子どもの膀胱炎とは
子どもがおしっこをするときに痛がる、おしっこをしても「まだ残っている感じがする」という(残尿感)、おしっこの回数が多い、お腹の下の方(下腹部)に違和感を訴える場合は、膀胱炎の可能性があります。
膀胱炎とは尿路感染症の一種
膀胱炎は「尿路感染症」の一種です。尿路とは、尿(おしっこ)の通り道のことで、体の中でおしっこを作る「腎臓」→「尿管」→「膀胱」→「尿道」→「出口(外尿道口)」の5つに分けられます。
尿路感染症は、大腸菌などの細菌が出口(外尿道口)から体の中に入ってしまい、尿道→膀胱→尿管→腎臓と、どんどん侵入していくことで起きます。膀胱炎は細菌が膀胱まで達したことで起きます。細菌が腎臓まで達すると腎盂腎炎(じんうじんえん)になり、高熱や腹痛、嘔吐などを引き起こすこともあります。
子どもの尿路感染症の種類
尿路感染症には、尿路の下の方(出口に近い方)の尿道、膀胱で起こる「下部尿路感染症」と、上の方の腎臓、腎盂(腎臓の中の尿がたまる場所)、尿管で起こる「上部尿路感染症」があります。
下部尿路感染症
尿道炎、膀胱炎が下部尿路感染症の代表的な病気です。おしっこをするときに痛みがある、残尿感がある、おしっこの回数が多いなどの症状があります。熱はあまり出ないため、「風邪気味で具合が悪いのかも」と、病気を見極めることが難しい場合があります。
上部尿路感染症
細菌が尿路の上の方まで侵入して起こる上部尿路感染症の代表的な病気が、腎盂腎炎です。いつもは尿路には細菌がおらず、万が一細菌が侵入したとしても、おしっこと一緒に体の外に排出されます。
この働きがうまくいかず、細菌が腎盂(腎臓の中の尿がたまる場所)や腎臓まで侵入すると腎盂腎炎になる可能性があります。腎盂腎炎は、おしっこのときの痛み、残尿感などに加えて、38℃を超える高熱、腰や背中の痛み、嘔吐などを引き起こすこともあります。
男の子がかかりやすいのは?
尿道の長さなど体の構造の違いから、乳幼児の男の子には下部尿路感染症は少なく、上部尿路感染症が多くなります。ただし2歳くらいまでは男の子、女の子の間に大きな違いはありません。
女の子がかかりやすいのは?
女の子は男の子に比べて尿道が短いため、2歳以降の幼児では、下部尿路感染症が多くなります。
子どもの尿路感染症の症状
おしっこのときの痛み、残尿感、発熱など、ここでは尿路感染症の症状を見ていきます。
新生児の症状
新生児の尿路感染症では、発熱以外の症状が見られないこともあります。熱が出て、機嫌が悪いといった症状になり、風邪と見分けがつきにくいかもしれません。
乳児および2歳未満の小児
乳児および2歳未満の小児では、発熱に加えて、嘔吐や下痢、腹痛、おしっこの異臭などの症状が見られることがあります。
2歳以上の小児の膀胱の感染症(膀胱炎)
2歳以上の小児になると、尿路感染症の典型的な症状が見られるようになります。下部尿路感染症の代表である膀胱炎の場合は、おしっこをするときに痛かったり、おしっこが残っているような感じ(残尿感)がして、何度もトイレに行きたくなったり、お腹の下の方(膀胱の付近)に痛みを感じたりします。
2歳以上の小児の腎臓の感染症(腎盂腎炎)
上部尿路感染症の代表である腎盂腎炎の場合は、高熱、悪寒、全身の倦怠感に加えて、背中やわき腹が痛くなります。
子どもの尿路感染症の検査・診断方法
尿路感染症は、尿検査で診断します。トイレトレーニングが済み、自分でおしっこができる子どもは、中間尿(出始めのおしっこではなく、途中のおしっこ)を取って検査します。
まだオムツをしていて、自分でおしっこができない場合は、ビニールバックを使って採用に検査をしますが、おしっこの出口には通常、常在菌がいるため、検査の精度が下がってしまう可能性があります。
発熱や痛みなどの症状から、尿路感染症の可能性が高い場合には、尿道に細い管(カテーテル)を入れて、尿を採取することもあります。
子どもの尿路感染症の治療法
膀胱炎、腎盂腎炎などの尿路感染症は、細菌が原因です。一般的には、抗生物質(抗菌薬)で治療を行います。
投薬
膀胱炎となり発熱がない場合は、3日間程度の抗生物質(抗菌薬)の服用で鎮静化するとされています。症状が腎盂腎炎まで進み、高熱が出ている場合は、抗生物質を2週間程度投与することが多いようです。腎盂腎炎の場合は、食欲も落ち、脱水症状になっていることもあるので、まず点滴で抗生物質を投与し、熱が下がって食欲が出てきたら、飲み薬に変えて治療することが一般的です。
手術が必要なことも
尿路感染症は基本的に抗生物質(抗菌薬)の投与で治療しますが、尿路の構造に異常がある場合、例えば、腎臓と膀胱の間の尿管に異常があって、尿が膀胱から腎臓に逆流してしまう場合などは、手術で治療します。
自然治癒することは?
