見学に訪れた子どもと保護者の数は180名超。活気に満ちあふれていた当日の現場の様子と、先生方の声をご紹介します。
どうしたら学校でも面白い授業ができるのか?
「探究学舎は楽しいけど、学校は楽しくないことがある…」
「探究学舎はクイズやかるたがあるけど、学校はただ勉強してるだけ…」
「探究学舎の授業は想像を広げるけど、学校の授業は想像を縮ませる…」
これらは、探究カンファレンス冒頭のオリエンテーションの中で、探究学舎の授業を経験したことがあるという子どもたちから放たれた声。率直すぎる言葉に、司会を担当していた探究学舎の森田太郎先生も「学校は大変なんですよ~」と苦笑いしていましたが、まさにこれが子どもたちの本音であり、学校のリアルなのでしょう。
そこで立ち上がったのがこのプロジェクト。学習指導要領においても“探究”が重視されているなか、どうしたら学校でも面白い授業ができ、子どもたちが楽しいと思える授業ができるか。子どもたちの心に火をつけ、夢中にさせるにはどうしたらいいか。それを、教員たちが探究学舎と共に約1年かけて研究し、その集大成を、探究カンファレンスの公開授業の場で示します。
プロジェクト2期目となる今回、参加した教員の数は31名にのぼりました。1期目5名から6倍の伸び、2期連続参加の先生もいたそうで、三鷹市の教員の間での、このプロジェクトに対する関心の広がりや高まりが伺えます。そこで先生方に、なぜこのプロジェクトに参加したのかたずねてみました。
先生の回答は・・・・
「面白い授業、子どもを惹きつけられる授業がしたかったため参加しました」
「日々の授業に追われ、探究的な授業をつくる機会がなかなかとれないため。また、学校教育以外の民間の教育について興味を持っていたため参加しました」
「本校で講師として勤務している探究学舎の先生の授業が面白いと子どもたちから評判で、見学してみたところ確かに面白く、子どもたちが生き生きしている姿に刺激を受け、私もこんな授業をやってみたいと、ノウハウを得るために参加しました」
とのこと。
一方で、探究学舎サイドは、今回のプロジェクトの様子をどう見ていたのでしょうか。同社スタッフの伊藤真也さんに聞きました。
「昨年の5月に三鷹市教育委員会と『授業づくりに関する連携協定』を締結。6月から2期目のプロジェクトがスタートし、先生方と探究学舎スタッフがお互いの授業づくりのノウハウや技術をシェアし合い、学校現場でも活かせる興味開発型の授業づくりについて研究を重ねてきました。前回に比べ、参加した先生の数だけでなく、熱量もアップしており、私たちにとっても刺激的な、そして多くの学びを得られた1年でした」
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“ドライビングクエスチョン”が子どもの心に火をつける
人は、「なぜ?」と思った時に考えるもので、その問いが、子どもたちの心に火をつける。そんな、“興味を引き出す問い”が探究型の授業には必要で、それを、探究学舎では“ドライビングクエスチョン”と呼んでいるそうです。
探究カンファレンス当日、31名の先生方が行った個性豊かな授業にも、それぞれ、様々なドライビングクエスチョンが散りばめられていました。
例えば、『ゲームは、なぜ面白いのか』という授業。子どもたちの大好きな「ポケットモンスター」のゲームを開発者目線で分析、ゲーム制作の裏側の努力を実感してもらうという内容でした。オリジナルポケモンを使ったバトル体験を通じ、「どうしたらゲームがもっと面白くなるか」を、子どもたち一人ひとりが考える。そんな、体と頭を動かしながらの体験的な活動が、この授業のポイントだったと先生。終始子どもたちの元気な声が飛び交う、楽しそうな授業でした。
税金と選挙をテーマにした『税金から私たちの未来を考えよう」』という授業は、「なぜ税金は必要なのか」という問いから始まり、世界各国の税金の種類や仕組み、使い道などについて学んだ後、日本の消費税のあり方をめぐって選挙体験を行うというストーリーでした。先生はこの授業を通じ、政治、経済、暮らしはすべてつながっていて、社会は自分たちで作っていくものなのだということを子どもたちに気付かせたかったと話します。
クイズを活用して考えさせたり、最後の選挙体験は、三鷹市の選挙管理委員会から借りてきたという本物の投票箱を使って行うなど、工夫とアイデアが満載。やや難しいテーマながら、子どもたちは飽きることなく、集中して授業に向き合っている様子が印象的でした。
雅楽の管弦について取り上げた『楽器がつなぐ世界』という授業は、楽器が描かれたカードを使い、先生から出題される問いに答えながら、雅楽の世界を紐解き、理解していくという内容でした。6年生を想定した授業内容に対し、参加した子どもたちは低学年が多く、ついてきてくれるか心配だったと先生は言いますが、グループ対抗で行ったアクティビティは、みんな楽しみながら、積極的に取り組んでいました。
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能力開発と興味開発、どちらも学校教育には必要
先生方は、このプロジェクトを通じて何を学び、それを今後どう活かしていきたいと考えているのでしょうか。
「子どもの視点で授業を作ることの大切さ、子どもの思考の流れを予想し、感動させたり驚かせるポイントを作ることで、学びを深められると感じました。このプロジェクトで学んだ発問や活動の仕方は、授業だけでなく、形を変えて学級でも応用しやすいので、日々の学校生活に少しずつ取り入れていきたいと思っています」
「一番の学びは、学習指導要領や教科書に縛られず、0から授業をつくり上げる大変さと面白さを体感できたことです。また、以前よりも授業を構造的に捉えられるようになり、ストーリーを意識した授業づくりができるようになりました。学校教育にしかできないことが多くあることにも気付くことができたので、今後は、これから変わっていく学校教育に、新しい視点やアイデアを提案していけたらと思っています」
「1年間の研修を経て、実際に授業をしてみて、教師側のしかけ次第で子どもたちの心を動かすことができると肌で感じました。 日常の授業の中でも、子どもたちが知りたい!やってみたい!と思えるしかけ、興味を持たせるスライドの使い方やセリフとの連動などは、どんどん取り入れていきたいです。また、教えたいことに導くための教材研究も、より深めていきたいです。そして、子どもたちと一緒に授業を楽しんでいきたいです」
また、探究学舎の伊藤さんは、今後の学校教育に対する思いをこう話します。
「現在の学校教育は、どちらかというと能力開発=教科学習がメイン。そこに、私たちが追求している興味開発=探究学習という新たな分野が入っていくのは、かなりインパクトがあることだと思います。ただ、学校教育すべてを探究型にしてしまうというのもまた違うのではないかと。両軸のバランスがとれた指導法を先生方が見出し、今後の授業に活かしていただけるといいなと思います」
今回、このような未来の学校教育を背負う31人の先生方の熱量に触れ、今後に大きな希望を感じました。先の見えない世の中を生き、日本の将来を支えていかなければならない子どもたちのためにも、こうした取り組みが、三鷹市を起点に全国各地に広まっていくことを期待したいです。
文/鈴木友紀