新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、病院での出産は、家族の面会は禁止、立ち会い出産もNG、というところが多いようです。そこで、家族に囲まれて誕生を迎える「自宅出産」に注目が集まっているとか。
けれど、自宅を出産の場にして危険はないの? 出産後、大変じゃない? 実際に自宅出産を経験したママ・生駒知里さんに聞いてみました。
目次
助産師さんに取り上げてもらう出産を選んできた
生駒さんはこれまでの出産を、すべて助産院で経験してきました。
「最初は特に助産院での出産にこだわったわけではないんです。第一子を妊娠中、知り合いの親御さんや周囲の友人たちから同じ助産院を次々にすすめられたので、『じゃ、私もそこで』くらいの軽い気持ちでした」
助産院での出産は、多くの場合、民家のような造りの助産院で、ベテラン助産師が赤ちゃんを取り上げます。助産師さんは、妊婦さんの母親くらいの年齢の、やさしくも頼れる方が多い様子。里帰り出産することもままならないコロナ禍においては、頼りになるお母さんのような助産師さんのもとで、「疑似里帰り出産のような出産ができる」という点でも注目を浴びています。
出産のための移動がなく、産前産後の助産師さんの検診も自宅
そんな中、生駒さんは今回、なぜ助産院ではなく自宅出産に踏み切ったのでしょうか、それには、わけがありました。
結婚当初、「子どもは多いほうが楽しい、4人くらいほしいな」と思っていたところ、あれよあれよという間に6人の子の母に。そして今回また妊娠して、なんと生駒さん、この少子化の時代に7人の子の母になったのです。
もともと安産体質なのか、長男からして陣痛から出産まで6時間という短さ。2人目からは2時間、5人目からは1時間を切り、6人目は「助産院に行くのが間に合わない!」というヒヤヒヤの事態に。
「これはもう、むしろ自宅で出産すると最初から決めてしまったほうが危険が少ないな、と思い、これまでの助産院の助産師さんに、自宅出産をお願いしたのです」
生駒さんは、「多様な学びプロジェクト」という、子どもたちの学びや居場所を考えることを旨とした団体を主宰。不登校の子たちの母でもあり、家は常に子どもたちの学びと遊びの場。そこに赤ちゃんの誕生が加わることは、子どもたちにとっても自然なこと、そして歓迎されることでもあったのです。
それに、自宅出産であれば、入退院もありません。出産当日は、助産院の助産師さんが取り上げに来てくれ、産後の産褥ケアも自宅に来てもらえます。上にきょうだいがいるママには都合のいいこともたくさんありました。
病院との連携は必ずとっておくこと!
芸能人なども経験する自宅出産。憧れる人も多いのですが、実践するためには「自分で自宅出産を選択してしっかり準備すること」が重要です。本当は病院や助産院で産むはずだったのに、間に合わなくて自宅で生まれちゃった! という「予期せぬ自宅出産」は危険です。母子の命の危機につながることもあります。
パートナーや他の家族ともあらかじめしっかりと相談し、信頼できる助産院の助産師さんに自宅出産での分娩を頼みましょう(中には助産院など入院施設を持たない「出張開業出産助産師」もいます)。
ただ、助産師さん個人との打ち合わせや見立てだけで出産するのは避けるべき。
「私の場合は、助産院が提携する産婦人科のクリニックで数回、検診を受けました。また、総合病院の診察券を作り、一度は検査を受けて、万が一、お産に大きな危険が迫ったときには総合病院にかかれるような土壌を作りました。それらはみな、助産院のきまりになっていました」(生駒さん)
医療行為が生じたら病院での出産に切り替える
助産師は医師とは違い、医療行為としてできないことが多いので、正常分娩でない分娩は扱わないことになっています。また、日本助産師協会では、高年齢、低身長、持病など、妊婦の体型や体調などにもガイドラインを定めています。自宅出産も同様で、出産リスクの高い人は扱わない、という助産院が多いようです。
実際、生駒さんは35週あたりで、逆子になってしまいました。数日そのままなら出産時の危険を考えて、「残念だけれど、自宅出産は難しい、病院で出産してください」と言われていました。また、その前は「羊水過多」と言われ、それも自宅出産できない理由になっていました。少しでも危険があれば、自宅での出産からクリニック、病院での出産に切り替える。母子の命を守るためには、二重三重の安全策を考えておいたほうがいいのです。
自宅出産をかけがえのない体験にするためにも、リスクの回避には真剣に取り組みましょう。
▼助産業務ガイドライン
https://www.midwife.or.jp/pdf/guideline/guideline2019_200214.pdf
自分が産みやすいポーズ、場所で出産する
さて、では実際に自宅出産はどのように行われるのか。2月下旬に出産した生駒さんのドキュメンタリーで、お伝えしましょう!
