子どもが生まれると、成長に合わせていろいろな悩みが出てきます。健康のことはもちろん、しつけのこと、園生活でのこと、学習についてなど、「どうしたらいいの?」とふと誰かに聞いてみたくなる疑問は尽きません。そんなみんなが感じる育児のお悩みや疑問に、保育経験41年の元園長先生・田苗孝子先生に答えていただきました。ふっと気持ちが軽くなる、そんな先生のお答えをQ&Aでご紹介します。
子どもの健康、しつけ、園生活の悩みをズバリ解決!!
もうすぐ入園の男児です。ほかの子と比べて好き嫌いが多い気がします。園では給食もあるので心配しています。偏食を克服するにはどうしたらいいでしょうか。(富山県 A・Sさん)
お子さんの嫌いなものを決めつけていませんか?
乳幼児は、食べものの食感や風味に敏感な時期があります。そのため、食べものの好き嫌いは、意外と離乳食や幼児食のころからあって、その時期に子どもの好き嫌いに親がどのように関わってきたかによって、子どもの食のこだわり具合も変わってきます。
たとえば、離乳食を子どもの口へ入れてあげたときに嫌な顔をして口から出してしまった場合、心配性のお母さんは「これは嫌いなんだ」と思って子どもを気づかい、好きなものや喜んで食べるものだけを与えるようになりがちです。
しかし、そうして決めつけてしまうのは禁物です。なぜならその時期の子どもは、そのときの気分で、食べる物や食べる量も変わるからです。口に入れた食べものの食感がざらざらしていたり、大きかったり。また、口に入れた量が多すぎたり、熱すぎたり、味が濃すぎたり——。ちょっとしたそんな違和感で口から出してしまうこともあります。ときには、思っていた食べものと違うものが出てきただけで嫌な顔をする場合もあります。
だから、もし食べものを嫌がるようなことがあっても、お母さんはすぐダメだと決めつけずに、いろんな形で繰り返し食べさせてあげていただきたいですね。
たとえば、ニンジンを嫌がるようだったら、小さく刻んでハンバーグに混ぜたり、り下ろしてカレーに入れたりと、いろいろな工夫をして試してみてください。本当に嫌がるときはやめることも大事ですが、口から出してしまっても、「ベーしないよ」と言って、根気よく繰り返すのがポイントです。そうすることで、口に入れたものを出すことはマナーに反することだということを教えられますし、好物にはなりませんが、味に慣れてきて、少量なら、社会生活を営むうえで、支障がない程度に食べられるようになることが多いのです。
口に入れられたらほめる、食事が楽しみになる環境づくりが大事
完全給食の当園では、給食がおいしく楽しいものだという雰囲気づくりを心がけています。たとえば、子どもの苦手な食材が出た場合は、「おいしそうだね」「大好きなんだ」などと先生方が言って子どもの心をほぐし、安定させたあと、ものすごい勢いで拒絶されない限り、少しだけ口に入れるように促します。そして、もし吐き出してしまっても、口の中に入れられたことを先生やお友だちみんなでほめてあげています。これを繰り返しているうちに、段段と自信とチャレンジ精神がわいてきて、自ら積極的に食べるようになる子もいます。
このような食事が楽しみになる雰囲気づくりを、家庭でもぜひ心がけていただきたいですね。最初に申し上げたように、乳幼児期は気分で食べるので、苦手な食材でも自分で育てたり、収穫したりしたものは愛着がわき、口にするものです。料理を食べさせるだけでなく、そうした体験をさせるのもいいと思います。あとは“おなかをすかせて食事に臨むこと”ですね。空腹は何よりの調味料です。
さまざまな味を楽しめるのは、子どもの豊かな人生にもつながります。ゆったり構えて少しずつ進めてみてください。
回答していただいたのは…
宝仙学園幼稚園元園長。2007年から2019年3月まで園長を務める。41年間にわたり、保育現場でさまざまな家庭で育つ子どもとその親を見守り続けた、その深い見識には定評がある。豊かな経験を活かして、『幼稚園』(小学館刊)で育児相談コーナーを担当。子育て中のママたちに温かなメッセージを伝えてきた。
構成/山津京子 イラスト/手丸かのこ 『幼稚園』2018年3月号