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思春期は「親離れと依存との間」で感情が揺れ動く
――小学校中学年くらいから体の変化が始まると、心にも思春期ならではの変化が訪れるといいます。実際にはどんな変化がありますか?
リズ先生 思春期には、徐々に「自立しないといけない」という気持ちが芽生えて、親との距離を取りたがります。でも完全に成長しているわけではないから、不安や自信のなさもたくさん抱えて、親からの自立と依存の間で揺れ動きます。気分の浮き沈みが激しくなって、ストレスもいっぱいです。
イライラを激しい言葉でぶつけたり、時には暴力をふるったり。逆に押し黙って一言も話さなくなり、部屋にこもってしまう子もいます。
――これまで、「ママ、パパ」と甘えてきたり、うるさいくらいに何でも話してくれたのにと、親も寂しい気持ちになりますし、売り言葉に買い言葉で激しい口論になることもあるといいますね。
リズ先生 この後、思春期は中学生くらいになっても続きます。この頃には友達がとても重要になって、友達やクラスの子たちにどう思われているのかすごく気になるし、「自分って何者?」というアイデンティティについての問いも生まれます。それがごく普通の成長なんですよね。
でも、小学校中高学年から中学にかけては、こうした心の変化が起立性調節障害や精神的な病気などにつながることもありますし、不登校の引き金にも。高校生くらいになると、徐々に落ち着いてきて、自分の将来について考えるようになりますが、環境とか社会構造の中で、また個性もあって発達については個人差が大きいです。心配ならいつでも小児科に相談してほしいと思います。

小児科では「親子別々に話を聞いて調整する」やり方がいい
――小学校も中学年や高学年になると、小児科に行く機会が減って、小児科に行きにくくなります。とくに中学生になってしまうと内科に行くか、不登校などなら心療内科や精神科に行くこともありますね。
リズ先生 不登校や起立性調節障害などの場合は、学校の様子と家の様子の情報交換をするなど、学校ともしっかりと連携してほしいですね。学校で医療機関を紹介してくれることもあります。また、大きい病院だと、小児科の中に思春期科があるところも多いです。
「病院へ」と親が言ったら、すぐに拒否することもあります。でも、私は帰国してから思春期を専門に診ているんですけれど、安全と安心な場所をつくってあげると遠慮なしに話してくれることは多いですよ。小児科医の中には「思春期の子と話すのが難しい」という人もいますけれど、小さい子より語彙も多いですし(笑)、脳も働いているし、私は思春期の患者さんは診察しやすいと思っています。
当センターは、小児医療や成育に関する高度な研究と医療サービスを提供する機関です。思春期のお子さんの対応についても専門性が高いので、他の医療機関に向けて、コミュニケーションの仕方の教材を作っているところです。
――リズ先生は、実際にどのように診察するのですか?
リズ先生 保護者の方には待合室で待ってもらって、最初は私と1対1でお話しします。「あなたの今日の目標は? 今日はどんな喜びがあったらいい?」 楽しい話題からスタートして、そして受診した理由をそのあと聞きます。「あなた自身は何か心配なこと、ある?」保護者の方が言っていることと実際の診察とが、ずれていることもあります。
ひととおり聞いたら、「今日話したことの内容を保護者の方に伝えていいですか?」と聞きます。どこまで話すかは、本人の意思に沿います。
保護者の方に入ってきてもらって、「お子さんはこういうことを考えています。保護者の方の目標はこれです」とお伝えします。
大事なのは、お子さんにとって話しやすい環境、そしてお子さんのプライバシーをどう守るか。その上で、心理的安全性を保ちながら、信頼できる大人が介入し、お子さんの思いを客観的に保護者に伝えていきます。
小児科は中高生でも受診していい。「思春期外来」のあるところも
――小児科って、何歳まで受診をしていいのでしょうか?
リズ先生 小児科によっても違うかもしれませんが、みなさん0~15歳くらいと思っているかもしれませんね。中学生から高校生くらいで内科に移行することが多いかもしれません。内科への移行も大切なのですが、国立成育医療研究センターでは、初診で思春期である18歳まで診ていこうという考えです。
――18歳、もう大人ですよね?
