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「あしながおじさん」とは?どんなお話?
本記事では、意外と知られていない『あしながおじさん』の背景やあらすじ、結末についてをご紹介していきます。まずは、『あしながおじさん』の著者と物語の背景をおさえておきましょう。
原作はアメリカの作家、ジーン・ウェブスターによる書簡体小説
1912年に発表された『あしながおじさん』は、アメリカの女性作家ジーン・ウェブスターによる小説です。
物語は、孤児院で育った身寄りのない少女が、定期的に手紙を書いて送ることを条件に、ある資産家(あしながおじさん)から進学のための資金援助を受けることになる、というもの。そのため、序章以降はすべて、主人公があしながおじさんに宛てて書いた手紙の形式で構成されています。
原題 :Daddy-Long-Legs
国 :アメリカ
発表年:1912年
おすすめの年齢:小学校高学年以上
作者のジーン・ウェブスターってどんな人?
作者のジーン・ウェブスター(1876-1916年)の本名は、アリス・ジェーン・チャンドラー・ウェブスター。知的な一方で、活発でユーモラスな面を持つ女性を主人公に置く点が、彼女の作品の特徴のひとつです。
代表作には、『あしながおじさん』(Daddy-Long-Legs)や『続・あしながおじさん』(Dear Enemy )等があります。
1897年にヴァッサー大学に入学し、英文学と経済学を学んでおり、自身の学生生活が本作に大いに反映されていると言われています。
日本では、寄付や支援者を意味する言葉の意味にも
現代日本では、遺児奨学金のために寄付を行なう人を「あしながさん」と呼ぶ、遺児支援の団体が複数存在します。そのため、「あしながおじさん=奨学金のなにか」といったイメージを持つ方は珍しくないようです。このような団体として、あしなが育英会や交通遺児育英会等々の名前を聞いたことがある方も多いはず。
もちろん、「あしながさん」という呼称は、今回ご紹介している小説の『あしながおじさん』に由来するものです。これまでにも多くの遺児が「あしながさん」の支援によって高校や大学に進学しています。
物語のあらすじ|「詳しく」&「簡単に」2バージョンでご紹介
ここからは、『あしながおじさん』の物語のあらすじをお伝えしていきます。「詳しく」&「簡単に」の2つのバージョンでご紹介。
詳しいあらすじ
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
孤児院育ちのジュディは、ある日、院長室に呼び出されて向かう途中、評議員が帰るところを目撃しました。その人の影は車のヘッドライトによって引き伸ばされて壁に映し出され、まるでアシナガグモ(Daddy-Long-Legs)のようでした。
院長室に入ると、その評議員に文才を見込まれて、作家になる勉強のための大学進学の資金援助を受けられることになったとジュディは告げられます。条件は、その評議員に毎月手紙を送ること。
大学に入学したジュディは、過去に満足に受けられなかった教育を受け、作家を目指して小説を書き進めながら、自身の学生生活の様子を「あしながおじさん(Daddy-Long-Legs)」と称した評議員に送り続けます。学んだこと、読んだ本、周囲の人々のこと、友人の親戚のジャービス・ペンドルトンとの交流、自らの小説の出版のこと等々……。
あしながおじさんは素性を隠したままで、特別な場合を除いて、リアクションをくれることはありませんでした。次第に、小説を応募したり、家庭教師のアルバイトをしたりしながら、ジュディは自立を目指していきます。
※ここからネタバレ!
大学卒業後のある日、ジャービス・ペンドルトンからプロポーズを受けたジュディ。ですが、自分が孤児院育ちであることに引け目を感じ、相手を愛していながらもそれを断ってしまいました。悲嘆に暮れ、そのことをあしながおじさんに手紙で知らせると、会って話を聞くという返事が返ってきます。
二人が対面した後日、ジュディがあしながおじさんに宛てた手紙には、あしながおじさんの正体がジャービス・ペンドルトンであったこと、そしてふたりが「もうすぐ一緒になる」ことが綴られていました。
あらすじを簡単にまとめると…(ネタバレなし)
孤児院で育った身寄りのない少女・ジュディは、ある資産家(あしながおじさん)から進学のための資金援助を受けることになります。条件は、あしながおじさんに手紙を書いて送ること。ジュディは作家を目指す自分の学生生活を、日々、あしながおじさんに手紙で報告し続けますが……。
主な登場人物
ここからは、『あしながおじさん』に登場する主な人物を見ていきましょう。
ジェルシャー・アボット(ジュディ)
孤児院育ちの女の子。あしながおじさんの援助によって、大学進学する。独創的な想像力があり、文才に長けている。
あしながおじさん
ジュディの文才を見出し、作家になるための勉強をさせるため大学進学への資金援助をしてくれる資金家。ただし、手紙を自分に毎月出すという条件付き。匿名で、ジュディに正体を隠す。
リペット院長
ジュディが育った孤児院の院長。厳しく、ジュディに嫌われている。ジュディの本当の名前「ジェルシャー・アボット」を名付けた人。
ジャービス・ペンドルトン
クラスメイトの叔父。時々、学校や農園を訪れる裕福な男性。次第にジュディと恋に落ちる。
名作「あしながおじさん」を読むなら
ここでは、『あしながおじさん』を読む際におすすめの本をご紹介。小学生でも読みやすいものを集めました。
世界名作シリーズ あしながおじさん (小学館ジュニア文庫)
「あしながおじさん」の原作の世界観を大切にしつつ、小学生でもわかりやすい新訳で書かれた一冊です。
あしながおじさん (新潮文庫)
表紙と挿絵のかわいらしいイラストは、ジュディがあしながおじさんに書いた手紙に添えられていたもの。作者のジーンウェブスターが描いたのだとか!
