赤ちゃんも歓迎!平塚市美術館学芸員に聞く、親子でアートに親しむ秘訣

子どもと一緒にアートを楽しむためのおすすめスポットを訪ね、スペシャリストにお話を伺う「子ども×アート」。平塚市美術館後編では学芸員の安部沙耶香にお話を伺います。

「子ども×アート」平塚市美術館 後編

平塚市美術館は、長年にわたり、親子を対象にしたワークショップや鑑賞ツアーに取り組んできた、子どもに優しい美術館です。「子ども×アート」平塚市美術館後編では、「気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション」展の担当学芸員・安部沙耶香さんに、今回の展示や、子どもと展覧会に行く際のおすすめの過ごし方について伺いました。

親子で展示室に入るきっかけをつくりたくて

――「気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション」はどのような経緯で誕生した展覧会ですか?

安部沙耶香さん(以下略称):当館では、2012年から「NPO法人  赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会」に協力いただいて、乳幼児と保護者のための展覧会鑑賞ツアーを開催しています。これまで1000人以上のお子さんが参加しています。

ツアーの際、保護者に子どもの反応についてメモをとってもらっているのですが、その記録をもとに、当館のコレクションから、多くの子が関心を示した作品のみを選んで展示したらどうなるだろうかと思って、2015年に「赤ちゃんたちのセレクション」という展覧会を開催しました。

今回はその第2弾です。出品作品自体は子ども向けに描かれたのではない当館のコレクションですが、子どもというフィルターを通すことで、新しい視点で作品を見られるのではないかと思っています。

――なぜこのような鑑賞ツアーを始めたのですか?

安部さん:もともと1歳〜2歳3ヶ月の未就園児を対象にした、工作などを体験する造形のみのワークショップを開催していました。このワークショップによって、それまで来てくださらなかった乳幼児連れが美術館に来てくださるようになりました。

それだけでも当館としては大きな一歩だったのですが、皆さん、ワークショップが終わったら展示室には行かずにそのまま帰ることが多くて。せっかく美術館に来たのにそれではもったいないと、造形のワークショップに鑑賞も取り入れ、親子で展示室に行く機会をつくりました。

子ども向けに描かれた作品でなくても、子どもは絵画を楽しめる

――鑑賞ツアーの記録からどのようなことが浮かび上がってきましたか?

安部さん:動物が描かれていたり、カラフルだったり、そういった誰もが考える子どもが好きそうな作品には当然反応しますが、大人にとっては難解な抽象画や渋い色の絵など、意外なものにも子どもは興味を持ちます。絵本の原画展など、私達が思う子ども向けの展覧会でなくても、子どもたちは真剣に絵を見ることができることがわかります。先入観のない子どもが発した言葉が作品の本質をついていることもあり、子どもと鑑賞することでさまざまな発見があるかと思います。

――年齢による反応の違いはありますか?

安部さん:0歳の子は抱っこされて鑑賞するので、大きすぎる作品は絵だと認識せずに素通りしてしまう傾向があります。逆に小さな作品はじーっと見ます。1歳頃から自分の知っているものが描かれている作品に興味を示します。1歳半くらいになると鏡にうつっているものが自分だと認識できるようになるので、ピカピカ光る作品を気に入ることもあります。言葉が出始めたころは、動物なら何を見ても「ワンワン」と言っていたり、2、3歳をすぎると自分が感じた気持ちをおしゃべりしてくれます。子どもの発達状態によって鑑賞も異なります

保田春彦「石を包む幕舎」(部分)         鏡に興味を示す子はこのような作品を好む。

子どもに寄り添って一緒に作品を見てほしい

――子どもと一緒に美術館に行くときのポイントは?

安部さん:最近は託児サービスを整えている美術館もありますが、当館では子どもと一緒に作品を見て欲しいと考えています。子どもが見ているものに親が寄り添うと思いも寄らない発見があるものです。

大人は順番通り見たいし、せっかく来たのだったら全作品を見ないと損した気分になりますが、そういうことは気にせず、お子さんが行きたいところに付いて行き、興味のない作品はとばしながら見ても良いです。お子さんの反応に気付けるように、大人は作品よりもむしろ子どもの方を向きながら楽しむのがおすすめです。

――展示室ではどのように過ごすのがおすすめですか?

安部さん:普段と同じように過ごすことで何気ない言葉が出てきます。興味を持ったものであれば、作品ではなく照明、展示ケース、温湿度計、そういったものについてでも話してみましょう。走りだしてしまう子には、腕をぐっと引っ張るのではなく、おなかと背中をはさむように手を添えると穏やかに立ち止まってくれます。いつもと違う空間なので、暗くてこわがるお子さんもいますが、家族が笑顔で接していると子どもの緊張もほぐれ、次第に空間に馴染めるようになってきます。それでも難しそうな場合は、無理しないようにしましょう。このようなことを記した「心の準備ガイド」を展示室でお配りしています。

――まだ喋れない小さな子でも楽しめるのでしょうか?

安部さん:赤ちゃんでも、興味を持ったものと持っていないものと反応の違いがはっきり出ます。作品から何かを感じ取っているんです。

・作品をじーっと見る。

・喃語(なんご)を発する。

・手足をバタバタする。

・触ろうとする。

・作品と親を交互に見る。

こういった行動をしていたら、興味を持っている証拠です。何の作品に対してそうしていたのか記録を残しておくと、後々見返すことができ、将来の宝物になりますよ。

――本物の絵を生で見る良さはどのような点にあるでしょうか?

安部さん:スマホの画面上でなんでも見られる時代ですが、実物を見ることは大切です。絵画を平面だと思っている方が多いですが、実際の画面は凸凹しています。絵の具がキラキラ光るといったディテールやスケール感など、画面からでは伝わらないことがたくさんあります。それは子どもも感じ取れることです。

子ども向けのワークショップを定期的に開催

――今回の展覧会以外の平塚市美術館の子ども向けの取り組みを教えてください。

安部さん:専門のボランティアチームと一緒に、絵を見て感じたことを自由に話す「対話による美術鑑賞」というプログラムを開催しています。普段は平塚市内の小学生を対象にしていますが、今年の8月には一般の来館者向けに「おしゃべり美術館」という名前で開催する予定です。ほかにも、親子を対象にした工作のワークショップなども定期的に開催しており、こちらも人気です。ぜひ当館のウェブサイトをご覧ください。

親子対象のワークショップでつくったモビール

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◆気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション

会場 平塚市美術館

会期 2022年7月2日(土曜日)~9月19日(月曜日・祝日)

開館時間 9時30分~17時(入場は16時30分まで)

休館日 月曜日(ただし、7月18日、9月19日は開館)、7月19日

観覧料金 一般200円/高大生100円

※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料

※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1名は無料

※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は3割引(年齢・住所を確認できるものをご提示ください)

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/20162006_00019.html

 

上記関連イベント

◆ギャラリートーク

担当学芸員×冨田めぐみ氏(NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会 代表理事)

日時:8月20日(土曜日) 14時~14時30分

場所:展示室2

※申込不要、要観覧券

※新型コロナウィルス感染症の状況により実施できない場合があります。

 

◆ワークショップ

「キッズ鑑賞ツアー」

日時:8月10日(水曜日)10時~11時

講師:冨田めぐみ氏(NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会 代表理事)

※事前申込制

※新型コロナウィルス感染症の状況により実施できない場合があります。

 

◆そのほかの子ども向けのワークショップ等の情報はこちらから

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/category4.html

企画協力/中川ちひろ
撮影/五十嵐美弥
取材・文/藤田麻希
構成/HugKum編集部

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