新型コロナウイルスの感染が収まらないなか、子どもも親も不安な気持ちで過ごしていると思います。そんなママパパたちに向け、HugKumでは教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんからメッセージをいただくべく、リモート取材を敢行。
いま気になる子どもとの関わり方、家庭での過ごし方、これからの日本の教育の行く末について語っていただきました。
目次
子どもに、今起こっていることを説明しましょう。希望を持って!
−新型コロナによる自粛も先行きが不透明で、子どもも不安だと思います。親が子どもにしてやるべきことはなんでしょうか。
まず、この新型コロナとは何なのか、ということを、ちゃんと説明してあげることだと思います。たしかに怖いことではあるんだけど、人間の知恵は大きな力を持っているんだよ、って。
そして、手洗いとかうがいとか、今でもやっていると思いますけど、子どもたちもきちんとそれをやっていこうね、といった、具体的に新型コロナにどう対応していくかということを、子どもとも共有することが大切だと思います。
だって、卒園式や卒業式も満足にできなかったところもあると思いますけれど、そのうえ、新学期になっても、クラスのお友達も担任の先生もほとんど顔も見ていないままとかになっているでしょう。そんな状況になっていることに対して、きちんと説明をしてあげることを、親として決しておろそかにしてはいけないと思うんですよ。特に低学年の子には、不安な顔は見せないで説明してあげることが大事ですね。
−子どもから「いつまで学校に行けないの?」と聞かれて、答えに困っている親もいると思います。どう答えたら良いですか。
それは率直に伝えていいと思います。新型コロナは、まだ人間がコントロールできないときなんだ、と。たとえば、今はインフルエンザには、タミフルとか薬もあるし、ワクチンで予防もできるからあまり心配しないですよね。でも新型コロナはどんなものかという研究も始まったばかりだし、治療薬やワクチンもまだ見つかっていない。だから、次々と人々が感染して、中には亡くなってしまう人もいるし、外出自粛も続けないといけない。やっぱりワクチンができるまでは、社会全体が普段通りには動けないです。でも、これは世界各国ががんばって解決しようと努力しています。それができればいいよね、っていうふうに、子どもにも希望を持って説明してあげたいですよね。
それから、これまでは学校が子どもの居場所の中心として機能していたと思うんですけど、これからは家庭が子どもの第一の場所だ、というふうに切り替えられるといいと思います。いつ学校が始まるのかな…とずっと考えていると心理的にもきついと思うので、家をベースにして、家でいかに楽しめるかという方向で考えたほうが前向きになれますよね。
パーフェクトにやろうと考えすぎないで。おおらかな気持ちでいましょう
−学校に行かずに家庭でずっと過ごしていると生活サイクルの乱れが心配です。
そうね。生活のリズムはちゃんと作ったほうがいいと思います。学校があるときと同じ時間に起きて、いつもの時間に寝る。ただ起きて着替えをするだけじゃつまらないから、ちょっとお手伝いをしてもらうとかね。何かあるとやりがいがあると思いますね。
それから、なんとなくのスケジュールを決めるといいんじゃないかしら。たとえば月曜日の今日はこんなことをやってみよう、というぐらいにざっくりと決める。あまりきっちりとしすぎなくていいの。きっちりしすぎると疲れちゃうから(笑) あまりパーフェクトにやろうと思わないほうがいいのよ。だってこんな緊急事態で先の見通しもつかないような状況ですから、おおらかにかまえないと、親も疲れちゃいますものね。
子どもの「自己決定権」をいつも以上に大事にして
きまりを作るときにも大切なのは、親が一方的に決めるのではなく、子どもと相談して決めることです。小さな子でも、家族の一員として、パートナーとして向き合っていることを伝えるのがとてもいいと思います。ボクはいつも言ってますけど、子どもの「自己決定権」、自分で決めさせることを大切にしてほしいの。選択肢は親が用意したとしても、自分で決めたよ、って場面を多くしていくと、それが自己肯定感につながりますし、自己責任感の強さにもなっていくと思うんです。こういったことは学校が有る無しにかかわらず、大事にしたほうがいいと思いますね。
ゲームやYouTubeとの付き合い方は、大人が大枠を決めて
−家にいると、ずっとゲームをやったりYouTubeを見てしまいそうです。どうしたら良いですか。
やっぱりゲームにしろ、YouTubeにしろ、とにかくおもしろいわけで、それを自分でコントロールするのはなかなか難しいですよ。だから大枠は親と子どもがこれぐらいにしようね、っていうルールは決めたらいいと思いますよね。まったくノーコントロールになってしまうのはいけない。でも、ある程度はおおらかにね。大事なのは、子どもがどんなものを見ているのかを、ときどき親も見てあげることだと思います。
