語彙力は「考える力の土台」
語彙力とは、「言葉を理解すること」と「言葉を使って伝えること」、この二つを合わせた力のことです。
たとえば「悲しい」という気持ちひとつをとっても、「切ない」「やるせない」「落胆した」「寂しい」など、いろんな言葉で表現できます。語彙が豊かな子は、自分の気持ちをより正確に言葉にできるので、感情をうまく扱えるようになっていきます。
また、知っている言葉の幅が広いほど、より細かく、より深く考えられるため、語彙力は「考える力の土台」になります。
語彙力が高い子は、学力も高い?
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が行った調査では、小学3年生から高校3年生まで、どの学年でも「語彙力が高いほど教科の成績が高い」という関係が確認されています。
これは国語だけの話ではありません。算数の文章題を読み解く力も、理科の実験の手順を理解する力も、すべての教科の土台に語彙力があります。
語彙を育てるのは親の言葉
アメリカのカンザス大学の研究者が社会経済レベルの異なる家庭の親子を長期間にわたって追跡調査したところ、子どもが4歳になるまでに、家庭によって最大「3000万語」もの言葉の量の差があることがわかりました。そして言葉をたくさん聞いて育った子どもほど、その後の学力も高い傾向にあったのです。
さらに興味深いのは、この差は家庭の経済力とは関係なかったという点です。収入が高くなくても、日常的にたくさん話しかけ、豊かな表現を使っていた家庭の子どもは、学力も高い傾向がありました。つまり、語彙力を育てるのに必要なのはお金でも教材でもなく、毎日の親子の会話なんです。

今日からできる! 言葉を育てるかかわり方
① 目の前の状況を、詳しく言葉にしてあげる
語彙を育てるいちばんシンプルなかかわりは、日常の場面を言葉にして伝えることです。目の前の状況を少し詳しく実況するイメージで話しかけてみてください。
公園で「今日は風が強いね。葉っぱがさらさら揺れてるよ」「雲がもくもく大きくなってきた、雨が降りそうかな」料理中に「にんじんを切るとコリコリって音がするね」「炒め始めたらジュージュー言い出したよ」と実況してみる。こういう何気ない声かけが、語彙の引き出しをどんどん増やしていきます。

感覚を表す言葉も意識してみると効果的です。「ふわふわしているね」「ざらざらしてる」「つるつるだ」「ひんやりする」など、手触り、温度、においや音といった五感で感じることを言葉にしてあげると、子どもは「これはこういう言葉で表すんだ」と自然に覚えていきます。
感情を言葉にするのも、とても大事です。「楽しそうだね」だけでなく、「目がキラキラしてる、わくわくしてるんだね」「ちょっとドキドキしてるね、緊張してるのかな」と、気持ちを丁寧に言葉にして返してあげるだけで、子どもの感情語の幅がぐっと広がります。
「悲しい」「うれしい」に加えて、「もどかしい」「誇らしい」「ほっとした」「照れくさい」といった言葉を親が日常的に使っていると、子どもも自然と身につけていきます。
② 絵本や図鑑で、普段出合えない言葉に触れる
普段の会話では出てこない言葉に自然に出合える絵本の読み聞かせも語彙力を育てます。大切なのは毎日の習慣にすること。
特にお気に入りの絵本は「もう一回!」とリクエストされると思いますが、繰り返し読むことで言葉が定着しやすくなるので、同じ本を何度せがまれてもつきあってあげてください。
読んだあとに「○○ちゃんだったらどうする?」「このあとどうなると思う?」と問いかけてみると、言葉を受け取るだけでなく、使う練習にもなります。
絵本以外にも、図鑑は語彙を育てるツールとしておすすめです。
子どもが興味を持ったジャンルの図鑑を置いておくだけで、「これはなに?」と開くたびに新しい言葉と出合えます。

③ 子どもの「なんで?」を、考えるきっかけに
「なんで?」「どうして?」がたくさん出てくる「なぜなぜ期」は、語彙を育てる絶好のタイミングです。
「なんでだろうね、一緒に調べてみようか」と図鑑を開くだけでも言葉が広がりますし、「知りたい」という気持ちに応えてもらった経験が、言葉で考える力の土台になっていきます。
「どう思う?」と逆に聞き返してみるのもおすすめです。「なんで雨は降ってくるの?」に対して、「なんでだと思う?」と返す。正しい答えでなくても、自分の考えを言葉にする練習が、じわじわと語彙力を育てていきます。
④食卓では子どもの体験を言葉にさせる
「今日保育園どうだった?」「楽しかった」「そっか」で終わりがちな食事中の会話も、語彙を育てるチャンスです。
「今日一番楽しかったことはなに?」「お昼ごはんに何を食べた? どんな味だった?」「お友達と何して遊んだの? どっちが勝った?」と、少し具体的に聞いてみてください。答えを引き出すというより、子どもが自分の体験を言葉にする機会をつくるイメージです。
語彙力の研究でも、家族で食卓を囲みながらする会話の質が、子どもの語彙の豊かさと関係することがわかっています。テレビをつけたまま、スマホを見ながらではなく、一緒に食べながら話す時間が語彙を育てる大切な場になっています。
暮らしのなかでの言葉が、そのまま子どもの語彙につながる
大切なのは「子どもの反応を受け取りながら、言葉を返す」というシンプルなことです。
子どもが何かを指さして「あー!」と言ったとき、「そうだね、ワンワンだね」と返す。「なんか変な音する」と言ったとき、「ほんとだ、ゴーッていってるね。風の音かな」と膨らませてあげる。
そういった小さな積み重ねが、何年後かに子どもの語彙力の土台になっていきます。日常での子どもへの言葉を少し意識してみてください。
参考研究・文献
Hart, B. & Risley, T.R.(1995)Meaningful Differences in the Everyday Experiences of Young American Children(邦訳:『3000万語の格差』明石書店)
東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学び」研究プロジェクト(2014年〜)
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この記事を書いたのは
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news イット!」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務める。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育に携わっている。
