3歳までは「からだの脳」を優先。「 こころの脳」「おりこうさん脳」へと導く、0・1・2歳の育脳術

子どもがすくすくと成長し、幸せな人生を送れるようにするには、3歳までのこの時期に脳の土台をしっかり育てていくことが大切です。日常生活の中で取り組める「育脳」のポイントを、専門家にうかがいました。

脳の発達には順序があった!

左に示したように、子どもの脳は土台となる「からだの脳」が最初に育ちます。「からだの脳」が十分に発達しないと、食欲がない、体調がすぐれないといった問題を引き起こしやすくなり、そのあとに発達する「おりこうさん脳」や「こころの脳」も育ちません。

5歳までは、寝る・食べる・体を動かすといった一日の生活リズムを整え、「からだの脳」を育てることを最優先に考えましょう。この順序を無視して、「からだの脳」が育っていないうちからさまざまな知識を教え込もうとしても、脳を育てることにはつながらないので注意が必要です。

五感の刺激が脳を育てる

脳の構造と育つ時期

生後すぐの赤ちゃんの脳は、神経細胞(ニューロン)がほとんどつながっておらず、情報伝達をスムーズに行うことができません。その後、五感から刺激を受けることでニューロン同士がつながっていくと、脳内での情報伝達が可能になり、さまざまなことを理解したり、実際にやってみたりすることができるようになっていきます。

昼は明るく夜は暗いことを目で見て感じる、抱っこで肌のぬくもりを感じるなど、五感の刺激が脳を育てるうえでは大切な体験です。生活の中で、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を通じてたくさんの刺激を与えることを心がけましょう。

スマホを見ながらお世話をすると、子どもの脳の働きを低下させるおそれも

子どもは身近な人の言動をまねすることで、さまざまな言葉や動きを学んでいきます。その際に働いているのが、ミラーニューロン(※)という脳の神経細胞です。

子どもは信頼関係が築けていない人の言動を見ても「まねしたい」とは思わないため、この神経細胞が活発に働かず、言葉や動きの獲得に支障をきたすことも。おうちの方が目を合わせずにスマホを見ながらお世話をしていると、子どもはおうちの方に十分な信頼感を持てず、ミラーニューロンの働きが低下することがあるので気をつけましょう。

(※)ミラーニューロン:他の人の行動を見たときに、自分がその行動をしているときと同じような反応を脳内に起こす神経細胞。この神経細胞の働きにより、他の人のまねをすることで、相手への理解・共感を深めたり、言語を獲得できたりすると考えられている。

【過ごし方】「からだの脳」を育てるためにできること

日常生活の中でできることを大切にするだけで、育脳には十分な効果があります。0〜2歳でぐんぐん育つ「からだの脳」と「おりこうさん脳」に分けて紹介します。

決まった時刻に起こして朝日を浴びる

朝、日光を目で感じると体内時計のずれがリセットされ、夜は自然と眠くなります。生後まもない時期も、朝はカーテンを開けて室内に日光を入れましょう。

昼夜の区別がつき始める4~5か月ごろからは、朝日が昇る6~7時ごろの一定の時刻に起こすようにすると睡眠のリズムが整っていきます。

おなかが空いた状態で朝ごはんや授乳を

朝の授乳や食事は、脳の栄養補給に欠かせないもの。しっかり飲んだり食べたりできるようにするには、おなかが空いた状態で朝を迎えることが大切です。離乳食が進んだら、夜遅い時間帯の授乳はなるべく控えましょう。

日ざしや風を感じながらお散歩や外遊びをたっぷりと

体を動かして遊ぶことは脳の活性化をうながすので、外に出て自然に触れ、五感でさまざまなことを感じるようにしましょう。脳が発達するとともに自律神経の働きがよくなり、汗をかいて体温調節をするといった周囲の環境への適応力も身につきます。

雨やくもりの日も窓を開けて、外の空気を感じましょう。

「おりこうさん脳」を育てるためにできること

起きたら目を合わせてきちんとした文章で話しかける

子どもは0歳台から大人の表情と口の動きを見て、言葉の意味を学んでいます。朝、カーテンを開けたときに犬が見えたら、「ワンワン」といった赤ちゃん言葉は使わずに、「茶色い犬がいるね」と主語と述語があるきちんとした文章で話しかけましょう。

食事のときは、手づかみ食べやスプーンの練習を気長に見守る

手づかみ食べやスプーンの練習をくり返すことで、目で見た情報を脳で判断して手を動かすという、一連の動作がスムーズにできるようになります。拭き取りやすい素材の離乳食用エプロンを使うなどの工夫をして、こぼしても中断させずに見守って。

お散歩や外遊びでは、子どもがやりたいことにつきあう

葉っぱを触る、石を拾うといった行動は、育脳のために大切な「探索活動(身の回りのものを知ろうとする活動)」です。身の危険がなければ、おうちの方に無理のない範囲で、子どもがやりたいことをやらせてあげましょう。

【 脳を育てる】一日の中でできることがたくさん!

