ノーベル賞って何?
ノーベル賞に日本人の受賞者が出ると、テレビや新聞で受賞者が取り上げられます。
報道内容を見て「すごいことをした人がもらえる賞なんだ!」ということは分かるものの、ノーベル賞がどんな賞で、誰が受賞者を決めているのかなどの詳しいことについては、漠然としか理解していない人は多いことでしょう。
ノーベル賞はどんな賞なのかを知る第一歩として、誕生の逸話や賞の種類について解説します。
ダイナマイトを作ったノーベルが創設した賞
「ノーベル」とは人の名前です。「ノーベル賞」は、スウェーデンの科学者であるアルフレッド・ノーベルの遺言によって創設されました。350もの特許を取得した偉人で、あの有名なダイナマイトも彼の発明品です。
もともとダイナマイトは、建設や掘削作業のために発明されたものです。しかし一方で、戦争では人を殺す兵器として使用されたため、民衆からの評判は決してよいものではありませんでした。
そこで彼は、ダイナマイトの発明で得た莫大な資産を「人類の福祉に貢献した人々に与える」という遺言を残しました。死後の自身に対する評価への恐れと平和への願いがきっかけに、ノーベル賞が始まったのです。
賞の種類は5+1つ
ノーベルの遺言には「候補者の国籍を考慮しないこと」などをはじめ、細かい指定がされています。
賞の種類についても以下の5部門において「人類のために最も貢献した人」を表彰するとしたのです。
- 物理学
- 化学
- 生理学・医学
- 文学
- 平和
当初はこの5部門だけでしたが、1968年にスウェーデン国立銀行の呼びかけによって、経済に対し貢献した人物に対し「経済学賞」が与えられることになりました。
こうして、現在では6の部門で世の中に貢献した人にノーベル賞が与えられることになったのです。
ノーベル賞は誰が決めているの?
ノーベルは1896年に亡くなっています。ノーベル賞の受賞は彼の遺言によって実行されているものですが、いったい誰が受賞者を選んでいるのでしょうか。
賞ごとに選考組織が決まっている
ノーベル賞は、賞の種類によって選考組織が決まっています。
- 物理学・化学・経済学賞:スウェーデン王立科学アカデミー
- 生理学・医学賞:カロリンスカ研究所
- 文学賞:スウェーデン・アカデミー
- 平和賞:ノルウェー・ノーベル委員会
平和賞だけがノルウェーで行われ、ノルウェー議会が任命した5人の委員によって選定されます。
約1年かけて選考していく
ノーベル賞は、毎年9月~翌年10月までの約1年をかけて選考していきます。 なお、選考過程については非公開で、受賞から50年後に初めて公表される決まりになっています。
選考の大まかな流れを見ていきましょう。
- 前年9月:各分野の専門家や過去の受賞者に対し、推薦状の発送(他薦のみ有効)
- 1月:推薦を締め切り、委員会などで推薦された候補者を調査し、絞り込む
- 10月:各選考機関で多数決によって受賞者を決定する
文学賞以外は3人まで、平和賞は団体が対象となる場合もあります。
授賞式はいつ? 賞金はいくらもらえるの?
毎年12月頃になると、ノーベル賞がテレビや新聞などのマスコミを騒がせます。その理由は授賞式にあります。
また、ノーベル賞といえば莫大な賞金がもらえるといわれていますが、具体的にはいくら位もらえるのでしょうか。
授賞式は毎年12月10日、ストックホルムで開催
ノーベル賞の授賞式は、毎年12月10日、ノーベルの命日にスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロで開催されます。
授賞式前後の1週間ほどの期間は「ノーベルウィーク」と呼ばれ、ノーベル博物館のカフェにある椅子の裏へのサインや、受賞者が研究経緯や意義について語るノーベルレクチャーなど、連日受賞者を祝福する行事が行われます。
授賞式の当日は、晩餐会が行われます。各賞の受賞者の代表がスピーチを行うなど、4時間近くにわたり開催されます。
賞金額は1億円以上
ノーベル賞のうち、経済学賞を除いた5部門の賞金は、ノーベルの遺産を管理・運用しているノーベル財団による資産運用の利益があてられます。
そのため、ノーベル賞の賞金額は、時代によって大きく変動します。2001~11年にかけては1億2600万円相当、2012~16年までは1億円相当だったといわれています。
ノーベル経済学賞のみ、スウェーデン国立銀行から拠出されており、12年の賞金はおよそ1億2000万円だったそうです。
ノーベル賞受賞者が多い国は?
