「陰山メソッド」とは「読み書き計算」の「反復学習」
陰山先生:「陰山メソッド」は、「早寝・早起き・朝ごはん」による子どもたちの心身の健全化や、「読み書き計算」の「徹底反復」など、多様な要素で構成されています。
「百ます計算」はすぐれた学習法で、知能が上がり、計算が速くなります。そして、計算と同様に重要なのが、漢字の読み書きです。
ある年、担任していた子どもたちの漢字テストの平均点が90点を超えだすと、社会や理科もテストの点数が急に上がったことに気がつきました。漢字の読み書きの力が高まると、教科書の音読でつまることがなくなり、スムーズにできるようになっていました。音読する力が自学自習の習慣の土台となり、子どもたちは予習するようになっていたのです。
つまり、社会や理科の成績を効率的に上げるには、社会や理科の授業に優先して漢字の読み書きの力を高めることが有効なのです。そして、言語能力の向上をさらに加速させるのが、音読や暗唱なのです。
漢字を伸ばす方法は、「百ます計算」と同じです。
「決められたことを単純な方法で、徹底的に反復する」
「百ます計算」は、同じ問題を2週間集中してくり返すとタイムが半分になります。それは答えを覚えてしまうからです。「百ます計算」は覚える力、暗記力も高度に高めます。完全に覚えたことが瞬時に思い出せる。この瞬時に思い出す能力が思考力の正体なのです。
この原則を応用して、漢字も社会も理科も同じプリントをくり返し読んだり、書いたりして丸暗記してしまう。
やがて子どもたちは、丸暗記した知識情報を組み合わせてアウトプットするようになる。こうして言語力・基礎学力は伸びていくのです。
「陰山メソッド」は、江戸時代の寺子屋教育を追いかけているところがあります。伝統的な寺子屋の学習は、「読み書き計算」であり、それは知能を高める教育なのです。
「読み書き計算」を高度にしておけば、子どもは自分の興味関心を羅針盤にして、伸びていきます。自分のエンジンで、学習を広げることも、高めることも、深めることもできていくのです。

家庭学習では、親子がライバルとなって競うことで、集中力がアップする
陰山先生:いま世の中では、子どもの学力は親の学歴・学力・年収に左右されると言われます。しかし、それについて私は真実味をまったく感じません。そんなことに関係なく伸びる子どもをたくさん見てきたからです。学習方法を変えるだけで、子どもたちは信じられないほど向上するのです。
私が思う学力向上の秘訣は、幼少期からの基礎の習得に尽きます。
幼児教育はよく言われているように、3歳から。やはり読み聞かせが大切です。童謡や歌を歌うのもいいですね。
また、指先を動かす練習は、知能を高めることに有効に機能します。小さい子であれば、折り紙やあやとりをする。「百ます計算」も高速に指を動かします。運筆では指先をコントロールして、正しい線を書く練習をします。これが知能を高めることに大きく寄与します。
そして、家庭教育で大切なのは、集中できる環境を作ること。勉強は集中する練習です。
目標・目的もなく「漢字を5回書いています」「計算が苦手なので、だらだらだけど練習しています」では、成果が上がりません。取り組む時間を意識し、集中してこそ、学習は成果を生むのです。

