二会で行われる行法について、詳しく解説します。

毎日「時」と呼ばれる行法を実施

修二会期間中、練行衆は、毎日「時(とき)」と呼ばれる悔過作法(けかさほう)を行います。悔過作法とは、人々の罪を懺悔して世の平和や安全を祈る法要です。

修二会では日中から夜明けまでに、日中(にっちゅう)・日没(にちもつ)・初夜(しょや)・半夜(はんや)・後夜(ごや)・晨朝(じんじょう)という、6回の時があります。時の合間にもさまざまな法要や行事・作法が組み込まれており、練行衆は絶えず仏と向き合って修行を勤めます。

修二会中における練行衆の1日の流れは、以下の通りです。

●正午に食堂(じきどう)にて、長い祈りの後で食事を取る
●二月堂に行き、掃除・準備をする
●日中・日没の時を行う
●例時の間・内陣で、声を出して経典を読む
●二月堂を離れ入浴・休憩
●午後7時に二月堂に行き、初夜・半夜・後夜・晨朝の時を行う
●二月堂を離れ就寝

最後の時が終わって練行衆が二月堂を離れるのは、午前1時から午前4時30分ごろまでの間です。6回の時を実施する間、練行衆は食事はもちろん、水を飲むことさえ許されません。

早朝の二月堂

特定の行法が組み込まれる日も

修二会期間中、1・5・7・12・13・14・15日はその日だけの特別な行法が組み込まれます。お水取りもその一つで、12日のみに行われる儀式です。

12日深夜になると、練行衆は閼伽井屋(あかいや)という建物に足を運びます。建物の中には若狭井(わかさい)という井戸があり、ここで聖水をくみ上げて本尊にお供えするのが習わしです。お水取りが終わると練行衆は二月堂に戻り、時を再開します。

「水をくみ、供える」という習わしは、「二月堂での集会に遅れた若狭国(わかさのくに、現在の福井県南西部)の遠敷明神(おにゅうみょうじん)が、二月堂のほとりに清水を湧かせて観音様に捧げた」という神話に由来するものです。

なお、お水取りの様子は現地で拝観できますが、閼伽井屋の中は非公開のため、練行衆が水をくむ様子は見られません。

出典:
修二会 – 東大寺
用語解説 其の一 – 東大寺
お水取り – 東大寺

お水取り(修二会)の見どころ

東大寺の修二会は、「お松明(おたいまつ)」としても知られています。夜の闇に浮かび上がる炎は美しく、修二会の見どころの一つです。多くの人が訪れるお松明や、修二会の翌日に行われる「達陀帽(だったんぼう)いただかせ」を紹介します。

僧侶たちによる「お松明」

お松明とは、練行衆が二月堂に上がる際に灯される松明です。松明は僧侶を補佐する堂子(どうじ)によって掲げられ、11人いる練行衆一人一人の足元を照らします。ただし12日と14日以外は10人で上堂するため、掲げられる松明は10本です。

制作中の「お松明」

練行衆の上堂が終わると、堂子は松明を振りかざして走ったり、舞台から松明を突き出したりします。激しく燃える炎の美しさや飛び散る火の粉に、歓声を上げる参拝客も少なくありません。

お松明の火の粉には無病息災のご利益があるといわれており、燃えかすを護符(ごふ)代わりにする人もいます。お松明は修二会期間中毎日行われますが、12日のお松明が特に有名です。

12日には、長さ約8m・重さ約60kgの「籠松明(かごたいまつ)」が登場します。松明の本数も11本に増えることから、参拝客は12日が最も多くなる傾向です。

出典:お松明 – 東大寺

お松明

観覧時の服装に注意しよう

お松明は3月の夜に行われるため、厳しい寒さが予想されます。屋外で立ちっぱなしになる可能性も考慮し、寒さ対策をしっかりと行いましょう。裾が広がりにくいパンツと動きやすい靴を選び、手袋をして出かけるのがおすすめです。

また、お松明に行くときは、燃えやすい素材の服は控えましょう。ナイロンなどの化学繊維系の素材は熱に弱い傾向にあるため、火の粉を浴びた際に溶けてしまう可能性も考えられます。

コットンやウールといった天然素材の方が熱が伝わりにくく、多少の火の粉なら燃える心配も少なく済みます。火の粉を髪に触れさせたくない場合は、フード付きの上着や帽子があると安心です。

