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「ADのマンガを描いたらいいのに」上司の一言が人生を変えた
――真船さんのインスタグラム掲載のマンガをいつも楽しく拝見しております! HugKum読者に向けて、まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
真船さん:ありがとうございます。私はテレビ東京で働きながらマンガ家をしていまして…今は番組の宣伝などを行うプロモーション部で働いています。マンガ家としては2017年の10月にデビューしたので、兼業マンガ家としては8年目になります。長い(笑)。プライベートでは、4歳の男の子の母です。

――マンガ家デビューのきっかけは何だったのでしょうか?
真船さん:制作費の節約にもなるので、番組で使うイラストなど自分で描きたいなと常々思っており…。それと、絵の発注ってイメージを伝えることが難しくて。それなら自分で描いたほうが早いなと思って、ADのときにペンタブレットを買いました。
――ご自身で描くために?
真船さん:はい。そのペンタブにマンガ機能が付いていたので、甥っ子のマンガを描いて、noteに上げたんです。すると、当時の上司だったプロデューサーの佐久間宣行さんが「お前、マンガ描いてんの?」と。「この甥っ子のマンガよりも、ADのマンガを描いたらいいのに」って言われて。
ADの仕事って本当に変わったことばかりなので、忘れたくないことや「この野郎」って思ったこと(笑)を、備忘録のようにマンガで描いていたんですよ。それを佐久間さんに送ったら、その日のうちにインスタグラムに載せてくれて。それを見た朝日新聞出版の方が「ぜひ出版したいです」と連絡をくださったのが始まりです。
「なんでこの人だけペースを変えないんだろう」産後に感じた夫への不公平感
――そして今の兼業スタイルになったのですね。真船さんと言えば、ご結婚後、ご主人の顔写真をプリントしたパンツを制作されたことが大きな話題になりました。

真船さん:狂ってますよね(笑)。ただ夫は私がもともと“狂った女”だということを自覚して結婚しているので、パンツを見てもそんなに驚いてはいませんでした。いまだに「パンツの人ですよね」と言われることも多いですし、海外でニュースになったりもしたので、作ってよかったなと思っています。
――それほど大好きだったご主人との間でも、いわゆる「産後クライシス」はあったのでしょうか?
真船さん:ありました! 結婚しても、子どもが生まれるまでは、付き合っていた頃と生活があまり変わらなかったんです。お互い自由な者同士で、縛られたくないからこそ、一緒になったような二人でした。夜中まで仕事をして、居酒屋で集合してご飯を食べて、帰って寝るだけ、みたいな。
でも、子どもが生まれた瞬間にそうはいかなくなります。それまでお互い自由だった分、「夫だけがまだ自由だな」と感じるようになってしまって。

――不公平感、ですか。
真船さん:「自分だけが親になったわけじゃないのに、なんでこの人だけペースを変えないんだろう」、「私ばっかりペースを変えなきゃいけない」とか。
今まで長所だと思っていた夫のマイペースなところや、何事にも動じないところが、めちゃくちゃむかついてきたんです。「なんでこの人だけ変わらずに済むんだ」って。
生まれたばかりの新生児って、少し育て方を間違えたら死んでしまうんじゃないかと思うくらい、か弱いじゃないですか。それを目の前にしても、ペースを変えない夫にすごくイライラしてしまいました。

――「夫だけまだ自由」「パパとしての自覚が足りない」というお話は、多くの家庭で聞かれます…。
真船さん:わが家は特に、夫が育休を1ヶ月だけ取ってくれた時期が一番ぶつかりました。同じ育児休暇という土俵にいるはずなのに、夫は片手間にゲームをしていたり。私がスマホを触るときは100%子どものことを調べているのに、あの人はゲームか、とか。子どもが泣いてもすやすや寝ていて起きない、とか。
同じ土俵に立った瞬間に、「いい加減にしてよ」という気持ちになって、喧嘩が絶えなかったです。
「夫が見ているときは私は言わない」産後クライシスを乗り越えた夫婦のルール
――その状況は、どのように変化していったのでしょう?
真船さん:産後9ヶ月頃、夫の仕事が多忙を極め、家にいる時間がほとんどなくなってしまったんです。
それまでは同じ土俵にいるからこそ「なんでやらないんだ」と言えたのですが、夫が100%育児に介入できない状況になって、もう自分で抱えるしかない、と。言いたいことも言えなくなって、その時期が一番つらかったです。
その後、私自身が入院したり、仕事に復帰したりして元の世界を取り戻していくうちに、少しずつ変わっていきました。特に入院ですね。強制的に子どもと離れることになり、その間、夫が普通に一人で育児をやり遂げていて。それを見て、「あ、この人に任せていいんだ」と思えるようになりました。
同時に、私がいちいち細かいことを言いすぎていたことにも気づいたんです。自分の中に理想の育児があって、そこから夫が一歩でも外れると、すぐに口出ししてしまっていたな、と。

