思わぬ反応にドキッ!? 子ども目線で作品を選んだ平塚市美術館「こどもたちのセレクション」

子どもと一緒にアートを楽しむためのおすすめスポットを訪ね、スペシャリストにお話を伺うHugKumの連載「子ども×アート」。今回、お邪魔したのは、平塚市美術館で開催中の「気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション」です。

「子ども×アート」平塚市美術館 前編

美術作品という正解のないものに向き合うことで、子どもたちの考える力を育むことができるのか? そう考えているHugKum「子ども×アート」連載で第2回目の取材先に選んだのは、平塚市美術館です。

現在開催されている「気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション」は、夏休みに各地で開かれている絵本の原画の展示など、子ども向けに描かれた作品の展示ではありません。いったいどんな作品が並んでいるのでしょうか? さっそく展示室に行ってみましょう!

子どもが反応した作品だけを厳選セレクト!

展示室に並ぶのは、平塚市美術館が収蔵するコレクションばかり。ただし、作品を選んだ基準が、いつもと違います。2015年から同館で開催した乳幼児向けの鑑賞ツアーで、指を差したり、感想を話したり、子どもたちが実際に反応した作品だけが選ばれているのです。もとになっているのは、過去7年分の子どもの記録です。

展示室に入ると、額に入った絵画、屏風、彫刻などがずらりと並びます。絵本や画用紙の大きさの絵しか見たことのない子どもにとっては、こんなに大きな絵があるの!? ということ自体が驚きになりますね。

原爆をテーマにした「薔薇爆弾」。恐怖を感じる子も

佐々木豊「薔薇爆弾」

とくに人気を集めている作品をご紹介します。佐々木豊「薔薇爆弾」です。横幅3.6メートルを超す大きな作品です。鮮やかなピンク色のバラのかたまりが空に向かって炸裂する様子はインパクト大。しかし、よく見ると空に散っているのは、バラの花だけではなく、人のようです。原爆投下後の広島をテーマにした作品で、遠くには原爆ドームも見えます。

展示室に掲示されている、過去の鑑賞ツアーの子どもたちの記録には、次のようにありました。

 

・「花火」(1才8ヶ月)

・「逃げたい」(3才2ヶ月)

・「戦争のヤツが何である?」(6才1ヶ月)

 

「ピンク」「かわいい」といったコメントも多くあったそうですが、絵の細部を見て、恐怖や戦争といったテーマも感じとっていることがわかります。

やっぱり人気! 動物モチーフ

宮川慶子「聞こえる」

会場にはいくつか生き物をモチーフにした作品があります。宮川慶子「聞こえる」は、ひときわ目を引く作品です。小鹿のような雰囲気ですが、よくみると、耳がたくさん生え、目はリアルにキラキラと光り、見たことのない不思議な生きものであることがわかります。

 

・「ぐずっていたのに笑顔になりました」(0才11ヶ月)

・「わんわん と大興奮」(1才8ヶ月)

 

言葉を発し始めて間もない1才児は、すべての動物を「わんわん」と呼ぶことがあります。会場のタコやウサギの彫刻にも「わんわんと言った」というコメントが出ていて微笑ましいです。

描かれていないものを想像する力に驚き

堀文子「トスカーナの花野」

子どもたちは1才頃から自分の知っているものが描かれている作品に、興味を示すそうです。堀文子「トスカーナの花野」はトスカーナ地方の風景を描いた作品です。穏やかな画風で決してインパクトの強いものではありませんが、子どもたちにとって身近な花が描かれているため、関心を集めています。11ヶ月の赤ちゃんが花に手を振っていた、というかわいらしいエピソードもありました。

掲示されているコメントのなかでも、とくに取材班が驚いたのが、

・「なんで蝶がいないの?」(5才)

というもの。この子は自分で花を描く場合は必ず蝶を描くのでしょうか。描かれているものだけではなく、描かれていないものに気づく想像力は、凝り固まった頭の大人にはないものです。

自分なりの物語を考えてみる

伊藤彬「青幻記」

2、3才よりもさらに年齢が上がると、自分の知っている事柄と照らし合わせながら物語をつくるお子さんもいます。伊藤彬「青幻記」は、右に描かれた二人の子どもを自分に置き換えてみたり、中央の金色で描かれた女神のような人物を母親にたとえる子がいるそうです。

 

・「丸いところお母さんが天国に行きそう」(5才)

・「うっすら見えるお母さんを鳥が食べようとしている」(5才)

・「どうしてあの人たち逃げてるの?隕石がぶつかったみたい」(5才)

 

絵を見て話をふくらませる想像力は、これからの時代を生き抜く力にもなるはずです。

意外にも子供を惹きつける、モノクロームの作品

伊藤彬「亡臆」

多くの大人たちが考える、子どもが好きそうな作品とはかけ離れた作品も、いくつか選ばれています。伊藤彬「亡臆」は、水墨だけで描かれた一見すると真っ黒な作品です。

 

・「まっくら」(1才)

・「こわい」「きれい」(5才)

・「お月さま」「よる」(5才)

・「うちゅうみたいですてきだった」(8才)

 

といったコメントが寄せられています。カラフルな作品を子どもは好きだろうと考えてしまいますが、暗いこと自体に興味を持ったり、繊細に描かれている星を見つけて、楽しんでいる様子が伝わってきます。

伊藤彬「亡臆」(部分)

この作品以外に抽象画も何作品か展示されていました。大人が見ても難解な抽象画であっても、身近な知っているものを投影したり、子どもは柔軟に鑑賞しているようです。

気に入った作品に一票入れよう!

展示室入口で、お子さんの年齢に応じて色分けされたシールが渡されます。廊下に展示作品のパネルが掲示されていますので、お子さんが気に入った作品(小さなお子さんなら反応のあった作品)にシールを貼ることができます。意外な作品が人気を集めていたり、投票結果にも興味をそそられますので、ぜひご覧ください。

大人が考える子どもが好きそうな作品ではなくても、子どもたちは柔軟に作品を鑑賞し、何かを感じ取っています。何に興味を示しているのか子供の反応をみながら展示室をまわると、思わぬ発見があるかもしれません。

後編では、本展を担当した学芸員の安部沙耶香さんに、企画の意図や展示室でのおすすめの過ごし方を伺います。

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◆気になる!大好き!これなぁに?こどもたちのセレクション

会場 平塚市美術館

会期 2022年7月2日(土曜日)~9月19日(月曜日・祝日)

開館時間 9時30分~17時(入場は16時30分まで)

休館日 月曜日(ただし、7月18日、9月19日は開館)、7月19日

観覧料金 一般200円/高大生100円

※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料

※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1名は無料

※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は3割引(年齢・住所を確認できるものをご提示ください)

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/20162006_00019.html

上記関連イベント

◆ギャラリートーク

担当学芸員×冨田めぐみ氏(NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会 代表理事)

日時:8月20日(土曜日) 14時~14時30分

場所:展示室2

※申込不要、要観覧券

※新型コロナウィルス感染症の状況により実施できない場合があります。

◆ワークショップ

「キッズ鑑賞ツアー」

日時:8月10日(水曜日)10時~11時

講師:冨田めぐみ氏(NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会 代表理事)

※事前申込制

※新型コロナウィルス感染症の状況により実施できない場合があります。

◆そのほかの子ども向けのワークショップ等の情報はこちらから

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/category4.html

企画協力/中川ちひろ
撮影/五十嵐美弥
取材・文/藤田麻希
構成/HugKum編集部

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