「フリー(free)」ではなく、「ふり」です!
「ふり」は江戸時代からある言葉
紹介や予約無しで店に来る客のことを、「ふりの客」といいます。この「ふり」を、英語の「フリー(free)」だと思っている人がいるらしいのです。
確かに音は似ています。でも、「ふり」はれっきとした日本語です。この「ふり」が使われるようになったのは江戸時代からで、料理屋、旅館、茶屋、遊女屋などの用語だったようです。証拠となる江戸時代の使用例もあります。
江戸時代のものではありませんが、俳人の種田山頭火(たねださんとうか)の日記『一草庵日記』には、1940年8月23日のところにこんなことが書かれています。
「酒を探して(小売店の多くは品切、造酒屋はふりの客には売ってくれない、)ようやく二番町の馴染の店で手に入れる」
「一草庵」は山頭火が愛媛県松山市に建てた庵で、彼はこの年の10月11日にここで泥酔したまま亡くなります。太平洋戦争に突入する前年には、酒蔵ではなじみでない客には酒は売ってくれなくなっていたのでしょう。山頭火は酒を求めてさまよっていたのです。
いずれにしても「ふり」は江戸時代からあることばで、「フリー(free)」でないことだけは確かです。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。