子ども連れにおすすめ「達陀帽いただかせ」

「達陀帽(だったんぼう)いただかせ」とは、修二会中に練行衆がかぶっていた帽子を、子どもたちにかぶせる行事です。例年では、修二会が終わった3月15日に開催されます。

達陀帽は、修二会のフィナーレ「達陀」という儀式で使われる帽子です。呪力が宿った達陀帽は、子どもの健やかな成長と無病息災が期待できるといわれています。

2024年の達陀帽いただかせは、3月15日(金)午前10時から午後3時ごろまで実施される予定です。参加を希望する際は、公式サイトで詳細を確認しましょう。

出典:子どもの健やかな成長を祈る。だったん帽いただかせ/東大寺 | 奈良市観光協会サイト

お水取り以外の行事もチェック

修二会を行う寺院は、東大寺以外にも多数あります。奈良県内の寺院が行う修二会をピックアップし、2024年の開催情報と併せて紹介します。

長谷寺「だだおし」

長谷寺(神奈川県鎌倉市長谷)

長谷寺の修二会(2月8~14日)最終日に行われるのが、鬼追いの儀式「だだおし」です。正式名称は「追儺会(ついなえ)」で、東大寺のお松明と並ぶ大和の火祭りとして知られています。

だだおしは、暴れ回る鬼を僧侶たちが追い出す儀式です。追われた鬼は男衆(おとこしゅう)と共に大松明を担ぎ、本堂の周りを練り歩きます。大松明は長さ約4.5m・重さ約120kgあり、火の粉が舞い散る様は圧巻です。

2024年の開催は、2月14日(水)の午後4時から午後6時30分までの予定です。詳細については、公式サイトを確認しましょう。

出典:長谷寺の「だだおし」|奈良大和路の花の御寺 総本山 長谷寺

薬師寺「花会式(はなえしき)」

春の薬師寺(奈良県奈良市西ノ京町)

「南都七大寺」の一つに数えられる、薬師寺の修二会です。修二会期間中は、椿・梅・桜・桃・山吹・牡丹・杜若・藤・百合・菊の10種、合計1,696本の造花が本尊にお供えされます。

この習わしは、1107(嘉承2)年に堀河天皇が薬草で染めた造花を供えたことから始まりました。花会式の開催期間は、例年3月25~31日の7日間で、最終日には5匹の鬼を毘沙門天(びしゃもんてん)が追い払う鬼追いの行事も行われます。

2024年も、例年どおり3月25日(月)から31日(日)までの開催となる予定です。興味がある人は、公式サイトで詳細を確認しましょう。

出典:花会式の由来- 奈良薬師寺 公式サイト|Yakushiji Temple Official Web Site

新薬師寺「お松明」

新薬師寺・本堂(奈良県奈良市高畑町)Photo by Dddeco, Wikimedia Commons

「お松明」は、奈良・新薬師寺で行われる修二会です。正式名称は「薬師悔過法要(やくしけかほうよう)」で、例年4月8日の17時頃から開催されます。

お松明が登場するのは、日も落ちた19時です。時間になると長さ約7mの大松明10本・籠松明1本に火が灯され、本堂に入る僧侶たちを先導します。

お松明が開催される4月初旬は、桜が見頃を迎えることも予想されます。松明に照らされた桜と、朱に染まる白壁は美しく、幻想的な雰囲気を味わえるかもしれません。

2024年も4月8日(月)の17時からの開催が予定されていますが、詳細については公式サイトでの確認が必要です。

出典:
新薬師寺 公式ホームページ 年間行事
燃え盛る迫力のおたいまつ(修二会)行事/新薬師寺 | 奈良市観光協会サイト

お水取りは東大寺に伝わる神秘的な行事

一般に、お水取りは1,200年以上にわたって一度も途絶えることなく続いてきた、奈良・東大寺の修二会を指します。聖水を本尊に供える儀式があることから、「お水取り」と呼ばれるようになりました。

お水取りの儀式そのものは見られませんが、夜の「お松明」は観覧可能です。ただし夜は気温が下がる上、火の粉が激しく飛び散る傾向にあります。出かけるときは寒さ及び火の粉対策を念入りに行い、神秘的なお松明を観覧しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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