パパの産後うつでは、どのような症状がでるのでしょうか。また、防ぐ方法はあるのでしょうか。「うつにはなったけど、育休は取ってよかった」と語る2名の当事者に聞きました。
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平松勇一さんの場合「ワンオペで見る双子の命のプレッシャー…」社会からの孤立感からうつに
平松勇一(ひらまつ ゆういち)さんは、双子のパパです。映像制作会社の編集者として働いていたときに、1年の育児休業を取りました。
平松さん:「娘が泣いているとき、あさっての方向を見ながらポンポンと背中をさすってたらしいです。あやしてはいたんですが、抱っこもしない状態で。あとから妻に言われて、精神的に参っていることに気づきました」
うつになったのは、育児休業の終わりが見えたころでした。双子が1歳になり、パートナーは妊娠期間に取ったネイリストの資格を活かして就職。ワンオペで双子を見る時間が増え、徐々にメンタルが落ち込んでいったのです。
週3のワンオペ双子育児に心が安まらず…
平松さん:「ワンオペ育児を週に3回やるようになったんですよね。これまでもワンオペで見ていたことはあったのですが、双子をひとりで見続けるのは思ったよりも大変で。「命を守らないといけない」と思うと重圧で押し潰されそうになりました。双子が1歳の頃だったので、ハイハイで部屋を移動します。つかまり立ちも覚えていたので、立っては転びます。まったく目を離せません。心配でトイレにも行けませんでした。双子なので、ひとりが泣いたと思ったら、もうひとりが泣いたりして。お昼寝の時間もバラバラです。慌ただしく緊張しながら育児をしていましたね。これまでは2人でやっていたから乗り越えられていたのだと痛感しました」
ただでさえ大変な双子の育児。命というプレッシャーを抱えながら、バタバタと日々を過ごしていると心が休まりません。パートナーが働いていることで大人との会話も減っていきました。重圧と孤立。閉じた環境では、客観的に自分の置かれた状態を把握できなくなります。平松さんの孤立感は次第に強まっていきました。
父親の育休は想像以上に孤独だった
平松さん:「大人と話す時間がないのはきつかったです。パートナーは働いているし、友人で同じ立場の人もいない。地域の育児コミュニティでも父親で育休を取ってる人もいない。同じ立場で話せる人はいませんでした。ネットを見て気を紛らわせようとしても、自分のいないところで社会は動いていく。次第に社会からポツンと取り残されてるような感覚になっていって。ベビーシッターやファミリーサポートを利用して息抜きの時間を取れればよかったのですが、調べる気力はわきませんでした」
次第に、無気力になっていった平松さん。子どもをあやすときや日常生活で、なにもない空間をぼーっと眺める時間が増えていきました。「おかしい」と思ったパートナーは、ひとりの時間を取らせようと散歩を勧めます。平松さんは、1日1時間、ひとりで散歩するようになりました。
そして、散歩をしながら、以前にうつで入院した母親のことを思い出すようになります。
「自分も母親と同じように、心が落ち込んでいるのかも」と思うようになり、心療内科に行くことに。お医者さんから「おそらくうつでしょうね」と診断を受けました。
投薬治療、また普段の生活ではパートナーに相談し、散歩の時間を取るなど気晴らしの時間を取るようにしました。
そして、メンタルを崩しているときに、仕事の復帰へ向けた話がはじまります。一般的にはメンタルがダウンしているときに、仕事の話を進めるのはよくありません。しかし、平松さんの場合はそうではありませんでした。
仕事復帰が見えてくると、心は回復へ
平松さん:「仕事復帰の話が始まると、体調がどんどんよくなりました。社会に参加している実感がわいて、いつの間にか回復していました。僕の場合、子どもが産まれるまで仕事に一直線だったんですよね。映像製作の仕事は好きでした。その大きな柱がなくなったことも、うつになった理由のひとつだと思います」
こうして育休期間を経て、平松さんは仕事に復帰。育休を取ったことで、かけがえのない時間を過ごせたと平松さんは振り返ります。
平松さん:「2人で家庭を築きあげでいけましたし、楽しいお出かけの思い出もできました。メンタルの落ち込んだ期間もありましたが、育休を取ってよかったです」
橋本暢資さんの場合「意地を張ってしまってイライラ」3ヶ月目に睡眠不足が原因でうつに
育休3ヶ月目でうつ症状に
橋本暢資(はしもと まさより)さんは、会社員で2児のパパです。
2人目の子どもの出産のときに、専業主婦のパートナーと話し合い、6ヶ月の育児休業を取得。
