Life is Tech(ライフイズテック)の讃井康智さんによる連載「アフターコロナ時代の教育クエスト」。ライフイズテックを起業しつつ、研究者としては教育政策や学習科学を研究し、各地の学校変革へ携わってきた讃井さんは「これからの教育は150年に一度の大きな変革期にある」といいます。
コロナで急速に高まったオンライン学習の需要。一人一台の学習用PCの普及を掲げたGIGAスクール構想が本格化し、子どもたちの学びはどう変わっていくのでしょうか。親が知っておくべきことは?家庭で大切にしたいこととは?
第4回は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平先生と讃井氏の対談から、ICT活用の学びと付き合い方について深掘りします!
休校から見えたICT活用の課題
学校と連絡がとれない
讃井 2020年はコロナ禍で全国一斉休校となり、子どもたちの学びが止まってしまったことが、大きな社会問題になりました。なぜあんなにも、うまくいかなかったのでしょうか。
豊福 大きな要因は、紙と対面に依存していたことです。休校になったとたん、多くの学校と生徒の間で連絡手段がなくなりました。生徒への電話連絡も一部では行われましたが、子ども側からすれば、課題だけが山のように配られ、担任の顔もわからないまま、関係がグダグダになってしまったわけです。特に、新入生の場合、担任の顔も全くわからないまま時間が過ぎていきました。
オンライン授業、本来のあり方と乖離も
讃井 オンライン授業を求める声も保護者からは多く聞かれました。これについては、いかがでしょうか。
豊福 2020年3月からの休校中は、さかんにオンライン授業の様子がテレビなどで報道されていました。世の中の保護者は、報道を見て、あれがオンライン学習だと思ってしまったんです。ところが長時間、zoomの前に子どもを縛り付けて動画を見せるのは、テレビ的な絵面はいいけれど、教育方法として学習効果が高いわけではありません。本来あるべきオンライン学習と世間の認識するオンライン学習に乖離が生じてしまいました。
いい使い方の例はオンライン朝の会
讃井 学校や現場の先生方は子どもの学びを止めないために、オンラインや紙、電話などいろいろな策を講じたわけですが、コロナの休校中、よい取り組みをしていた小学校の例はありますか。
豊福 ある小学校の先生は、zoomで授業ではなく、朝の会を行っていました。1日1回顔を合わせて「みんな元気?」と言葉を交わします。家から出られず友達とも会えない日々の中、お互い顔を見て言葉を交わすだけでも貴重なコミュニケーションの時間になったそうです。
さらにその先生は「家で今日、何がやりたい?」と子どもたち一人一人に聞いて、その日のうちに今日の取り組みがどうだったか、子どもたちが先生に話せるようにしたそうです。お互いがつながっているという安心感を子ども達に持たせる点を大事にした良い取り組みだと思います。
讃井 その先生の場合は、今日取り組むことを子どもたちに決めさせたわけですね。先生との対話の中で学習計画が生まれて、自学自習の質が上がりそうです。
豊福 低学年の子どもはまだ勉強に集中できないから、大人がつきっきりでやらないと大変だと思いますが、中・高学年になると、自分である程度の段取りをつけてやるべきことを学習できるようになります。先ほどの先生のように、メンタルの部分をきちんと支えてあげて、子どもたちが自分でやれることについては先生がサポートに徹するというやり方はいいなと思いますね。
讃井 コロナのときは最低限子どもたちの学びを保証するということが大事でした。もし今後、万が一休校になった場合、GIGAスクールで一人一台端末があるとしたら、そういったサポートもよりスムーズにできるということですね。
豊福 そうですね。先生はずっと付き添ってなくていいんです。要所要所でサポートに入ってもらったほうが子どもにとっては安心なんですよ。
ICTを使えば効率よく対話できるはず
豊福 保護者からのアンケートでは、「ちゃんとケアをしてほしかった」「学校から連絡がなくて困った」など不安を感じたという意見も聞かれました。今年は保護者と学校との関係は課題が様々で大変だと思いますね。