軽度な場合は、体の免疫作用が菌を退治し、自然治癒することもあるかもしれませんが、尿路感染症は適切な治療を行わないと、将来腎臓の病気につながる可能性があります。
市販薬で治すことはできない
尿路感染症の原因は、ほとんどが大腸菌などの細菌です。細菌の治療には抗生物質(抗菌薬)を使いますが、抗生物質は市販されていません。つまり市販薬で子どもの尿路感染症を治すことはできません。
子どもの尿トラブル
子どもの尿路感染症は、尿のトラブルがきっかけとなって気づくことがあります。ここでは代表的なトラブルを紹介します。
小学生の頻尿
幼児期を過ぎ、小学生になるとおしっこの回数は少なくなってきます。おしっこの間隔は、3時間〜6時間くらいになり、1日にトイレに行く回数は4〜8回程度になります。もしも学校で休み時間ごとにトイレに行っている、1日に10回以上トイレに行くなどの場合は「頻尿」の可能性があります。
頻尿の原因には、ここで見てきた尿路感染症と、ストレスや緊張などが原因となる「心因性頻尿」があります。頻尿で学校生活や日常生活に問題が出てきたり、おしっこのときに痛みが出てきたり、発熱などの症状があったときは、小児科を受診してください。
小学生の残尿感
おしっこをしたはずなのに、まだ残っている感じがする残尿感は、小学生、特に低学年の子どもの場合は、うまく伝えられないかもしれません。
おしっこをしたあとに、体をもぞもぞさせている(スッキリしない)、お腹を押さえている、またすぐにトイレに行こうとしているなどの症状があるときは、頻尿と同様に心因性のものである可能性もありますが、尿路感染症が原因となっている可能性があります。
体験談
0~12歳のお子さんをもつママやパパに、子どもの膀胱炎や尿路感染症についてアンケート。体験談をご紹介します。
おしっこは健康のバロメーター。トイレタイムを大切に
おしっこの通り道のどこかに炎症が起こるのが尿路感染症です。炎症の場所がおしっこの出口に近い膀胱なら「膀胱炎」、体の中でおしっこを作る腎臓なら「腎盂腎炎」になります。特に赤ちゃんの場合は、症状がわかりにくく、進行するまで気がつかないこともあるので、注意が必要です。
おしっこは体の様子を知ることができる、大切なバロメーター。子どものトイレタイムを、ぜひ健康チェックタイムにしてください。
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記事監修
笠木 伸平(かさぎ しんぺい)
大学卒業後、内科医師、膠原病リウマチ専門医として病院勤務。米国国立衛生研究所の特別研究員、神戸大学医学部付属病院検査部 副部長の経験を経て、現在はみなと元町内科クリニックで院長を務める。「未病」(=健康でもない、病気でもない半健康状態)の患者さんに対して、最新の西洋医学、東洋医学、栄養学、心理学を組み合わせた診断とケア、カウンセリング等を提供。患者さんと一緒にその方にあった生活習慣の改善方法を考えていくことを大切にしており、最終的に、未病の段階で自分のケアができ、薬に頼らなくても済む人を増やしていくことに取り組んでいる。
みなと元町内科クリニック
文・構成/HugKum編集部