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飲食店で、焼肉を食べた子どもたち11人がカンピロバクターによる食中毒に
2022年5月、埼玉県の飲食店でカンピロバクターが原因の食中毒が発生しました。患者の20代の女性2人は、焼き鳥などを食べて腹痛、下痢、発熱などを発症。便からはカンピロバクターが検出されました。
また2022年7月、群馬県の飲食店で鶏、牛、豚の焼き肉などを食べた12~14歳の子ども11人が下痢や発熱、腹痛などを訴え、便を調べたところカンピロバクターが検出されました。
「最近、カンピロバクターによる食中毒の報道をよく目にする」と思ったママやパパもいるかも知れませんが、これは何か特別な原因があって急に増えた訳ではありません。カンピロバクターによる食中毒は、毎年発生していますが、コロナ禍による飲食店の時短営業や臨時休業などが影響して、一時、発生が減っていただけです。営業が再開したら、再びカンピロバクターによる食中毒が発生するようになりました。
カンピロバクター腸炎は、鶏、牛、豚などの腸にいる細菌が原因で起こる
カンピロバクター腸炎の原因は、カンピロバクターという細菌が原因です。カンピロバクターは主に鶏や牛、豚などの腸にいる細菌で、とくに鶏肉でカンピロバクター腸炎は起きやすいです。
新鮮な肉でも、よく加熱をしなければカンピロバクター腸炎を発症する可能性はあります。また湧き水や井戸水、低温殺菌されていない牛乳も注意が必要です。
腹痛は、右下腹部が痛むため虫垂炎と間違えることも! 血便も特徴
カンピロバクター腸炎の発症は、感染後2~5日ぐらいです。感染した菌の量が少ないと10日ぐらい経ってから発症することもあります。
主な症状は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱、血便です。
腹痛は、虫垂炎(盲腸)と同じように右の下腹部が痛むことが多いです。そのため医療機関を受診すると、初めは虫垂炎が疑われることもあります。
カンピロバクター腸炎の場合、血便は、真っ赤なことは少なく、赤黒い便のことが多い傾向です。
受診時は、半生肉を食べていないかさかのぼって思い出して
子どもに上記のような症状があるときは、小児科を受診してください。受診の時は、加熱不足の肉類を食べた記憶がないかさかのぼって思い出してもらうと診断の目安になります。
また子ども自身は半生の肉を食べなくても、ママやパパが半生の肉を食べた箸やスプーン、フォークなどを使って、子どもに食事を与えたりすると感染のリスクはあります。
脱水、激しい腹痛、血便は診察時間外でも受診
カンピロバクター腸炎が疑われると、便をとって検査します。医療機関によっては浣腸して便を出すこともあるので、おむつをしている子で、家庭で便をしたばかりなら、そのおむつを清潔なビニール袋に入れて持参してもよいです。血便が疑われるときも便を持って行くか、スマートフォンで血便の状態がよく見えるように写真を撮って医師に見せましょう。
次の様子があるときは、診察時間外でも受診してください。
【診察時間外でも受診が必要なサイン】
- 1.水分がとれない
- 2.おしっこが出ない
- 3.ぐったりしている、意識がぼうっとしている
- 4.泣いて機嫌が悪い
- 5.血便が出た
- 6.激しい腹痛がある
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ウイルス性胃腸炎のように人への感染力は強くないが、便を介した感染に要注意
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- カンピロバクター腸炎は便の検査に時間を要し、診断がつくまでには1週間程度かかります。状態によっては、抗生剤を使用することもあります。菌が腸管内にとどまってしまうので、基本的には下痢止めは使用しません。
- 家庭でとくに注意してほしいのは脱水です。こまめな水分補給を心がけてください。またロタウイルス、ノロウイルスに代表されるウイルス性胃腸炎のように人への感染力は強くはありません。
- しかし、便を介して感染することがあるので、子どもが感染したらおむつ替えの後は、ハンドソープでしっかり手を洗ってください。
- 自分で用が足せる子は、トイレ・手洗い場のドアノブや水栓レバーが感染源になることもあるので、使用後はアルコール消毒をしましょう。
- トイレの後や食事の前は、ハンドソープで手を洗うことも徹底してください。また感染した子どもと入浴するのは問題ありません。しかし、カンピロバクターの菌で汚染された、お風呂のお湯を誤って飲んでしまったりすると感染するので注意してください。
カンピロバクター腸炎を防ぐには、加熱&調理器具の衛生管理がカギ
- カンピロバクター腸炎というと“飲食店で起こる食中毒”と考えるママやパパもいるかも知れませんが、梅雨の時期や夏は家庭でも注意が必要です。カンピロバクター腸炎を防ぐには、調理のとき次のことに注意してください。
- 【カンピロバクター腸炎を防ぐ調理のポイント】
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- 1.肉類を調理した後は、まな板、包丁などの調理器具は食器用洗剤でしっかり洗ってから、次の食材を切ったりする
- 2.肉類は、しっかり加熱する(加熱は中心部を75℃以上で1分間以上)
3.肉類を触ったら、ハンドソープで手を洗ってから次の食材を触る
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- 4.予防にはアルコール消毒も有効。アルコール消毒をするときは、ムラなく消毒する
カンピロバクター腸炎後に発症するギラン・バレー症候群とは!?
カンピロバクター腸炎は、医療機関を適切に受診すればO-157のように亡くなることはありません。しかしカンピロバクター腸炎の合併症として約2000人に1人の割合で、ギラン・バレー症候群を発症することがあります。
ギラン・バレー症候群は、末梢神経の障害によって脱力、しびれ、痛みなどの症状が起きる病気です。特に小学生高学年以降は注意が必要です。
カンピロバクター腸炎になって、約2~4週間後に足がもつれる、転びやすい、動きがぎこちない、足を引きずる、しびれを訴えるなど気になる様子があるときは、すぐに小児科を受診してください。受診時は、カンピロバクター腸炎になったことを必ず医師に伝えましょう。
記事監修
大阪市立総合医療センター 感染症センター長兼務。医学博士。専門は、感染・免疫、ワクチン、小児科全般。
日本小児科学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医、日本感染症学会推薦ICD。
取材・構成/麻生珠恵