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18年間続けた公立高校教師を辞める決意を固めた
――柏木さんのお子さんは5年生のこはるちゃん、2年生の双子のそらちゃん・ななちゃん、2歳のすずちゃんの4人姉妹ですね。こはるちゃんとそらちゃんは1年生の2学期に不登校になり、こはるちゃんはフリースクールへ、そらちゃんは小学校とフリースクールを半々にして通っていました。そんな中、優作さんは「18年間続けてきた高校教師を辞める!」と宣言……。
優作さん ずっと何年も考えていたことなんです。生徒はひとりひとり能力や個性が違う。教育は、その個々の能力や個性を十分に伸ばすことだと思っています。行動や理解が速い子もいれば、じっくり取り組む子もいるのですが、学校ではどうしても、チャイムで全員一緒に管理するようになってしまいます。うちの子も、それが学校に行きづらい理由のひとつでした。
とはいえ、自分ひとりの力では組織全体を変えることはできません。ずっとモヤモヤしていたのですが、あるとき、「そうだ、教師をやめよう、やめて家族で旅に出よう!」と。一度そのことを考えたら、もうそれが「ゼッタイやるべきこと」に思えてきました。
安定した収入を捨て、住宅ローンはあと20数年、という中での選択です。でも、どんどん考えが固まってきたのです。

――春香さんはそれを聞いて、お子さんを連れていったん実家に帰ったんですよね。
春香さん 主人はもともと公教育に疑問を持っていたので、定年までは勤めないだろうな、とは思っていたんです。少し前に一般社団法人「Future for Kids」を立ちあげて、不登校の子どもや保護者の支援、教育や子育ての講演活動などをしようとしていましたし。ですから、「辞める」と言われたときには、案外すんなり受け入れられました。
ただ、「辞めて家族6人で旅行に行く!」とすぐに準備を始めたので、スピード感についていけなかったんです。でも、彼の行動力は止められない、そこは自分にはないいいところ。とりあえずいったん主人と距離をとって考えたくて、実家に帰りました。
ゆっくり考えたら、「日本一周には憧れがあったし、まして私は2026年いっぱい、いちばん下の子の育休中。その間を使って、子どもたちにまたとない体験をさせてあげるんだ、これは幸せなことだな」と、だんだん思えるようになってきました。

話を聞いたのは2025年の秋。そこから2026年4月の出発までの間、主人は対外的な交渉や、旅全体の企画をすべて担ってくれました。ハイエースを買って、車中泊ができるように整えることもやっていました。私のほうは、ただの家族旅行で終わらせたくないと思い、オリジナルの「旅ノート」を作成するなどの準備をしました。
我が家の旅は観光じゃない。人と出会い、心を震わせ体験し考える旅
――それにしても、なぜ8カ月間、日本一周の旅をするのでしょうか
優作さん 世の中には、いろんな生き方とか面白い考え方をしている大人や子どもがたくさんいる。けれど、学校だとひとりの先生がそのクラスに影響力を持って、いい意味でも悪い意味でも、その先生の価値観や言葉がしみついていく。
子どもたちは、いろんな価値観を持って、生きることに目を輝かせている人たちに出会うべきだ、それが=旅だ、って思ったんです。だから、旅っていっても、観光をするために行くのではありません。その地域の人に、気候に自然に、出会いに行くんです。
いちばん下の娘の出産時に妻と一緒に自分も育休を取っていたのですが、その間、全国の方々と連絡をとって、「生きた学びができるような事業をする社団法人を」と、準備をしていたんです。そうやって知り合った方々の中には、「時間があったら来てくださいよ、うちに泊まってよ」って言ってくださる方がたくさんいました。まずは、自分たちの子どもに面白い人たちとの出会いを体験する学びを授けたいって、そんな気持ちかな。
旅に出て学校を休むのはイヤ。そう言っていた子どもたちも変わってきた
――上3人のお子さんたちは4月から12月まで、学校やフリースクールを休むわけですよね。旅については、どんな反応でしたか?
春香さん 子どもたちは、最初は「いやや、友達と会えないってことやろ?」って。長女や次女だって、学校には行きにくくてもフリースクールの人間関係もある。まして毎日小学校に通うのが楽しいと思っている三女のことは、懸念材料でした。「旅に長いこと行ったあと、私は小学校に行くのがつらい」って言う。あたりまえですよね。彼女の気持ちは大事にしなければ、と。
でも、とにかく夫はどんどん準備をすすめて、あちこちで楽しそうな出会いの約束をしているんです。私もそれにワクワクして、「いいね、それすごく行きたい!」って話題が増える。子どもたちにも、「〇〇県のこういう地域でこんなことするよ!」と話すと、「めっちゃ行きたい!」ってなっていって。日が近づくにつれて、全員がワクワク気分で出発を待つようになりました。

学校にもしっかりと説明し、途中に戻ってきたときも受け入れてもらう
優作さん もちろん、勝手に学校を休むのではなくて、小学校にもフリースクールにも、資料を携えてしっかりと数回、相談に行きました。旅による学習効果も論理的に説明しました。
春香さん 基礎学力を担保するために、計算ドリルや漢字ドリル、タブレットを持って行くことも伝えました。こうした学習にプラスして、「旅育」をし、その学びを実感とともに自らの振り返りにするためにも、「旅ノート」を書き、全員で話し合うことを学びとすることも話しました。「学習の担保をします」と具体的に説明したこともあって、学校も理解してくれて。子どもたちが戻りやすくなるよう、協力的になってくれました。
優作さん この旅では、子どもたちが疲弊しないように、3週間旅したら1週間は自宅に戻り、一息ついてからまた行く、という形を取っています。家に戻る1週間は学校やフリースクールに行くのですが、そんな短い間でも、温かく迎えていただいていて、ありがたいです。
長女は学校には行っていないけれど、夕方、学校の子たちと外で遊ぶんですが、Instagramで旅の様子をアップしているのをクラス担任の先生も教室で紹介してくれているようで、「こはるちゃん、学校で有名人だよ」なんて言われたみたいです(笑)。
――旅の様子はInstagramに上がっていて、みなさんの楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
日本全体を6エリアに分けて、地図を見ながら「この季節はこのエリアがよさそう」みたいにザクッと考えて分けています。そして、その地域のお知り合いの方に連絡をとって、ありがたく泊めてもらうことが多いです。そういうのが8割、車中泊が1割、お寺にも泊まらせていただきますね。各地域で出会う方々は、おおらかで刺激的な方々ばかりです。

