「本を読むといいことがあるの?」
その問いへの答えとして、本が大好きなくろねこが活躍する絵本『くろねこのほんやさん』をもとに、考えてみました。
「本を読めば、いろんなことができるし、何にでもなれる」
ボローニャ国際原画展入選・台北在住の絵本作家、シンディ・ウーメによる絵本『くろねこのほんやさん』に描かれるのは、本を読むのがだいすきなくろねこのおはなしです。
家族のねこたちがロボットづくりや、料理、楽器の演奏に誘っても、くろねこはただただ本を読むばかり。だって、「ほんを よめば いろんなことが できるし、なんにでも なれる」から。
そんなくろねこは、ある日、運命的な出会いを果たします。それは、町の小さな子どもの本屋さんのお手伝いの仕事。じぶんにぴったりな仕事に出会えて喜ぶくろねこは、本にかんする知識を活かして、立ち寄る子どもたちそれぞれに合った本を紹介していきます。本屋さんはしだいに町中に知れ渡り、大人気に!
ところが、ある日の大雨で、お店が水浸しになってしまい……。
「本が好き」な気持ちや、本の魅力を誰かに「伝えたい」という想いが、ぎゅっと詰まった本作。本を読むたのしさを教えてくれるだけでなく、読む人の「なにかを好きな気持ち」を応援してくれる作品です。
本がもたらしてくれるものとは
絵本『くろねこのほんやさん』の翻訳者は、『としょかんライオン』や『おさるのジョージ』シリーズの訳で知られる福本友美子さん。
本作を訳したいと思ったポイントについて、次のように語ります。
本を読んでいる間はだれだって、目の前にあるのとは別の世界へと自由に旅立つことができますよね。行先は遠い外国だったり、空想の世界だったりとさまざま。自分ではない誰かの人生や感情を経験することだって!
そんな、なにげない日常をひとつ豊かにしてくれる「本の魅力」を、『くろねこのほんやさん』は軽快なタッチでわたしたちに教えてくれます。本の中の世界が無限のたのしさに満ちていることが、上の引用ページからもひしひしと伝わってきますね。
読み聞かせはここに注目すると、絵本がもっと楽しくなる
くろねことおなじく、福本さんもまた、外国語で綴られた物語を日本語に翻訳することで、大好きな本の魅力を読者へ伝えようとするひとり。
絵本を翻訳する際には、「読み聞かせ」されることを前提に、言葉の扱い方を気に掛けているのだそうです。福本さんが「絵本の翻訳で大切にしていること」を元に、絵本の読み聞かせ時に着目したいポイントを探ってみました。
口触り・耳触りの心地よさを味わう
おなじ文章でも、音読か黙読かによって、ちがった印象を受けることがありますよね。福本さんはご自身でも何度も音読をして、声に出したときの読みやすさや響きの良さ、そして間合いを試行錯誤するのだそうです。読み聞かせをする際は、物語の内容はもちろん、言葉の口触りや耳触りもじっくりと味わってみましょう。
文章の個性をたのしむ
(中略)
本作を読んだ印象は、難しい言い回しや奇をてらったところがなく、わかりやすい言葉遣いで、とても素直に書かれているということでした。まじめで一生懸命な主人公の性格をそのまま表しているような語り口が、読者にも伝わるように訳したいと思いました。」
翻訳をする際に、まず福本さんがする作業は「文章の個性」を感じ取ること。本作『くろねこのほんやさん』の個性についても、読み聞かせをしながらお子さんといっしょに考えてみましょう。ちょっとした言い回しを他の絵本と読み比べてみるのもたのしそうです。
「本が好き」が広げる、好きなことを見つける力
「子どもたちには、自分の好きなことや得意なことを見つけて、それを伸ばしていってほしいといつも願っています」、と福本さん。「それが他の人たちとは違っていても大丈夫。好きなことをやっているときは誰でも幸せになれますからね」と、すでに好きなことがある子や、これから見つけていく子どもたちを励まします。
自分が好きなものはなにか。なぜそれが好きなのか、また、自分の好きなことの魅力はどういったところか。そう自問自答してみることが、「好き」をみつけ、伸ばすための第一歩ではないでしょうか。あらゆる経験を疑似体験できる読書は、そんな自問自答のきっかけになるはず。「本が大好き」で、本のために奔走するくろねこの姿もまた、「好き」の発見と育みを後押ししてくれるかもしれませんね。
構成・文/羽吹理美
本を読むのが何よりも大好きなくろねこが、町の本屋さんで働くことになりました。
本にかんする知識を活かして、立ち寄るこどもたちにぴったりな本を紹介していくと、本屋さんはたちまち大人気に! ところが、ある日の大雨で、お店が水浸しになってしまい……。
「声に出して読みやすく、耳で聞いて心地いい」文章と、ボローニャ国際絵本原画展に入選した若手アーティストの伸び伸びした絵が楽しい、読み聞かせにおすすめの一冊です。