育休期間では、1人目の子どものお世話と夜の赤ちゃんのお世話を担当していました。橋本さんがうつになったのは、子どもが産まれて3ヶ月目のときでした。赤ちゃんの夜泣きが続き、睡眠時間が短くなったことが理由だったと言います。
橋本さん:「夜に泣き止まないのが1週間ほど続いたんですよね。あやしてもミルクをあげても止まらなくて。3日、4日と同じことが続いていくうちに、「1ヶ月目と2ヶ月目はうまくいってたのに、なんで?」と思うようになって。
夜泣きがおさまらない子どもを見て、「いつまで続くんだろう?」と悲観的にもなりましたね。僕はもともとロングスリーパー。睡眠時間を7時間は取らないと持たないタイプです。この時期は、細切れな4時間睡眠だったこともあり、耐えきれなくなったのだと思います」
妻を休ませたいという思いから、逃れられない責任感でいっぱいいっぱいに
橋本さんは、「育児休業を取るのであれば、心身ともに負担のかかっているパートナーを休ませたい」と考えていました。
ただ、メンタルが落ち込んだことで、パートナーへの思いが、「しっかりやらないとダメだ」という自分を縛る言葉に変化。視野がどんどん狭まっていきます。
橋本さん:「妻からは「寝てもいいよ」と言われていたんですよ。でも、「自分以上に苦労している妻には甘えられない。もっと頑張らなきゃ」と思ってしまって。独りよがりになったのもよくありませんでした。いま振り返ると当たり前ですが、赤ちゃんは1日ごとに変わっていくものです。夜泣きが続いたり、寝るサイクルが変わったりしてもおかしくありません。ただ、当時は自分に余裕がなくて、そんな当たり前のことも考えられませんでした」
「イライラ・焦り・悲しみ」 異変を感じて病院へ
そして、赤ちゃんの夜泣きが止まらなくなって1週間ほど経った夜。1ヶ月目と2ヶ月目のストレスもが無意識に蓄積していた橋本さんは、動悸が止まらなくなり、イライラと焦りと悲しみが混じったような感情に襲われます。
以前に心のバランスを崩したことのある橋本さんは、「前にダウンしたときと同じ症状が出ている。このままではまずい」と思い、メンタルクリニックへ行きました。
橋本さん:「病院に行って、薬をもらいました。ただ、それよりもお医者さんに行ってよかったのは、自治体の福祉課を紹介してもらえたことです。自治体で育児相談に載ってくれるサービスがあると紹介してもらったんですよね。「薬は出せるけど、環境は変えられないから」と言われて。それから自治体に相談に行って、ようやく「勝手に抱え込んでいた」と気づきました」
自分のできないことはできないと素直に周りに相談
橋本さんは「気負いすぎていた」と反省。パートナーと話し合い、4ヶ月目からは大きく分担を変えます。
橋本さん:「4ヶ月目からは、担当をガラッと変えました。まず、妻に夜を見てもらい、昼を自分が見るようにしました。妻の実家が近くにあるので、頼る頻度も増やして。妻には申し訳ないのですが、できない部分はできないと認めて、話し合いながらやっていきました」
睡眠時間の少なさと育児への気負いが絡まり合い、うつになった橋本さん。育児分担を変更した育休の4ヶ月目以降は、メンタルが回復し、家族での時間を楽しく過ごせたそうです。
橋本さん:「家族と楽しく生きていくにはどうしたらいいか、じっくり考えることができました。自分の向きや不向きが分かったのも大きいです。妻や家族に素直に相談できたことが良かったと思います。」
「自分の時間と人との繋がり」同じ立場の人と相談できる関係性が必要
育休期間にうつになったおふたり。うつを振り返って、どうしたら防げるのか、経験者だからこそのヒントを聞いてみました。
平松さん:「やってみないと分かりませんが、今だったらパパのオンラインコミュニティがあるのでそれを活用したりするといいのかなと。情報交換できる人がいれば、違っていたかもしれません。自分の居場所があれば変わっていたのかなとも思いますので。」
橋本さん:「連絡がとれるパパ友がいれば、相談できたのかなと思います。あとは、気負いすぎないこと。ベビーシッターの制度がある自治体もあるので、そういうのを利用して精神的な余裕を持てればいいのかなと。育休を取るパパには、真面目なタイプもいると思うんですよね。パートナーと自分の体調と相談しながら、人や制度に頼って、気負い過ぎずに育休期間を過ごしてほしいです。」
育児は思った以上に心に負担がかかるものです。仕事のようにきちっと進まないことを自分のせいだ、と負い目と感じてしまいがちですね。初めての育児ならなおさらです。
育休を取る前から情報を集めていくことと、家庭以外にも相談できる場所や人を作っておくのがキーになりそうです。
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文・構成/中たんぺい 構成/HugKum編集部