睡眠リズムが整ってきたらお昼寝は15時台までに

夕方までお昼寝をすると夜に寝つきにくくなり、「からだの脳」の発達に重要な生活リズムが乱れる原因に。1歳を過ぎたら、お昼寝は15 時台までを目安にしましょう。昼夜の区別をつけるため、お昼寝のときは部屋を真っ暗にする必要はありません。

入浴は、寝る直前は避けてなるべく早めにすませる

寝る直前にお風呂に入ると、体を活動的にする交感神経の働きが優位になり、寝つきが悪くなることも。入浴は早めの時間帯にすませると、体をリラックスさせる副交感神経の働きが優位になり、体温が下がるころに眠くなります。

寝る1時間前からはテレビやスマホを見せない

夜に、テレビやスマホなどが発する強い光が目に入ると、脳が刺激を受け、メラトニン(自然な眠りを誘うホルモン)の分泌量が減ってしまいます。寝る1時間前になったらテレビを消すのを習慣にして、スマホなどの使用も控えるとよいでしょう。

部屋を暗くしてぐっすり眠れる環境を整える

夜は暗い環境でぐっすり眠り、朝に日光を浴びると、セロトニン(脳の働きをよくするために必要なホルモン)がたっぷり分泌されます。夕食後は間接照明に切り替えたり、使う照明の数を減らしたりして、部屋を少し暗くしましょう。

洗濯物たたみや料理のお手伝いでは、大人が楽しそうにお手本を示す

子どもは大人の行動を見て「どうやるのか」を脳にインプットし、十分なインプットができると行動に移せるようになります。お手伝いなどを教えるときは、言葉だけで説明せず、大人がその行動をゆっくりとくり返しやってみせましょう。大人が楽しそうに取り組むと、子どもも自然と興味を持ちます。

お風呂の中で数をかぞえるなど、生活の中で数に親しめる工夫を

数に対する興味は、生活の中で育まれていきます。お風呂の中で10まで数える、買ってきたケーキを1人1個ずつ分けるなど、数に親しめる機会をつくっていきましょう。強制はせず、子ども自身が興味を持ったタイミングで始めるのがおすすめです。

2歳を過ぎたら絵本を読むときは内容についての質問を

体を密着させての読み聞かせは「からだの脳」の発達に有効ですが、2歳ごろからは「○○はどこに行ったのかな?」など絵本の内容について尋ねると、「おりこうさん脳」を育てることもできます。自分で考える経験が大切なので、間違いを直す必要はありません。

月齢・年齢別 育脳のポイント

0~2歳の成長のスピードは目覚ましく、できることがどんどん増えていきます。月齢・年齢ごとの育脳のポイントを知り、成長に合わせた関わり方をしていきましょう。

【0~3か月】お世話をするときは目を合わせて声をかける

お世話をするときは目を見て、「おむつを替えるからね」というように、これからやることを話しかけましょう。おうちの方の表情や声などを感じることは脳の発達をうながします。目が覚めたときは抱っこをするなど、体勢を変えることも脳へのよい刺激になります。

【4~6か月】昼夜の区別をつけて五感にさまざまな刺激を

昼夜の区別がついてくる時期なので、夜に熟睡できるように授乳量や部屋の明るさの調整を。

「あー」などの喃語(なんご)が出たら、おうちの方が口の動きや喜怒哀楽の表情をはっきり見せながら言葉を返して。見る、聞く、手で握るなど、五感を働かせる機会を増やしていきましょう。

【7~11か月】ハイハイや手づかみ食べをたっぷりと

ハイハイで体を動かすと脳も育ちます。安全に遊べる空間をつくり、思う存分ハイハイができるようにしましょう。

手づかみ食べは手指の機能の発達をうながし、脳にもよい刺激を与えます。離乳食が進んだら夜間の不規則な授乳はやめ、睡眠リズムを整えることを心がけて。

【1歳~1歳半】 見聞きするものについて言葉にして語りかける

大人のまねを始める時期で、おうちの方の話す言葉をよく聞いているので、抽象的な言葉もたくさん使いながら話しかけましょう。例えば、「きれい」という言葉は花や衣服に対しても使えるし、掃除した部屋に対しても使えるといったことを知ると、のちに使える語彙が豊かになります。

