枯山水とは
枯山水は、水を用いず、石や砂・苔などを使って作る日本庭園の様式です。他の庭園との違いも合わせて、枯山水の基本を解説します。
日本庭園の一種
日本庭園の様式は、大きく以下の3種類に分けられます。
・池泉(ちせん)庭園
・露地(ろじ)
・枯山水
「池泉庭園」は、池を中心として周囲に木や山、東屋などを配置した庭園です。心身の保養や接待の場として、主に貴族や大名の屋敷につくられました。
「露地」は茶室まわりの庭のことで、「築山林泉(つきやまりんせん)庭園」ともいいます。いずれも池や小川、ししおどしなどの水を使った景色が特徴的です。
一方、枯山水には水がなく、石や砂で水の流れを表現しています。一般的な読み方は「かれさんすい」ですが、「かれせんずい」や「こせんすい」と呼ぶこともあります。
枯山水の歴史
枯山水庭園は、いつから作られていたのでしょうか。長い歴史を、前半と後半に分けて紹介します。
古くからあった枯山水
水を使わない庭自体は、古代から存在していました。「磐座(いわくら)」と呼ばれる神が宿る大きな石の周囲に、社や庭をつくって祭ったのが始まりといわれています。
枯山水の名前は、平安時代後期に編さんされた書物「作庭記」に登場します。「作庭記」は庭づくりのテキストのようなもので、水のない場所に石を立てて水を表現する形式を「枯山水(こさんずい)」と紹介しました。
ただし、当時の枯山水は庭の敷地の一部に石や白砂を配置しただけのもので、現在の枯山水とは区別されています。
室町時代に最盛期を迎える
庭全体を石や砂でデザインした本格的な枯山水は、禅寺が発祥です。鎌倉時代に入って日本に禅宗が伝わると、問答や修行の場としてつくられるようになりました。
日本初の枯山水は、京都の「西芳寺」にあります。夢窓疎石(むそうそせき)という禅僧が、戦乱で荒れてしまった西芳寺を禅寺として復興する際につくりました。
室町時代中期には、禅宗の影響を強く受けた「東山文化」が栄え、枯山水の存在も広く知られるようになります。狭い土地に低予算でつくれる枯山水は、応仁の乱で経済的に困窮した貴族や寺院に注目され、最盛期を迎えました。
その後は露地や豪華な回遊式池泉庭園の流行に押されて衰退しますが、昭和時代に有名な作庭家が枯山水を採用したことで再び注目され、現在に至っています。
枯山水の見どころ
禅の修行が目的でつくられた枯山水の世界観は、初めて見る人にとっては理解しにくいかもしれません。ただ少なくとも、種類や石の配置、砂の模様の意味は覚えてから見学に行くのがおすすめです。
なお、枯山水は他の庭園と異なり、基本的に散策はできません。建物の中から静かに鑑賞するものですので、子どもと一緒に行く人は、大声を出したり走り回ったりしないように注意しましょう。
枯山水の種類と特徴
枯山水の主な種類と特徴は、以下の通りです。
・平庭式(ひらにわしき):平らな場所に石・砂・苔を配置
・準平庭式:平庭式庭園に築山(つきやま)をプラス
・築山式(つきやましき):地形の傾斜を生かして水の流れを表現
・枯池式(かれいけしき):石組を使って水のたたえられた池や泉を表現
・枯流れ式(かれながれしき):小石や砂を使って流れる川を表現
・特殊形式:上記のいずれにも該当しないもの
築山とは人工的に造った小高い山のことで、地形の変化を表現する作庭の技法です。枯池式や枯流れ式では、橋を渡したり護岸を設けたりして、本当に水があるかのような雰囲気を感じられます。
石の置き方
枯山水では、石の大きさや形、置く場所によってさまざまな事柄を表現しています。石が表すものを自分なりに解釈するのも、見学の醍醐味といえるでしょう。
大中小の三つの石を、仏像に見立てて置くことを「三尊石」といいます。三尊石には庭を守る意味もあり、他の日本庭園でもよく見かける形式です。
仏教の世界観を表現するために、「須弥山(しゅみせん)」という仏様が住む聖なる山を表す石を、庭の中心に配置するパターンもあります。須弥山の周囲には「九山八海(9つの山と8つの海)」が広がっているとされているため、須弥山の近くに九山八海を意味する石が置かれることもあります。
他には、鶴や亀を側に置いて不老不死の世界を表現した「蓬莱山(ほうらいさん)」や、縁起の良い数「七・五・三」にちなんで15個の石を置く「七五三」などが有名です。
