【脳科学者・中野信子さん】フェイクニュースや詐欺に騙されないために。3つの「バイアス」と「同調圧力」に注意せよ!

フェイクニュース、振り込め詐欺、恋愛詐欺、マルチ商法…。日常に潜む「ウソ」や「ニセ」から身を守る方法は? 悪意あるウソやデマに騙されないために、おさえておくべき脳や心理のメカ二ズムについて、脳科学者の中野信子さんに語ってもらいました。

私たちはなぜフェイクニュースや特殊詐欺に騙されてしまうのでしょうか。日々発信される情報や、詐欺まがいの商法に潜む「ウソ」をつい信じてしまうのは、そこにどんな仕組みがはたらいているからでしょうか。

『ヒトは「いじめ」をやめられない』『人は、なぜ他人を許せないのか?』など、脳科学・心理学から人間社会に起こりうる現象を読み解く中野信子さんに、最新著書『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』から、3つのバイアスと同調圧力の危険性について語っていただきました。

脳科学者・医学博士の中野信子氏

ウソをより確信させる「確証バイアス」

私たちは、騙されまいと気を付けているにもかかわらず、なぜウソやニセを見抜くことができないのでしょうか。

それは私たちの脳が情報を処理するときに、様々な認知バイアスが働くからです。私たちは自分の先入観に沿う情報だけを集め、その集めた情報を自分の都合のよいように解釈して書き換えてしまうという現実があります。

これが「確証バイアス」です。与えられる情報の中で、自分に都合のよいものだけを選択し、都合の悪い情報は無意識に排除してしまうのです。さらに、冷静に検証すればそれが詐欺であると気付くことでも、この「確証バイアス」により、自分に都合のよい情報だけを付加し、そして自らウソを補強する思考をしてしまうことによって、その枠組みから抜け出せなくなってしまうのです。

例えば、「A出身の人はとても暴力的で危険」といった先入観を誰かがもっていたとします。すると、「あの事件にはA出身者が関わっている」というデマを簡単に信じてしまいかねない状況がつくられてしまいやすくなるのです。

冷静に考えてみるとつじつまが合わないことでも、ひとたびそうだと思い込むと、その考えを補強する情報を無意識に集め、思考してしまうのです。

振り込め詐欺でも、聴覚的な情報は限定的なので、電話先の相手が「オレオレ」と言っただけで、先入観で「息子だ」と信じてしまうという、にわかには信じがたいようなことが起きるのです。

「声が違うかもしれない」と多少の違和感をもったとしても、「きっと息子に違いない」と思い込んでいるので、「風邪をひいて今日は声がおかしい」などと言われると、「ああ、あの子は昔から風邪をひきやすかった」と自分の記憶を引き出して自分の誤った思い込みを補完し、違和感すら上書きしてしまうのです。

ウソを疑わない「真実バイアス」

ほかにも、「真実バイアス」と呼ばれる認知バイアスがあります。

これは、特に疑いを抱く必要のないと思われる相手の言うことは真実であると思い込んでしまうことです。疑いをもつことなくすべてウソではないと信じてしまうのです。

周囲の人が「あの話は怪しいよ」「その電話は詐欺では?」と言っても、「まさかあの人がウソを言って私を騙そうなんてありえない」と判断してしまうことがあるのです。

人と会話をするときに、これはウソかもしれない、騙そうとしているのではないかなどと常に疑い続けることはなかなかできるものではありませんし、そもそも失礼にもあたりかねません。もともと、人間は相手が事実を語っているということを前提に話をするものです。

たとえ「真実バイアス」が強くなくても、「あなたはウソを言っていますね」「それってウソですよね」とその都度思い続けることは、人間関係の構築に重大な支障を来します。たとえ違和感を覚えても、自分だけが我慢すれば、という心理が働きがちです。

ウソをつく人は、そうした善意や良識に付け込み、自らへの警戒心を解くような話術を意図的に使います。

しかも、「ウソかもしれない」と常に相手の話に注意を払うことは脳のリソースを使うので、心身共に元気なときでなければ、警戒心も働きづらくなるでしょう。心が弱っているときや、お腹が空きすぎているとき、酔っていたり、眠かったり、パニックになっているとき、誰かに恋愛を仕掛けられたりしているときなどには、このバイアスがかかりやすく、騙されやすい状態になっていると言えるでしょう。

詐欺・災害には遭わないと信じる「正常性バイアス」

特殊詐欺に騙された人は皆「ニュースなどで知っていたし、十分気を付けていたつもりだった。でもまさか自分が被害に遭うとは……」と、口をそろえて言います。これだけ多くの人が詐欺被害に遭っているにもかかわらず、思考が自分中心で、「自分だけは騙されない」「自分だけは大丈夫である」と思い込み、自分が当事者になるとは考えないのです。

根拠もなく自分は被害には遭わないと信じ、明らかに異常事態であるにもかかわらず、問題はなく正常であると思ってしまうバイアスを「正常性バイアス」と言います。「正常性バイアス」では、自分にとって不都合な情報を過小評価し、時には無視してしまうのです。台風などで洪水警報が出ても、「自分の家は大丈夫」と思うのも「正常性バイアス」の一つです。

これも前述した脳のリソース節約によるものです。自分が被害者になるのではないかという疑いや、異常事態でそれに対処しようとして処理する情報が多くなりすぎると、脳の負荷が高くなります。そのため脳では、その異常事態は問題ない、平常だとして処理する情報量を減らそうとします。「気を付けるべき事象」を見聞きしても、脳は自分事と捉えるだけのリソースをもっておらず、危ないことは自分とは遠い話だと認知するようになっているのです。