【1歳半~2歳】いろいろな人に会う機会をつくって社会性を豊かに

少しずつ社会性が芽生え、周囲の大人が話す言葉や知識をどんどん吸収していく時期です。子育てセンターに出かけるなど、家族以外の大人との接点があると、より多くの知識が脳にインプットされていきます。

動物や電車など、子ども自身が好きなものを見に行くことも脳の活性化に役立ちます。

【2歳台】家庭での役割を持たせてお手伝いをスタート

「パパ、会社」などの二語文が出始めたら、「パパは会社に行ったね」と子どもの発言を正しい文章にしてくり返すと、言葉の成長につながります。家事は脳をよく使う活動なので、家族の一員として簡単なお手伝いを任せることも育脳には効果的。失敗しても怒らずに見守って。

教えてくれたのは

成田 奈緒子 先生
小児科医、医学博士。文教大学教育学部教授。不登校・引きこもり・発達障害等の親子・当事者支援事業である「子育て科学アクシス」の代表も務める。

Q&A さまざまな分野の専門家にうかがいました!

Q.英語を好きになってほしいのですが、今からできることはありますか?

答えてくれたのは

大井 静雄 先生
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授などを経て、現在はポートアイランド病院国際脳科学医療福祉センター長を務める。医学博士。発達脳科学のエキスパート。

A.心地よい雰囲気の中で英語に親しむことが大切

言葉は教わって話せるようになるものではなく、何度も聞いて理解し、使ってみることで身についていくものです。これは日本語でも英語でも同じなので、日常の親子のコミュニケーションの中で英語に親しめる環境をつくっていきましょう。おすすめなのは、リズムをとりながら英語の歌を一緒に歌う、英語の絵本を読み聞かせる、英語の動画や音声を一緒に楽しむといった関わり方です。

「楽しい」「うれしい」といった心地よい体験は脳の発達をうながすので、子どもは楽しければ言葉をどんどん理解していきます。0~2歳は「お勉強として英語を学ぶ」のではなく、おうちの方も一緒に心地よい雰囲気の中で「英語に親しむ」ことを心がけてください。

Q.理系分野に興味を持ってほしいのですが、理系の習い事をさせたほうがよいですか?

答えてくれたのは

開 一夫 先生
東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授。博士(工学)。専攻は赤ちゃん学、発達認知神経科学など。「東京大学赤ちゃんラボ」を運営。

A.習い事は子どもが楽しめているかをよく観察して

自然科学に興味を持ってもらいたいなら、どのような形であれ自然に触れさせること、算数や数学に興味を持ってもらいたいなら、パズルやブロックに触れさせるのがよいと思います。

ただし、おうちの方が「強制的」にやらせるのではなく、ある程度子どもに任せることが大切です。習い事をさせる場合、先生が苦手だと、習うこと自体が苦手になる可能性もあり、子どもの将来の選択肢を狭めてしまうこともあり得るという点は理解しておきましょう。

特に小さなころの習い事は「子どもが楽しそうにしているかどうか」を常に観察することが大切です。子どもが自発的に何かをやろうとしている場合、おうちの方が子どもの先回りをしてやってしまうことは避けましょう。

Q.脳を育てるために今からできるおすすめの運動はありますか?

答えてくれたのは

前橋 明 先生
早稲田大学人間科学学術院教授。医学博士。乳幼児期の生活や運動量などを体系的に調査し、運動不足や生活リズムの乱れの改善策を提案している。

A.″架空の緊急事態”をつくり、全力を出し切る運動あそびを

安全なあそび場の中で、「大変!」「できるかな?」「あと少し!」と必死に力を出し切る″架空の緊急事態”を経験することは、子どもの脳や自律神経の働きをよくします。

2歳ごろまでは下図のような力だめし、3歳以降は鬼ごっこやドッジボールなどがおすすめです。

失敗の経験も脳の発達には重要なので、安全な環境ではダイナミックな動きも禁止せず、さまざまな運動あそびができるようにしましょう。

おうちの方が仰向けになり垂直に立てた両足を押す「力だめし」。子どもが力いっぱい押したら、倒れましょう。

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