小学校教諭の母親が作成した「旅ノート」で出会いの学びを記録
――学校に行かずに旅している間、お子さんたちの学習状況は……。
優作さん 学びの種まきというか、子どもが出会って感じて発言したことを学びにつなげていくのがよいと思っていまして。すぐに答えを与えるのではなくて、その状況で家族みんなで考えて、みんなで学ぶという感じでやっています。
春香さん 私が作った「旅ノート」への記入はこまめにやっています。出会った方にインタビューしてその内容を書いたり、方言とかご当地グルメとか、その土地の特徴を記録させたり。また、出会った方とのお話から自分のことも振り返り、「自分のどこがウィークポイントか」「どこを伸ばしたら自分のことが好きになれるか」なども深掘りさせて、ノートを見ながら会話しています。


――毎日が色濃い総合学習、まさに「旅育」ですね!
春香さん 小学校教諭なので、6年間の学習指導要領は頭に入っています。たとえば、2年生の双子は、今ごろだったら学校でちょうど時計をやっている時期なので、「あと〇分で次の目的地に着くよ」など、時計を意識させるようなこともやっています。生活の必要性の中で学ぶととても定着します。

用意した計算や漢字などの学習教材、タブレットも使っていますよ。時間割を決めるのではなくて、「今日はどれからやりたい?」と子どもたちの意思を尊重します。寝転がってやったり、格好も自由ですが、内容は理解できていると思います。そういう中で、我が子の学習を保障しています。
優作さん 旅での子どもたちのケアと学習は妻、僕のほうはなんせ行動力(笑)。都道府県で人とのつながりをどんどん作っていって、提供しています。そんな中で、明らかに子どもたちは変わっていきました。人に慣れるスピードが格段に速くなったし、堂々と自分の意見を言えるようになっています。三女も途中の1週間、自然に学校に行けています。受け入れてくれる先生方にも感謝です。
春香さん とにかく、出会う方々に学ばせてもらっていますね。旅の途中、私の体調に配慮してくださり、知り合ったママさんが子どもたちを銭湯に連れて行ってくれたことがあったんです。そうしたら、体の洗い方やお湯の使い方、髪の乾かし方、いろいろ私とその方とではやり方が違ったようなんですね。子どもたちが説明してくれました。
子どもたちは母親って言ったら私しか知りません。でもその方と触れ合って、「親にこうしなさいって言われていたことも、ほかの方法もあるんだ」と。そして、「母にもいろいろおる」って実感として知ることができる。多様な価値観に直に触れられたんですね。「多様性を大事に」などと言葉で言うだけでなく、実感として心にしみる、それが「旅育」の神髄かなと思います。また、子どもたちだけでなく、親である自分たちも、自分たちの「あたりまえ」をもう一度見直すこともできる。「旅育」は、大人にも学びがたくさんあります。
夫の収入はなくなったけれど、お金にかえられない財産を貯めている!
――学校を休んで、優作さんはお仕事を辞めて、ご家族の状況はずいぶん変わりました。
優作さん ホント、そうです。仕事やめて収入もなくなって、僕が一番手がかかる。4人姉妹じゃなくて、夢いっぱいの長男を含めて5人を育てているみたいなもので、妻はすごいと思います。旅先の更衣室もない温泉で、服は着ているもののおじいさんと一緒に入浴もしました(笑)。強いと思います、この人だから、できていることだと思う。

春香さん でも、自分でも驚きなのが、ぜんぜん不安とかないんです。ハイエースも買ったし、お金ないんですよ。でもそれもむしろ面白いかなっていう域になってきました(笑)。お金はなんとでもなる、今はお金にかえられない財産を、家族みんなでたくさん貯めている。今後の家族のありかたも考える、本当にいい機会です。大事に残りの旅を続けます!
――お子さんの不登校をきっかけに、「旅育」のすばらしさを実感した夫妻。私たちもそのエッセンスをしっかり味わいたいですね。長期の休みには、地域の人たちとの濃い出会いを目的に、日本のあちこちを旅してはいかがでしょうか。
お話を聞いたのは
広島大学教育学部を卒業し、優作さんは高校教諭に、春香さんは小学校教諭に就任。2013年に結婚し、現在5年生のこはるちゃん、2年生の双子のそらちゃん・ななちゃん、2歳のすずちゃんの4人姉妹の親に。春香さんは現在育休中。こはるちゃん、そらちゃんの不登校を経て悩んだ末、優作さんは18年続けた高校教諭を2026年春に退職。2025年から準備してきた親子6人の「旅育」を2026年4月から12月までの予定で継続中。優作さんは一般社団法人Future for Kidsを2023年に設立。不登校の子や保護者を支援したり、子育て・教育の講演をしたりするなど新たな教育の道を歩み始めている。
旅の様子はInstagram
この記事を書いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)