かかると辛い、痛いといわれる「乳腺炎(にゅうせんえん)」。子どもを出産したばかりの母親が、授乳期になりやすいとされている病気です。一般的には、乳腺炎の原因は食事にあるといわれていますが、実際のところはどうなのでしょう?
この記事では、乳腺炎と食事の因果関係について、助産師監修のもと、くわしく解説していきます。また、乳腺炎の予防・対策のために知っておきたいこと、さらに食事以外の予防・対策法もご紹介します。
乳腺炎とは
そもそも「乳腺炎」とは、どのようなものなのでしょうか?
乳腺炎は、母乳で育児をおこなっている母親の乳腺が炎症を起こしてしまう病気です。乳腺炎には、乳房に母乳が溜まってしまうことが引き起こす「うっ滞性乳腺炎」と、細菌感染で起こる「急性化膿性乳腺炎」があります。
主な症状としては、発熱・胸全体の赤み・しこり・胸の痛みなどです。授乳中であれば、いつでも起こる可能性があり、産後2〜3週間目に最も起こりやすいといわれています。頻度は2〜33%程度です。
詳細なガイドラインも出ていますので、以下を参考にしてください。
公益社団法人日本助産師会「乳腺炎ケアガイドライン2020刊行に寄せて」
乳腺炎と食事は関係ない? 母体の健康を保つ食事の考え方
何らかの原因により、乳腺が炎症を起こす乳腺炎。その原因のひとつとして、よくあげられるものが食事です。ですが実際のところ、乳腺炎と食事には何かしらの関係があるのでしょうか?
ここでは、乳腺炎に食べてはいけないものはあるのか?また、カレーはOK?乳製品はNG?など、一般的にいわれている話も含め、わかりやすく解説していきます。
乳腺炎に食べてはいけないものはある?
乳腺炎にならないために、または、その症状が出たときに食べてはいけないものはあるのでしょうか?
結論からいえば、ありません。一般的にいわれている「乳腺炎は食事のせい」という話は、まったくの誤解です。時として医療関係者が乳腺炎の原因に「脂っこい食事」「乳製品の摂取」などをあげることはあります。しかし、これには科学的根拠はありません。
詳しくは、以下の記事でもご紹介しています。
カレーはいい? 乳製品はNG?
インターネットの情報をはじめ、一般的には「ケーキやチョコレートなど、甘いものを食べると母乳も甘くなる」「乳製品や脂肪分が多い食べ物は乳腺炎になりやすい」「カレーを食べると乳腺炎にならない」といった情報が溢れています。
しかし、乳腺炎は、母親の食事が原因で起こる病気ではありません。繰り返しになりますが、母親が食べていいもの・いけないものはありません。乳腺炎の主な原因として考えられるものは、乳房に母乳が溜まってしまうこと、下着や抱っこひもなどで乳房を締めつけたり、圧迫していること、疲労やストレスから母親の抵抗力が落ちていること、などがあげられます。
乳腺炎の原因は母親の食事ではないことをしっかり認識し、その予防や対策を講じることが大切です。
乳腺炎の予防・対策のための食事法
これまでお伝えしてきたとおり、脂肪分や乳製品といった食べものが乳腺炎の直接的な原因になっているわけではありません。ただし、母体の健康を保つために、食事の摂り方には十分な注意が必要です。
ここからは、乳腺炎の予防・対策につながる、授乳中の母親にやさしい食事法をご紹介します。
母乳によいといわれる食材
乳腺炎の原因が母親の食事ではないとはいえ、高脂肪、高塩分、高糖質といった食べものばかりを過剰に摂取していると体調のバランスを崩してしまう恐れがあります。
昔から授乳中は「和食を中心にした食生活」をおくればよいといわれてきました。和食が母体にやさしい繊維質を多く含んだ食事だからです。伝統的に母乳によいとされる食材は、玄米、根菜、青菜、大豆、小豆、海藻などがあげられます。ただし、特定の食材を食べることにより、母乳が質がよくなる科学的根拠はありません。
栄養バランスのとれた食事をとる
野菜を中心にした食事は確かにヘルシーです。しかし、野菜だけを摂取すればよいというわけでもありません。同じ食材ばかりを食べていれば、母体の栄養が偏ってしまうからです。
母体の健康状態を考えた場合、肉や魚、卵といったタンパク質も大切な栄養になるため、しっかりと摂取してください。
母乳は、母親の血液から作られています。この観点からも、野菜をはじめ、肉や魚、穀物類や果物など、いろいろな食材を使った栄養バランスのよい食事をとるように心がけましょう。
サプリメントの正しい利用
妊娠中や授乳中は、栄養バランスのとれた食事を摂取することが大切です。どうしても不足しがちなビタミンやミネラルといった栄養分は、サプリメントを利用するのもよいでしょう。
注意すべきポイントとして、サプリメントを摂取する前は、必ず医師や助産婦に相談することです。サプリメントの種類、摂取量、食物アレルギーの有無など、正しい利用法の確認を怠らないようにしてください。
水分補給をこまめに
乳腺炎の予防法としては、水分補給をこまめにおこないましょう。特に授乳中の水分摂取は、母体の水分不足(脱水症状)を防ぐためにも必要不可欠。栄養バランスのよい食事と同じように、水分補給も重要なポイントです。
ただし、身体を冷やさないようにするために、常温か温かい飲みものをとるようにしましょう。具体的には、お茶(できるだけカフェインの入っていないもの)や白湯などがおすすめです。また、授乳のたびにコップ1杯ほどの水分をとるようにしましょう。カフェインの入った飲み物を摂取する場合は、授乳前よりも授乳後がベターです。コーヒーを飲むときは、カフェオレにして飲むことをおすすめします。
授乳中のカフェイン摂取については、以下の記事で詳しく取り上げています。
乳腺炎の食事以外の予防・対策法
ここでは、食事以外の乳腺炎の予防・対策法をご紹介しましょう。乳腺炎を発症する原因のひとつとして、乳房に母乳が残ってしまうことがあげられます。そのため、赤ちゃんが乳首をしっかりと口に含み、飲み残しがなくなる姿勢をとれるよう、気をつけてください。
また、体を冷やず、血行をよくすることも大切なポイントです。疲労やストレスから母体を守るため、家事や育児を家族に任せ、心と体を休めることも乳腺炎の予防・対策法につながります。
乳腺炎の食事以外の予防・対策法をもっと詳しくを知りたい人は、以下の記事もチェックしてみてください。
乳腺炎に食べてはいけないメニューはありません
乳腺炎と食事の因果関係は、まだはっきりと解明されていません。一般的には「乳腺炎の原因は食事にある」「乳製品や脂肪分は食べてはいけない」といった情報が広がっていますが、科学的根拠のないものです。
とはいえ、高脂肪、高塩分、高糖質の食事をとりすぎることは、母体の健康を害する恐れがあるため、控えてください。また、野菜や穀物などを食べず、肉や揚げものばかり食べるような偏った食生活も問題があります。
授乳中に心がけるべき大切なポイントは、栄養バランスのよい食事をとること。それが乳腺炎の予防・対策にも大きくつながります。ただし、神経質になりすぎず、自分の体を労わりながら母乳育児を楽しんでいきましょう。
記事監修
河井恵美
看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等に勤務。様々な診療科を経験し、看護師教育や思春期教育にも関わる。青年海外協力隊として海外に赴任後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在はシンガポールの産婦人科に勤務、日本人の妊産婦をサポートをしている。また、助産師25年以上の経験を活かし、オンラインサービス「エミリオット助産院」を開設、様々な相談を受け付けている。
文・構成/HugKum編集部