讃井 そういった対話がICTを通じてもっと効率よく密にできたらいいと思いました。私が面白いと思ったのは奈良県の取り組みです。奈良県では、まずGoogleで生徒全員のアカウントを作ったことで、コロナの休校中、生徒全員に何が起こっているのか把握するためのアンケート調査をGoogle Formで迅速に実施できました。連絡がなくて不安だという悩みは、学校に関わるICT環境が整備されて保護者にも使われるようになると、一気に解消するんじゃないかと思います。
豊福 効率が上がったと実感できれば、普段使いできるようになるんですよ。例えば、電車やバスに乗る機会はあっても、飛行機は怖いからいやだなとか、乗る勇気がなく迷っているとします。でも一度飛行機に乗ってみれば、移動が早くてとても便利だと実感できるはずです。ICTも1回使ってみると、その効率の良さに必ず気付けると思います。
讃井 民間の習い事については、手紙やFAXはもう使ってないですし、電話の利用も減っています。メールの一括送信やアプリの活用で運営側も保護者側も格段に便利になっています。学校でも使わない手はありませんよね。
コロナはGIGAスクール構想の追い風に
讃井 ちょうど2020年から学校でのパソコンやタブレットの一人一台端末環境を整備するGIGAスクール構想がスタートし、そんな中でコロナの休校が重なりました。コロナはGIGAスクール構想が広まる追い風になったという見方もできるのでしょうか。
豊福 保護者の中には「一人一台端末を学校で何に使うの?」と思っていた方もいたと思いますが、休校をきっかけに「オンライン学習をしてほしいので端末を早く配ってください」という声が高まりました。内容はともかく、やってみようという世論は高まって、大きな動きになったと思います。
一人一台の普及は進んでいる?
讃井 2020年にスタートしたGIGAスクール、実際はどのくらい進んでいますか。
豊福 全国的には一人一台端末の配備はまだ道半ばで、2021年1月時点で4割くらいです。
讃井 初年度を入れると4年でやろうという計画が、コロナが来て前倒しになって、1年でやろうとなったわけですよね。
豊福 そうです。でも急に前倒しになって、メーカーの製造が間に合わず、2020年度末にも間に合わないところも多い状況です。一方で、導入したはいいけれど、使えずにしまいこんでしまっている学校もあるそうです。
讃井 なぜそんなことが起きてしまうのでしょうか。
豊福 「今まで使っていないものを突然どうやって使えばいいの?」という学校側の本音も一因です。また保護者会で事前にGIGAスクール構想の説明をしないまま配ると、保護者も困惑してしまいます。タブレットを家に持ち帰った子どもが、家でYouTubeを見続けるなんてことになると、生活の中に悪影響を起こしてしまうわけです。学校側も、機材が来たらとりあえず使えばいいんでしょう、ということでは済まされないとようやく気づいたのです。
学校でのコンピューターの使われ方
讃井 一人一台端末をすでに実現している学校では、実際にどう使っているのでしょうか。
豊福 今までは、授業中に効果がありそうなところで5分〜10分くらいピンポイントで使うのが良いとされてきました。本来の教科の目的を達成することが大事だから、ITを使うことが目的になってはいけない、だから短い時間でのみ使うべきだと言ってきたわけです。だけど、これでは先生にとても負担がかかります。先生が扱いに慣れていないうえに、子どものスキル差が著しいために初歩的なトラブルで授業をストップさせてしまうからです。
むしろ、扱いを子どもたちに委ねて、学校の日常で手書きノートの代わりとして使ったり、ワークシートなどの資料配布に使ったり、連絡帳として使ったり、先生から届いたメッセージのURLをクリックして宿題が開けたり。まずは、特別なことではなく、日常的な使い方ができるようになってほしいと思います。
一人一台環境、よい学びにするために
讃井 ICT活用の学びについて、課題もはっきりしてきました。よりよい学びを学校で実現しようとする先生方も増えているのでしょうか?
