今回取材に応じてくれた2人のパパは、お互い北陸に暮らし、それぞれ異なる会社の経理部門と管理部門で働くキヨさんとリクさんです。今回の取材がスタートするタイミングで、お二人は初対面でした。
そもそも男性で「育休」を利用する人は全体の1割程度と少なく、制度を利用した男性であっても2週間未満と短い「育休」が一般的です。そんな中、第一子の育児から1年という長い休みを選択した2人は、それなりに思い切った決断と行動があったはず。
おふたりの社名と実名は伏せつつ、ご本人にお顔出しいただいて、パパ育休にまつわる本音を思いきり語っていただきました。
「あの時、あなたは子育てをやっていない」
最初の質問は「育休」の長さ。どうしてそんなに長く「育休」を取得したのでしょうか。
聞けば、第一子を授かるまでに3年を要したキヨさんと、いきなり双子の父親になったリクさんには、それぞれに確かな動機があったのだとか。
キヨさん
「結婚すると子どもがすぐ生まれると思いましたが、3年授かりませんでした。この3年は、毎月が希望と絶望の繰り返しで、正直に言えばお互いのストレスで何度も妻とぶつかりました。そんな中でやっと授かった子どもです。
将来について、家族のきずなについて思いを深める期間も長かったので、仕事・子ども・家族の優先順位を考えた時、1年の判断に自然になりました」
リクさん
「私の場合は、もともと結婚してから、優先順位は何があっても一番に家族だと決めていました。仕事ばかりして育児を放棄すれば『あの時、あんたは子育てをやっていない』とずっと責められるはずですし(笑)。
ですから、最初から半年は育休を取ろうと考えていました。しかし、双子と分かった段階で、喜びもしんどさも2倍になると思い、1年に切り替え、会社にも伝えました」
キヨさん、リクさんがお勤めの企業は、どちらも数千人規模の従業員が働くとても大きな会社です。ただ、それだけの人数がいても、「パパの育休」制度を利用する人はなかなか見当たらず「風の便りで聞くくらい」(リクさん)だと言います。
それぞれの所属企業の側にも、男性育休を後押ししようという動きはもちろんあるらしく「上司に相談するとおめでたいムードが最初はあった」とキヨさんは言います。
しかし、「選べる立場なのに育休を選ばない」(リクさん)男性従業員は現実問題として多く「人生のプライオリティがそもそも違うのではないか」(キヨさん)と語ってくれました。
「夫婦のコミュニケーション」より、お互いの「体力回復」が最優先
1年間の「育休」を取得したパパ2人という共通点はありますが、取材時点のキヨさんはお子さんが生後46日目、「育休」もスタートしたばかりです。一方、リクさんは、1年の「育休」も残すところ2カ月と迫った段階でした。
過ごしてきた「育休」の期間がそれぞれ異なる状況ながら、育休の始まりと終盤で、おふたりはどのような毎日を送っているのでしょうか。
キヨさんの場合:「ギンギンタイム」は親子で騒いで発散
「僕の場合は、子育てが始まったばかりなので、妻と一緒に毎日の流れとルーティーンをつくっている段階です。
普通の家庭と状況が違うと思うのですが、授からなかった期間がうちは長かったので、夜泣きも真夜中の授乳も、妻と一緒に喜んでいます。夜泣きすれば『貸せ、貸せ』と、子どもを僕が奪うくらいです(笑)。子どもができてから妻との関係も落ち着きました。出産前のつわりすら、妻には喜びだったみたいです。
とはいえ、現実問題として眠れない日々は肉体的につらいです。そこで、夜の12時から深夜の3時まで、子どもがぐっすり寝てくれる、僕たちもぐっすり眠れる時間をなんとか確保しようと、子どもの生活リズムを調整しているところです。
例えば、うちの場合、夕方の6時からは子どもの目がギンギンになる時間が決まってあるので、とにかく一緒に歌ったりして、発散させるように工夫しています」
リクさんの場合:夫婦のケンカも減ったけど…
「キヨさんから、奥様との関係について話がありました。うちの場合は、出産前後でけんかが増えたとか、減ったとかもなく変わらないのですが、育児がスタートしてから2人の会話が減った気はします。
私にとってはとにかく妻が最優先。すき間時間には妻と話をして気分転換させてあげたいと思うのですが、『くつろぐ』『体力回復』が結局は最優先になってしまっています(笑)。
私自身も、疲れてしまっているのだと思います。写真が趣味で、1年間の育休中には写真をたくさん撮りたいとも思っていましたが、そんなゆとりは最初の半年は特にありませんでした。一眼レフカメラを出すひと手間すらおっくうで、結局、スマホで撮る妻の写真をもらっていました。
うちの場合は双子で、2人の子どもが同時に寝てくれるような都合のいい時間もありません。しかも、夕方の5時から6時半は『魔のグズグズタイム』が毎日決まってやってきます。その1時間半を終え、あれこれやって夜の8時に寝かせる時は、もうくたくたです。
なのでうちはもう、アメリカ人の子育てスタイルと同じで、最初から親子で寝室を分け、子どもたちが夜の8時に寝たら、子ども部屋で寝かせて、途中で泣いても『知らん』と心を鬼にしてそのままにします」
「サポート」ではなく、夫婦でがっつり取り組む
キヨさん・リクさんの話を聞くと、パパの「育休」は「イクメン」だとか「子育てパパ」だとか、キラキラした感じだけでは済まされないと分かります。
しかし、疲労困ぱいする毎日を半年以上も過ごした上でも、「後輩には育休を勧めたい」とリクさんは感じているそうです。
リクさん
「なかなか育休が取りづらい職場環境があるなら別ですが、少なくとも私の会社では、育休を利用できる環境があります。大変な部分はもちろんありますが、育休の毎日は、なんなら仕事よりも普通に楽しいです。
奥さんのサポートというスタンスで済まされる問題では決してないはずです。がっつり2人で取り組むべき問題が育児だと思いますので、子どもの変化が最も大きい生後すぐの時間を後輩も一緒に過ごしてみてはどうかと思います」
以上、いかがでしたか?
このパパ対談は前後編の前編になります。1年という長期の「育休」をどのような根回しと調整で実現したのか、その辺りにも後編では迫っていきますので、引き続き読んでみてくださいね。
【キヨさんのブログ】
取材に登場したキヨさんは、育休や不妊治療についてブログでも情報を発信されています。併せて参考にしてください。『まわれブログ』
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文/坂本正敬 写真/坂上翔太・荻矢陸央
参考: 育児・介護休業法の改正について – 厚生労働省