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スロウリーディングができる、これまでにない国語ドリル
『国語読解力「奇跡のドリル」』は、戦後の灘中学で行われていたスロウリーディングの授業を体感できるドリルです。この授業を受けていた当時の子ども達は着実に学力を上げ、私立校ではじめて東大合格日本一を達成。東京大学第29代総長となった濱田純一氏をはじめ、日本を支える数々のリーダーを輩出しました。
エチ先生と呼ばれる橋本武先生が行うその授業は、文庫本『銀の匙』だけを3年間かけて読み解くというもの。一言一句を丁寧に読み解き、生徒の興味でどこまでも横道にそれていく授業は、2週間に1ページしか進まないこともあったのだとか。時間をかけて物語を深く読み込み、自分が体験したかのように理解する。これが、今回のドリルで実践できる「スロウリーディング」(精読=遅読)です。
『国語読解力「奇跡のドリル」』は、エチ先生の授業について取材を重ね『奇跡の教室』を上梓した、明治大学の伊藤氏貴教授が考案。子ども達の読解力を飛躍的に伸ばしたエチ先生の手法を再現した、これまでにない国語ドリルです!
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ドリルの生みの親、伊藤教授にインタビュー
『奇跡の教室』の著者であり、このドリルを考案した伊藤氏貴教授に、スロウリーディングの効果やドリルの使い方について、お話を伺いました。
お話を伺ったのは…
奇跡の授業を実践できるものが欲しい!
―今回、ドリルをつくったきかっけを教えてください。
伊藤教授 『奇跡の教室』を出版してから、“エチ先生が灘中学で実践されていた方法を具体的に知りたい”、“実践できるツールが欲しい”という声を多くいただき、自習に使えるドリルを作ることになりました。
今回対象にしたのは、小学校1~2年生。エチ先生が教えていたのは中学生でしたが、この手法をはじめるなら早い方が良いと考え、小学校低学年用にしました。
―他のドリルとはどんな点が違うのでしょうか。
伊藤教授 良いドリルや、工夫のされたドリルもたくさん目にしますが、もったいないなと感じるのは、いろいろな文章を細切れに持ってきていることです。物語の一部だけを切り取って読むので、全体の構造や前後の流れが分かりません。そして、解いた後には忘れてしまうんですね。
このドリルは、1冊を終えると『手ぶくろを買いに』(新見南吉)の物語を通しで3回読むことができます。エチ先生の授業では、中学3年間を通して、1回を読み切る方法でしたが、ドリルでは飽きてしまわないよう、繰り返し読みながら、より深く理解するスタイルにしました。
―『手ぶくろを買いに』を選んだ理由は何ですか?
伊藤教授 この物語は、“親と子で見えている世界に差がある”ことが分かる文章だからです。小説や物語を読む場合、登場人物の立場によって知識や見え方の差があることを考える必要があります。このドリルでは、子ぎつねに感情移入するだけでなく、母ぎつねがどう考えているのかかも想像する必要があり、立場を変えて読む力が身につきます。
発達障害のうち、ASD(自閉症スペクトラム)の子は、他人の立場からどう見えるかを想像するのが苦手な傾向がありますが、小さい頃からの訓練で、ある程度克服できるところもあります。相手の意図を捉える「読解力」はこうした力を鍛えることでもあります。
スロウリーディングが子どもの読解力を伸ばす
―スロウリーディングは、子どもにどんな影響を与えてくれるのでしょうか。
伊藤教授 物語を深く理解するためには、スロウリーディングが最も適していると言えます。多読や速読では、残念ながら読解力は伸びません。エチ先生の教え子たちは3年間で1冊の本を読むことで、確実に学力を上げました。
また、私の教え子でも、読解力がある子の共通点は“愛読書がある”ということです。愛読書は、単に好きな本ということではなく、内容を覚えている本のこと。あそこで登場人物が何をした、ああいう場面があった、と覚えているものです。読解力をつけるためには、自分の中で短期記憶ではなく長期記憶にするまで読む作業がとても重要なのです。
日本の学生たちは自分の言葉で表現するのが苦手
―近年の国語教育に感じている課題はありますか?
昨今の教育では、国語力を情報処理能力と勘違いしている傾向があり、危険なことだと感じています。
2019年に、国際学力調査(PISA)で日本の学生の“読解力”の順位が8位から15位に落ちて騒がれたことがありました。しかし、15位を取ったのはそのときがはじめてではありません。日本の学生の読解力の点数が低い原因に、テストの後半にある自由記述の問題を白紙で出す子が多いことが挙げられます。ひとつではない答えを、自分でどう答えるかの訓練をしていないからなんですね。
そういう意味でも、小学生のうちから自分が読み取った内容を言葉にする訓練をして欲しいと思います。
親子の対話で効果がアップ!
―このドリルの効果的な取り組み方を教えてください
伊藤教授 このドリルでは“先を想像してみよう”といった、正解がひとつに限られない問題が数多くあります。“この先はどうなるんだろう”と先を想像したり、“前のところはどうなっていたか”と結びつけたりしながら読むことは、今後、評論文の問題を解くときにも非常に役に立つ力です。
このような問題のところでは、ぜひ親御さんに、お子さんの話を聞いていただきたいと思います。正解、不正解ではなく、“そんな風に受け止めたんだね”、という一言を言って欲しいと思います。自分の感想や想像したことを他人に受け止めてもらうと、子どもの言葉はぐんぐん発達していきます。
―子どもの「読解力」を高めるために、親がサポートできることはありますか?
伊藤教授 子どもが本を読んだときは、中身について尋ねてみてください。自分が読んだものを他人に説明するのは非常に高度な能力が必要で、その対話の中で自然に「読解力」や「理解力」が育っていきます。
また、日常でも子どもの話に耳を傾けてほしいと思います。親御さんが忙しいときには、ゆっくり聞いてあげられないこともあるかと思いますが、うなずくだけでも構いませんので、話を聞いてあげることで、子どもの表現力を伸ばすための近道になりますよ。
物語を楽しみながら、じっくり取り組めるドリル
伊藤先生のお話を聞き、読解力や理解力を身に付けるためには、スロウリーディングで物語を深く読むこと、そして、物語について子どもと対話をすることが重要と知りました! お話を参考に、筆者も小学1年生の次男と一緒にドリルに取り組んでみました。
『手袋を買いに』は、続きが知りたくなるストーリー展開。通常なら、1ページ終わると“もう勉強終わりにしたい!”となってしまうところ、次のページの話が読みたい、というモチベーションで取り組めるのがすごく良いと思いました。
小学1年生の1学期を終えたばかりの息子には、まだまだ難しい問題もありましたが、「対話が大事」という先生の言葉や、「スロウリーディングで繰り返し読んで理解すればよい」ということが、私の肩の力を抜いてくれ、これまでとは違う気持ちで子どもの勉強に向き合えた気がします!
お子さんの読解力を伸ばしたいという方、お子さんと楽しく勉強に取り組みたいという方は、是非手に取ってみてはいかがでしょうか?
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取材・撮影・文/寒河江尚子