子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。
たんぽぽのうた1 ついていってやれるのはその入口まで
ついていってやれるのはその入口まで あとは一人でおやすみ坊や
聞きたくて、知りたくて、うずうず
二十四時間態勢で子どもと一緒にいたときには、「眠り」の時間だけが、自分と息子を隔てていた。それが、だんだん手がかからなくなり、「ついていってやれるのはその入口まで」という場面が、このごろは増えてきたなあと感じる。小学校に入ったばかりのころは、校門の近くまで送っていったものだった。が、それでも「ついていってやれるのは入口まで」で、学校生活のことは、はりついて見ているわけにはいかない。(できることなら透明人間になって、ずっと様子を見ていたいものだと、今でも思うことがある)。放課後の学童保育や、野外活動の教室なども、みな入口までである。いったいどんな時間を、子どもは過ごしているのか、こちらは聞きたくて知りたくて、うずうずしているのだが、あまり前のめりになってしまうと、かえって子どもは話してくれないようだ。
たんぽぽのうた2 「いちねんせいひみつぶっく」の表紙には
「いちねんせいひみつぶっく」の表紙には「みるな」とありぬ見てほしそうに
「みるな」は、見て見て見て
子どもがまっすぐに世界と向き合う目は、身近な友人たちにも向けられる。息子が、せっせと書きためている「いちねんせいひみつぶっく」なるノートには、同じ学校に通う一年生達の秘密(?)が、たっぷり記されていて、まことに興味深い。表紙に「みるな」とあるので、一応聞いてみると「お母さんは見てもいいよ」とのこと。その顔には「見て見て見て」と書いてあった。
俵万智『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』より構成
短歌・文/俵万智(たわら・まち)
歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。最新歌集『未来のサイズ』(角川書店)で、第36回詩歌文学館賞(短歌部門)と第55回迢空賞を受賞。https://twitter.com/tawara_machi
写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
写真家。1977年生まれ。長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。最新刊『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)が発売中。