百ます計算 、 学力向上だけが隂山先生ではありません 。すでに成人している3人のお子さんの父親でもあります。子育てが一段落した今だから見えてくること、 言えることを、隂山先生の名言とともにたっぷり語っていただきます。(*この記事は、2014年11月刊行の子育て雑誌『edu』からの出典となります)
目次
入学するまでに「お手伝い」で、最後までやり抜く体験をさせてください。学習にも影響してきます。
編集部(以下 編 ) :こんにちは。本日もよろしくお願いします。
隂山 :はい、よろしくお願いします。
編 :ひところニュースで盛んにとりあげられましたが(*)、5 歳からの義務教育化を文科省が検討しはじめています。隂山先生はどのようにお考えですか。
(*)5歳児の義務教育化は、2014年から国で本格的に議論が始まった。その大きな趣旨としては、少子化対策として、「義務教育化=無償化」とすることで、幼児を抱える家庭を経済的に支援すること(「幼児教育・保育の無償化」は、2019年10月から実施)。また、学校現場でかなり深刻化してきた「小一プロブレム」の解決策の一つとして、小学校入学までに、生活面での準備を行おうというもの。
隂山 :いいと思います。ただ、僕はちょっと違う視点から見ています。
編 :といいますと?
隂山: 5 歳の義務教育化の背景には小 1 プロブレムがあります。
編 :小学1年生の子が先生の言うことを聞かなかったり、教室の中を歩き 回ったりして授業にならないという問 題ですね。
隂山 :そうです。5 歳からの義務教育を推進しようとする人の中には、小1プロブレムを子どもの態度面だけで判断する人がいます。お話を最後まで聞けるようにしましょうとか、小学校ではちゃんとしましょうとか。
編 :人の話を最後まで聞けるようにすることも大切だと思うのですが。それではダメですか?
隂山 :もちろん大切なことですが、もっと、根本的なことに目を向けてほしいんですよ。
編 :根本?
隂山 :そう、根本。話を最後まで聞けるようになるためにはどうしたらいいかということです。なぜ、最後まで聞けないのかということなんですがね。
編 :なるほど。どうしたらいいんで しょうか?
隂山 :最後までやり抜く体験が必要なんです。
編 :5 歳の子にそれを教えるのは難しい気がしますが。
隂山 :家のお手伝いをさせるといいと思いますよ。お手伝いは大事です。
編 :その根拠は?
隂山 :お手伝いをすることで、最後までやり通す体験をしてほしい。したくないお手伝いもあるかもし れません。でも、逃げずに最 後までやり遂げる意志力、 これが大事なんです。親との共同作業でもいいんですが、嫌だからと投げ出さないことが大事。逃げる癖をつけないことです。
編 :なるほど。お手伝いで意志力ですか。それが、話を最後まで聞くことにもつながるわけですね。
隂山 :そうそう。
編 :嫌ならやらなくてもいいよではなくてね。
小学校入学前についた「やらずに逃げる癖」は、計算のつまずきにも関係してくる
隂山 :そうです。小学校入学前に、逃げる癖をつけてしまうと、それが尾を引きます。じつは 1 〜 2 年生の子の計算のつまずきもそこにあることが多い。やり遂げず逃げてしまうから、いつまでたってもつまずいたままなんです。
編 :お手伝い、つまずき、小1プロブレム、三題噺みたいですが、つながっている気がしてきました。
隂山 :昔はね、1 〜 2 年生の担任は親が嫌がるような、はっきりものを言うおばちゃん先生だったんだけど、いまは違うでしょ。
編 :そうですね。おっかない先生はあまり見ないですね。
隂山 :親の顔色を気にしながら指導する先生が増えてきたように感じます。子どもたちも自分の思いどおりにならないと嫌だと言うようになってきまし た。結局、それが小 1 プロブレムに発展するんです。
最後までキチンとやることを身につける。それに、「早寝、早起き、朝ごはん」習慣
編 :そういえば、隂山先生が子どもを諭している場面を見たことがあります。
隂山 :え? いつ?
編 :立命館小学校の副校長時代です。 放課後だったと思いますが、教室に残っていた低学年の男子が理不尽なことを言っていたんです。詳しいことは忘れましたが、何か文句を言っていたと思います。そうしたら、先生が「あのね、キミのために地球が回っているわけじゃないからね」と。叱るというのでもないんですが、 その子の目をしっかり見てきっぱりとおっしゃっていて。そうしたら、その子、黙ってしまいました。さすが隂山先生だなと思いましたね。
隂山 :え、そんなことあったかな。うん、でも学校だからね。何でも自分の思いどおりになると思ったらダメ。それを教えないといけない。
編 :5 歳から義務教育というのは幼小 一貫教育ととらえていいですか。
隂山 :そうです。 幼小一貫教育をやらないといけないと思います。小学 1 年生の問題の大本は幼稚園時代にすでに出ていますからね。さきほどから申し上げている最後まできちんとやることを身につける。 それと生活習慣ですね。早寝早起きして、朝ごはんをきちんと 食べる習慣です。小さいうちから生活 リズムを整えることができた子は強い。寝る時間が遅いと午前中もボーッと して授業に集中できなくなったり、イライラしたりしますからね。
編 :なるほど、生活リズムを整え て、あとはお手伝いですね。ありがとうございました。
記事監修
1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。
『edu』2014年12月号 木彫り人形制作 BUNi PUNi(菅野 旋 高橋将貴) / 取材・構成 平野佳代子