ICT機器とは
ICT機器とは、そもそもどのようなものを指すのでしょうか。ICTの意味や、学校で使われている機器の種類を見ていきましょう。
ICTは情報通信技術のこと
ICTは「Information and Communications Technology」の略語です。日本語では「情報通信技術」といいます。
「IT(Information Technology・情報技術)」を「Communication(通信・伝達)」の手段として活用し、情報・知識の共有や人同士のつながりを実現させる技術のことです。
似たような言葉に「IoT(Internet of Things)」があります。IoTとは情報技術を使ってモノ同士をつなげることで、スマホアプリで操作できるスマート家電が代表的です。IoTはモノに特化したICTと考えてよいでしょう。
ICT教育で使う機器の種類
ICT機器は主に、情報を出力するものと入力するものとに分けられます。学校教育に導入されている主なICT機器は、以下の通りです。
出力系は、【プロジェクタ・スクリーン・電子情報ボード(電子黒板)・大画面テレビなど】で、入力系は【パソコン・デジタルカメラ・イメージスキャナ・実物投影機・児童用端末など】を指します。
出力機器と入力機器は無線LANでつながり、情報を瞬時かつ大人数に伝達できるようになっています。
児童1人につき1台の端末を用意する取り組みも
文部科学省では、2023年の実現を目標に「GIGAスクール構想」を進めています。「GIGAスクール構想」とは、1人1台の専用端末と高速通信ネットワークの整備により、すべての児童・生徒にICT教育を受けられる環境を提供する取り組みです。
2022年1月時点で、小・中学校では1人1台の端末配布が概ね完了したとの報告があります。また高等学校についても、2024年度までに全学年への配布完了を予定しています。
端末の機種はiPadやタブレット型パソコンなど学校ごとに異なり、使用するソフトウエアも学校によってさまざまです。端末には学校指定の電子教科書やドリル、アプリなどがあらかじめ入っており、すぐに使えるようになっています。
ICT機器を使った教育の目的とは
文部科学省がICT教育を進める目的は、大きく分けて二つあります。それぞれについて、具体的な内容を見ていきましょう。
情報活用能力を養う
ICT教育推進の第一の目的は、情報活用能力の育成です。インターネットの普及により、私たちはあらゆる情報を簡単に入手したり、発信したりできるようになりました。レシピ検索や病院の予約、買い物などにネットを活用しているパパやママも多いでしょう。
とはいえ、ネット上の情報は膨大で、なかには怪しい情報を発信する人もいます。正しい情報を選び取るスキルがなければ、危険な目にあうおそれもあるのです。
AI(人工知能)の進化により、今後は単に情報を得るだけでなく、人間にしかできない新しい価値を生み出す力も問われます。
しかし、優れた情報活用能力というものは、すぐに身に付くものではありません。子どもの頃からICT機器を使いこなし、さまざまな体験をすることで養われていくのです。
学習目標の達成に役立てる
第二の目的は、子どもたちの学力向上です。従来の授業では、板書をノートに書き写すのに忙しく、教師の話を聞くゆとりがない児童もいました。
しかし、電子黒板を使えば板書を保存し、児童の端末に一斉送信できます。そうすることにより、児童は板書に気を取られずに済み、授業に集中できるでしょう。
教師のお手本がそのまま保存されるので、自分で書き写したノートに比べて見やすく、写し漏れや間違いの心配もありません。家庭での復習もしやすくなり、成績向上が期待できます。
ICT教育のメリット
ICT教育の経験がないパパやママのなかには、従来の教育でも十分ではないかと感じる人もいるでしょう。小さな子どもの教育に、わざわざICT機器を使用するメリットはどこにあるのでしょうか。
授業がわかりやすくなる
ICT機器を使えば、教師は映像・音声・アニメーションなどを使って、わかりやすい授業ができるようになります。
算数の図形問題を例に、従来の授業と比べてみましょう。紙の教科書や黒板の図形は動きませんが、パソコンやタブレットのソフトを使えば、自由に動かせるようになります。立体図形の裏側や断面を見たり、展開させたりするのも簡単です。
