『クオレ』ってどんなお話?
『クオレ』は、イタリア統一時代を背景に、子どもへの愛国教育を目的に書かれた児童文学書です。『クオレ』とはイタリア語で「愛、心、ハート」などの意味を持つため、「愛の物語」や「愛の学校」などとも訳されます。
原題:原題 ”Cuore”、英語表記 “Heart”
国:イタリア
作者:エドモンド・デ・アミーチス(Edmondo De Amicis)
発表年:1886年
原作者のデ・アミーチスってどんな人?
デ・アミーチスは、ジャーナリストとしても活躍し、イタリア統一運動「リソルジメント」(Unification of Italy)や社会問題に強い関心を持ち、その作品には、社会的・政治的なテーマが反映されています。
また、教育者としても知られており、彼の教育理念は、子どもたちが道徳的・社会的な教育を受けることを強く主張。そのためには、教師の資質の向上が必要だと考えていました。
『クオレ』は、日本でよく知られている『母をたずねて三千里』の原作
『母をたずねて三千里』は、1976年からフジテレビ系列で日本で放送されたアニメですが、『クオレ』の中の挿話、 “Dagli Appennini alle Ande“ (アペニン山脈からアンデス山脈まで)を元にしており、当初の和訳は「アペニン山脈からアンデス山脈まで お母さんを探す物語」でした。アニメ制作時に「母を訪ねて三千里」に変更されます。
イタリアでも『母を訪ねて三千里』にアニメは放送されており、『クオレ』を知らずともアニメは知っていると言う人もたくさんいます。
テレビアニメ『愛の学校 クオレ物語』も『クオレ』が原作
1981年からTBS系列で放送されたテレビアニメ『愛の学校 クオレ物語』もデ・アミーチスの『クオレ』が原作です。ペルボーニ先生が生徒に語って聞かせたお話を元に作られており、13、14話には『母を訪ねて三千里』のリメイクも含まれています。
『クオレ』のあらすじ
詳しいあらすじ
『クオレ』は、イタリアのトリノに住む小学三年生の少年、エンリーコの学校生活の一年間を、彼の日記と、父母からの手紙、先生の毎月の講話による三部形式を、月単位で語っていく物語です。
物語は、10月、11月、12月、…の順に語られており、例えば、10月は、その月に起こった出来事に対するエンリーコの日記から始まり、10月に届いた両親からの進言の手紙を紹介し、先生の10月の講話はなんだったかの順に語られています。
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
クラスの中で起こるもめ事に対し、担任の教師歴30年以上のベテランのペルボーニ先生が時には厳しく、時には優しく指導していきますが、そんな彼女は家庭も子どももおらず、生徒が人生の全て。生徒のために働き詰めることをいとわないのですが、最後、なんと終業式を迎える前に過労死してしまい、エンリーコは大きなショックを受けます。また、エンリーコは、終業式の前に両親の仕事の都合で転校することになり、そこで物語は終わります。
日記
エンリーコが日々の中で、経験することを日記に書いていきます。通学時に事故に遭って大怪我をして入院する生徒が出たことや、裕福な家の子が貧しい家の親の事をバカにするような発言をしたこと、またそのことで裕福な家の子の親が激怒して学級内にやってきてお仕置きをしたことなど、小学生らしい日々が綴られます。
また、学校帰りに友達の家に立ち寄ってみると、家に帰るなり親の仕事を手伝っている友人の生活に驚いたり、父親はアメリカに行っていると言っているが実は刑務所にいることを他の生徒にばらされてしまう友達など、日々のエンリーコの生活が語られています。
- このように、日記には、エンリーコの成長や周囲の人々との交流が、小学生男子の視点から描写されているのです。
父母からの手紙
手紙という形で、同居している両親から毎月エンリーコに「教え」が送られます。
父親からは、どうして学校に行くのか、学校に行く意味や意義、そして学校にいけない子どもも世界には多くいることなどを。母親からは、死霊祭(死者を弔う日)とはどういう意味なのか、病気や飢饉、事故や戦争などで亡くなった人たちのことを考えるよう説かれたり、またエンリーコが道で出会った物乞いについて、素通りしてしまったことを咎め、助けを求めている人には必ず施しをするようになど。小学生のエンリーコに、両親は人生観や道徳観の道案内役をしてくれているのです。
先生の講話
担任のペルボーニ先生は、イタリアの愛国精神にあふれたお話を毎月1つずつ、講話と言う形で生徒たちに語ります。
講話は10月から始まり、翌年6月までの全9話。その中には、病気、けが、貧困、争い、自棄、など苦しく辛い話がたくさんあります。
というのも、現イタリアのピエモンテ州にある都市トリノは、1861年にイタリア統一運動によって始めて現在の「イタリア」という国になります。『クオレ』はそれから25年後の1886年に発表されていますが、先生のお話はイタリアが統一されるまでにどれだけ兵士が血を流したか、という統一前の物語を語ることが多いからです。
また、海難事故にあった少年や、『母を訪ねて三千里』の原作となった経済的困窮から外国へ出稼ぎに行く家庭のお話なども、語られています。
先生はこれらを通じて、生徒たちに愛国心や家族愛などを教えていきます。
作中では先生の講話のみが記載されいるので、エンリーコがそれについてどう感じたか、などは書かれておりません。ただ、生徒たちは、毎月、口頭での先生の講話を文字にして清書するという役目があり、それについてのエピソードはエンリーコの日記の中で、触れられています。
あらすじを簡単にまとめると…
『クオレ』は、主人公エンリーコが学校日常生活での経験を通じて、毎月、自分の日記・両親からの手紙・先生の講話の3つの視点から綴られているエピソード集。友情や家族の絆、助け合い、誠実さ、そして自分自身を強くすることの大切さについて学ぶことができます。
先生の講話の5月編は『母を訪ねて三千里』の原作になりとても有名なお話なので、その部分だけ下記に短くあらすじを紹介します。
5月の先生の講話(アペニン山脈からアンデス山脈まで)
医師である父親が、貧乏人に無料の診察をして借金が返せなくなり、母親がアルゼンチンに出稼ぎに出るも病に倒れた、という手紙が届いたきり母からの音信が無くなります。そこで、9歳の息子マルコは、父親の反対を振り切ってアルゼンチンへさまざまな困難にあいながら母を探しにいきます。(日本のアニメ「母をたずねて三千里」の原作)
主な登場人物
『クオレ』には、主人公であるエンリーコをはじめ、さまざまな生徒たちなどが登場します。登場人物の説明にあらすじ的な要素が含まれおります。
