こんな上司が欲しかった。社内で初めて部長の立場で「パパ育休」を取得した佐野さんの話

育児休業制度を利用した男性を取り上げてきたHugkumの父親育休シリーズ。今回は、管理職にありながらご自身で1週間の「育休」を取得した男性を紹介します。

男性の育児休業取得者は一般的に若い人が多いため、社内的な役職がそれほど高くない人が多い傾向にあります。

しかし、今回のHugKum連載で取り上げる取材者は、部長の立場ながらご自身で育休を取得した珍しいケースです。

一体どのような背景で育休を取得したのか、IT関連企業の株式会社アシスト(東京)に勤務する佐野弘明さんに、話を聞きました。

家族の声が「育休」の決め手

会社の部下との風景。写真右が佐野さん。

 

そもそも佐野さんが所属する会社は、ソフトウエアの活用をサポートする創業50周年の企業です。その社中でも、システム技術基盤本部の技術3部という、筆者からすればちょっと難解そうな名前の部署で、部長として働いているそう。

いわば、管理職の立場で第二子誕生(執筆時点で1歳)をきっかけに自ら「育休」を取得したわけですが、聞けば、1人目のお子さん(執筆時点で5歳)が生まれた時は、育児休業制度を利用しなかったと言います。

どうして1人目では育休取得しなかった佐野さんが、2人目では取得しようと思ったのでしょうか。

「そもそもうちの会社は、男性社員だけに育休を取得しろと促進もしていません。誰かに向かって何かの制度を打ち出せば、その制度に漏れる人が当然出てきて、不公平感が生まれるからです。

また、男性で育休を取得したという話も社内ではほとんど聞かなかったので、1人目の時は取ろうという判断に全くなりませんでした。

2人目の場合も実は、取得する考えが最初はありませんでした。しかし、1人目と違って上の子の世話もあるので、妻の希望があり育休を取得しました」

部長の立場で取得した以上、後輩の手本になるような意図もあったのではないでしょうか。その点を聞くと、最終的には組織と家庭、両方へのプラスを考えたみたいです。

「もちろん、きっかけは妻の希望でしたが、育休制度の利用が組織と家庭の両方にプラスになると考えました。

女性だけが家事や育児を担う社会は不平等ですし、男性だけが仕事を担う社会も不平等です。

なんでも男女が平等になっていく流れの中で、自ら率先して育児休業制度を利用する姿を見せたほうが、組織運営や働き方改革など、組織全体のプラスになると思いました」

「有休」ではなく「育休」にこだわりました

佐野さんの「育休」は1週間でした。この期間について何か考えはあったのでしょうか。

厚生労働省の資料によると、育児休業制度を利用する男性のほとんどが、1週間程度の期間を選択しています。

「本来は、1カ月くらい長くとりたいと思っていました。育休を取得しようと思って最初に相談した執行役員の上司も、背中を押してくれました。

しかし、男性の育休をがんがん押している感じも会社にありませんし、そんなに長く休むわけにも立場上いかないと配慮して、1週間と決めました。

今思えば、もっと長く取れば良かったと思います。

ただ、短いながらにその1週間を普通の『有給休暇』ではなく『育休』で休もうとは決めていました。『育休』を使った管理職がいると形を残したかったからです。

また、同じ男性で『育休』を取った後輩が、『有休だと家族で旅行とか出掛けたくなるけれど、育休なら育児に専念しなければいけない気分になる』と言っていました。

あくまでも気分の問題ですが、振り返ってみると一理あるなと思います(笑)」

佐野さんは、その1週間の休みをどのように過ごしていたのでしょう。

「当たり前に普段から育児に向き合っていますので、子どもに離乳食をあげたりと、特に変わった感じはありませんでした。

ただ、上の子を見られる時間が長くなりました。普段であれば、園バスに送り迎えをお願いしているのですが、育休中は自分で上の子を車で送り迎えしました。

毎日園に顔を出すようになると、わが子の友達も送迎時に寄って来てくれるようになります。今までは顔も分からなかった子どもたちと話せるようになった1週間は、本当に楽しかったです」

プライベートの風景。

大人と仕事しているほうが楽

男性育休の連載を続けていると、「育休」の取得期間だけ仕事のスキルアップが滞る、成長やキャリア形成に不安を感じるとの声も男性から聞こえてきます。

管理職の部長でありながら、ご自身でも「育休」を取得した佐野さんは、キャリア形成や成長の不安について、どのように感じているのでしょうか。

「その人の気持ち次第ではないでしょうか。

1年とか長期になると心配になる部分もあるかもしれません。しかし、育児休業を1年以上取得し、仕事に復帰して、バリバリ活躍している女性など、当たり前に存在しています。

育児しながら働いている方も取引先にたくさん見られます。見ていると育児を経験してむしろ、パワーアップしている方が多い印象すら受けます。

なにしろ、子育てって滅茶苦茶大変じゃないですか。大人と仕事しているほうがはっきり言って楽ですよね(笑)育児に集中するほうがよっぽど大変です。

だからこそ、何も分かっていない相手に何かを伝える際のコミュニケーション力だとか、対人スキルだとかが、育児経験を経て大きく育つのではないかと思います。

私の場合は特に1週間と短かったので、育休の取得がデメリットになったと思う部分は一切ありません」

「なんとかするしかないぞ」と組織を追い込む方法もあり

聞けば、佐野さんに影響を受けて、佐野さんの後輩の中には育児休業を取得した男性も出てきたと言います。佐野さんは部長の立場でご自身の経験を、どのように今後、社内に還元していく予定なのでしょうか。

「自分のところのメンバーとは一対一の会話の機会が定期的にあるので直接伝えていきます。朝礼などの機会もあるので、男性育休の事例を紹介したり共有したりもできます。

ちょうど先月も、中途採用で入社を希望される女性の方との採用面接で、育児休業制度についての質問を受けました。会社としてのスタンスと私自身の経験を語ると、驚いて聞いてくれました。

ただ、そうした情報発信だけでは解決できない部分もあります。仕事が人に張り付いていて、人員交替の難しい「属人化」が避けられない業務が、社内には当然あります。

中日本・西日本など地域ごとに分けられていたチームを全国横断の組織につくり変え、属人化を排除するなどの取り組みも社内で行っていますが、まだまだ改善が必要な部分もあります。

替えの利かない、それこそ属人化しまくっているある男性社員に、子どもが今度生まれる予定ですから、この状況を改善するいい機会なのだと思います。

育休の話を彼にもして、思い切って長く取ってもらい、『さあ、属人化をなんとかするしかないぞ』と組織を追い込む方法もありかなと思っています(笑)」

以上、部長の立場で社内で初めて男性育休を取得した佐野さんの事例を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

佐野さんのご家庭では3人目の予定こそないみたいですが、あくまでも仮定の話として3人目が生まれた時を想像してもらいました。すると、

「3人目はもちろん、もっと長く育休を取りますよ」

と、即答してくれました。

取材の最中、ジョークを交えながら、理路整然とよどみなく穏やかに話す佐野さん。会社の部下たちにも同じように接しているのかなと筆者は感じました。佐野さんが直属の上司なら、育休の相談もしやすいと思います。

ゆっくりとした歩みではありますが、男性育休の制度利用者は増えています。その経験者たちが今後、佐野さんのような立場にどんどん上がっていけば、あるポイントを境に社会も一気に変わっていくのかなと思いました。

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取材・文/坂本正敬

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