リズ先生 現代社会では18歳になったから独立自立できると考えられ、日本でも18歳は法律上大人です。でも、研究の中では18歳から20歳代に入る時期は進学、就職などの大きな変化があり、メンタルヘルスを崩し、孤独感を感じての薬物依存、自殺などの問題が次々に現れてくる。この世代を支援しないといけないと、世界的に有名な医療ジャーナルにも論文が発表されています。
ーー小児科によって、診る年齢に少し差があるようですが、リズ先生がおっしゃるように、18歳以上も診てくれる小児科が増えてくれるといいですね。
食卓で「今日楽しかったこと」を親子で報告し合う
――親としては、思春期にさしかかった子どもに、どんなコミュニケーションをとればいいでしょうか。口を閉ざしてしまったり、「うるせぇ!」みたいな怒りをぶつけられるのでは、なかなか話合いも難しそうです。
リズ先生 子育てって、めちゃくちゃ大変ですよね。私も2人の息子を育ててきて、みなさんの大変さはよくわかります。仕事を持っている人はそのストレスもあるし、ちょうど更年期にさしかかって、自分の健康状態にも不安がありますよね。現代社会のなかでいろいろなストレス、プレッシャーを抱えている親御さんが、子育てにできるだけ楽しく取り組めるようにするのも、小児科医や家庭医の務めだと思っています。
そんな中で大事にしていただきたいのは、前編の「体」のほうでもお伝えしたのと同じで、「0歳児から毎日の語りかけを大事にしていきましょう」ということなんです。自分の感情や心、体のことを言語化するコミュニケーションづくり、ですね。
毎日の食卓で、今日どんな楽しいことがあったのかを、親も子どもも話していきます。大きくなると「ない」って言って黙ったりしますが、まずは大人が「こんなことあったよ」という話をします。自分が失敗したことを笑い話のタネにしたり、結局何とかなった、みたいな話でもいいです。本人があまり話さなくても、大人は話してください。ちょっとした反応が返ってくるだけでもいいと思います。「バカじゃねえの?」などと言うかもしれません(笑)。大人を乗り越えたいというのが、思春期のときの感情ですからね。そう思って対処してもらえればいいと思います。
部屋に入って出てこないときには、「出てこないんだからしかたがない」ではなくて、「ひとりぼっちの時間がほしいのね、それはわかるよ。でも30分後の夕食のときには食卓についてね。この家にいる限り、食事のルールを守ってね」って。
そして、食事中は、だれも携帯を持たない。15分間でもいいから夕食を一緒にする、そしてさっきお伝えしたような「楽しいこと」の会話をします。

反抗する子どもを叱ってばかりだと「いつも親は怒っているからキライ」
リズ先生 振り返ってみると、子どもと話すときに、怒り口調にばかりなっていませんか? 小さい頃はそれでも親を慕ってくるけれど、思春期にさしかかると「お母さん、大嫌い。怒られてばかりだから」って。私にはそう打ち明けてくる子もいます。
日本の若い人たちを診療の場でみていると、教育に対するプレッシャーが厳しいな、と言う感想を持ちます。いい悪いは別として、不登校の子が増えて一般の学校に行きにくい子が出てきたことで、オンラインの学習やフリースクールなども増えてきました。多様性のある社会が求められていると思います。
中学生のいじめのケースなどを見ても、いじめの裏側に「みんな一緒じゃないといけない」という感覚があるようにも思えます。特性のある子や障害のある子、LGBTQの子などに対しても多様性があるのが当然という環境が必要だと思います。「いじめがあるのが当然」と受け止めているのもおかしいと思っています。
0歳の頃から毎日3つ褒め、「感情のコントロールができる方法」を持っておく
――本当は思春期に入っても、子どもたちは信頼できる大人に自分の不安な気持ちなどを話したいのですね。
リズ先生 そうです。子どもたちがいつでも大人に話しかけられる状況をつくるには、前編で思春期の「体」についてお話ししたのと同様に、0歳の頃からのコミュニケーションが大事です。
ほんの小さい頃から、毎日お子さんがすることを3つ褒めてあげましょう。例えば、子どもが食事の後、自分の皿をシンクに持って行ったら褒めてあげる。小さなことでもいいんです。見つけて褒める習慣をつけたら、親子の関係も変わります。
感情の調節についても、怒っているとき、泣いているときに、小さい頃から「どこか痛いところがあるの?」「寂しいの?」「残念なのかな?」と聞いて、自分の感情を言語化できるようにしておくといいです。
また、怒っているときに「いつもこの呼吸法を用いる」「お気に入りのぬいぐるみを抱く」「お気に入りの音楽を聴く」「冷たい水で顔を洗う」など、その子なりに感情調節ができる方法をいくつももっておくといいですね。小さい頃から積み重ねをすると、思春期には習慣づいているかもしれません。子どもにいろんなツールボックスを与えてパッと出せるようにしておくといいですよね。
――思春期に直面してからあたふたするより、前もって豊かなコミュニケーションをとっておきたいもの。そして思春期こそ、大人になるための大事な期間なのだということを、保護者も認識して、子どもと今から自然に話し合える環境づくりをしていくといいですね。
前編はこちら
お話を聞いたのは
アメリカ人の父と日本人の母のもと神戸に生まれ、ハーバード大学で医学、大学院で人類学を学び、学校医に。長くアメリカを拠点に研究者・医師として活動し、ピッツバーグ大学小児科・公衆衛生学名誉教授。2011~2023年、思春期・若年成人医療部長。国立成育医療研究センターでは、24歳までのAYA世代を含む思春期臨床の必要性を提言。また女性の健康をトータルに相談できる女性の健康総合センター開設に向けて尽力している。
お話を聞いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)
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