年々増加傾向にあるシングルマザー、その原因は
身の回りを見るだけでも、シングルマザーとして子育てを頑張る女性は少なくありません。厚生労働省によると、平成28年に離婚した夫婦の数は(推計)217,000組。平成27年は226,215組ですから、毎年20万組近くが離婚をしていると分かります。
シングルマザーになる年齢、最も多いのは30代、子供は0~2歳
シングルマザーになる原因のトップは、離婚が突出して多いとされています。母子世帯になったときの母親の年齢は30~39歳が最多で、次は20~29歳。その時点で子どもの年齢は0~2歳が最も多く、次いで3~5歳となっています。わが子が「魔の2歳児」、「悪魔の3歳児」を迎えようとしている時期ですね。シングルマザーの女性からすれば、「これから一人で、きちんと育てられるのだろうか」と不安に感じてしまう瞬間もあると思います。
佐々木正美先生の『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』をよりどころに
そこで今回は、昨年に他界された児童精神科医の名医・佐々木正美先生の著書『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)から、ひとり親になった方々が心に留めておきたい先生の言葉を紹介したいと思います。決断しきれずに迷っている人も、併せて参考にしてみてください。
「両親の離婚を引きずるような子どもには、これまで出会ってきませんでした」
(※91ページ)
片親になるとき「離婚が子どもの育ちに何か悪影響を与えるのではないか?」と不安になる瞬間もあるかと思います。佐々木先生によると、離婚の影響はゼロではないにせよ、心配しすぎる必要もないのだとか。子どもがどのような人間に育つかについて、
<両親が揃っている家庭であるか、ひとり親であるかということとは、本質的には関係のないこと>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(※3ページ)
だと断言してくれています。
<離婚はその人自身が真剣に悩み、最終的に下した決断です>
<子どもに対して負い目を感じる必要はありません>
<あなたとパートナーの意思で決断したことで、社会的に悪いことをしたわけではありません>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(140ページと173ページ)
というメッセージも著書にはあります。離婚という決断が子どもに悪影響を与えているのではと迷いが生じたときには、思い出したい言葉ですね。
「私たち人間ひとりのなかには、母性的なものも父性的なものも存在している」
(※12ページ)
シングルマザー、ファーザーになると、子育てにおける両親の不在がどうしても気になってしまうと思います。佐々木先生によれば、どんな女性でも母性に加えて父性を兼ね備えているとの話。まずは母性を十分に与えてから、必要なタイミングで自分の中にある父性を与えれば大丈夫なのです。また父親の場合もしかりです。
母性とは少し抽象的な言葉ですが、無条件にわが子を許容し承認する愛情を「母性」と先生は呼んでいます。父性とは規律や規則、約束や責任を子どもに教える力。父性は家庭だけでなく保育園や幼稚園、小学校、地域社会でも与えてもらえるのです。
<「ひとりだけでがんばって子どもを育てよう」と決して思わない>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(※43ページより引用)
で、両親、兄弟姉妹、親せき、保育園や幼稚園、地域住民、子育て支援センター、ファミリーサポートセンターなど、さまざまな人の手を借りて子どもの育ちを豊かにしたいですね。
「子どもといっしょに過ごす時間は「量」より「質」が大切」
(※115ページ)
ひとり親になると、今まで以上に仕事に時間を割く必要が出てくるかと思います。子どもと過ごす時間が減ってしまい、胸が引き裂かれるような気持ちになるかもしれません。しかし、子どもとの時間は「量」より「質」が重要だと先生は断言します。限られた時間の中でも、
<「子どもの望む親でありたい」と思い、それをできる限り実践>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(※118ページ)
する気持ちさえあれば、むしろ子どもは頑張る母親、父親の姿を見て、多くを学び取とってくれます。経済的・物理的に子どもに何らかの我慢を強いなければいけない状況もあるかもしれませんが、
<離婚した親がすべきことは、子どもに物理的な負い目を持つことではなく、子どもの気持ちを思いやり、こころをかけること>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(99ページ)
仕事で忙しかったり、心身ともに疲れたりして迷いが生じているときこそ、思い出したい言葉ですね。
シングルマザー、ファーザーに向けた佐々木正美先生の言葉を幾つか取り上げてきましたが、いかがでしたか?
厚生労働省の資料を見ると、夫や妻との死別によってひとり親になる家庭も少なからず存在すると分かります。死別によって母子、父子世帯になった人に対して先生は、
<小さな子どもに愛する者の「死」を伝えるときには、その「死」が不幸で悲しいものであるように伝えない>
(『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』より引用)(105ページ)
と教えてくれています。死別という不幸な別れに直面し絶望している心境では、決して容易ではないと思います。しかし、心の片隅に覚えておきたい、大切で心に響く心構えですね。
教えてくれたのは
1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。
(文・坂本正敬)
[平成23年度全国母子世帯等調査結果報告 – 厚生労働省]
[平成28年(2016)人口動態統計の年間推計 – 厚生労働省]