東大卒大手企業エンジニア、職を捨ててレゴ®ブロック作品をつくるプロビルダーに。「ダメなら他の仕事を探せばいい」自分を信じた、その結果〈後編〉

東大レゴ部を創設し、レゴブロックで組み立てた作品のダイナミックさ、斬新さで話題となった三井淳平さん。大学院に進み、修了した後は大手鉄鋼会社のエンジニアになりました。しかし、就職して3年で退職し、レゴブロック作品を制作することを仕事にしたのです。超エリートコースを捨てたのはなぜ?「好きなことで生きていく」ために三井さんがしたことは?お子さんの人生や保護者自身の人生を考える際にもとても参考になる、三井さんの職業観・人生観を伺います。

(※Hokusai: Inspiration and Influence at the Museum of Fine Arts, Boston. Ann and Graham Gund Gallery.
ボストン美術館に現代美術作品として展示された三井さんの作品。「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフにレゴブロックで制作)

世界に24人しかいない、しかも世界最年少のレゴ認定プロビルダー

――三井さんはレゴブロックの制作を精力的に行い、東京大学大学院修士1年生のときに世界最年少、日本人でただ1人のレゴ認定プロビルダーに選抜されました。このレゴ認定プロビルダーとは?

三井さんレゴ社が「レゴの名前を使って仕事をすることを認めた人」に与える称号です。レゴのブランド名を用い、さまざまなビジネス展開や活動を行うことができます。レゴ社の社員とか、レゴ社からお金をもらう人ではなくて、自分で事業を展開します。現在、世界に24名のプロビルダーがいます。

私の場合は、「レゴ作品を作ってください」と依頼されて作品を作ったり、レゴブロックを使ったワークショップを開くなど、レゴに関することを仕事にしています。

――レゴ認定プロビルダーになった後、大学院を修了して大手鉄鋼メーカーのエンジニアになられていますね。そこから3年でメーカーをやめた理由は。

三井さん:もともとエンジニアになりたくて、エンジニアとしての専門的な知識を身につけるために大学院に2年通ったわけです。ただ、レゴブロックの作品を作ってほしいという依頼は就職してからも続いていたので、エンジニアをやりながら副業としてレゴブロックの作品づくりもしていました。どちらの仕事も楽しかったのですが、時間的に難しくなりました。

三井さんのスタジオ
三井さんのスタジオ。レゴブロックが色やパーツの種類別に大量に保管されている

「自分にしかできない仕事」をしたくて安定した仕事をやめた

――レゴ認定といっても、レゴから定期的に依頼や賃金が来るわけではなく、レゴブロック作品制作の依頼を取るのは三井さんご本人、つまり事業経営者になるわけですね。安定的に賃金をもらえるエリートサラリーマンの仕事を捨てて、ある意味不安定な事業者になると決めたのは……?

三井さん依頼に保証はなくて、コンスタントに活動を続けていかないと依頼にもつながらないところはたしかに厳しいです。でも、依頼が年に数回だと迷ったかもしれないけれど、常にありましたし、エンジニアをやめても大丈夫だろうと思いました。そして一番のきっかけになったのは、レゴブロックで自分らしい作品を作ることは「自分にしかできない仕事」だと思った、ということです。

自分がやりたいことを体験しない選択はしない、ということ。もしその仕事で食いっぱぐれても、ほかの仕事に就けばいいし、前の仕事に戻ってもいい。自分は英語が得意でしたから、英語を使う仕事をすれば食いぶちには困らないだろう。塾で教える仕事をしてもいい。いろんな仕事の仕方があると考えました。

新卒の大手企業をやめることを「リスク」と考えるのかどうか。長い目で見たときには、一概にはそうは言えないのではないでしょうか。人生で大事なのは、チャレンジできる環境、「1回しかチャンスがない」と思うより「いっぱいチャンスがある」ほうがいいと私は思っています。

阪急梅田駅
2017年に制作した阪急梅田駅の様子

そしてプロビルダーの仕事を選んだのは、この仕事なら自分の視野を広げてくれ、別の景色を見られるからです。作品を作るときには、リサーチにも時間をかけます。たとえば建造物を作るときには、建造物の歴史的な背景をはじめ、素材、構造、作った人やかかった時間、どういう人たちに愛されてきたか……、カルチャーも含めて表現しないといけないと思っています。ですから、リサーチがすごく重要なんですね。そのリサーチをすることが、自分を広げ、深めてくれます。

仕事のモチベーションは人それぞれで、給料を毎月受け取れることが第一義であれば、起業までする必要はないかもしれません。でも、自分は会社を辞めて起業することにしました。ただ、うまくいかなかったときのために、別の道で生きていけるような、何かスキルをもっておくといいですけれどね。 

制作中の三井さん
制作中の三井さん。細かい部分はアシスタントさんに頼むが、このようにスタジオにこもって数百時間をかけて制作することが多い

また、会社員ではないので、制作中はどうしても夜や休日にも仕事をすることが多くなります。けれど、事業主であれば依頼をどう受けるかは自分次第、仕事の量はコントロールできます。それは、小規模でやる強みだと思っています。

レゴブロック作品とアートの関係を研究、37歳にして東京藝術大学大学院に入学

――三井さんは2025年春から、東京藝術大学先端芸術表現専攻(修士課程)で学ばれています。今、あえて東京藝大で学び、アートを研究しよう思われたのは?