ノーベル賞の受賞者が多い国はどこなのでしょうか。
文部科学省が行っている統計の中に、1901~2018年にかけての国別・分野別のノーベル賞受賞者数が記載されているので、このデータを参考に見ていきましょう。
出典:文部科学省|文部科学統計要覧(平成31年版)17.科学技術・学術 国別・分野別のノーベル賞の受賞者数(1901~2018 )
アメリカ、イギリスが上位
受賞者の国籍別に見ていくと、最も多いのはアメリカで 358人、次いでイギリスの113人です。米英の受賞者が多いのには、次のような理由があるといわれています。
まず、アメリカとイギリスには世界的に優秀な大学が多く存在します。
イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が毎年発表している「THE 世界大学ランキング」の2020年版によれば、1位はイギリスのオックスフォード大学で、2位はアメリカのカリフォルニア工科大学、3位にケンブリッジ、4位にスタンフォードと続きます。
優秀な教育機関や研究機関が多数あるという点が、受賞者が多い理由でしょう。
次にノーベル賞は、過去の受賞者や専門家の推薦によって候補者が決まるシステムであるということです。
このシステムによって、国内に研究者や過去の受賞者が多い国は、必然的に多く研究者を推薦する可能性が高く、受賞者を輩出しやすいといわれています。
出典:World University Rankings 2020 | Times Higher Education (THE)
日本も10位以内にランクイン
対して、日本のノーベル賞受賞者の数はどうなっているのでしょうか。
文部科学省の統計によれば、1901~2018年にかけて、日本では26人が受賞、国別の受賞者数ランキングで見ると7位にランクインしています。
しかし、うち2人はアメリカ国籍を取得していて、文部科学省の記録にも「アメリカ人」と記載されています。もしこの2人をカウントしないなら、日本人受賞者は24人で順位に変動はありません。
日本人のノーベル賞受賞者
日本人のノーベル賞受賞者を、分野ごとに紹介します。受賞者の名前と功績について知っておきましょう。
物理学賞の受賞者
物理学賞の受賞者は全部で11人です。受賞年と研究内容をあわせて紹介します。
- 湯川秀樹氏(1949年受賞)……陽子と中性子との核力を媒介する中間子を予想
- 朝永振一郎氏(1965年受賞)……量子電気力学の分野の基礎的研究
- 江崎玲於奈氏(1973年受賞)……半導体におけるトンネル効果を発見
- 小柴昌俊氏(2002年受賞)……天体物理学、特に宇宙ニュートリノの検出へのパイオニア的貢献
- 小林誠氏(2008年受賞)……小林・益川理論とCP対称性の破れの起源発見による素粒子物理学に貢献
- 益川敏英氏(2008年受賞)……小林・益川理論とCP対称性の破れの起源発見による素粒子物理学に貢献
- 南部陽一郎氏(2008年受賞・アメリカ国籍)……自発的対称性の破れの発見
- 赤崎勇氏(2014年受賞)……高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明
- 天野浩氏(2014年受賞)……高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明(赤崎・天野両氏と同研究で、アメリカ国籍の中村修二氏も受賞)
- 梶田隆章氏(2015年受賞)……ニュートリノが質量を持つことを示す、ニュートリノ振動の発見
真鍋淑郎氏(2021年受賞)……地球の気候システムを理解し予測するための基礎を構築
湯川秀樹氏は、日本で初めてノーベル賞を受賞した研究者として歴史の教科書にも登場します。
赤崎勇氏と天野浩氏、中村修二氏の発見した青色発光ダイオードやニュートリノの話題はまだ新しく、ニュースでも話題になっていたので、覚えている人も多いかもしれませんね。
文学賞の受賞者
文学賞の受賞者は2人です。
- 川端康成氏(1968年受賞)
- 大江健三郎氏(1994年受賞)
川端康成氏は「伊豆の踊子」「雪国」などの作品で知られています。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という「雪国」の冒頭は、文学史でも特に有名です。その文章の美しさなどが評価されました。
大江健三郎氏は「個人的な体験」「万延元年のフットボール」など、詩的な表現で現実と虚構が一体となった独特の世界観が評価され、受賞しました。
平和賞の受賞者
平和賞の受賞者はわずか1人のみです。
- 佐藤栄作氏(1974年受賞)
1964~72年までのおよそ8年間、自由民主党の総裁と内閣総理大臣を任されました。
彼の功績は「非核三原則」の提唱です。「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」という言葉は、現代の小中学校でも社会の授業で学ぶ重要な言葉です。
化学賞の受賞者
化学賞の受賞者は全部で8人です。受賞年と研究内容をあわせて紹介します。
- 福井謙一氏(1981年受賞)……化学反応過程の理論的研究
- 白川英樹氏(2000年受賞)……導電性高分子の発見と開拓
- 野依良治氏(2001年受賞)……キラル触媒による不斉反応の研究
- 田中耕一氏(2002年受賞)……生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発
- 下村脩氏(2008年受賞)……緑色蛍光タンパク質 (GFP) の発見と生命科学への貢献
- 根岸英一氏(2010年受賞)……クロスカップリング反応の開発
- 鈴木章氏(2010年受賞)……クロスカップリング反応の開発
- 吉野彰氏(2019年受賞)……リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)の開発
2000~02年にかけては毎年受賞者が出て、日本で大きな話題を呼びました。19年に受賞した吉野彰氏は充電速度が速くて長持ちするリチウムイオン電池を開発し、すでに日本でも販売されています。
生理学・医学賞の受賞者
生理学・医学賞の受賞者は5人です。受賞理由や受賞年は以下になります。
- 利根川進氏(1987年受賞)……多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明
- 山中伸弥氏(2012年受賞)……世界で初めてiPS細胞の作製に成功
- 大村智氏(2015年受賞)……線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法に関する発見
- 大隅良典氏(2016年受賞)……オートファジーの過程で謎となっていた膜をつくる材料が集まる機構を解明
- 本庶佑氏(2018年受賞)……免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用
生理学の分野は発展めざましく、2012年から4名もの受賞者が出ています。それまでは20年以上、生理学・医学の分野で受賞者は出ていませんでした。
がんは日本人の死因1位でもあるため、その治療の糸口が見つかったのは、大きな功績といえるのではないでしょうか。
世界中が注目するノーベル賞
毎年10月に受賞者が発表され、そのたびに世界中から大きな注目と関心を集めるノーベル章。受賞者は大きな賞金や名誉を得ることができますが、それ以上に、彼らのもたらした人類への貢献は偉大なものです。
今後も多くの偉人たちがノーベル賞を受賞し、そのたびに人類は未来へ一歩ずつ進んでいくでしょう。
文・構成/HugKum編集部