美しい白砂の模様
一面に敷き詰められた美しい白砂と、砂の上に描かれた模様(砂紋)を目当てに、枯山水を訪れる人も多いでしょう。
砂紋は、水の流れを表現するために描かれます。線の太さや渦巻きの大きさを描き分けることで、小さな水滴から大きなうねりまで、あらゆる状態の水を表しています。
幾何学的な砂紋の上に、自然そのままの石や苔が点在する様子は実に印象的です。また、砂紋を整えると心が清らかになるとされており、禅寺では僧侶が毎朝、修行の一環として砂紋整備に取り組んでいます。
苔や塀にも注目
枯山水では、何気なく存在するように見える苔や塀にも、大切な役割があります。特に苔は、枯山水の世界観を表現するために欠かせない植物です。
例えば、須弥山や蓬莱山を表す石の下部だけに苔を配置すれば、苔の上は草木が生えないほど高い場所を表現していることが簡単にイメージできます。限られたスペースで海や山、川などの広さを表現するために、小さな苔が役に立っているのです。
庭を囲む塀の高さにも、枯山水ならではの工夫が見られます。枯山水は建物の中から眺めることを意識してつくるため、低い塀で囲むことで、庭園を1枚の絵のように見せているのです。
京都の龍安寺のように、手前側の塀を高く奥側を低くして、実際よりも奥行きがあるように演出した庭もあります。
枯山水見学におすすめのスポット
枯山水の庭園は、現在もさまざまな場所で見学可能です。家族旅行などの機会があれば、訪れてみるとよいでしょう。おすすめの見学スポットを紹介します。
京都府「龍安寺」
龍安寺の石庭は枯山水庭園の代表的な存在で、海外からの観光客や修学旅行生など、多くの人が見学に訪れる名所です。1975年にイギリスのエリザベス女王が公式訪問したことで、世界的に知られるようになりました。
有名な割に作者が不明で謎が多い点も、龍安寺石庭の魅力です。例えば、庭内には石が15個置いてありますが、どの角度から見ても14個しか見えないようになっています。
なぜそのような置き方をしたのか、どうすれば15個全てを一度に見ることができるのかなど、心の中で自問自答するのも醍醐味といえるでしょう。
東京都「玉堂美術館」
玉堂美術館は、日本画家・川合玉堂(かわいぎょくどう)の作品を中心に展示する美術館です。敷地内に、昭和時代の有名な作庭家・中島健がつくった枯山水庭園があります。
この庭園は「借景(しゃっけい)」と呼ばれる技法を用いて、奥多摩渓谷の自然も同時に楽しめるように設計されています。水紋が表現しているのは、近くを流れる多摩川です。
低くつくられた塀の向こう側に、桜や紅葉、新緑など四季折々の風景が広がり、行くたびに新鮮な気持ちで見学できます。
山形県「長念寺」
山形県寒河江市にある「長念寺」は、鎌倉時代に建立された真言宗の寺院です。仏像や掛け軸など多くの文化財が保存されており、東北地方有数のパワースポットとしても知られています。
本堂の裏には、昭和時代に住職が手作りした枯山水庭園があります。コンパクトなつくりですが、蓬莱山と、蓬莱山に向かう宝船を模した石組は本格的です。
また、長念寺では砂紋作り体験ができます。お茶菓子付で写真撮影もできるので、家族で行くとよい思い出になるでしょう。
福岡県「光明禅寺」
「光明禅寺」は、菅原道真を祭る大宰府天満宮の近くにある禅寺です。宋に渡って禅の修行を積んだ僧のもとに道真の霊が現れ、そのお告げによって建てられたという「渡宋天神伝説」が残っています。
ここでは「仏光石庭」と「一滴海庭」という、二つの枯山水を見学できます。仏光石庭では「七五三」の15個の石で「光」の字を表しており、一滴海庭は渡宋天神伝説にちなんだ白砂の大海原が見事です。
なお光明禅寺では写真撮影が禁止されています。余計なことに気を取られずに済み、静かな心持で見学できるでしょう。
心穏やかになれる枯山水
石や砂、苔などのシンプルな材料で広大な世界を表現する枯山水は、見る人の想像力をかきたてます。角度を変えて眺めたり、石の配置や数を確かめてみたりと、自由な発想で楽しめるのも枯山水の魅力です。
世界に誇れる芸術的な日本庭園である枯山水を眺めながら、心穏やかなひとときを過ごしましょう。
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構成・文/HugKum編集部