朝6時40分頃、お腹の張りを感じながら起床。7時近くに強めの痛みがあり、痛み緩和のために、生駒さんはお風呂に入ります。えっ、出産直前にお風呂に入っていいの!?
血行のよくなる入浴は出産前の陣痛を和らげる効果があるともいわれます。病院ならあり得ないですが、助産院がフォローする出産では、産婦さんが痛みを逃がしやすく、また赤ちゃんを出しやすい場所やポーズをできるだけ優先します。
7時10分にまた強めの痛みがあったので、助産師さんに連絡すると、『5分間隔になったらまた連絡して』とのこと。7時半すぎには5分を切ったので連絡し、7時50分に助産師さん到着。
「その後はしばらく立ち姿で痛みを逃がしていたけれど、座位になりたい感覚が出てきて、和室に敷いた布団の上に膝をつきました。これで出産できそうだ、と思ってよつんばいに。最初はまだ上のほうにいるな、という感じでしたが、だんだん下りてきて、赤ちゃんに『がんばって! 一気に行こうね!』と声をかけたらグッ、グッツ、グググーッと下りて来ました」
8時13分、3445gの男の子誕生!
8歳の長女が赤ちゃんのへその緒を切った
陣痛から約1時間。生駒さんの予想通り、スピード出産でした。子どもたちを引き連れて助産院に行くと言う出産なら、やはり危険だったかもしれません。
へその緒は、8歳の生駒家唯一の女の子が切り、産湯につけていないのにきれいな姿で、きょうだいたちが代わる代わる抱っこ。
病院だと会陰切開をするけれど、助産師さんは切開しないので、赤ちゃんも血まみれになったりしていません。そういうところも助産師さんの出産のよい部分です。
パパが育休を取り、家事や上の子たちの育児を担う中心に
出産にあたっては、パパが3か月間の育休をとったので、朝ご飯のおにぎりはパパに握ってもらう。「体に染み渡っておいしかったです」(生駒さん)
両親などの手を借りにくいコロナ禍にあっては、自宅出産でパパが育休や産休を取ることは、もはやマストといえるでしょう。特に産後すぐは、産婦は体を休めたいので、いつ出産となってもすぐ対応できる家族の存在は心強いです。
子どもたちは、母と赤ちゃんの姿を横目にパパとともに保育園や学びの場へとでかけていきます。
いつもの日常の中に自宅出産はある
「いつもの日常の中に、さりげなく出産が入り込んでいる感じ。とはいえ、助産師さんが出産後2時間は様子をみてくれる。ものすごくくつろげて、自宅出産って楽だなぁと思いました」(生駒さん)
その日の夜は、いただいた牛肉で家族そろってすき焼きのお祝い。乾杯は、赤ちゃんと生駒さんが寝ている和室にみんなが集まって。肉はダイニングテーブルで焼いて、お子さんが持ってきてくれる。
「新型コロナウイルスの感染対策で、今はどの病院も出産後はなかなか家族も会えないですよね。うちも、病院での出産だったら、人数も時間も限られるから、ほかの家族とはリモート面会かな、と思っていたんです。自宅出産だと「産む」「産まれる」は母と赤ちゃんだけの話ではなくて、『家族の生活の中に、私と赤ちゃんがなじませてもらっている』という感じがします」。
聞いているだけでほのぼのします。
助産師さんも毎日来てくれて、生駒さんの血圧や子宮の収縮具合を見たり、赤ちゃんの体重の記録をしたり。「子宮が収縮していて痛い」「赤ちゃんが寝ない」などという悩みも深くうなづいて聞いてくれ、アドバイスもしてくれる。自宅出産のよさをかみしめた生駒さんでした。
自宅だと上の子が甘えてくるのを防げない、休めない!