※以下では、ネタバレも含まれますのでご注意ください。
エンリーコ
- 物語の主人公。エンリーコは真面目な生徒ゆえ、クラスでちょっと事件が起きるとそれを一生懸命日記に書く男の子。物語の最後にエンリーコが転校することで終わります。
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ペルボーニ先生
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- エンリーコたちの担任のおばあちゃん先生。30年以上教師を務めており、結婚せず家庭を持っていないため、生徒のことを実の子どものように可愛がるとても真面目な先生。時には厳しく、時には愛情いっぱいの先生は、無理して働き続け、学年が終わる直前に過労死してしまいます。
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ガッローネ
物語の中で、主人公のエンリーコの親友。病気のために入学が遅れたため、他の生徒より2歳年上です。彼は強靭な体つきをしており、弱者に対しては非常に思いやりを持って接しています。さらに、彼は物語の中で母親を亡くしたという過酷な経験が紹介されています。
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フランティ
- 不良少年の問題児。盗みをするなど、常に悪事を働き、物をぞんざいに扱い、他人の不幸話が大好き。
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ネッリ
- 背中が曲がっており、いつもフランティたちにいじめられて泣いている。ある日、ガッローネに助けられ、それ以来ガッローネのことを強く慕うようになる。
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デロッシ
- エンリーコと昨年から同じクラスで、裕福な商人の息子。成績優秀なうえ容姿も良く、性格も良いというエンリーコの憧れ。
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クロッシ
- 父親はアメリカにおり(実は刑務所で服役中)母親は野菜売りをしており、経済的に困窮している家庭。
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スタルディ
- デロッシに次ぐ成績優秀者。近視になるほどの読書愛好家、猛勉強をしてクラスで2番目の成績を取りエンリーコを驚かせる。
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コラーチ
- カラブリアから越してきた転校生。
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コレッティ
- 薪屋の息子。3月頃の賞品授与式でデロッシやロベッティとともに受賞者に選ばれる。
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ガロッフィ
- 雑貨屋の息子。痩せ型で、不器量。勉強は好きではないものの、数学だけは得意。切手集めが趣味。
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プレコッシ
- 鍛冶屋の息子。気が弱く、父親からの虐待を人に言えずに悩んでいる。
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ヴォティーニ
- 虚栄心が強くデロッシをライバル視、自慢が大好き。裕福な家でいつも良い身なりをしている。
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ノービス
- 資産家の息子のお坊ちゃん。プライドが高く傲慢な嫌な性格。
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アントニオ
- 左官屋の息子であり「左官屋君」とも呼ばれている。ひょうきんでウサギ顔が得意。
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ロベッティ
- エンリーコたちより1年下級の生徒。
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『クオレ』を読むなら
ページ数、漢字や送り仮名の有無、キンドル読み上げ機能など、易しい順にご紹介します。
小学生の日記の体裁をとった19世紀の小説は、倫理や道徳の勉強にも。日記形式なので短編が多く、読み聞かせや、寝る前の読書に向いています。
カラー名作 少年少女世界の文学 クオレ(小学館)
形式: Kindle版 97ページ 2017/9/15
簡易版。平易な漢字あり、ルビ無し。小学校中学年~。テキスト読み上げ機能がついていますので、キンドルに読めない漢字を読んでもらって覚えることも可能です。(機械合成音)
クオレ 愛の学校〈上〉 (偕成社文庫)
上・下巻の二冊セット。完訳版。上巻は10月から2月までを収録。「父の看護人」「サルデーニャの少年鼓手」など真心や愛国心をうたった物語が含まれています。文庫版、文字が小さく挿絵がほとんどないので、中学生~。
クオーレ (岩波文庫)
読みやすい新訳、改訂版。平易な漢字あり、ルビなし。文庫は文字が小さく、挿絵がほとんどないため、中学生~。テキスト読み上げ機能がついていますので、キンドルに読めない漢字を読んでもらって覚えることも可能です。(機械合成音)
人間性を養う『クオレ』の読後感を、お子さんとぜひ語り合って
イタリアの統一運動には、国民に愛国心を教育することが重要視されていました。この愛国教育には、文学や教育において国家の英雄たちを賛美する内容が盛り込まれることが多く、エドモンド・デ・アミーチスの『クオレ』もこの愛国心教育の一環として書かれた作品の一つでした。
ただ、デ・アミーチスの『クオレ』は愛国心を養うと同時に、国家に必要なのは高い人間性のある国民だと説いています。人間性を養う教育に重きを置き、「徳」とは、「倫理」とは、といったことを多々盛り込んだ一冊です。
短編構成なので区切りがよく、夜寝る前に読むのにもおすすめ。お子さんと一緒に、毎話ごとに感想を話し合う時間を設けるのも良いでしょう。親子で一度は読んでもらいたい一冊です。
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文/加藤敬子 構成/HugKum編集部