カリスマ数学教師・井本陽久さん「自分のやり方で安心して失敗できれば、子どもは自発的に学びはじめます」【多様性の未来を生きる子ども達へ2】

型破りな教育法で子どもの学ぶ力を向上させる先生として話題のカリスマ数学教師「イモニイ」こと井本陽久さん。子どもの学ぶ意欲はどう育まれるのか。「多様性の尊重と受容について」をテーマに、5月24日に行われたオンライン講演会でのお話をダイジェストでお届けします。

「みんな同じがいい」という考え方が、いろんなことを息苦しくしている

オンライン対談イベント時の井本陽久先生

僕は子どもの頃から、「変わっているね」「ちょっと変だね」と言われると体の芯から嬉しくなるタイプでした。小学校の頃は本当に「やっちゃダメ」と言われることを絶対にやりたくなってやってしまうような子どもです。

落ち着いて座っていることもできず、片付けもできず、それを通知表に書かれるとまたそれが嬉しい。外で友達と遊んでいると、その子のお母さんが来て、「コラッ、はるくんと遊んじゃダメって言ったでしょ!」と言って連れて帰ってしまう。

サービス精神があって好奇心を止められない子だったから、星山さんの絵本でいうところのイエローちゃんだったと思います。そこにオレンジちゃんも入っているんじゃないかな。星山さんからはグリーンくんも入っているねと言われました。

「みんな同じがいい」という考え方が、いろんなことを息苦しくしていると思います。学校ももしかしたらそんな場所かもしれませんね。

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「ダメダメだけど魅力的だなあ」と思える視点をもてれば、子育ては楽しいはず

 僕は栄光学園という学校で教員をやっていますが、今日はそこの子どもたちが生き生きと学んでいる様子を見ていただきたいと思います。

栄光学園は男子校です。ハロウィンの日に江ノ島から小田原まで歩く恒例行事では、お菓子でカバンを作って持ってくる子がいました。この子高校3年生ですから、やっちゃいけないというか、やっている場合ではない時に労力を惜しまずにやるんですね。

普段勉強もしないし授業も聞かず、テストも全然できない子がいたので、「なんでもいいからレポートを書いてごらん」と言ったら、漫画で描いてきた子もいました。

レポートをマンガで描いてきた!

こんな漫画を書くほうがよっぽど大変だと思いますが、労力がかかることが嫌なんじゃなくて、ルーティーンが嫌なんですね。やらされること、同じことをさせられることが嫌なんです。

こういうダメダメな感じのとき、子どもたちはとても魅力的で生き生きしています。面白いでしょう? でもこれが自分の子どもだったら、イライラして許せないという親御さんも多いと思うんです。他の子どもたちに「ダメダメだけど魅力的だなあ」と思える視点を、自分の子どもに対して持てるかどうかが子育てを楽しめるかどうかの壁じゃないかと思います。

 失敗して、考えて、はじめて自分のやり方を見つけられる

それは授業中も共通して言えることです。僕の授業では、例えば、「上下左右前後、どこから見ても『田』に見えるものを作ってください」などと問題を出したら、材料もほとんど渡さずに放っておきます。

一人で考える子もいれば、グループで考える子もいる。黒板を使ったり、ノートを破って使ったり、それぞれがそれぞれのやり方で試行錯誤します。試行錯誤で大事なことはたった2点です。

1つ目は、失敗すること。失敗するから「なんでかな?」と自分で考えたくなります。そして2つ目は、自分のやり方でやること。教えてもらったやり方で失敗しても何にもなりません。自分のやり方で安心して失敗できる環境さえ整えれば、子どもたちは目を輝かせ、自発的に学びはじめます。

子どもの学びに躍動感をもたらす「ふざけ・いたずら・ずる・脱線」

 

 僕の仕事は、教室という不自由な環境で自由にできる状況を作ることです。それがすごく大事なことなのですが、今の学校の中ではそれがやりにくくなっています。その大きな要因は「受験」です。

「受験」では、同じ問題を「正確に再現して解く力」が求められます。そうなると、子どもたちは自分のやり方でやらなくなります。自分のやり方でやると試行錯誤するので、失敗するからです。

子どもたちが今学校で一生懸命やっていることは、将来に備えて手持ちを増やしておくことです。僕がやっているのは、手持ちを増やさなくても、今ある手持ちでなんとかするということです。

すると、子どもたちは失敗を恐れずに楽しそうに何度も挑戦します。より美しいものを作ろうとする子もいれば、より簡単に作ろうとする子もいる。失敗してチャレンジしてまた同じ失敗をしても楽しい。

最終的には「ふざけ、いたずら、ずる、脱線」が一番いい。学びの場が躍動します。僕は、学びを躍動あるものにしたいのです。そういう教室を作ることが僕の役割だと思っています。

その子の「ありのままを認める」ことで、友だちを認めることができる子になる

 僕は昨年の春に栄光学園では非常勤になり、「いもいも 」という教室を始めました。「いもいも 」では「学校の成績は上げません」と宣言しています。その教室では子どものありのままを認めることを大事にしています。

「ありのままを認める」はその子の「良いところを伸ばす」とは違います。これがいいとか悪いとか、こちらの価値判断を挟みません。そうではなく、その子の持っているものをそのまま価値としておもしろがる。「子どもにこうなってほしい」ではなく、「子どもが愛しくてならない」というこちらの目的です。

子どもの「ありのままを認める」と、自分勝手になるんじゃないかとよくたずねられますが、そんなことは全くありません。ありのままを認められた子どもは、自分から周りの友達を認めます。そんな場面を見て感動することが本当にたくさんあります。

これからも、一人でも多くの子どもたち、そして学校の先生も、生き生きとできるようになればいいなと思っています。

 

井本  陽久(いもと・あきひさ)

塾「いもいも」主宰。栄光学園中学高等学校非常勤講師。栄光学園にて数学教師を27年間勤めたのち、2019年度より非常勤講師となり「いもいも」に注力する。http://imoimojuku.net/

 

構成/太田美由紀

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