単語をひとつも話さない1歳2か月の息子。喃語もあまりなくて不安です【言語聴覚士・奈々先生の子どものことば相談室】

「うちの子、ことばの発達がゆっくりなのでは?……」など、子育てをしていると、幼児期、学齢期と様々な段階で、ことばの発達の不安に悩まされるものです。編集部に寄せられたお悩みに、多くの親子の「ことばを育むお手伝い」をされている、言語聴覚士の寺田奈々先生がアドバイス。

単語をひとつも話さない1歳2か月の息子。そもそも声をだすことが少なくて心配です

1歳2か月の息子が単語を1つも話しません。不安ですが、まだそこまで心配しなくてもいいのかなと思うのですが、単語どころか喃語や宇宙語もあまりないのが気になります。発声が少ないことは、発語にも影響するのでしょうか?

まずは発声を促すためにできることがあれば、教えてください。

赤ちゃんは、周囲からの反応や応答を繰り返すことで「ことばの経験」を積んでいきます

お子さんのことばの発達では、1歳を迎える前後にはじめてのことば(初語)をお話しすると言われています。ただしこれはあくまでも目安。数か月の個人差はよくあることです。

また、お話しはじめのことばは、あいまいで断片的な「声」や「音ひとつ」であることも多いものです。「パ!」と言っているお子さん、これは果たして意味のあることばと受け止めてもよいのでしょうか…。判断は受け手にゆだねられます。

ベイツという心理学者は、生後からことばをお話しするまでの期間のコミュニケーションを、「聞き手効果段階」と名づけました。赤ちゃんがヒラヒラ落ちる花びらを手でかき寄せながら「んだっだぁ!」と言ったら、「お花ヒラヒラ、キレイだねー」とお母さんが応答します。

声や表情・身体の動きを用いながら、赤ちゃんがどのような意図を表現しているのかはわかりませんが、聞き手がそのときどきの状況から解釈し、反応を返すことで、やり取りが成立しています。こうした、赤ちゃんからの発信と周囲からの反応や応答を繰り返していくことで、少しずつやり取りの経験を積んでいき、その後の発語へとつながっていくと考えられています。

ことばを話す土台に欠かせない「ノン・バーバルコミュニケーション」

発達の相談では、ことばをお話しするための土台にノン・バーバル(非言語、ことばではない)コミュニケーションが大切です、とお伝えすることがよくあります。

ノン・バーバルコミュニケーションにもいろいろあり、そのひとつが発声です。

母子手帳をめくってみると、「あやすと声を出して笑いますか」「「あー」や「うー」などの声を出しますか」「「マママ」などの喃語をおしゃべりしますか」などと書かれています。ご質問者様のお子さん、発声や喃語が少ないことはたしかに注目ポイントのひとつではありますが、声を促すことだけに絞るのではなく、「伝えたい!」という気持ちにも注目し、はぐくんであげられたらと考えます。

たとえば、お子さんが注目しているものについて、興味がありそうなタイミングでことば掛けを行うことは大切です。また、こちらからはじめることば掛けでは、どうしても一方的になってしまいがちです。声や意味のあることばに限定せず、こちらを見る、身体に触れようとする、手や身体を動かす、指さしや身振りをする、など、お子さんが発したサインに気付き、応じることで、1往復のやり取りとなります。

子どもは、ことばを発しなくても「サイン」を発しています

お子さんが、<注目した対象を見る→視線を動かしてこちらを見る>という状況では、声や意味のあることばを発していなくともサインを発しています。これは「共同注意」といい、ことばをはぐくむためにとても重要な力です。「ママもみてみて!」「パパ、気付いたかな?」のように、知らせたい・伝えたい気持ちが高まると、身振りや表情、発声が伴うことが増えるものです。そうした瞬間はチャンス。受け止めているよ!と伝わるように応答するようにしましょう。

発声が少ない子には、「逆模倣」遊びがおすすめです

身振りや表情でサインを発することが多いものの、発声が少ないお子さんには、スキンシップなど身体をふれあう遊びや、お顔や口元を見せあう変顔遊び、少ない頻度ながらも声を出してくれたときにはすかさず大人もしっかりと応答を返す、などを続けていきましょう。お子さんが「ばー」と言ったら、おとなも「ばー」とまねして返す、「逆模倣」は取り組みやすく、おすすめです。

聞こえ方が気になるなら、聴力検査を

また、聴力検査は実施されたでしょうか。声や喃語の発達と聴力には密接な関係があります。自動聴性脳幹反応(AABR)といって、赤ちゃんから実施できる聴力検査があります。難聴の程度は、まったくきこえない状態もあれば、特定の音域だけきこえない、片方の耳だけきこえないなど、さまざまです。

お子さんの難聴の発見が見過ごされてしまうことも、決してゼロではありません。気になる方はかかりつけの病院で、聴力検査を取れる医療機関を紹介してもらいましょう。

 

こちらの記事では寺田先生に「子どものことばの育み方」を伺っています

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寺田奈々|言語聴覚士
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、プライベートのクリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、失語症、大人の発音矯正。最新の著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)がある。

イラスト/べっこうあめアマミ(https://twitter.com/ariorihaberi_im

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