「算数の偏差値+10で生涯賃金が18%上がる」スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える家庭でできる「算数力」を伸ばすコツ

苦手意識を持つ子どもも多い「算数」。算数の力をつけるにはどうすればよいのでしょうか。

本記事では『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える 子どもの算数力の育て方』の著者・星友啓先生に取材。算数嫌いになる理由から、ドリルの効果的な使い方、日常生活でできる「算数的体験」、親の関わり方まで、子どもの算数力を伸ばすためのヒントを伺いました。

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長も、小学生の頃は「算数が得意な子」ではなかった

――星先生は、子どもの頃から算数が得意だったのでしょうか?

星先生: いえ、全然そんなことはないんです。小学生の頃の成績はほとんど真ん中くらい。3段階評価なら「2」が多くて、算数が特に得意だったわけでもありません。

――いつ頃から得意になったのですか?

星先生: 中学2年生くらいから、ほかの教科も含めて急に成績が上がりました。はっきりしたきっかけは、自分でもわからないんです。

ただ、振り返ってみると、数字に触れる機会は小さい頃からたくさんありました。 僕の実家は花屋で、お金の受け渡しや計算を身近で見たり、物の数を数えたり。数字を実際に使うような体験は、日常の中でかなりしていたんだと思います。

AI時代だからこそ「算数力」が必要になる

――今はAIに聞けば、計算も問題の解き方も教えてくれる時代です。それでも算数力は必要なのでしょうか?

星先生: たとえば800円のものを買って1,000円を出したとき、「おつりはいくら?」とAIに聞けば答えてくれます。でも、そんな簡単な計算までいちいち聞いていたら大変ですよね。

もっと大事なのは、AIを使うためにも算数力が必要だということです。

目の前で起きていることを見て、「これは数を使えば考えられそう」「図形で考えたらわかりそう」と捉える。人間が現実の中から算数的な要素を見つけ出せなければ、そもそもAIに何を聞けばいいのかもわかりません。

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星 友啓(ほし・ともひろ)さん 

算数の成績の偏差値が上がると、生涯賃金が上がる

――算数力は、受験を乗り切るためのものではないということですね。

星先生: 算数力は、その後の人生にも関わってくる力なんです。実際、算数の成績の偏差値が10上がると、平均で生涯賃金が18%上がるという相関を示した研究もあります。もちろん、算数の成績を上げれば必ず収入が増えるという因果関係ではありません。

算数や数学は、前に学んだことを土台にして、その先の学びへと進んでいく「積み重ねの教科」です。 四則演算から始まり、その先にはより高度な数学がある。小さい頃に身につけた算数力が、その後の学びを支えていくんです。さらに現代は、数字やデータを使って客観的に物事を捉える力が求められています

算数嫌いになる3つの理由とは? つまずいたときは「ひとつ前」に戻ってみる

――算数は「嫌い」「苦手」という子も少なくありません。なぜ算数嫌いになってしまうのでしょうか?

星先生: 理由は大きく分けて、「基礎スキルのつまずき」「遺伝」「周りからのメッセージ」の3つがあるとされています。

まず「基礎スキルのつまずき」は、できるだけ早く気づいて解消してあげることが大切です。

――すでにつまずいている場合はどうしたらいいのでしょうか?

星先生: どこでつまずいたのかを確認して、ひとつ前まで戻ってあげることです。

たとえば掛け算がうまくできないなら、その前の足し算に戻ってみる。掛け算も最初は「2+2+2=6だから、2×3=6」というように、足し算をもとに理解しますよね。苦手な問題を繰り返すより、土台まで戻ったほうが、どこでわからなくなったのかが見えてきます。

――つまずき始めていることに、親が気づくポイントはありますか?

星先生: テストの点数より、「どこを間違えたのか」を見ることです。

たとえば90点でも、間違えた1問が以前にも間違えたのと同じタイプなら、そこを理解できていない可能性があります。うっかりミスなのか、同じところで繰り返し間違えているのか。点数がよくても、後者ならつまずきのサインです。

特につまずきやすいのは「引き算」と「桁」

――特につまずきやすいところがあれば教えてください。

星先生: ひとつは、足し算から引き算に変わるところです。足し算は、そこにあるものが増えるので目で見てもわかりやすい。でも、引き算には「消える」という考え方が入ってきます。

絵を見ながら「3つ消えるよ」と言われても、子どもからしたら「でも、絵にはまだ描いてあるじゃん」と(笑)。そこで戸惑う子もいるんです。

さらに、よくつまずくのが「桁」です。0.1と0.01では、同じ「1」でも置かれている場所によって表す量が違います。

こうしたときに必要なのが「視点の転換」同じものでも、状況によって見方を変える力です。

――「視点の転換」は、どうすれば身につくのでしょう?

