毎日の食事作りで欠かせない、でも、案外気を配っていないのが「油」ではないでしょうか。育脳ごはんのパイオニアである管理栄養士の小山浩子さんによれば、油の取り方で脳の働きかたに差がつくとのこと。脳は12歳でほぼ完成してしまうのですから、成長期の子どもならばなおさらです。正しい油の知識を是非、知ってください。
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かしこい脳とは、頭が柔らかいということ。決め手は良質な油です
物事の見方に偏りや固執があったり、考え方が柔軟ではないことを「頭が固い」といいますよね。逆に、考え方が枠にとらわれず適応力があることを「頭が柔らかい」と表現します。
これは、単なる比喩ではありません。脳の中の神経細胞は「ニューロン」と呼ばれ、その数は脳全体では千数百億にもなるといわれています。私たちの脳は、ニューロンが複雑につながりあいながら、巨大なネットワークを形成しているのです。
視覚や聴覚を通して入ってきた情報は、ニューロンを通して思考され、記憶されます。夥しいニューロンは、「シナプス」と呼ばれる神経伝達物質でつながっています。シナプスが、ほかのニューロンに情報を伝える役割を担っているのです。
たとえて言うなら、神経伝達物質(シナプス)はボール。そして、神経細胞(ニューロン)同士で情報のキャッチボールが行われるわけです。このシナプスの数が多く、情報の受け渡しが上手に機能している脳がかしこい脳ということになります。そのためには、脳の神経細胞が柔らかくなくてはなりません。まさに、「頭が柔らかく」なければ、かしこい脳にはならないのです。
脳は約60%が脂肪でできています。食事から摂った油次第で、脳の神経細胞は柔らかくも固くもなるのです。
良質な油は、「不飽和脂肪酸」の成分の油
油には、常温で液体のものと、固体の油があります。この二つは脂肪酸とグリセリンという分子から構成されており、まとめて油脂と呼ばれています。
脂肪酸は、人間のからだの細胞を作り、エネルギー源に必要な栄養です。脂肪酸の種類は20種類ほどありますが、おおきく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに分けられます。
脳を柔らかくする良質な油は、ズバリ、「不飽和脂肪酸」の成分を含む油。
「飽和脂肪酸」の油は「固体」、「不飽和脂肪酸」の油は「液体」と覚えておいてください。
脳にいい最強な油は、オメガ3系のアマニ油、エゴマ油
脳の細胞膜を柔らかくするオメガ3系「α−リノレン酸」の植物油
さまざまな研究結果から、不飽和脂肪酸成分が、脳のシナプスの発達に重要な役割を担っていることがわかりました。十分にある脳では、シナプスが盛んにつくられ、不足するとシナプスの数も減少してしまうのです。
「オメガ3(スリー)」と呼ばれる油をお聞きになったことはないでしょうか?
アンチエイジング美容や健康にいい油として近年、注目され広く知られるようになりました。正確には「オメガ3系脂肪酸」という成分を含んでいる油ということになります。
「不飽和脂肪酸」の成分の中でも「多価不飽和脂肪酸」のオメガ3系が、もっとも脳に良いとされる油です。青魚に多く含まれるDHAとEPAは、その代表格として皆さんもよくご存じだと思いますが、植物油に含まれるαーリノレン酸も体内に入るとDHAに変換され、DHAと同じ働きをします。
アマニ油や、エゴマ油が代表的なα-リノレン酸の油です。
オメガ6系は過剰摂取に注意!
また、同じく不飽和脂肪酸に分類されるオメガ6の成分はリノール酸。リノール酸の油には、グレープシードオイル、コーン油、紅花油などがあります。
リノール酸は、血液を凝固させたり、体内の炎症を促進したりする働きがあります。
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は、人体の中で作り出すことはできません。なので、必ず食品から摂らなければならない「必須脂肪酸」ですが、オメガ6脂肪酸成分のリノール酸は、コメ、小麦、肉や卵にも含まれているので、普通に食事を摂っている限り不足にはならず、むしろ、日本人は過剰摂取の傾向がありますので、要注意です。
オメガ3系の油の食事への取り入れ方
調理油ではなく、調味料として「ちょい足し」して使いましょう
アマニ油、エゴマ油の使い方ですが、基本的に加熱せずに生で使用します。α-リノレン酸は、加熱すると酸化してしまうので、炒め物や揚げ物などの調理油としてではなく、調味料として使いましょう。
もっとも簡単な使い方は、「ちょい足し」です。サラダやキムチ、納豆、みそ汁などにかける、ヨーグルトに加えるのもおすすめです。味のクセはないのでどんな素材にも合います。1日の摂取目安量は、成人で小さじ1杯程度、12歳以下の子どもの場合小さじ半分程度になります(参照;厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」)
知っておきたい、脳を固くする「トランス脂肪酸」のこと
飽和脂肪酸は、バターやラード、肉の脂身などに含まれますが、ある程度は人体に必要ですし、肉は良質なタンパク質を多く含む優秀な育脳食材でもあります。食べ過ぎない程度にほかの食品と合わせてバランスよくとれば問題はありません。
最も脳に悪い影響を及ぼすのが、「トランス脂肪酸」です。脳に運ばれるとDHAの働きを阻害すると言われています。実際に、トランス脂肪酸が占める割合の多い神経細胞では、情報伝達スピードが遅くなるという調査結果が報告されています。
「トランス脂肪酸」は、常温で液体の植物油や魚油から、半固体、または固体の油脂を製造する加工技術の一つである「水素添加」を行う際に作られます。油脂では、マーガリン、ショートニング。そしてそれらを原材料にしたスナック菓子や菓子パンなどに多く含まれます。これらの食品はなるべく控えるようにしたいものです。
日本では、食品中のトランス脂肪酸について、表示の義務や濃度に関する基準値はありません。しかし、最近では、大手コンビニエンスストアが、トランス脂肪酸の低減に取り組むなど自主的に対策を進めるなどの動きが活発になってきています。
脳の働きと摂取する油の質はとても密接な関係があります。成長期の子どもの食事には、良い油である不飽和脂肪酸を食事に上手に取り入れ、飽和脂肪酸の摂りすぎには注意したいものです。
教えてくれたのは
管理栄養士・料理家。料理教室講師、フードコーディネート、メニュー開発など幅広く活動。NHKをはじめ健康番組出演も多い。長年、「育脳」「食育」をテーマにした講座を開催して好評を博している。著書に『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』『「健康おやつ」で子どもに免疫力を育む』(小学館)『目からウロコのおいしい減塩 乳和食』(主婦の友社)など多数。
構成/Hugkum編集部 イラスト/『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』(小学館)より