詐欺に対しても、災害に対しても、そもそも「誰にでも」危険が及ぶ恐れがあるからこそ、これだけ多くのニュースで注意喚起が行われているのです。それでも「自分は詐欺に遭わない自信がある」という人は、逆に正常性バイアスが強く、騙されやすい傾向があると言えるでしょう。

ウソに合わせる「同調圧力」

「怪しいと思っていたのに、みんなが『いい』と言っていたからつい信じてしまった…」。こうした「みんなの意見に従ってしまう」という、「同調圧力」については有名な実験があります。

ポーランド出身のユダヤ人で心理学者のソロモン・アッシュが、亡命先のアメリカで行った実験です。

実験内容は、まず、ある長さの線分が書かれた紙を被験者に見せます。次に、最初に見せたものと同じ長さの線分を含む3本の線分が書かれた紙を見せて、その中から最初に見た線分と同じ長さの線分はどれか選択させるというものです。

被験者が1人のときの正解率は約99%でした。

続いて、被験者を8人で1つのグループにして、本物の被験者は1人で他の7人はサクラという設定で実験を行いました。サクラの回答者は、順番に自分の選択した線分の番号を告知します。ところが、サクラは全員が、間違っているけれど同じ線分を選びました。もちろん意図的にです。この実験を12回繰り返しました。

その結果、1人でやったときの正解率が99%だったのに対して、正解率は65%に低下、つまり3割強の人が、他人の意見に合わせたことが分かりました。

実験の後で、同調した被験者にその理由を聞いたところ、「正解は分かっていたけれど、みんなに合わせた」「自分が間違っていて、みんなが正しいと思った」という、2つの意見に集約されました。

自分の正しいという判断よりも、他の人の意見、とりわけ多数の意見の影響を受けてしまうという、同調圧力の影響力の強さを示唆する実験と言えるでしょう。

集団に帰属すると、おかしいなと思っても、周囲の空気に流されてしまうのです。さらに、最初はおかしいなと思っていても、次第にアッシュの同調実験のように、自分が間違っていて、周りが正しいと思うようになるのです。悪質商法では、こうした同調圧力を意図的に利用した巧妙なテクニックが使われています。

※以上『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』より抜粋

ウソへの警戒心を乱す4つの要素

上の3つのバイアスと同調圧力に加え、さらにウソへの警戒心を低下させる4つの要素を中野信子さんが挙げています。

①同情心
②制服や肩書、容姿
③関係性・縁故
④映像・画像

①同情心

詐欺師は同情心を搔き立てる話が上手で、人の懐に入り込み、警戒心を解いてしまいます。どうやって同情心を煽れば、人は心の扉を開くのかということを知っているからです。

人は感情に訴えられると、理性で判断するよりも、何かすぐに応急処置をしなくてはいけないと思いがちです。これも社会性の一部ではありますが、共感性や同情心というものは、本能である警戒心よりも時に優先され、それを上書きするほど強いものだということなのでしょう。

②制服や肩書、容姿

人は物事を判断するときに、見た目や肩書など、一つ目立ったよい特徴をもっていると、その人全体の評価に大きな影響を与えてしまいがちです。医者や弁護士、社長といった肩書があると、信用できる人に違いないと思い込んでしまうことはありませんか?

これは「ハロー効果」と言われるものです。「ハロー(Halo)」とは、聖母マリア像やキリスト像などの後ろに描かれたり設置されたりしている光の輪のこと。このハロー効果は、詐欺にもよく使われるため注意が必要です。

③関係性・縁故

初対面の人でも「私はあなたのおじいさんと知り合いです」などと、家族や共通の知人の名前を出されたりすると、警戒心が緩んでしまいがちです。故郷から離れた街で同郷の人に会うと、それだけで心を開いてしまうこともあるでしょう。いわゆる身内贔屓であり、内集団バイアスと言われるものです。

振り込め詐欺は、まさしく縁故を利用したウソです。身内を装うことで、被害者の警戒心のガードを下げて、一気に懐に飛び込もうとするのです。

④映像・画像

客観的に冷静に考えればおかしいと感じる内容でも、写真や動画などビジュアル要素を見せられると簡単に信じてしまうことがあります。人は目で見たものを信じやすいのです。

今日、フェイクニュースが急増する背景には、スマホなどによる動画撮影、SNSによる拡散の簡易化の影響もあると言えるでしょう。

以上『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』より一部抜粋

騙されるメカニズムを知って、悪いウソから身を守る

悪意ある人は、「人が騙されるメカニズム」を悪用して巧妙に近づいてきます。その被害者にならないためにも、私たちは「騙される心理・メカニズム」を知り、身を守る必要があります。

『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』では、人間社会に不可避なウソとフェイクについてさらに掘り下げ、それらとどう向き合い、付き合うべきかが論じられています。家族や親子で読んでみても多くの気づきを得られる一冊です。

 

中野信子小学館880円(税込)

フェイクニュース、マルチ商法、振り込め詐欺・・・日常生活において、ウソやニセにまつわる事件やエピソードは数知れず。「私は騙されない」と信じていても、気付いてみたら、相手の術中に陥ってしまうのは、なぜでしょうか?  平気でウソやニセを仕掛けてくる人たちの脳内メカニズムから、騙されやすい人たちがウソやニセに振り回されずに生き抜く知恵まで、脳科学的観点から分析、考察する1冊。

 

著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『ヒトは「いじめ」をやめられない』『キレる!』『”嫌いっ”の運用』(以上、小学館)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』(講談社)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

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構成/HugKum編集部

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