歌人・俵万智の「子育てはたんぽぽの日々」/『星の王子さま』が教えてくれたこと

子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。

たんぽぽのうた1

恋しい時わからない時よわい時 ひらいてごらん『星の王子さま』

中二女子の心をわしづかみにした『星の王子さま』

サン・テグジュペリの名作『星の王子さま』に出会ったのは、中学二年のときだった。あこがれていた英語の先生が「読んでごらん」と貸してくださった。それだけでも舞い上がってしまうようなできごとだが、この本自体にも大変魅了された。大人というものへの懐疑が芽生え始める年頃であり、恋や心というものに興味を抱きはじめる年頃でもある。そんな中二女子の心をわしづかみにしたのは、たとえば次のようなフレーズだ。
「だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、たった一輪の花がすきだったら、その人は、そのたくさんの星をながめるだけで、しあわせになれるんだ」
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」

たんぽぽのうた2

ウワバミに吞まれたゾウの絵をほめてやれる大人になりたい、なろう

母になってから読み直し、気づかされたこと

立体絵本になった豪華版をプレゼントされたときには、息子と一緒に毎晩少しずつ読み進めた。小学一年生のころのことだから、かわいらしい絵と、ヘンテコな大人たち、それにキツネと友だちになるあたりに興味を持ったようだった。私より早い出会いを果たした息子にも、人生の節目節目で読んでほしいなと思う一冊だ。そして、最近また読みなおしたのだが、自分でも意外なところに心が立ち止まった。
『星の王子さま』の冒頭には、ウワバミがゾウを呑み込んでいるところを想像して描いた絵が出てくる。語り手である「ぼく」にとって、第一号の絵だ。ウワバミの中身は描かれておらず、ゾウのかたちにふくらんだそれは、一見すると帽子のようだ。大人たちがみな、それを帽子としてしか見ないものだから、「ぼく」は、続いて中身がゾウであることをわかるように描く。それが第二号の絵だ。
「すると、おとなの人たちは、外がわをかこうと、内がわをかこうと、ウワバミの絵なんかはやめにして、地理と歴史と算数と文法に精をだしなさい、といいました。ぼくが、六つのときに、絵かきになることを思いきったのは、そういうわけでした。」
あーこれと同じようなこと、自分も言ってるんじゃないかな、と思った。(中略)もし、ウワバミの絵をほめられたら、彼は将来素晴らしい画家になったかもしれない。大人の常識にしばられた、何気ないひとことが、子どもの可能性や想像力の芽を、摘んでいる……そんな教訓として、この場面が響いてきた。自分が大人になり、子育てをするようになったからこそだろう。

俵万智『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』より構成

俵万智さんの初めての本格個展が、角川武蔵野ミュージアムで12月5日まで開催中!

俵万智 展 #たったひとつの「いいね」 『サラダ記念日』から『未来のサイズ』まで

短歌・文/俵万智(たわら・まち)

歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。最新歌集『未来のサイズ』(角川書店)で、第36回詩歌文学館賞(短歌部門)と第55回迢空賞を受賞。https://twitter.com/tawara_machi

写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。1977年生まれ。長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。最新刊『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)が発売中。

ブログ: http://adublog.exblog.jp/

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