子どもをコントロールする手段にしていませんか? 2歳~3歳児の【ほめ方・叱り方】の大原則を見直す

2~3歳児は、「話せばわかる!」とは言えない世代。子どものため、と思って叱れば大泣きされるし、頑張ってほめても、とくに様子はかわらない。叱り方やほめ方、本当にこれでいいのかな……?そんな悩みに、多くの子どもを見てきた保育士がお答えします。

大切なのはテクニックではなく、子どもと向き合う気持ち

ほめられてうれしかったこと、叱られて悲しかったこと。子どもの心には「親に言われたこと」が蓄積されていきます。さらに、子どもは周りに合わせて生きる力が強いため、「期待に応えよう」「悲しませないようにしよう」などと頑張りがち。親にそんなつもりはなくても、「親の言うことを聞く」方向に育っていくものなのです。

子育ての目標は、「自分で決めて、考えて、行動できる人」を育てること。そのために必要なのは、子どもがいつでも「自分基準」で動けることです。

大好きなお絵かきをしているときに「これ、きれいだね!」と言われたら、やる気が出て、もっときれいに描こうと工夫したくなるでしょう。でも、「絵ばっかり描いていないで、お友だちと遊びなさい」と叱られたら?  叱られないために、自分がしたいことより親が望むことを優先する子になってしまいます。こうしたことが続くと、「他人からの評価」を基準に行動するようになっていくのです。

絵を描くのはいけないことではないはず。それなのに叱ってしまうのは、「友だちと遊んでほしい」という親の希望に合っていないからでしょう。親が望まないことをすると叱り、望むことをすればほめる……。親基準の「叱る」「ほめる」が子どもをコントロールする手段になってしまうと、本来のやる気や好奇心をじゃまし、子どもの可能性を狭めてしまうこともあります。

そもそも「叱らなければならないこと」は、多くありません。そしてほめるのだって、本当にほめたいときだけでいい。大切なのは「ほめ方」「叱り方」のテクニックではなく、子どもが感じ、考えていることを尊重し、共感しようとする姿勢です。

とはいえ、頭ではわかっていてもうまくできなかったり、迷ったりするのが子育てです。私自身、成人した子どもから「あのときの叱り方はいやだった!」などと評価されることがあります。でも完璧な親になれる人などいないのですから、失敗したら反省し、次に生かせばいい!  こんな繰り返しも、親と子が一緒に成長していく、楽しい子育てのプロセスなのだと思います。

叱らなければならないとき

■命に関わる危険があるとき
■他人に「してはいけないこと」をしたとき

ほめたいとき

■子どものことを心から「すごい!」と思ったとき

「叱る」の悩み

叱る前に、ちょっと考えてみてください。その「コラ!」は、子どもに「怒り方」を教えているだけかもしれません。

Q.スーパーで大騒ぎ! 人前でどう叱る?

A.めばえっ子に「静かにお買いもの」は難しい

「公共の場所では静かに」「商品にはむやみにさわらない」などは、大人の理屈。幼い子どもには通用しません。つまり、「騒がない・動かない・さわらない」などが求められる場は、めばえっ子にはまだ早い! ということ。

大人の都合で「正しい社会の常識」を教えるのではなく、連れて行かずにすむ工夫や滞在時間を短くする努力をしてみましょう。

Q.友だちをたたいてしまいました。前にも叱ったのに……

A.叱るだけで終わりにしないで

暴力をふるうのは、「叱らなければならない」こと。でも、叱って終わりにしてはいけません。落ち着いてから、「どうしてたたいちゃったの?」などと聞いてみてください。どんな行動にも、必ず理由があるからです。

理由がわかったら、「絵本をとられたくなかったんだね。次からは口で言えば大丈夫だよ」などと共感を示し、対処法をアドバイスしましょう。よくない行為を叱るだけでは、子ども自身の「こんなときはどうする?」と考える力が育たないのです。

Q.つい、強い言葉で叱ってしまいます

A.カチンときたらその場を離れてみましょう

怒りをそのままぶつけるような叱り方は、子どもを傷つけてしまいます。もっとも避けたいのは、乱暴な言葉で叱ること。「大人に対して使わない言葉」は、子どもにも言ってはいけません。

ムカッときそうになったら、他の家族に子どもを任せて別の部屋などに一時避難を。物理的に距離をおくと、自然に気持ちも静まります。子育てにつらさを感じるなら、ひとりで抱え込まず、地域の園や子育て支援などを積極的に利用してください。

Q.何回叱ってもいたずらをやめません

A.毎回、初めてのつもりで叱りましょう

「一度言えば伝わるはず」なんて、大人の思い込み。すぐに忘れるのが、子どもです。いたずらを繰り返すのは困らせようとしているわけではなく、以前叱られたことを忘れているだけなのです。