「裏はどうなっているんだろう」「どうすればこの立体を再現できるんだろう」など、子どもが抱く興味関心に素早く対応でき、学習意欲の維持向上に役立ちます。
効率的に学習できる
ICT教育では、従来の授業のようにプリントを配ったり、板書を書き写したりする時間が不要です。このため、児童は授業時間のほとんどを、思考や創造、話し合いに充てられます。
教師側も、プリントのコピーやテストの回収・採点などの作業に時間を割かずに済み、授業の質を高められます。
ベテラン教師が持っている教材資料や、教え方のコツを教師間で共有すれば、担任の経験や能力によって授業の質に差が出る心配もありません。どのクラスの児童も、同じ条件の下で効率的に学べるでしょう。
レベルに合った最適な学びができる
「個別に最適化された学び」ができるのも、ICT教育の強みです。学校の授業は、児童が教室に集まって一斉に学ぶスタイルが基本です。
しかし、子どもによって理解力や得意な分野は異なります。全員が同じ授業を受けるだけでは、得意分野を伸ばすことも、不得意な分野を克服することも難しいでしょう。
ICT機器を使えば、授業の様子やテストの答案から児童の現状を分析し、レベルに合わせた学習を提案できるようになります。
さらに、ネット環境がある場所であれば、教室でなくても授業を受けられます。長期間学校を休まなくてはならない事情がある子どもでも、クラスメイトに遅れる心配をせずに済むでしょう。
ICT教育にはデメリットも
ICT機器には教育の変革が期待される一方で、いくつかのデメリットも指摘されています。主な懸念材料を見ていきましょう。
自分で考える機会が減る
誰もがインターネットで情報を得られる現代では、わからないことがあってもたいていはすぐ答えにたどり着けます。
ICT機器の取り扱いに慣れた子どもたちにとって、答えは調べればわかるもので、粘り強く考えて導き出すものではなくなるおそれがあります。
たとえ正しい答えを探し出せたとしても、試行錯誤や失敗の経験がなければ、単なる知識の獲得で終わってしまうでしょう。
これでは、情報を自分なりに分析して活用するという、ICT教育本来の目的を達成できません。思考力や創造力をいかに鍛えるかが、ICT教育成功の鍵をにぎるといってもよいでしょう。
ネットトラブルや健康被害のリスクがある
児童1人につき1台の端末が配られると、学校にいる間はもちろん、家庭でも端末を使用する時間が増えます。そのため、画面を長時間見続けることで、子どもの視力低下や寝不足など健康面への影響が懸念されています。
そうした健康被害を防ぐためには、学校と保護者が協力して、端末の利用時間を制限するなどの対策が必要です。
なお、学校から貸し出される端末には、有害なサイトやアプリへのアクセスを制限する「フィルタリング」が施されています。しかし、ネットが身近になった子どもたちが、家庭の端末から有害サイトにアクセスしてしまう可能性は十分あり得ます。
トラブルに巻き込まれないよう、ネットの適切な使い方を大人が責任を持って教えていく必要があります。
授業の効率が悪くなるケースも
ICT機器は決して万能ではありません。通信障害が起これば使えなくなりますし、突然壊れることもあります。使う予定だった機器にトラブルが生じれば、授業が中断してしまうでしょう。
端末の性能や使う人のスキルに左右されるのも、ICT教育のデメリットの一つです。起動に時間がかかったり、アプリが重過ぎて動かなかったりすれば、授業の進行に支障をきたします。
ICT機器に不慣れな教員が無理に活用しようとしたために、かえって授業効率が悪くなるケースもあります。
小学校でのICT教育の活用例
すでにICT機器を取り揃えている小学校では、どのような授業が行われているのでしょうか。ICT教育の活用例を、教科別に紹介します。
算数
算数では、従来の学習道具とICT機器を併用する工夫が見られます。引き算の授業では「おはじき」でやり方を学んだあと、児童用端末のソフトウエアを使用して反復練習に入ります。
基礎から発展までレベルに合わせた問題を選べるようになっており、計算が苦手な子も得意な子もそれぞれのペースで力を伸ばすことが可能です。