豊福 ここ半年から一年は、Facebookのグループなどでも活発に意見が交わされていて、ICTの活用は現場の先生にとっても差し迫った課題になっています。「ここでやらないといつやるんだ」と思っている先生は増えていると思います。
讃井 先生たちも初めてで、試行錯誤しています。世の中がもっとそこに対して寛容でなきゃいけないなと私は思います。最初は当然うまくはいきません。失敗してもいいと思うんです。全部わかってから始めたら、何十年もかかってしまいます。そうしないとパソコンやタブレットを配っても、まさに豊福先生がおっしゃるように、文鎮化してしまいますよね。
豊福 かつてのAppleとIBMを比較しても、コンピューターを個人の能力や可能性を増幅するものだと考えたAppleに対して、ビジネスシーンの自動化・合理化の手段として考えたIBMという対照的な2つの考えがありました。今にして思うと、IBMのように最初から対象が決まっていて、定型業務を効率化するためだけにコンピューターのパワーを使うという考え方は、もう馴染まない時代になりました。ダイナミックに変化する課題に対して、走りながら解決するくらいの気構えで臨まないと、これからは生き残れないと思います。
讃井 その考えは、自治体や学校単位でも言えることですね。
豊福 そうですね。GIGAの端末は入ったけど指示待ちで動けない現場もあります。文科省に決めてくれという姿勢の自治体、学校は対応できていないんです。
とにかくやってみようという思いを個人が持った上で、それぞれの立場でどう社会に貢献するか。そこをみんなが考えて取り組まないと、この課題は解決できません。端から見ると絶対に上手くいかなさそうでも、実際に試してみると成功することもある。やれるところから自分で考えて動いてみよう、動いてわかったことを子どもにフィードバックしよう、保護者に伝えようと挑戦してほしいと思います。
讃井 いろいろな価値観に触れて都度自分を変化させている人は、熟考しきるまで走り出さないのではなく、とりあえずやってみる、ということを大切にしていますよね。変化に適応できない学校は、実社会で求められている力が育たない学校として見られる時代になっています。変化の早い時代に対応できる子どもたちを育てていくためにも、まずは大人が柔軟に変わっていくこと、そして、その変化に寛容であることが大切ですね。
◆中編へつづく>>
豊福 晋平
1967年北海道生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退、1995年より国際大学 GLOCOM に勤務、専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。長年にわたり教育と情報化のテーマに取り組む。主なプロジェクトとして、全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)企画運営(2003~2013)、文部科学省・学校の第三者評価の評価手法等に関する調査研究「学校からの情報提供の充実等に関する調査研究」(2008)、文部科学省・緊急スクールカウンセラー等派遣事業・東日本大震災被災地のための学校広報支援「ともしびプロジェクト」(2011~)など。
趣味は猫と写真とランニング。座右の銘は「未来を予測する最善の方法は、それを発明してしまうことだ」(アラン・ケイ 1971)
讃井 康智
東京大学教育学部卒業後、リンクアンドモチベーションでのコンサルタント勤務を経て、東京大学教育学研究科にて研究者として博士課程まで在籍。専門は教育政策・学習科学。学習科学の世界的権威、故三宅なほみ東大名誉教授に師事し、全国の学校や保育園での協調的・創造的な学びづくりを支援。
2010年にライフイズテックを創業。ITキャンプ・スクールには累計4万6千人以上が参加し、中高生向けIT教育サービスでは世界2位まで成長。ディズニーとコラボした「テクノロジア魔法学校」や学校向け教材「ライフイズテックレッスン」などオンライン教材も提供。
現在は各地の教育委員会の専門委員やNewsPicksのプロピッカー(教育領域)も務める。生まれも育ちも福岡という地方出身者として、首都圏と地方の「可能性の認識差」を埋めるべく全国を奔走中。
文・構成/HugKum編集部