昔と比べて小学生の睡眠時間は短くなっている?
最近ではスマートホンの存在が、子どもの睡眠を妨げているという印象があります。テレビと違ってスマートホンはベッドに直接持ち込めますから、それこそ親の目の届かない場所で、子どもが夜更かしできてしまう環境がそろっています。
ただ、スマートホンが子どもの睡眠を妨げているという印象は、あくまでも主観にすぎません。実際に今の子どもたちは、一昔、あるいは大昔と比べて、睡眠時間が短くなっているのでしょうか。
小学生の寝る時間が遅い&睡眠が短いと感じる理由
結論から言うと、小学生の睡眠時間は過去と比べても、実はあまり変化がありません。総務省『平成28年社会生活基本調査』の中にある10~14歳の平均睡眠時間を見ると、1996年(平成8年)が518分で、2001年(平成13年)が514分、2006年(平成18年)が516分、2011年(平成23年)が515分、2016年(平成28年)が510分となっています。
540分(9時間)はさすがにいかないものの、平均して小学生の高学年は8時間半寝ている計算になります。この時間については過去20年ほど、実はそれほど大きく変化していないのですね。
その証拠を裏付ける別の情報もあります。少し古いですが『日本子ども資料年鑑2014(母子愛育会日本子ども家庭総合研究所編)』を見ても、1日に9~10時間眠る子どもの割合はむしろ増加傾向にあり、逆に7~8時間より少ない子どもの割合は減ってきています。
もっと長いスパンにわたって子どもの睡眠を調べてきた『国民生活時間調査』(NHK)を見ても、平日・土日とともに国民全体で減ってきた睡眠時間は、最新の2015年版で下げ止まりの傾向も確認されています。
しかし一方で、6時間未満しか寝ていない子どもの割合は、文部科学省『家庭教育関連データ』などを見ても、過去と比べてほとんど変わりがないと分かります。
併せて考えると、全体的には子どもの睡眠時間が伸びている(少なくとも劇的に減っているわけではない)ものの、極端に寝ていない子どもの割合も一定数、存在し続けている形になります。その差が拡大しているため、寝ていない子がかえって目立つように感じるのかもしれませんね。
Q.小学生のお子様の睡眠時間は足りていると思いますか?
HugKum編集部では、小学生のお子さんを持つママパパの111人に、小学生の睡眠時間が足りていると思うかどうか、アンケートで聞いてみました。
結果は、「いつも足りていると思う」の回答が3割で、「ときどき足りていないと思う」「いつも足りていないと思う」を合わせると子供の睡眠に不足を感じる方が7割以上となりました。
小学生の寝る時間が遅くなってしまう理由についても聞いてみたところ、テレビやゲームに夢中になっていたり、寝付く前にスマホを見ているなどの生活習慣によるものや、習い事で帰宅時間が遅くなり寝るのも遅くなってしまうなどの声が聞こえてきました。
「休み前だと遅くまで起きていたりする。 自分で起きない。」(30代・愛知県・子ども2人)
「夜型とショートスリーパーのためなかなか寝付けない。スマホをみてから寝るのでおそらく脳が興奮している」(40代・千葉県・子ども1人)
「年の離れた兄弟の寝る時間に合わせてしまっているので。」(40代・静岡県・子ども3人)
「早く寝て欲しいが塾からの帰宅が遅く、そっから学校の宿題をするので遅くなる」(40代・大阪府・子ども2人)
睡眠不足が小学生の子どもに及ぼす悪影響
1日に9~10時間眠っている小学生の数は、わずかながら増えてきていると紹介しました。それだけ睡眠の大切さが確認されてきたからだと言えます。では逆に睡眠不足になると、どのような悪影響が子どもの成長に及ぶのでしょうか。
中学受験にも影響!? 睡眠不足と学力の関係
睡眠不足による悪影響は、まず学業へのマイナスが挙げられます。。文部科学省の委託研究である平成 23年度『学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究』(広島大)、平成25年度『「基礎・基本」定着状況調査 報告書』(広島県教育委員会)では、規則正しい就寝と起床時間が、学力調査の点数に好ましい影響を与えていると示唆されています。
広島県教育委員会の平成15年の報告書では、睡眠時間が5時間未満の子どもと、睡眠時間が8~9時間の子どもで、国語と算数の学力調査の点数に大きく差が出ているとも明かされています。
学力だけじゃない。睡眠時間が短いと肥満や低身長などの原因に!?
もちろん、悪影響は学力だけではありません。体力や運動能力の発達にも、睡眠時間は大きく関係しています。先ほども参考にした『日本子ども資料年鑑2014(母子愛育会日本子ども家庭総合研究所編)』では、睡眠時間が短い子どもほど体力合計点が低いという事実が明かされています。
<睡眠や食生活などの子どもの生活習慣の乱れは、健康の維持に悪影響を及ぼすだけではなく、生きるための基礎である体力の低下、ひいては気力や意欲の減退、集中力の欠如など>(文部科学省のホームページより引用)
をまねくとも言われています。体力や気力、意欲が減退した結果、運動不足による肥満のリスクも高まるはず。同時に、低身長など身体の生育にも悪影響が出ると考えられます。
小学生の理想的な睡眠は何時間くらい?