立体展開アプリを用いて、箱の組み立て方を考えさせる授業もあります。児童はアプリで考えた通りに、工作用紙で実際に箱を作り、おかしな点や正しい点を検証します。
ICT機器とアナログな作業の長所を組み合わせて、学習効果を高めている良い例といえるでしょう。
国語
国語では漢字や熟語の学習に、ICT機器を取り入れる例が見られます。特に漢字は、読み書きだけでなく、書き順や成り立ち、部首の種類など覚える要素がたくさんあり、苦手意識を持つ児童も少なくありません。
そこで、漢字をバラバラにして正しい組み合わせを選ぶゲームで遊んだり、大画面で拡大して形を見えやすくしたりといった取り組みが実施されています。
四字熟語の意味を調べ、アニメーションで表現させる授業もあります。児童はアニメーションを作る過程で言葉の意味を正確に理解でき、プログラミングの練習もできる仕組みです。
校外学習や家庭学習
ICT機器は、学校の外でも有効に活用されています。校外学習で、見学先の下調べから資料作成・発表までを、すべてICT機器で行う学校もあります。
児童はインターネットで調査した内容をもとに、デジタルカメラを持って見学先に行き、取材した内容をスライドにまとめてプレゼンするのです。
児童用端末にクラウド型のドリル教材を入れて、家庭学習を支援する取り組みも進んでいます。
家庭学習にもICTを導入することで、個々のレベルに応じた学びができるほか、児童の学習状況を教師が把握して授業に役立てることが可能です。
ICT教育に備えて家庭でできること
小学校に入学すると、すぐにICT教育が始まります。家庭でもインターネットの使い方を練習したり、ルールを話し合ったりしておくと安心です。
ICT教育に備えて、家庭でできることを紹介します。
子どもと一緒に操作の練習をしてみる
児童用の端末は教科書やノートと同じく、基本的に毎日持ち帰ります。保護者がWi-Fiの設定やアップデートをしたり、学校との連絡ツールとして利用したりすることも想定しておかなくてはなりません。
子どもはもちろん、パソコンやタブレットを使い慣れていない保護者も、この機会に基本的な操作をマスターしておくとよいでしょう。
「キーボードで文字入力する」「スマホで二次元バーコードを撮影する」「家族間でオンライン会議をしてみる」など、いくつかの操作をシミュレーションしておくとイメージをつかめます。
利用のルールを決める
繊細なICT機器を子どもに持たせる毎日では、破損や故障の心配が尽きません。子どもにその気がなくても、ランドセルを放り投げたり飲み物をこぼしたりして、端末を壊してしまう可能性は十分にあります。
端末が壊れやすいことをよく言い聞かせ、大切に扱う習慣を身に付けさせましょう。
利用ルールを事前に話し合っておくのも重要です。学校によっては、家庭での端末の利用時間に制限を設けていないケースもあります。
子どもが帰宅後、個人的な調べ物やゲームに端末を使ってしまうことも考えられます。「勉強以外の目的には使わない」「夜9時を過ぎたら電源を切る」など、家庭での約束事を決めて守らせましょう。
ネット回線や充電スペースを準備する
児童用の端末は、基本的にWi-Fiでインターネットに接続します。Wi-Fiがない家庭は、入学までに回線契約やルーターの購入を済ませておくと安心です。
ルーターを貸し出している自治体もあるので、購入が難しい場合は相談しましょう。
また、意外に見落としがちなのが端末の充電です。充電を忘れると授業に参加できなくなってしまうため、慣れるまでは保護者が気を配る必要があります。
子どもが自分でやりやすいように、机周りの環境を整えたり、充電専用のスペースを作ってあげたりするのもおすすめです。
これからの教育に欠かせないICT機器
通信速度の向上や高性能なICT機器の登場により、インターネットを介して人やモノが簡単につながり、情報・知識を共有できる時代になりました。
文部科学省の施策により、教育現場でもICT機器を活用した取り組みが活発になっています。これからの教育に欠かせないICT機器への理解を深め、子どもの学びを応援しましょう。
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文・構成/HugKum編集部