愛さん:塾の先生として、保護者の方へアドバイスや指導をすることが多いのですが、自分が親としてわが子にどれだけのことができているかと考えると、反省点や課題はたくさんあります。
たとえば、幼稚園の年長になった次女の朝ごはんの準備をしながら、小学3年生になった長女の朝学習を見るとなると、どうしてもバタバタしてしまい、落ち着いた学習空間づくりができません。これはいまでも課題だと思っています。
それでも、毎日積み上げてきたものが長女の力となって、身についてきていると強く感じています。
小学1年生から2年生の漢字の学習を始めようとしたときは、「やってみる?」と聞くと「どっちでもいい」だったのが、いまは3年生の漢字を早く覚えたい!と学習の主体性が出てきました。
2年生の3学期に学校から渡された音読のプリントには、何を読んだか書くところが30個あったのですが、娘はそれを毎日埋めないと気が済まない。学校の教科書だけでは足りないので、父のドリル『陰山メソッド 徹底反復 音読プリント』も自ら始め、1か月で「雨ニモマケズ」(宮沢賢治)、「春望」(杜甫)、「竹取物語」、「坊っちゃん」(夏目漱石)、「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)を暗唱してしまいました。
こういった学習意欲は2年生の秋ごろまでは、あまり見られなかったのですが、「百ますひき算」が2分を切ったあたりから、わが子も変わってきていると感じています。
なかなかうまくいかないと感じている親御さんも、続けていくことで見えてくる世界があります。子ども自身も勉強ができるようになると、もっとやりたくなるもので、そういった未来を信じてコツコツやっていきましょう。

愛さん:家庭学習で子どもが伸びにくいというのには、ライバルがいない環境だからということもあると思います。学校だとライバルがいて、授業中にほかの子が先に手を挙げたとか、ありますよね。
うちの塾に来ている子も、1週間に1回なのにすごく伸びる。それは1週間に1回でも来て、その時間になって、みんなで「よーいドン」をする。そういう環境で学習すると、一定の効果があるのだと思います。
家だとだらけたり、「百ます計算」もこれくらいのタイムでいいや、となったりしがちです。
家庭学習で子どもの集中力を上げるためには、1週間に1回でも親子で競争するのがいちばんです。親はたいへんだと思いますが、「十ます計算」や「百ます計算」を一緒にするのでもよいと思います。
あとは子どもをほめること。ほめるって本当に大事で、子どものテンションがすごく上がります。「百ます計算」は1問で100回の計算をするので、「100問もできたね、すごいね」とほめていただきたいです。
音読は百ます計算と並んで「陰山メソッド」の中核です。音読は脳を活性化させ、優れた文学作品の豊かな表現・語彙を自然に習得できます。大人になっても覚えていてほしい名文を厳選し、文章の難易度別に構成しました。
本書は陰山メソッドの代表作『百ます計算』の入門編です。小学1年生で学習するたし算とひき算を、少しずつレベルを上げながら繰り返し学習することで、くり上がり・くり下がりを完璧に仕上げます。
「百ます計算」は、縦10ます×横10ますの上と左に並んだ0~9の数を、たしたり、ひいたり、かけたりして、交差した「ます」に答えを書いていく学習方法です。時間を計りながら、1問2分以内を目標に高速計算することで、脳の処理能力を高め、集中力を養います。
本書は『百ます計算』をしっかりと学習し、1けたの百ます計算がたし算、ひき算、かけ算のどれでも2分以内でできるようになってから取り組むドリルです。2けたと1けたの百ます計算とエレベーター計算で、筆算力をきたえます。
前編では『百ます計算』の効果的な使い方についてお話しいただきました
中編ではわり算プリント「百わり」についてお話しいただきました
お話を聞いたのは
かげやま・ひでお 1958 年兵庫県生まれ。陰山ラボ代表、「考える子どもを育てる塾」陰山式スコーラ監修。「早寝・早起き・朝ごはん」による子どもたちの心身の健全化、「読み書き計算」の徹底的な反復指導による学力向上を提唱。独自の指導法「隂山メソッド」は常に進化を続け、全国各地の小学校に導入され、大きな成果をあげている。
お話を聞いたのは
かげやま・あい 陰山メソッドを次世代へつなげる役割を担っており、2016 年に陰山式スコーラを開校。現在はオンラインで保護者向けに学習相談やアドバイスも行っている 。 『 陰山メソッド 徹底反復 十ますたし算 』、 同 『十ますひき算』(小学館・2025 年 9 月刊)では中心メンバーとなり製作に携わる。二児の母。
取材・文/細川達司 撮影/杉原賢紀(ともに小学館)