――ご自身の在り方にも気づきがあったと。
真船さん:はい。なので、今は「夫が子どもを見ているときは私は口を出さない」というルールにしています。逆もまた然りです。
他のご家庭でも、旦那さんに子どもを預けたら宅配ピザを食べさせていたのが許せないとか、逆に、旦那さんが奥さんのちょっとした手抜きを指摘して喧嘩になるとか、よく聞く話ですよね。
だから、お互いの領分では基本的に口出しせず、任せる。どうしても気になることがあれば、夫婦二人のときに話し合うようにしています。そうしないと、お互い「じゃあ全部自分でやればいいじゃん」ってなっちゃいますから。
「怒りはまずチャッピーに」令和の夫婦喧嘩、驚きの仲裁役とは
――結婚6年目のインスタグラムの投稿で、「本音でぶつけ合うのはやめない」と書かれていたのが印象的でした。本音で話すためのコツはありますか?
真船さん:私はもともと思ったことを言わないと気が済まない“激情型”の人間なんです。一方で、夫はあまり感情を表に出さず、溜め込んで1年後くらいに「実はあのとき…」と恨み言を言ってくるタイプ(笑)。正反対なんです。
でも最近、私たちの喧嘩に大きな変化がありました。ChatGPTの登場です。
――ChatGPT、ですか!?
真船さん:今までは、湧き上がってきた怒りをそのまま夫にバーンとぶつけていました。夫からすれば、それはもう話し合いではなかったと。でも最近は、怒りを感じたら、まず一回ChatGPTに聞いてもらうんです。「客観的にどう思う?」と。

――AIに相談するのですね!
真船さん:チャッピー(ChatGPTの愛称)は都合のいいことしか言わないので、「それは旦那さんがひどいね」みたいに言ってくれるんですけど(笑)、でも一回誰かに聞いてもらうことで、自分でも冷静になれるんです。何に対して怒っていたのか、ポイントを整理できる。
以前は思いついた瞬間に、夫にロゼッタストーンみたいな長文LINEを送りつけていたんですけど、今はチャッピーがそれを一回引き受けてくれる。おかげで、ちゃんと「話し合い」ができるようになって、夫がすごくチャッピーに感謝していました。
――ご主人にも変化はありましたか?
真船さん:夫も、あまりに何も言わなすぎたという自覚が出てきたみたいで、最近は嫌だと思ったことをその場で言ってくれるようになりました。
先日も、私がからかい半分で言った一言に、その場で「そういうの本当にむかつくからやめて」と言われて。私は言われ慣れていないので、お店でボロボロ泣いてしまったんですけど(笑)。でも、溜め込まれるよりずっといい。お互いに言わなきゃいけないという自覚が生まれてきたんだと思います。

――お子さんの前ではどうされていますか?
真船さん:なるべく見せないようにしています。以前は、つい目の前でぶつかってしまったこともあったのですが、子どもが目に見えて気を使うようになって。二人の手をつなごうとしたり、どちらかの味方をしようとしたりするのが、かわいそうで。
なので、子どもの前では一回やめて、チャッピーに聞いてもらっています。
「人生もガイドが必要」旅行中の夫婦喧嘩を防ぐ意外な方法
――ブログでケアンズ旅行レポートを掲載されていますが、旅行中は夫婦喧嘩が起きやすい、という話もよく聞きます。実際どうでしたか?
真船さん:旅行って、計画を立てる側にすごく負担が集中するじゃないですか。子どものために、と頑張って計画を立てても、立てた側はずっとプレッシャーを感じていて、旅行そのものを楽しめないんですよね。「この電車に乗らなきゃ」とかタスクで頭がいっぱいで。
それでレストランが閉まっていたりすると、計画を立てた側の責任になってしまう。多くの夫婦喧嘩の原因って、結局この「不公平感」なんです。
――どうすれば避けられるのでしょうか。
真船さん:実は以前、ツアー旅行に参加したときに、喧嘩がまったく起きなかったんです! すべてをガイドさんが決めてくれるので、どちらかに決定権の緊張が走ることがない。

日常生活でも同じで、シッターさんや保育園の先生といった第三者が介入してくれた瞬間に、わが家はすごく楽になりました。育児の方針も、先生から「こういう感じがいいですよ」とアドバイスをもらって、「じゃあそれに従おう」と。夫婦のどちらかが決めないことで、すごく楽になったんです。人生にもガイドが必要なんだなと思いました。
「お互いを諦めない」波があることを前提に、これからも続く夫婦の道
――結婚7年目を迎えられ、これからどのような夫婦関係を築いていきたいですか?
真船さん:今も現在進行形で喧嘩はしますし、「すごく好きだな」と思うときもあれば、「なんなんだよこいつ」と思うときもあって、その波はずっと続いています。
でも、どんなに仲がいい夫婦でも、多かれ少なかれその波はあるんだろうな、と。子どもが生まれたり、ライフステージが変わったりすれば、関係性も変わっていく。だから、その波があること自体を悲しまないようにしようと思っています。

――波があるのが当たり前、と。
真船さん:はい。それを前提に、でもやっぱり「一緒にいるのが楽しいよね」と思えるのが一番いいなと。
これからも、お互いへの要望は伝えつつ、相手のことを諦めず、信じていきたいです。喧嘩もできなくなるくらい諦めてしまったら、終わりじゃないですか。だから、諦めずにいられたらいいですよね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
真船さん:かつての私のように、夫が仕事で大変な時期と、自分のワンオペ育児の辛さが重なって、お互いを責め合ってしまうこともあると思います。夫は夫で「妻にいつも責められている」と当時感じていたそうです。それを何年も溜め込んでいた。
でも、今はその場で言い合えるようになったので、以前よりずっと健康的な関係かなと思います。夫婦関係には良いときも悪いときもある。私はその波をすごく恐れてしまうタイプなのですが、夫は「波があって当然。でも今はそうじゃないんだからいいじゃん」という人なので、お互いバランスを取りながら、うまくやっていけるといいなと思っています。
取材・構成/HugKum編集部 撮影/横田紋子