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実在する部活をモデルに生み出された「ザッケン!」
高校を舞台にした、「学園モノ」「青春モノ」のマンガ。かつて高校生だった!?みなさんにも、お気に入りの作品がきっとあるのではないでしょうか。
今回ご紹介する「ザッケン!」も、ジャンルとしては同じ。ですが、ちょっぴりテイストが違います。この物語の特徴を一言で表現するなら「“優しい”部活ストーリー」。いわゆる青春マンガのような熱さや派手さはないけれど、心がほっこり温かくなり、自然と笑顔になれる物語です。
ちなみに、「ザッケン」とは雑草研究部のこと。東京都立日比谷高校に実在する部活動で、この作品の制作にあたり、実際に取材協力もいただいているそうです。
なぜ、日比谷高校の雑草研究部をマンガの原作に?原作者・上村奈帆さんを直撃!
原作者の上村奈帆さんは、取材時に感じた印象について次のように語ります。
上村さん:「マンガの原作となる企画を考えていた時に、日比谷高校に雑草研究部があることを知り、興味を持ちました。実際に取材に伺わせていただいて感じたのは、生徒がみんな、とても澄んだ心を持っているということ。
一般的に10代半ばの頃は、多感な時期で何かと周りの目を気にしてしまいがちだと思うのですが、雑草研究部の生徒たちは、それぞれが自分の興味に対して真っ直ぐで素直。一方で、周りの仲間も尊重できる。それがスタンダードな雰囲気でした。すごく純度の高い子どもという言い方もハマれば、すごく大人という言い方もハマるような生徒たち。あの空気の中での学校生活は、息がしやすいだろうなと思いましたね」
もともと物語に描きたかった世界観が、実際にそこにあったと上村さん。作品づくりを進める中で、日比谷高校の雑草研究部が、迷った時のモデルとしていてくれることが心強いと話します。
青春ってなに?リアルな高校生ライフを描いた物語
ここで「ザッケン!」のストーリーをほんの少しご紹介します。
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二人の高校生と雑草が“息吹く”、青春部活ストーリー。
青春真っただ中の高校一年生の春。
杉野ゆかりは、まだ夢中になれることを見つけられていない。
自分のことを「青春不適合者」かもと感じている。
そんな中出会ったのは、「雑草命」の徳田みみ=ドクダミちゃん。
校内の雑草を愛でまくりで、「雑草研究部=ザッケン」を復活させたいと思っていて…!?
―――――◆
漠然と憧れを抱いていた花の女子高生生活。しかし実際は、夢中になれるものも見つけられず、自分はまるで、ただ生えているだけで何の意味もない雑草のようだと嘆くゆかり。
一方、ゆかりの目にはつまらないものとして映っていた足下に広がる雑草の世界を、キラキラした目で、まるで宝物のように見つめているみみ。
この両極端なキャラクターと、二人が織りなすストーリーは、一体どんな風に生まれ、そこにどんな思いを託しているのでしょうか。上村さんに聞きました。
登場人物の様々な部分を重ね合わせてみて
上村さん:「私は、自分の中にある言語化できていない思いとか、自分でも理解できていない気持ちみたいなものを、整理するために物語を作っているところがあります。『ザッケン!』も同様で、私自身、ゆかりの気持ちも、みみの気持ちも、両方が自分の中にあると感じており、それらを二人のキャラクターに注ぎ込みながら、ストーリーを書いています。
『ザッケン!』への思いは、まさに1話に詰まっています。
ゆかりはみみとの出会いで、目線を変えると目の前に広がる世界が違って見えるかもしれないということに気付きます。つまらないと思っていたことも、角度を変えて見れば面白いと思えるかもしれないと。雑草はまさにそういう存在で、道端で何度も見たことのあるものでも、調べてみると名前の由来が面白かったり、いろんな効能があったりと、気付きが多いんですよね。
青春って、同調圧力的な安心感とか満足感の中だけにあるものではないと思うのです。小さいけれど、自分の中に確かに感じられるワクワクみたいなものの中にもきっとある。作品中のみみの決めゼリフでもある「息吹く~」という感覚が、まさにそれだと思います」
「ザッケン!」は、ストーリー以外にも見どころが。1話につき1雑草にフォーカスし、各話の最終ページには、登場した植物の紹介や豆知識をまとめたコラムを掲載。自然農の実践家でもある中尾佳貴氏が監修を担当。イラストは、このマンガの作画を手がけているプクプク氏が細部にまでこだわって描いています。さらに、全ての漢字にルビが付いているので、小学生から大人まで、幅広い世代で楽しめるところもうれしいポイントです。
「ザッケン!」を読んで、親子で外に出かけよう!
最後に、HugKumの読者のみなさんに向け、上村さんからメッセージをいただきました。
上村さん:「雑草は、一歩外に出ればちゃんと生えていてくれます。お子さんと道を歩いている時に見つけた雑草からふとストーリーを思い出し、朗らかな気持ちになったり、自身の過去の出来事と重ねて思い出に浸ったりと、物語を読んでくださったみなさんのささやかな毎日に、ほんの少しでも彩りを与えられたらいいなと。そして、みなさんの心にハッピーの層が増えるとすごくいいなと思っています」
ちょっと目線を変えれば、何気ない日常の中にもハッピーがいっぱい!まさに息吹きの季節の今、「ザッケン!」を読んで、親子で雑草観察に出かけませんか。
お話を伺ったのは…
上村奈帆(かみむらなほ) さん
1988年生まれ。日本映画学校卒業後、映画美学校脚本コースを経て、脚本家・映画監督として活動。主な受賞歴は、第40回城戸賞最終選考「蒼のざらざら」、第2回松田優作賞最終選考「星屑みたいだ」、第1回映画美学校プロットコンペティション最優秀賞「ばぁちゃんロード」、MOOSIC LAB 2018観客賞・最優秀女優賞(中村守里)「書くが、まま」。「ザッケン!」は初のマンガ原作。
文/鈴木友紀
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https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098510870
雑草研究部、実際に存在します。
彼らの活動を取材で見学させていただいている間、とてもワクワクしました!
足下に広がる植物たちの世界を研究する高校生たちを丁寧に物語に紡いでいるのは、『蒼のざらざら』、『書くが、まま』の映画監督・上村奈帆氏。
その原作を、植物の細部にまでこだわって作画しているのが、アーティストとしても活動盛んなプクプク氏です。
また、自然農の実践家でもある中尾佳貴氏に植物監修をしていただいています。
読み終わった後、外に出て雑草を観察したくなる。心を動かす作品です。