三井さん:2023年に、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」という浮世絵作品を立体で制作したいと考え、400時間をかけて作品を完成させ、大阪駅からほど近い阪急三番街「HANKYU BRICK MUSEUM」で展示してもらいました。そうしたら、アメリカのボストン美術館から、「北斎の企画展をするから、レゴ作品をアート作品として展示したい」と依頼をいただいて、実際に本物の北斎の作品の前に飾ってもらったのです。これがきっかけになりました。

レゴブロックをアート作品として作っている感覚はなかったのですが、ボストン美術館という世界に名を馳せる美術館が展示してくれるということで、「レゴブロックの作品がアートになるのだ」と再認識しました。そこで、レゴブロックに限らず、アートそのものを勉強し、「表現とは何か」「アートとしての切り口は」などを自分で咀嚼したいと考えたのです。

東京藝術大学大学院の入学式
東京藝術大学大学院の入学式

もともとアートには興味があり、美術館に行くのも好きですが、東京藝術大学大学院は作家の卵がいる場所、先生方はアートの世界で活躍されています。そういう人たちと交流することでわかること、刺激されることがたくさんあるんじゃないかと思って週2回、通っています。特に先端芸術表現(インターメディア)という専攻においては、表現の素材やコンセプトなどに自由度が高く、「自分の表現」を突き詰めやすいと思っています。自分も、レゴブロックに限定せず、表現する素材や表現の形を自由に探っていきたいと思っています。

レゴブロックの特徴を知るとレゴ制作が楽しくなる!

レゴの大きさを「ポッチ」で理解しよう

――さて、最後に読者のお子さんたちがレゴブロックを楽しむコツを教えていただきたいです。

三井さん:四角いブロックはだいたい8㎜(16分の5インチ)単位になっていて、1×1ブロック(突起がひとつあるもの)の長さをブロックの世界では「1ポッチ」と呼んでいます。2ポッチは8㎜×16㎜で突起が2つ、2×4ブロックは16㎜×24㎜で突起が8個です。高さは横幅より少し長くて1.2ポッチ分。ですから、5個積み上げると6ポッチになります。レゴブロックは種類が多いですが、大きなサイズのデュプロ以外なら、この大きさを頭に入れておくと便利です。

レゴブロックの基本単位
イラスト:米村知倫

レゴブロックで作るものは、再現性が高いのが大きな特徴です。私はよく兄のマネをして作っていました。人が作ったものとまったく同じものを作れますし、組み立てを説明しているものなら、説明書どおりにすれば同じ形を作ることができます。こうしてマネして再現して上手にできることも、とても楽しいことです。これが粘土とか絵画だと、手先の器用さなどがもっと大きく関与してしまいます。レゴブロックは成功体験が多くなるのがいいと思いますね。

パーツの特徴を知って新たな使い方をすると楽しい!

また、「こんなものを作りたい!」と頭の中で考えたものをレゴブロックで表現する、というやりかたもありますが、「目の前のパーツとパーツの組み合わせがおもしろそうだからやってみよう」というのもあります。

たとえば、レゴブロックには車のヘッドライト用の「ヘッドライトパーツ」があります。写真のように、通常の突起のほかに真ん中が空洞になっている突起がついていて、組み合わせることで複雑な形を作ったり、全方向にでっぱりがある形を作ったりできます。

ヘッドライトパーツ
『ブロックでなんでもつくる!ビルダーの頭の中』付録「みんなの研究通信」より抜粋

いろいろな楽しみ方があるので、レゴブロックに親しみ、さまざまな発見をしてもらえるといいですね。

――三井さんは並外れて優秀な人かもしれません。が、その優秀さを自ら切り開いた世界を磨くことに使い、世界を輝かせることを楽しんでいます。「一生懸命に勉強していい大学に入っていい会社に入る」だけが、人生の選択ではありません。自分を信じる土壌をつくっていけば、可能性はどんどん広がっていくことを、三井さんは教えてくれました。

前編はこちら

1歳でレゴ®ブロックを積み、東大にレゴ部を作り、ついに「レゴブロックを仕事」にした三井淳平さん。勉強も好きなこともめいっぱい。いったいどんな子どもだった?〈前編〉 
1歳のとき兄の作ったレゴブロック作品で遊び始めた ――初めてレゴブロックで遊んだのはいつ頃ですか? 三井さん:1歳半くらいです...

お話を聞いたのは

三井淳平さん レゴ認定プロビルダー

1987年生まれ。2005年、灘高等学校3年のときにTV番組の「レゴ®ブロック王選手権」準優勝で注目を浴びる。東京大学在学中、「東大レゴ®部」を創部。2010年、レゴ®ブロックを素材とした作品制作や課外活動における社会貢献が認められ、「東京大学総長賞」を個人受賞。2011年、レゴ®認定プロビルダーに最年少で選出される。2012年東京大学大学院修士課程を修了し、大手鉄鋼メーカーに入社。2015年に退職し、レゴ®作品制作を事業とする三井ブリックスタジオを創業。2023年に作品「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」がボストン美術館に現代アート作品として展示される。20254月より東京藝術大学先端芸術表現専攻(修士課程)にて現代アートを研究中。著書に『ブロックでなんでもつくる!ビルダーの頭の中』(偕成社 1,760円・税込)

三井淳平 偕成社 1,760円(税込)

レゴ®ブロックとの出会いは1歳のとき。学生のころから作品制作と発表を続け、大学では「東大レゴ®部」を創部。そして日本初の「レゴ®認定プロビルダー」に!

設計図なしで、大きなものから小さなものまでなんでもつくっちゃう、ビルダーの頭の中をのぞいてみよう!

「みんなの研究」は、みんなの「知りたい」を応援する、あたらしいノンフィクションのシリーズです。

取材・文・写真(三井さん提供写真を除く)/三輪泉

編集部おすすめ

関連記事