「先週も言ったのにどうしてわからないの!」なんて過去を蒸し返してはダメ。子どもが「ダメな子」と言われたように感じて傷つくだけです。子どもは過去ではなく、未来を見て生きているのだ!……と思って、毎回、新鮮な気持ちで叱ればよいと思います。

Q.子どもが「ごめんなさい」を言えません

A.「ごめんなさい」は本当に必要なときだけでいい

「ごめんなさい」は、自己否定の言葉でもあります。だって「自分がしたことはよくなかった」と言っているのですから。こんな重い言葉は、心から思ったときにだけ口にするべき。むやみに言わせるのは、「言えば許される言葉」を教えていることにしかなりません。

子どもが何かしでかしたときは、叱る前に理由を聞きましょう。心が伴わない「ごめんなさい」を言わせるより、トラブルの理由や、そのときの子どもの気持ちを知ることのほうが大切です

「ほめる」の悩み

たくさんほめたいと思っているのに、なんだかうまくほめられないのは……なぜでしょう?

Q.子どものどんなところをほめればいい?

A.まずは「好きなこと」を見つけてみましょう

子どもの「すごい!」は、「好きなこと」の中で生まれます。子どもが何かに夢中になっているときの様子をじっくり見てみましょう。大人でもかなわないようなことをしている瞬間が、きっとあるはずです。

「ほめるところがわからない・見つからない」と感じるのは、「親がしてほしいことをする」のを期待しているからかもしれません。親の側が、その子ならではの「すごいところ」に気づく力を養うことも大切ですよ。

Q.子どもはできるだけたくさんほめたほうがいい?

A.大切なのは回数を気にせず本気でほめること

叱るよりほめるほうが伸びるのは事実ですが、だからといって何でもかんでもほめる必要はないと思います。子どもは他人の気持ちに敏感です。そのため、むやみに「すごいね」「いいね」と連発しても、口先だけであることを見抜かれてしまいます。

ほめたいのは、本気で「すごい」と感じたこと。「子どもを伸ばすためにほめる」のではなく、「よいと感じたことをほめる」のです。心からのほめ言葉は、どんな表現であっても子どもに伝わると思います。

Q.子どもが喜ぶ上手なほめ方って?

A.「すごいこと」をもっと見せてもらって!

ダンスが好きなAちゃんは、よく「先生、歌って」と言ってきました。私が歌うと、楽しそうに踊ります。私はAちゃんのダンスをもっと見せてほしくて、1時間歌い続けたこともありました。

「ほめる」は評価することではありません。子どもの好きなことにとことんつきあい、一緒に楽しむことこそ、「すごいね!」が伝わるほめ方なのではないかな、と思います。

Q.ほめると調子に乗るタイプなのですが……

A.どんどん調子に乗らせましょう

すばらしい!  調子に乗っているときは、子どもが伸びるときです。「イェーイ、できる!」という自信や前向きな気持ちが、意欲や探求心を生み出すからです。何かができるようになるために本当に必要なのは、教えられることではなく「やりたい!」という気持ち。この気持ちさえあれば、子どもは驚くほど伸びていくのです。

だから、「調子に乗るんじゃありません!」なんて叱らないで。英才教育をしているつもりで、調子に乗らせておきましょう。

Q.「叱る」「ほめる」基準は夫婦で統一するべき?

A.むしろ違っていたほうがいいぐらい!

夫婦はもともと他人同士で、考え方や価値観が異なるのは当然。「叱る」「ほめる」ポイントが違うことがあってもよいと思います。

親の方針が違うと子どもが混乱するのでは?  と思うかもしれませんが、いろいろな価値観を知ることは、子どもが「自分はどうかな?」と考える力を身につけることにつながります。また両親の方針が一致していると、子どもが追いつめられてしまうことも。叱られたときの「逃げ場」があることも、子どもの救いになるでしょう。

教えてくれたのは

島本一男先生

諏訪保育園(東京・八王子市)園長。著書に『集団っていいな:一人ひとりのみんなが育ち合う社会を創る(共著)』(ミネルヴァ書房)など。
「ダメ! と言われたことをあきらめずにまたする子には、無限のエネルギーを感じます(笑)」

『めばえ』2021年10月号 イラスト/すみもとななみ 構成/野口久美子

親と子をつなぐ、2・3・4歳の学習絵本『めばえ』。アンパンマン、きかんしゃトーマスなど人気キャラクターと一緒に、お店やさんごっこや乗り物あそび、シールあそび、ドリル、さがしっこ、めいろ、パズル、工作、お絵かきなど、様々なあそびを体験できる一冊。大好きなパパ・ママとのあそびを通して、心の成長と絆が深まります。

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