小学館世界J文学館(大型本)
この1冊で125冊の電子書籍を読める新時代の児童文学全集です。『あしながおじさん』はもちろん、その他の世界名作、現代児童文学、日本やアジアの古典、SF、詩までを網羅。ほとんどを新訳で収載し、日本ではじめて読める作品も収められています。
【※ネタバレ】あしながおじさんの正体は? 結末はどうなる?
なかには、『あしながおじさん』を一度読んだけれど結末は忘れてしまったという方や、とりあえず結末だけ知りたい方もいるのではないでしょうか。
ここでは『あしながおじさん』の正体と、ジュディの物語の結末をお伝えします。ネタバレをしているので、知りたくない方はご注意ください。
あしながおじさんはの正体はジャービス
あしながおじさんの正体は、なんと、クラスメイト・ジュリアの叔父であり、学校や農園で時々会う機会もあった、あの裕福なジャービスでした。
ふたりは互いに惹かれ合い、ジャービスはジュディにプロポーズもしましたが、孤児院育ちの自分に引け目を感じてしまったジュディはそれを断ります。傷心のジュディがあしながおじさんにそのことを手紙で告げると、会おうといった旨の手紙があしながおじさんから届きます。会いに行くと、そこにいたのはジャービスだったのです。
ふたりは晴れて結婚!
その後日、ジュディがあしながおじさんへと送った手紙には、正体を明かしてのはじめての対面の様子やジュディの驚き、ふたりが「もうすぐ一緒になる」ことが綴られていました。ふたりが晴れて結婚したことがうかがえるハッピーエンドになっています。
あしながおじさんは、なぜ正体を隠したのか
では、なぜ「あしながおじさん=ジャービス」は自分の正体を隠してジュディに資金援助をしていたのでしょうか。
下心があったのでは?」と疑問に思う方や「怖い」「気持ち悪い」と感じる方も少なくないようですが、その真意について考えてみました。
なぜ正体を隠したの? 下心があったのでは?
まず、あしながおじさんに下心があったのかどうか。
物語の序章には、あしながおじさんが過去にもふたりの少年の大学進学への資金援助をしていたとの記述もあります。その際もジュディと同様に、見返りをまったく求めず、匿名での援助だったとの説明も。そのため、少なくとも最初は、あくまでもジュディに将来性を見出して、純粋な善意から資金を援助することに決めたと考えられます。
ジャービスとして対面した際に「どうして正体を隠したのか」との疑問も浮かび上がりますが、こちらも同様に、見返りを求めないスタンスを保ち続けていたことがひとつの理由として挙げられます。
さらに、ジュディは、自分が孤児院育ちであることや、あしながおじさんから資金援助をされていることに引け目や主従関係を感じています。実際にジュディと知り合っても、できるだけ対等な関係を築くために正体を隠していたとも想像できるのではないでしょうか。
「怖い…」「気持ち悪い」と言われることも
あしながおじさんはジュディがいくら頼んでも返事をしないにも関わらず、ジュディが自力で学校の奨学金を得ておじさんからの援助を断ろうとしたときや、友人の別荘に遊びに行くことを知らせたときなどには、それを反対する電報を送ります。ジュディが自分から離れてしまうような素振りを見せると、あしながおじさんはどこか必死な印象を受けるようなリアクションをするのです。
これはあしながおじさんがいつからか抱いていたジュディへの恋愛感情によるものと推測できますが、こういった行動を「愛情表現」「ロマンチック」と捉える方もいれば、「結局は主従関係を築いているのでは」と疑問に感じる方もいるようです。それが「怖い」「気持ち悪い」という声につながっているのでしょうか。
みなさんはどう感じますか?
手紙の外で何が起きたの?!想像を掻き立てられる構成も魅力
今回ご紹介してきた『あしながおじさん』は、ジュディからあしながおじさんに宛てた手紙の形式で成った小説。手紙の外ではどのようなことが起こったのか、想像を掻き立てられる構成も本作の魅力です。読んだあとは、誰かに手紙を書いてみたくなるかも。
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文/羽吹理美 構成/HugKum編集部