星先生: これは算数の問題を解くだけで身につくものではありません。

たとえば小さい頃に、いろいろなものが描かれた絵を見ながら「何が見える?」と話してみる。「人の顔がある」「猫もいる」と、ひとつの絵から違うものに目を向けられるのも視点の転換です。いろいろな見方に触れる経験を重ねることが、後々の算数力にもつながっていくんです。

「算数嫌いは遺伝する」は忘れていい

――算数嫌いになる理由の2つ目に「遺伝」を挙げられていましたが、やはり遺伝も関係するのでしょうか?

星先生: 算数嫌いについては、個人差のおよそ40%が遺伝的な要因で説明できるという研究結果があります。でも、遺伝については変えようがないので、そこは忘れてしまっていいと思います。

むしろ気をつけたいのは、親が算数を苦手としている場合も、得意な場合も、それを子どもに結びつけてしまうことです。

たとえば、お父さんが得意な場合「お父さんはすごくできたから、あなたもできるよね」と言われたら、子どもにとってはプレッシャーになりますよね。反対に、「お父さんも苦手だったから、あなたも仕方ないよ」と言われれば、「じゃあ自分もできなくて当然」「頑張ってもできないんだ」と思ってしまうかもしれません。

親の何気ないひと言が「算数嫌い」につながることも

――それが、3つ目の理由に挙げられていた「周りからのメッセージ」にもつながるのでしょうか?

星先生: そうです。いちばん避けたいのは、「あなたはこういう人だから、もう変わらない」という固定マインドセットを植え付けてしまうことです。

たとえば、「うちは文系家系だから」という言葉を聞いた子どもが「じゃあ仕方ない」と受け止めてしまうと、本当は頑張ればできることまで、やらなくなってしまいます。

大切なのは、「できる・できないは決まっている」と思わせるのではなく、「やれば、ある程度できるようになる」という成長マインドセットを育てること。 親の何気ないひと言が、子どもが算数に向かう姿勢を左右することもあるんです。

ドリルは「何ページやったか」より、使い方が大切

――では実際に、家庭で算数力を伸ばすには、やはりドリルをたくさん解くことが大切ですか?

星先生: ドリルも大切ですが、「何ページやったか」が目的にならないようにしたいですね。同じ種類の問題を続けていると、だんだん頭を使わなくても解けるようになります。

それでも5ページ終われば、親も子どもも「今日は5ページやった!」と達成感がある。でも、5ページやったことと、理解が深まったことは同じではありません。

星先生:ポイントは、「理解フェーズ」と「練習フェーズ」を分けることです。

たとえば、新しい内容を学び始めたばかりなら、同じテーマの問題を繰り返して理解する。でも、ある程度わかってきたら、ほかのテーマの問題を混ぜてみる。すると、「この問題には、どの考え方を使えばいい?」と自分で判断しなければなりません。その判断ができるかどうかで、本当に身についているかがわかります。

買い物や遊び、プログラミングも! 日常でできる「算数的体験」

――ドリル以外に、家庭で算数力を伸ばすためにできることはありますか?

星先生: たくさんあります。算数を深く理解するには、数式だけではなく、言葉や図、実際の体験などと結びつけて考えることが大切なんです。

たとえば三角形の面積なら、「底辺×高さ÷2」という公式を覚えるだけではなく、図を見ながら「なぜ÷2になるのか」を言葉でも説明できる。こうして数式とほかのものがつながることで、理解が深まります。

――家庭では、具体的にどんな体験をするといいのでしょう?

星先生: 未就学児から小学校低学年くらいまでは、まず数字を実際に使う体験をたくさんしてほしいですね。

買い物をしながら値段やおつりを考えたり、カードゲームで数を足したり引いたりする。僕自身も最初にお話ししたように、実家が花屋だったので、生活の中でお金や数に触れる機会がたくさんありました。

小学校中学年くらいからは、図形や空間に関わる体験も増やしていくといいですね。ブロックで遊んだり、公園で体を動かしたり、地図を描いてみたり。「上から見たらどう見える?」と考えることも、空間を捉える力につながります。

それから、プログラミングもおすすめです。 算数的な考え方を実際に使う、とてもいい体験なんです。

――プログラミングのどんなところが、算数力につながるのでしょうか?

