「茨城」間違って読んでない?イバラギ?イバラキ?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

茨城は「イバラキ」です。よく「イバラギ」と言ってしまうのはなぜ?

民間調査会社による2022年の「都道府県魅力度ランキング」で、「茨城県」がほとんど定位置だった最下位を脱出して話題になりました。この「茨城」ですが、皆さんはなんと言っていますか。「イバラキ」?「イバラギ」?

私の周りに「イバラギ」と言う人がけっこういますが、正しくは「イバラキ」で「キ」は濁りません。茨城県出身の人に「イバラギ」と言ったら、「イバラギではありません、イバラキです」と訂正されることでしょう。

でもなぜ「イバラギ」と言ってしまうのでしょうか?

「柿」は「カギ」など茨城弁は、カ行音が濁音になりやすい

一つには「イバラギ」と、末尾を濁音にした方が発音しやすいということがあるのかもしれません。

それと、茨城弁の特質も関係しているような気がします。茨城弁ではカ行音は濁音になりやすいのです。例えば、「カキ(柿)」は「カギ」、「ハク(掃く)」は「ハグ」などと発音されることがあります。
「茨城」も茨城県出身者は「イバラキ」と言っているつもりなのに、県外の人間には「イバラギ」と聞こえることがあるのかもしれません。そのため茨城県人だって「イバラギ」と言っているではないかと、誤解されている可能性もありそうです。

奈良時代からあった茨城という地名

常陸国の一宮・鹿島神宮

茨城という地名は古くからありました。奈良時代に成立した常陸国(現在の茨城県北東部)の地誌『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』の本文冒頭にある常陸国司の解文(げもん=報告書)に出てきます。ただし「茨城」と書かれていますが、「うばらき」と読まれてきました。

『常陸風土記』には茨城の地名起源説話が二つ記載されています。その説話の一つが、「茨城」という地名の表記と関係がありそうです。こんな説話です。

山の佐伯(さえき=抵抗する者の意)と野の佐伯が土地の人々に危害を加えるので、朝廷から派遣された大臣の同族黒坂命(くろさかのみこと)がこの賊を計略で滅ぼそうとして、茨(うばら)で城(き)を造ったため、茨城と呼ぶようになったというものです。

「茨」はとげのある低木のことです。「城(き)」は「柵(き)」で、外部からの侵入を防ぐために、柵(さく)をめぐらして区切ったところ、すなわち砦(とりで)のことです。「柵」は「キ」で、「ギ」とは読みません。だから「イバラキ」なのです。

ちなみに似たような地名が大阪にもあります。茨木市です。こちらも「イバラキ」と読みます。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)が好評発売中。

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