あと心配なのはネットやSNSです。先日、ユニセフが、この休校のなかで、子どもがネットを利用する時間が増えているので、ネット上で子どもを狙う犯罪が急増する恐れがある、だから親は子どもと一緒に家庭でのルールを決めなさい、と声明を出しました。この状況を使って悪さをしようとしてくる大人もいるので、そのへんはよっぽど気をつけて見てやる必要があると思います。自分の部屋でこもってやらないように、というのも最低限のルールでしょうね。
家庭学習には文科省やNHKのEテレの活用を
−家庭学習には、どのように取り組めば良いですか。
これは、各学校からも課題が配られているとは思いますけれど、文部科学省のホームページをご覧いただくと、どんなことをやりましょう、といったことが学年別に全部載っているんですね。文部科学省オススメの教材とか動画なんかも紹介されています。そういったものも参考になりますし、NHKのEテレでサブチャンネルってありますよね。そこで金曜日に小学生向けの授業が始まりました(「臨時開校!フライデーモーニングスクール」)。これなんかを活用していただけるといいかなと思います。
文科省も、4/21に各自治体の教育委員会あてに出した通達では、子どもたちの学ぶ権利を保障しよう、ということにかなり踏み込んでいます。ようやく、学校というのはその権利を保障する義務を負っているんだ、という基本に立ち返ってくれたんですね。
学校の先生からも、電話が定期的にかかってくると思います。そのときに相談したいことがあったら聞いてみるのもいいと思いますよ。
世界に合わせて9月新学期もあり! 日本の教育を改革するチャンスです
−これまでのように学校に通える日に戻れるのでしょうか。
いわゆるアフターコロナって言われるような世界は、これまでと変わらざるを得ないと思うんですよ。でもこの機会に、日本でこれまでなかなかできなかったような教育に変えていくことができるんじゃないかと思うんです。
これまでの、みんなで同じように教室で机に座って受ける一斉授業じゃなくて、ひとりひとりに合わせた個別学習にシフトするというのもひとつですね。また、これだけ休校が長引くなら、いっそ諸外国と同じように9月新学期にシフトするという考えもあると思うんです。日本の学校の4月始まりというのは世界から見たら本当に特殊ですから。そうやって体制を変えていくことを考えるべきですよ。それなのに、遅れた分をそのまま取り返そうとして、「土曜日も授業、夏休みも無くして平日に7時間やる」なんていうのはナンセンスです。子どもがつぶれちゃいますよ。極端なことを言えば、今年1年は全員留年でやり直しだっていいんです。命を大事にして、みんなが安全なことを第一に考えて。その間に日本の教育の体制を、遅れているところを整えるとか、考えればいっぱいできるんですよ。
文科省も、ギリギリになって対処するのではなくて、構造を変えていくことに着手すべきだと思います。こうしますって約束じゃなくても、こういう見通しで行こうと思っているとか、こういうことを今検討しているとか、先の見通しがつくようなことを少しでも言ってくれると安心できるんですけどね。
アフターコロナの教育改革に向けて、お母さんお父さんたちにもできることがある
−教育に対して、長期的な展望を持つべきなんですね。
感染症の専門家の先生に言わせると、収束には数か月かかるだろうとか、あるいは年越しになるとか、数年かかる可能性もあるって。つまり、ワクチンができるまでは安心できないわけですよね。それを考えたら、国は今すぐプロジェクトチームを立ち上げて、あらゆる側面から、法的なこともいろんなことも含めて検討しなきゃいけないんですけど、今のところは後手後手に回ってますよね。
今はネットやSNSの時代ですから、休校解除や今後の学校再開などについて、意見や具体的な提案が、ボクのところにも寄せられてきます。とくに9月新学期に変えるということに関しては。きちっとプランを組んで提案をまとめているお母さんから「こんなの考えたので見てください」って来たりする。そういったことを、もっと教育のプロの先生方をはじめ、お母さんお父さんたちなど、みんなで考えればいろんな工夫が出てくると思うんです。今高校生たちも署名運動をやっていますし、子どもたちの意見も聞きたいですよね。
今は、ニュースとかSNSなどで、他国の状況がわかってしまうので、国際比較で日本の教育が遅れていることが、ボクたち一人一人の国民に見えてしまうんですよね。こんなこと初めてです。だからこそ、一気にここで変われるっていう可能性はありますよね。逆に言うと、このチャンスに変われないと日本がダメになっちゃう。
なんといっても子どもたちは宝。未来を創っていくのは子どもたちですから。そこを大事にみんなで考えたいですよね。
取材・渡辺 朗典(児童書編集者)