星先生: プログラミングでは、まず問題を小さく「分解」する。そこから「パターン」を見つけて、どういう手順で進めればいいかという「アルゴリズム」を考え、必要な部分を取り出して「抽象化」する。こうした考え方は、算数や数学とすごく近いんです。

自分で考えた通りにキャラクターを動かしたり、ゲームを作ったりと、楽しみながら取り組めるのもいいところです。ただ、「この命令をいくつ覚えた」「ここまでできるようになった」と、覚えること自体が目的になってしまったら、結局ドリルと同じです。

何を覚えたかより、自分で考えて試しながら「楽しい」「もっとやりたい」と思えること。 そんな体験として取り入れてみてください。

算数以外の経験も大切。「心の三大欲求」とは?

――算数とは直接関係のない体験も、算数力につながるのでしょうか?

星先生: つながります。たとえば、先ほどお話しした「視点の転換」は、人と話したり、本を読んだり、いろいろな遊びを経験したりする中でも育っていきます。算数以外の教科で学んだことが、算数の問題を考えるヒントになることもあります。

それに、学力のような「認知能力」と、粘り強さや人との関わり方などの「非認知能力」は、まったく別々に育つものではありません。子どもが力を発揮するには、心の状態もすごく大事なんです。

人には、「人とつながっていたい」「自分はできると感じたい」「自分の意思で動きたい」という“心の三大欲求”があります。

勉強の時間を増やそうと、遊びや人と関わる時間まで削ってしまえば、こうした欲求が満たされにくくなることもあります。算数だけを切り離して考えるのではなく、いろいろな経験ができて、安心して学べる環境をつくる。実はそれも、算数力を育てることにつながっているんです。

親はどこまで関わる? まずは「待つ」ことから

――ここまでのお話を聞くと、親の関わりも大切だと感じます。いつ頃まで、1対1でしっかり見たほうがいいのでしょうか?

星先生: 個々の成長にもよるので「何歳まで」と一律に言うのは難しいですが、小さいうちは1対1で関わる時間も必要です。そこから成長に合わせて、徐々に本人に任せていけばいいんです。

親がずっと横について教えるのではなく、子どもが自分で学べるようになるためにサポートする。年齢が上がるにつれて、少しずつ子ども自身に学ぶ責任を渡していくイメージです。

関わり方のカギは「待つ→聞く→ヒントを出す→一緒に解く

――子どもが問題につまずいていたら、どう関わればいいのでしょう?

星先生: まずは、すぐに教えずに「待つ」。子どもが自分で考える時間をつくります。

それでもわからなければ、「どこまでわかっている?」「どこがわからない?」と聞いてみる。次にヒントを出す。それでも難しければ、最後に一緒に解く。

「待つ→聞く→ヒントを出す→一緒に解く」という順番です。最初から答えや解き方を教えてしまわず、子どもが自分で考える余地を残してあげてください。

――最後に、子どもの算数力を伸ばしたいと考えている保護者に、メッセージをお願いします。

星先生: 「なぜ、子どもに算数力をつけてほしいと思っているんだろう?」と、考えたことはありますか。子どものためを思って、という気持ちは、どの親御さんにも共通するものだと思います。

受験で希望する学校に合格してほしい、算数を好きになってほしい、将来の選択肢を広げてほしい……。その先に何を望んでいるのか、今一度考えてみてほしいんです。 そこが、その子に合った算数との向き合い方を見つける出発点になると思います。

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お話を伺ったのは

星 友啓(ほし・ともひろ) スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長、哲学博士、EdTechコンサルタント

1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。TexasA&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士課程修了。同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクールスタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)、『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)など。

この記事を書いたのは

篠原亜由美 ライター

法学部卒業後、通信教育などを手がける教育業界の企業に勤務し、その後ライターとして、女性誌や複数のWeb媒体で、暮らしや子育てを中心としたライフスタイル分野で取材・執筆を行っている。2児の母で、子どもはすでに成人しており、中学受験や大学受験を経験。実体験をもとに、同世代の女性に寄り添えるような記事を心がけている。

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