でも、自宅出産には大変な部分もあります。
上の子たちといつも一緒だから「なごむ、移動しなくてラク」な反面、母子だけでくつろぐことができません。まだ小さい2歳の5男くんはママの布団に入りたがり、土日になればきょうだいたちはフリースクールや保育園にも行かないので、家じゅうガヤガヤ。赤ちゃんが寝ている間に仮眠を取ろうと思ってもだれかが何か言ってきて、疲れが取れない……。
そんなとき、どうしたらいいでしょう?
ヘルパーさんや福祉送迎タクシー、使えるものはどんどん使う
生駒さんは、「家族だけをリソースにするのはやめようと思っていました」とキッパリ。これまで何度かお願いしたヘルパーさんに依頼して、出産後すぐに家事を手伝ってもらうことに。週末も同様にお願いし、その間、家事から解放されるパパは子どもたちを連れて外出。これで生駒さんも安心してゆっくり休めます。
「自分たちだけでがんばるのではなくて、人の手を借りるほうがいい。きょうだいが少なくても家事は毎日あるのですからね」と生駒さん。
自治体ごとの産後ケアサービスを把握し、契約までしておく
生駒さんは、ヘルパーさんに週に2,3回ずつ、家事をお願いしました。産前産後の家事をフォローしてくれるヘルパーさんは、各自治体が補助を出してくれているケースが多く、1時間2000円以下で頼める事業所が多いようです。
また、条件はありますが、産後ケアのためのショートステイ(赤ちゃんとママがお泊まり)、デイケア(赤ちゃんとママが日帰りでヘルパーさんのいる場に出向く)などのサービスのある自治体も。
ヘルパーさんでなく、看護師が訪問して家事も育児も手伝ってくれるナーシングドゥーラや、上のお子さんを自宅で、また担当者の家で預かるファミリーサポートのシステムもあります。生駒さん宅では、保育園などの送迎は育休をとったパパが担ってくれましたが、それが無理なら、お子さんを園まで送ってくれる福祉送迎タクシーを使う手もあります。
これらは自宅出産でなくても、病院で出産した人でも利用することができるので、このコロナ禍で里帰り出産ができない、という人は、住んでいる自治体で、どんなサービスがあるか、あらかじめしっかり調べて契約などをしておくと安心できます。
緊急事態宣言が出てしまうと、ヘルパーさんの状況なども変わることがあるので、「緊急事態宣言が出たらどうなるか」もあわせて聞いておきましょう。
自宅出産はお財布にもやさしかった
さて、最後に自宅出産のよいところをもうひとつ。
「宿泊しないので、全体的に病院や助産院での出産より、費用が安いですね」。
生駒さんの場合は昼間の出産で、出産までの時間が短かったこともあり、健康保険協会からの※出産育児一時金を差し引いて1万1000円プラス程度ですみました。
※出産育児一時金は全国健康保険協会、国民健康保険とも現状は42万円です。申請手続きが必要です。また、自治体によっては別途お祝い金が出ることもあります。
「その安かった分を、ヘルパーさんなどの外部サービスに充てて体を休めると考えるとよいと思います。産後の体を休めることは、あとあとの健康のためにも絶対に大事。そこはがまんしてはいけないですね」
パパママにとって「遠い存在」だったかもしれない自宅出産。少しは近い存在になったのでしょうか。もし実行を考えるなら、生駒さんの体験談から知った以下のことをもう一度おさらいしておきましょうね!
自宅出産のポイント まとめ
自宅出産できるか判断するうえで
●妊娠後早めの段階で自宅出産を家族と話し合い、合意の上で準備。
●自宅で赤ちゃんを取り上げてくれる信頼できる助産院や助産師を選ぶ。
●自然分娩ができなかった場合にあらかじめ受け入れる体制になっているクリニック、そして万が一の危険があるときのための大病院と連携し、それぞれ診察を受ける。
家族とあらかじめ準備しておくこと
●出産直前や出産後の家事や上のきょうだいの育児の計画を作っておく。
●家族に産前産後の家事や育児、ケアをどう割り振るかを計画・共有しておく。
●産後の助産師さん、ヘルパー、ナーシングドゥーラ、子育て支援員などのサービスへの加入とサービス導入の手配をしておく。
●出産する部屋を決めておき、片付けておく。
出産直後をシミュレーションして
●赤ちゃんが最初に身につける産着やオムツなどは自分で用意。
●布団上で食事ができるような食事台があるとよい。
●出産直前は三密を避けて体調をよく整えておく。
●産婦は絶対無理しない。産後はできるだけ休む体制で。
取材・文/三輪 泉