それでは小学生の場合、どの程度の時間が理想的な睡眠と言えるのでしょうか。一般的に大人は8時間という目安が言われていますが、小学生の場合はどうなのでしょうか。
小学生の睡眠も理想は8時間?
参考になる資料として、厚生労働省の補助金を基に愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センターが作成した『未就学児の睡眠指針』が役立ちます。この冊子には年齢別に理想的な睡眠時間と、年齢別の睡眠の特徴が書かれており、その中には小学生の睡眠についても記述があります。
小学校に入学する前の3~6歳の子どもたちは、一般的に睡眠時間が10~11時間必要で、5歳をめどに昼寝がなくなり、ノンレム睡眠とレム睡眠の繰り返しが、大人と同じ90分サイクルでやってくるようになると言います。
その上で、6~12歳の学童期の子どもは、年齢とともに睡眠時間が短くなるものの、8~10時間というまとまった睡眠がやはり必要になってくると言います。低学年のうちは1日10時間、中学年で9時間、高学年で8時間という考え方ができそうですね。
小学生の睡眠時間を確保するためには何をする?
理想的な睡眠時間は、低学年の小学生で10時間、高学年で8時間と分かりました。では実際に、それだけの時間を、どのように確保すればいいのでしょうか。
低学年の子どもに10時間の睡眠を確保させるには
小学1、2年生など低学年の場合は、先ほども紹介した『未就学児の睡眠指針』が大いに参考になります。ポイントとしては、
- 保護者の睡眠習慣を改める
- 消灯の時間を決める
- 保護者が情報通信機器を寝室に持ち込まない
- 通学に必要な時間を踏まえて理想的な起床時間と就寝時間を逆算し、入浴のタイミング、就寝前と起床後の光の扱いなどを工夫する
といった方法が挙げられています。
1番に関して言えば、低学年の子どもの場合、自分の部屋を持たずに親と川の字で寝ている家庭が多いと予想されます。そうなると親の睡眠習慣がまともに子どもの睡眠時間に影響を与えます。可能な限り、子どもとともに親自身が早寝早起きを徹底する工夫が求められます。
2番について言えば、光は睡眠に大きな影響を与えます。
<夜寝る頃の時間帯に分泌が高まって眠りを助けるメラトニンというホルモンは,光の刺激で分泌が妨げられ,昼の覚醒と夜の睡眠のバランスを損ないます>(未就学児の睡眠指針より引用)
との話。しかも、大人より子どもの方が光に対する感受性が高いため、睡眠にまともに影響が出てしまうのだとか。部屋の明かりを落とす時間、消灯の時間も決めて、子どもが自然と眠りたくなる光の調整を徹底したいですね。
3番に関してはどうでしょうか。低学年の子どもに情報通信機器を持たせている家庭は、少ないと思います。しかし、寝室に親がスマートホンを持ち込んでしまえば、子どもの睡眠にマイナスの影響が出ます。夜は親自身もデジタル機器から離れる工夫が求められそうです。
最後の4番に関しても補足します。各種の資料によると、都心部であっても私立の小学校に入学させる家庭は少数派だと分かります。ただ、家の近くの公立小学校に通わせるとしても、子どもによって学校までの距離は違いますから、朝の通学時間はばらばら。そうなると起床時間も人それぞれで、起床時間から10時間の睡眠を確保するとなると、理想的な就寝時刻も各家庭で違ってきます。
まずは冷静に子どもの就寝時間と起床時間を明らかにした上で、就寝時刻のどれくらい前から明るい光を消すべきなのか、就寝のどれくらい前に入浴をさせるのか(2~3時間前が理想的とされている)、起床後の日光浴はいつさせるのかなど、子どものスケジュールを現実的な範囲で組み立てたいですね。
高学年の子供に8時間の睡眠を確保させるには
高学年になると、子どもの生活にも変化が出てきます。自分の部屋を与えられる、子どもが自分で情報通信機器やゲーム端末を持つ、習い事が重なって帰宅が遅れるといった状況が予想されます。その意味では低学年と似ていますが、
- 自分の部屋(ベッド)に入る時間を徹底させる
- 消灯の時間も徹底させる(併せて家全体の照明を暖色の蛍光灯に切り替え、消灯前の光の浴び方にも工夫をする)
- 部屋に情報通信機器を持ち込ませない
- 習い事などの予定を平日(学校のある日)の午後に詰め込みすぎない
などの工夫が考えられます。睡眠不足は勉学にも心身の健やかな発達にも大きな悪影響を与えると先ほど確認しました。就寝時刻が遅くなって起床時刻も遅れてしまえば、通学前に朝ごはんを食べるチャンスも逃します。そうなると、いよいよ悪循環がスタートしますよね。
「うちの子は、ちょっとまずいかも……」とドキッとしている保護者の方は、早速今日から子どもの睡眠時間の改善に取り組みたいですね。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ
【参考】
※ 2015年国民生活時間調査報告書 – NHK放送文化研究所
※ 未就学児の睡眠指針 – 愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター