教育費は、どのタイミングでいくら必要になるかが予測できるため、医療や介護などの費用に比べると準備がしやすいお金だといわれています。どの程度の金額を目標にして、どうやって貯めていけばよいのか、気になるポイントをお金の専門家にうかがいました。
目次
わが家の教育の「ゴール」を決めよう
習い事をさせたり、私立校に進学させたり、お金をかけようと思えばいくらでもかけられるのが教育費の特徴です。「まわりがやっているから」と流されると、思わぬ出費につながることも。まずは「わが子にどんな大人になってほしいのか」という最終ゴールをイメージしたうえで、そのゴールにつながる習い事や進学先などを選ぶという考え方が大切です。「人は人、うちはうち」と考え、わが家のゴールにつながるものにお金を使うことを心がけましょう。
子育て家庭の貯めどきはいつ?
小学校6年生までが教育資金を貯めるチャンス
教育資金を貯めやすいのは、子どもが生まれてから小学校6年生までだと考えましょう。ただし、保育園に通う場合、0〜2歳のうちは保育料が高いため、その期間は除いてもよいでしょう。
3〜5歳は幼稚園でも保育園でも幼児教育・保育の無償化の対象となったので、給食費や通園バス代などは自己負担となるものの、以前に比べると貯金がしやすくなりました。
中学・高校になると、公立校でも塾代などで出費が増えがちなので、子どもが小さい今のうちが「貯めどき」だといえます。
児童手当は使わずに貯金を
子どもが0歳のときから支給される児童手当(所得制限あり)は、生まれ月によって総額は前後しますが、使わずにずっと貯め続けていくと、中学卒業の時点までに約198万円の貯金ができます。
これとは別に、子どもが生まれてから小学6年生の誕生日まで毎月1万5000円ずつ貯めていくと216万円になり、児童手当分と合計すると約414万円の教育資金を無理なく貯めることができます。
教育資金は「家計に余裕ができたら貯める」のではなく、「今からコツコツ貯めていく」のが最も確実な方法です。
高校までの学費は貯金は使わず家計から
保育園や幼稚園の保育料、小・中・高校の学費や塾・習い事の費用は、教育資金用の貯金を切り崩すのではなく、毎月の家計の中から出すことを心がけましょう。これは言い換えると、高校までは毎月の収入の範囲内で通える学校・塾・習い事を選ぶ必要があるということ。私立中学を受験する場合は、塾代がかさむケースも多いため注意が必要です。
大学進学のための教育資金はきちんと貯めたうえで、高校までは入学後の学費のみならず、受験対策にかかるトータルの費用を毎月の収入の中から出せるのかどうかを、前もってよく検討しておきましょう。
教育資金っていくら貯めればいいの?
高校卒業時までに最低300万円できれば500万円を
文部科学省の調査では、高等教育機関(大学・短大、高専、専門学校)への進学率は8割を超えています。それに備えて、子ども一人あたりの教育資金を高校卒業時までに最低で300万円、できれば500万円貯めるのが目標です。
500万円あれば、国公立と私立の文系・理系(医学部・歯学部を除く)の大学4年間の学費はほぼまかなえます。ただし、子どもがひとり暮らしをする場合は月13万円くらいの生活費が必要といわれ、その中で親からの仕送りの平均額は月7万円くらいとのデータも。家具や家電、引っ越し料金などの準備費用がかかることも想定し、早いうちから計画的に貯めることが大切です。
中学・高校の教育費の総額
中学・高校とも公立の場合
約284万円(6 年間)
中学を私立にしたら
+約275万円
高校を私立にしたら
約154万円
私立高校の授業料は、「高等学校等就学支援金制度」により、所得に応じて実質無料となる場合もあります。
大学でかかる学費(4年間)
国立 約242 万円
私立文系 約400 万円
私立理系 約540 万円
(医学部・歯学部を除く)
ひとり暮らしの費用
仕送り(月7万円× 4 年間)
336万円+準備費用50万円=合計386万円
きょうだいの場合は一人ずつ別口座で貯める
教育資金を貯めるにあたっては、子ども名義の口座をつくり、家計用の口座とは分けて管理するようにしましょう。きょうだいがいる場合は、一人ずつ口座をつくり、誰の教育資金なのかが一目でわかる状態にしておくことが大切です。きょうだい2人分、3人分の「貯めどき」が重なると大変かもしれませんが、子どもが小さいうちに「毎月〇〇円ずつ積み立てる」という仕組みを確立してしまうことが、きょうだいがいても確実に教育資金を貯めていくコツです。
奨学金に頼らなくてもよいプランが理想的
現在、大学生の約半数は奨学金を利用しています。奨学金のうち、「給付型」は一部に限られ、多くは卒業後に返済しなければならない「貸与型」です。貸与型では、無利子のものは成績や家庭の経済状況などの条件が厳しく、利子つきのものを選ばざるを得ないケースも少なくありません。卒業後、子ども本人が10年以上にわたって奨学金の返済に追われることも珍しくないため、大学の費用はできるだけ奨学金に頼らずにすむ貯蓄計画を立てましょう。
教育資金を無理なく貯めるには?
家計から先取りして貯める仕組みをつくる
毎月の家計から「余ったお金を貯金しよう」と考えていると、お金を使い切ってしまって貯められないことが多いもの。教育資金は「先取り」で貯める仕組みをつくりましょう。
例えば、普通預金から毎月、自動的に指定した金額が振り替えられる「積立定期預金」を活用すれば、自分で普通預金口座から定期預金口座にお金を移し替える手間を省きながら、教育資金を確実に貯めていくことができます。会社勤めなら「財形貯蓄」を利用するのもよいでしょう。
「なんとなく」の出費や固定費を見直す
ムダな出費を減らすには、まずは毎月の固定費を見直してみましょう。スマホの契約プランを見直したり、格安スマホに替えたりするだけでも、年単位では大きな節約に。
また、初月無料といったサービスにひかれて契約した動画などのサブスク(定額配信サービス)や、年会費のかかるクレジットカードなどで利用していないものがあれば解約を。
年に1回は家計簿や通帳を見直し、不要なのになんとなく払い続けているものがないかをチェックしましょう。
習い事は総額とやめどきを考えて
習い事は月額に目が向きがちですが、道具を揃え、一定の成果を上げられるまで続けた場合にトータルでかかる金額を概算し、それでもやる意味があると思えるものだけを厳選しましょう。水泳であれば「平泳ぎまでマスターした時点でやめる」というように、やめどきを前もって決めておくと、やめるときに子どもが引け目を感じずにすみます。
自治体の広報誌に掲載されている割安の体験講座などで、まずは「お試し」をしてみるのもおすすめです。
将来的に収入を増やすことを考える
子どもが小さいうちは子育てに専念する場合も、将来は働くことを選択肢に入れると、毎月の家計にも余裕が生まれ、教育資金を貯めやすくなります。
会社に勤めれば、当座の収入が増えるだけでなく、厚生年金に加入でき、国民年金よりも老後の年金額が増えて保険料の半分を会社に負担してもらえるなど、将来の収入の分も含めたメリットが。
自分がどのような働き方をしたいのかを考え、情報収集を始めてみるのもよいでしょう。
定期預金だけじゃない!教育資金を貯める方法
学資保険
納めた保険料に応じて、教育費がかかる時期にまとまったお金を受け取れる保険。契約者(親)が死亡・高度障害の場合、払い込みが免除されたうえで満期に保険金を受け取れます。
保障がシンプルで、返へん戻れい率(払う総額に対して受け取れる金額の割合)の高いものがおすすめ。
低解約返戻金型終身保険
死亡保障の終身保険の中では保険料が割安。払い込み完了以降は返戻率が100%を超え、解約せずに据え置き、貯金として利用することも可能。死亡保障も一生涯続きます。
ただし、教育費がかかる時期に払い込みが完了するよう調整が必要で、途中解約すると元本割れのリスクも。
つみたてNISA
金融庁が定めた条件を満たす投資信託で、長期で貯めるのに適した商品が多いのが特徴。毎年40万円まで積み立て可能。開始した年から20年間、利益に対する税金が免除されます。
元本割れのリスクもあるため、定期預金などで最低限必要な金額は確実に貯めたうえでの活用を。
記事監修
ファイナンシャルプランナー。女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」を設立し、代表を務める。一般社団法人金融学習協会理事。
『ベビーブック』2021年11月号別冊
文/安永 美穂 構成/童夢 イラスト/伊藤和人